6話 ~条件~
「盗賊討伐か。……どこもかしこも苦労しているみたいだな」
「ここ何年も不景気が続いておりますからね。仕事にあぶれた者にとって、盗賊というのは身一つで始められる元手のからぬ『稼業』なのだそうです。あまりに数が多すぎて、国も対応に苦慮しておりましてね……」
「だからと言って、学院生にそんなものを押しつけるなよ」
「確かに危険ではあります。しかしその分、国家に対する貢献度も極めて高く評価されるのです。上手くいけば、たった一日で『赤色』以上の勲章を手に入れることも不可能ではありません」
「む、むぅ……」
ゴライアスが急に歯切れ悪く唸り出すと、事務員は不思議そうに首を傾げた。
「……ご不安ですか?」
「僕は……その、あまり戦闘は得意ではないのだ」
「はい?」
ゴライアスの口から出た予想外の言葉に、事務員は思わず目をパチクリさせた。
「……入学試験の担当教官による報告書では、貴方の戦闘評価は『満点(特A)』と記載されていますが?」
「訓練だったら多少の自信はあるよ。子供の頃からずっと死ぬ気で頑張ってきたからな。けれど、実戦となると話は別だ。危険なことには手を出さないよう、家で厳しく言われて育ったからな」
ゴライアスは真顔でそう言い切った。
「死ぬ気で向かってくる敵――それも、人間を相手に戦ったことなんて一度もないのだ。ましてや、三百六十度どこから襲ってくるか分からない複数人を相手にするなんて論外だ。自分の魔法が本当に実戦で通用するのかどうか、僕にはまだ確信が持てない」
「なるほど、そういうことでしたか……」
事務員のラッセルは、目の前に座る少年を改めてまじまじと見つめ直した。
このサンピエトロ学院に入学してくる生徒の大半は、過剰なほどの自信に満ちあふれている。かつてのように親の身分だけで合否が決まっていた時代は終わり、今や平民にも広く門戸が開かれた狭き門だ。『国のために真に力となる者を』というスローガンの通り、ここには国内トップクラスの才能を持った若者たちが勢揃いしている。
だからこそ、難関を突破した若者たちは自分の実力を過信しがちなのだ。
――だが、その実態はまさに彼が言った通り、実戦経験の乏しい「いざという時に使えない若者」であることがほとんどなのである。
それにもかかわらず、目の前にいるこの少年は、己の現状と課題を極めて冷静に客観視できている。
(ただの横柄で生意気な貴族の子息だと思っていたが……これは、少し考えを改める必要がありそうだな……)
ラッセルは内心で感心しながら、密かに評価を上方修正するのだった。
「けど約束してしまった以上は、背に腹は代えられん。やるしかないか………」
「それでしたら、今ここで事前申し込みをされてはいかがでしょうか。事前申請をしていただかないと、せっかく盗賊を討伐されたとしても、実績として評価されませんので」
「なんだよその無駄な仕組みは! 手続きなんて倒した後に後回しでいいだろ!」
「そう言われましても、それが規則ですので」
「……分かったよ! 手続きをすればいいんだろ、手続きを!」
「ありがとうございます。それともうひとつ、盗賊討伐に関しては『条件』がございます」
「条件……?」
嫌な予感がしたゴライアスが眉をひそめると、事務員はビシッと指を立てた。
「――『必ず三人以上のチームを組むこと』、です」
「はぁ!? なんでだよ、一人で十分だろ! 足手ま制作るくらいならソロの方がマシだ!」
「手っ取り早く名誉を求め、盗賊討伐に向かう学院生は毎年一定数おります。……そして、そのまま帰らぬ人となる者もまた、一定数存在するのです。そのため『最低でも三人以上のチームを組んで出撃すること』という厳格な安全規則が定められております」
「……ッ!」
ゴライアスはがっくりと肩を落とした。
「そんなことを言われたって、一緒に来てくれる知り合いなんて一人もいないぞ。僕は田舎から一人で出てきたばかりなんだからな!」
「ふふ、ご安心ください。ゴライアス様と同じような立場の学院生は、他にもおります」
「……ということは?」
「学院が仲介し、チームを組めずに困っている者同士で『即席チーム』を結成することができるのです。そしてちょうど今……たまたま二人、チームを探している生徒がおりましてね。ご希望でしたら、今すぐご紹介いたしますが、いかがでしょうか?」
逃げ場を完全に塞がれたゴライアスは、心底苦々しい顔で吐き捨てた。
「…………会おう。話はそれからだ」
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