#27 若すぎる挑戦者
数日後――
煌真は、偽名とともに用意された書類一式を差し出していた。
葵生が用意した偽の身分証。
経歴は、地方を転々としてきた無所属の能力者。
戦績は少なめだが、勝率だけは不自然に高い。
受付の男は、それらを無言で確認し、最後に煌真の顔をまじまじと見た。
「……若いな」
低く、粘つく声だった。
「ここに来るには、まだ早いんじゃねぇか?」
煌真は一瞬も間を空けずに答える。
「金が欲しかったんで」
それだけ言うと、視線を逸らした。
受付の男は鼻で笑い、端末に情報を打ち込む。
「最近じゃ、こんなガキは珍しい。
まぁ……生き残れたら、な」
無機質な音とともに、参加登録が完了した。
――闇闘技場の内部は、想像以上だった。
地下深くに広がる観客席。
薄暗い照明。
鉄と油の匂いに混じって、はっきりと分かる薬物の臭気。
空気が、重い。
肺の奥に、じっとりとまとわりつくような嫌悪感。
煌真は時間まで、闘技場内を歩き回った。
檻のような控室。
能力者同士が睨み合う通路。
賭けの話をしている連中。
腕や顔に、明らかに“壊れた跡”を残した者たち。
どこを見ても、まともな場所じゃない。
そして――
その中で、煌真は明らかに浮いていた。
若い。
体格も、極端に大きいわけじゃない。
それなのに、目だけは妙に澄んでいる。
それが、逆に目立った。
「新人か?」
「どこの流れだ?」
「生きて帰れると思ってんのか?」
視線が刺さる。
値踏みするような目。
獲物を見るような目。
煌真は、それらを無視しながら、胸の奥で静かに思った。
(……思ったより、腐ってる)
ここは戦いの場じゃない。
金と暴力と快楽が混ざり合った、底なしの沼だ。
だが――
この場所に、孤児院を燃やした連中と繋がる“何か”がある。
そう確信しながら、
煌真は自分の出場時間が表示されたモニターを見上げた。
名前は、偽名。
だが、この拳だけは本物だ。
(……生きて、全部持ち帰る)
嫌な視線に囲まれながら、
煌真は静かに、戦いの時を待っていた。




