22話
モース警部との密談中に突然現れたのは一匹のネズミだった。
「なんだこいつ、やけに人懐っこいな………」
「ああ、言い忘れていました。これはフワリング君の“ペット”ですよ」
「ペット……?」
「ええ。彼の魔法は小動物を操る力を持っているのです。だからこうして、情報のやり取りをすることができるのですよ」
「ほう………フワリングも相当追い詰められていると見えるな」
「どうしてですか?」
「どんな魔法を持っているのかと前に聞いたことがあるんだが、絶対に答えなかった。それをあっさりと見せているという事はそういう事だろう」
ネズミはモース警部の足元まで寄ってくると、口にくわえていたものを地面に落とした。
「丸めた手紙か……」
「最初は私も実に驚きましたよ。これによってお互いの情報が分かります。前回届いた手紙には、領主のダルマが二人のもとへ現れ、誓約書へのサインを求めてきたと書かれていました」
「誓約書?」
ゴライアスが首を傾げると、モース警部は手紙から目を離さずに頷いた。
「刑の執行を免除する代わりに、『今後一切この村に関わらない』という誓約書です。全てを丸ごと無かったことにするつもりでしょうな」
「治安判事の立場を利用して、やりたい放題だな」
吐き捨てるように呟いたゴライアスの言葉に、モース警部は静かに同意するように深く頷くのだった。
「むっ、これは……!」
月明かりの下、手紙に目を通していたモース警部の顔が一気に険しくなった。
「なんて書かれているんだ?」
「……グラディウス君の『公開処刑』が、三日後に執り行われると決まったそうです」
「処刑!?」
ゴライアスが眉をひそめると、モース警部は手紙を指で弾きながら重く頷いた。
「おそらく、貴方を誘い出すための罠でしょうな。捕まえられないのであれば、向こうから飛び込んで来させればいいという考えです。明日の朝からテノールの町で大々的に発表するつもりでしょう」
「……それにしても、どうしてグラディウスなんだ? コウボウを殺した疑いなら、フワリングも同じはずだろう」
「身分が違いますからね。グラディウス君は平民の出自、それに対してフワリング君の家は貴族です。いくら治安判事とはいえ、ろくな証拠もなしに貴族の子息を処刑することは許されないと踏んだのでしょう」
「なるほど、そういうことか……」
「そしてフワリング君には、代わりに別の“役割”が命じられたそうです」
「別の役割?」
「『グラディウスの処刑を阻止したくば、今すぐ出頭しろ』と書かれたプラカードを持ち、出頭を呼び掛けながらテノールの町を練り歩けと………」
「……ひどいな。というか、流石にフワリングはそんなこと断るだろ。チャラく見えても、あいつは意外とプライドが高いからな」
「ええ。手紙には、その申し出を即座に突っぱねたと書かれています。……ですがこれは、貴方が必ず救出にやって来ると信じているからこその行動でしょう」
「それはどうかな……ただ、自分がみっともない真似をしたくないだけかもしれないぞ」
照れ隠しか本気か、平然と言い放つゴライアスに対し、モース警部は苦笑いを浮かべながら言った。
「今すぐに返事の手紙を書いて持たせましょう。内容は……もちろん『貴方が命を賭けて救出に向かうから、安心して待っていろ』ということで、宜しいですね?」
「……『金色バッジ』のためだ。仕方ないな」
「はぁ……そこは素直に言っていただけると助かるのですがね。『友を救うために全力を尽くす』と」
「まあ、救ってやらんことも無いな。たった数日とは言えチームを組んだのだからな。このまま処刑されてしまっては、さっすがに寝覚めが悪い」
口調こそおチャラけていたが、その目にはやる気の炎が燃え上がっていることを、モース警部は見逃さなかった。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
「ブックマーク」と「いいね」を頂ければ大層喜びます。
評価を頂ければさらに喜びます。
☆5なら踊ります。




