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18話

 



 領主ダルマが足を運んだのは、ブラックウッド村にある宿った。


 わざわざ来た目的はただ一つ――王都からやって来たうっとうしい警察官どもに、とっとと荷物をまとめてお引き取りいただくためである。


 現在彼らは「容疑者に協力した疑い」を理由に見張りを付けて、客室に軟禁してある。


「それにしても、どうして……」


 引き連れた二人の部下を前に、ダルマの口から不満の愚痴が漏れ出た。


 なぜわざわざ王都から警察官が三人も乗り込んできたのか、それがどうしても解せなかったのだ。


 警察側の言い分では「領主と盗賊団の癒着疑惑」とのことだが、そんなものはあくまで噂の域を出ず、決定的な証拠など何一つないはずである。


 いくら貴族の子息から依頼があったとはいえ、馬で二日以上もかかる田舎村へわざわざ人員を派遣する意味が分からない。


 何より不気味なのは、彼らの「熱量」だった。


 単に様子を見に散歩へ来たというレベルではない。何が何でも自分を検挙してやるという意思が、ひしひしと伝わってくるのだ。


「うっとうしい……実にうっとうしいッ……!」


 ダルマは忌々しそうに舌打ちを鳴らすと、乱暴に宿の扉を押し開けた。


「閣下、この状況を今すぐに解除していただきたい。警察に対する正当な理由なき軟禁は違法行為だ」


 ダルマが顔部屋に入った途端、モース警部は噛みつかんばかりの勢いで言葉を発した。


「実に適法な行為ですよ。判事である私が適法であると判断したのですからね」


 ダルマは穏やかなながらも高圧的な口調で説明を始めた。


「いいですか?コウボウが死亡した日の夜、酒場で彼らがコウボウと一緒にいるところが確認されているのです。彼は彼は村の住人から恨みを買うような人間ではない。となれば、部外者である彼らが手を出したと考えるのがごく『自然』では無いですか? 」


 モース警部はフッと鼻で笑った。


「……コウボウ氏が『死亡した』?」


「……?」


「それはおかしいですな。以前あなたは『コウボウが姿を消した、行方不明だ』とおっしゃっていたはずだ。死亡したなどと、どうしてわかるのですか?死体が発見されたという情報は、私どもには届いていませんが?」


 余裕の笑みを浮かべていたダルマの顔がぴきりと硬直した。


「それに、あなたが重要視している目撃情報ですが……そんなものは証拠でも何でもない。まともな治安判事なら、それだけで犯人を断定することはできない。そう判断するのが『自然』というものですよ」


「全く、都会の人は細かい事にいちいちこだわりますな」


「細かい?これは当たり前の事ですよ」


「まあまあまあ………」


 領主であり治安判事である自分を真っ向から否定する部外者に対し、腹が立っていたダルマだが、なんとか自分を落ち着かせる。


 もともと、話し合いで解決するとは思っていなかった。それなら次の一手を打つまでだ。


 ジャケットの内ポケットに手入れて取り出したのは革袋。それをモース警部の前にあるテーブルの上にドンと放り投げた。


 その中には金貨の三十枚。


「……あなたの言い分は十分に効かせていただきました。しかしどうでしょう、こんな議論をいつまで続けても並行線ではありませんか。聞くところによると、警察の方と言うのは仕事が忙しいわりに貰える金は大したことがないとか………どうですか?これを受け取って大人しく王都に返る、それが賢い選択肢では無いですか?」


「はっ!」


 モース警部は鼻で笑った。


「……これがあなたの考えですか閣下、失礼ながら言わせてもらえば、これは実に愚かな策です」


「なんだと!?」


 ダルマは怒りで顔を真っ赤にして迫ったが、モース警部は微動だにしなかった。


「いまこの状況は、この程度のはした金でどうにかなるレベルをとっくに超えています。正当な理由なく貴族の子息を投獄し、我々警察を軟禁する。これはあなたが考えているよりも遥かに重罪ですよ。少しは世の中の仕組みというものを勉強された方がよろしいかと思いますね」


「貴様……ッ!?」


 どれだけ凄んで見せてもモース警部は薄ら笑いを浮かべているだけだった。何のコネもなく警部にまで昇進した彼は今まで数多の犯罪者と接し、そして幾度も命の危険にあっている。


 そんなモース警部だからこそ分かる。ダルマという領主、どんなに権力を誇示してみせても、警察と言う国家権力に怯えていることは明らか。


 直接手を出す勇気はない。できることは脅すことだけだ。


「閣下、あなたは人を舐めている。我々も学院生もあなたの思い通りには動きませんよ。あなたはもう、おしまいです」


「誰が終わりだ!好き勝手なことを言いおって後悔するぞッ! 私には政治の中枢との太いコネがあるのだ! たかだか警部如き、私の指先一つでいくらでも潰せるのだぞ!!」


 顔を真っ赤に沸騰させたダルマは、卓上の金貨を乱暴に引っ掴むと、荒い息を吐きながら部屋を出ていった。






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