13話 ~酒と銀貨~
事件の核心に迫る鍵を握っていそうな執事――コウボウ。彼との接触を果たすべく、一行は詳しい事情を知っていそうな人物のもとへと足を運んだ。
単に話を聞くだけであれば、わざわざ全員で押しかける必要などない。代表して一人だけが向かえば十分なはずだ。
それにもかかわらず、揃ってぞろぞろと足を運んだ最大の理由は、ただ一つ。「精神的な圧力」をまとめて叩きつけるためである。
その作戦の効果はてきめんだった。
一行の姿が視界に入った瞬間、宿屋の主人であるヘムラは一瞬で血の気を引き、顔面を真っ青に染め上げたのだった。
「私は何も知りません……! ですが、酒場の主人のカプワンなら、何か知っているかもしれません。気になるのでしたら、あいつに聞いてみてはいかがです?」
宿の主人ヘムラはそれだけを早口で捲し立てると、逃げるようにそそくさと奥の厨房へ去って行ってしまった。
「……自分では口を割りたくないから、他の人に聞いてくれってことですね〜。ってこのセリフ、少し前にも言ったよ?」
フワリングの呆れ混じりの言葉に全員が深く頷き、一行は手がかりを求めて村の酒場へと向かった。
◇
「俺は何にも知らねぇよ! 知らねえったら知らねえ!」
店内に入り、探りを入れた途端、昼間だというのに顔を真っ赤にした髭面の店主――カプワンは大声で突っぱねた。
「まあまあまあ、とりあえず酒でのどを潤したらどうだ?俺がいっぱいおごってやるよ」
ホーチミンがポンと酒瓶を叩いてそう促すと、カプワンは強ばっていた表情を少しだけ緩めた。
出された酒を二杯、三杯とグラスごと煽り傾けていくうちに、アルコールに背中を押されたのか、男はぽつりぽつりと口を開き始めた。
「なあ、あんたたちよ……。盗賊討伐なんてさっさと諦めて、この村から出て行った方がいいんじゃないか……?」
「何を言っているんだ。盗賊がいなくなれば、カプワンさんだって商売がしやすくなって嬉しいはずだろう? 違うかい?」
「そりゃそうだけどよ……。なあ、ちょっと警部さんに聞きたいんだが」
「ん? どうした?」
モース警部はグラスを片手に、軽い調子で問い返した。
「もし……もしも万が一だぞ。領主様がとんでもない悪事を働いていた場合……執事のコウボウはどうなるんだ?」
「……裁判の結果次第だが、共謀罪に問われる可能性は十二分にあるだろうな」
「やっぱりそうだよなぁ……っ」
顔を歪めて深く溜め息をつくカプワンに対し、モース警部は静かに言葉を続けた。
「だが、もし彼が裁判に全面的に協力するのなら、『司法取引』という手段も残されている」
「し、司法取引……?」
「ああ。主犯である領主の悪事を証明する手助けをしてくれるというのなら、彼の罪を問わずに済む可能性もあるということだ」
カプワンはしばらく考えた後でゆっくりと口を開いた。
「……あいつなら、毎日店の閉店間際にやってくるよ。『酒がないと眠れないんだ』なんて言ってな。……どうやら上からも下からもあれこれ言われて、精神的にすっかり参ってるみたいだ。いつも酒を煽りながら腹を痛そうにしてるからよ、『あんまり飲み過ぎるな』って言ってやるんだが……『カプワンさんが言っても説得力ありませんよ』なんて笑われて終わりさ」
カプワンは深いため息をつき、モース警部とゴライアスたちの顔を順番に見つめた。
「なぁ、刑事さんよ。あいつは……あのコウボウってやつは、自分から進んで悪事に手を貸すような奴じゃないんだ。毎晩うちで酔っ払ってる情けない顔を見てりゃ分かる、そんな大層な肝っ玉なんて持っちゃいねぇよ」
カプワンはカウンターを強く叩き、切実な眼差しで訴えかけた。
「そもそもあいつはな、前任の執事が急に姿を消したから、ほんの三ヶ月くらい前に新しく雇われたばかりなんだよ。あんたらが探ってるような黒い事情なんて、知るわけがねぇんだ。……だから頼む、あいつを見逃してやってくれねぇか? なんなら、この銀貨だって返すからよ……!」
店主の真剣な言葉に誰も何も言うことができなかった。
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