24話
私兵長テントを追い出したダルマは、内側から固く鍵をかけると、震える手で専用の通信機へ向かった。
暗号化された特殊な電報を打ち込む。送る相手はメンソウ――かつて愛人に産ませた実の息子であり、盗賊団『龍の髭』を束ねる首領だ。
文字盤の向こうから返信が届く。ダルマは泣きつくように文字を打ち送った。
『……もう駄目だ、メンソウ。どうやら王都から向こうに大量の増援がやって来たようだ。奴らの考えは分かってる。無理矢理この屋敷に入って洗いざらい調べ尽くすつもりだろう。さすがにもう、隠すのは無理だ。ああ、ワシの人生は、ここで終わりだ……』
一瞬の間の後、返ってきた通信には、どこか呆れたような文字が躍っていた。
『ハハ、何を弱気になってんだよ親父。警察なんか逆にこっちが捕まえちゃえばいいじゃん』
『何を言っているのだ、そんなことできるわけないだろう………』
ダルマはため息とともに笑った。
『俺たちがやるよ。親父の私兵と俺らの戦力を合わせれば、警察の人数よりも多くなるだろ?』
『お、お前、力を貸してくれるというのか………』
『あったりまえじゃん!』
『だが、そんなことをやれば、お前だってただでは済まんのだぞ!警察は同朋意識が強い。警察が恥をかかされたとなれば本気で向かってくる。今までは数多いる盗賊団のひとつだったが、そうはいかなくなる』
『親父……すっかり忘れてるようだな』
『何がだ……?』
『俺の“魔法”だよ。ま・ほ・う。まさか忘れたわけじゃないだろ?』
『……!』
ハッと息をのむダルマの頭に、息子の持つ異能が思い出された。
『自分の顔を好きなように変える魔法だな』
『自分だけじゃない。他人の顔だって自由自在に変えられるんだ。……あとで警察が本気になって探し回っても、俺たちを捕まえることなんて不可能なのさ。今、街に出回ってる俺の手配書の顔だって、前に俺が適当に作った偽物の顔なんだ。顔が分からない相手をどうやって捕まえる?そんな事できっこないだろう』
『……そうか!』
『仕事が片付いたら奴らが血眼になって探している証拠品をゆっくり処分すればいい。完璧だろ?』
絶望の淵から急転直下で差し込んだ光に、ダルマの胸が高鳴った。しかし、最後の理性が踏みとどまらせる。
『……しかし、それにしても危険すぎる賭けではないか?向こうだってある程度の覚悟と準備をしてくるだろう。こちらの方が人数は多いかもしれんが、それだって大した差じゃない。その場で捕まってしまえば、顔をいくら変えても無意味だ』
『危険なんて承知の上さ。……けどな、俺は今まで親父にしてもらった恩を忘れたことなんて一度もないぜ』
『メンソウ……』
通信機の前で、ダルマの目からボロボロと大きな涙が溢れ落ちた。
『親父はさ、俺が欲しいと言ったものは何でも買ってくれた。勉強が苦手な俺のために上等な家庭教師も付けてくれた。病気で死んじまった母さんのことだって、忙しい合間を縫ってちょくちょく会いに行って大事にしてくれただろ。……今度は俺が、その恩を返す絶好の機会なんだよ』
「……っ! お前、そんな風に思っていてくれたのか……っ!」
ダルマは誰もいない部屋で、途切れ途切れの嗚咽を漏らした。
「お前は昔からそうだ……やんちゃなところはあるが、心根の優しい子だった……っ!」
『都合の悪い罪は、全部俺たち盗賊のせいにしちゃって構わないからさ。仕事が終わったら俺たちはこの国を出る。そうなれば警察も手出しできないだろ?』
『なんと素晴らしいアイディアだ……!』
『その代わり……ちょっとだけ資金を融通してくれよ。俺の仲間たちは馬鹿で大酒飲みだから、いくら稼いでもすぐ金が無くなっちゃうんだよ』
『金なら任せろ! 終わったはずのワシの人生が戻ってくるのなら、金などいくら払っても惜しくはない!』
『それじゃ、俺は今の計画を仲間たちに話して準備に入るよ。また後でこれで連絡する』
「……ワシが気づかない間に、随分と頼もしい大人になったな、メンソウ」
『何言ってんだよ、恥ずかしいな。俺はとっくに大人だって』
使用人すら近づかない静かな部屋の中で、愚かな親子の談笑はしばらく続いた。
通信を終えたダルマの顔には、幸福の笑みを浮かべていた。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
「ブックマーク」と「いいね」を頂ければ大層喜びます。
評価を頂ければさらに喜びます。
☆5なら踊ります。




