12話 ~警部登場~
ブラックウッド村に警察がやって来たのは、電報を打ってから三日後のことだった。
やって来たのは、四角い顔をしたモース警部と、若手と巨漢の部下巡査が二人の、わずか三人。
「たったの三人で大丈夫なんですか〜?」
旅籠の薄暗いダイニングスペースで、フワリングがいつもの軽い調子で尋ねると、モース警部は恥じ入る様子もなく頷いた。
「警視庁としては、この人数が限度ですよ。むしろよく三人も出してくれたと考えていただきたい。ロンドンガ警視庁は常に慢性的な人員不足と戦っておりましてね。片道に二日もかかるような場所に人材を派遣するのは、そう簡単なことじゃないんです」
「うーん……。でも、相手は一国の領主ですよ? 小規模とはいえ、向こうには私設の護衛兵士がいる。たったの三人で何ができるっていうんですか?」
「確たる証拠さえあれば、我々としても王都へ要請を出して増員することは可能です。しかし現時点では、いただいた電報の内容も噂の域を出ていない」
「証拠なら、事情を知っている奴を捕まえて自白させればいいのではないですか?」
グラディウスが腕を組み、眉をひそめて尋ねた。
「いや、それでは弱い。下手に自白を強要したとなれば、いざ裁判の時に『脅迫されて嘘を吐かされた』と証言をひっくり返されるかもしれない」
「それなら、どういう物が証拠として認められるのですか?」
モース警部はパイプの紫煙をゆっくりと吐き出し、鋭い眼光を走らせた。
「ここの領主は裏で盗賊団と繋がっている。そして盗賊団は人身売買をしている……そういう話でしたね?」
「そうです」
「ならば、裏帳簿があればかなり有力な証拠になる」
「裏帳簿……?」
「ええ。領主は盗賊団に協力する見返りとして金銭を受け取り、それを密かに帳簿に付けているはずだ。それが手に入れば、裁判所で領主を有罪に持ち込むことが可能になります」
「裏帳簿……。あるとすれば屋敷の中か」
「もちろんそうでしょうな」
ゴライアスの言葉に、モース警部が深く頷く。
「人が大事なものを隠す場合、それはすぐに自分の手が届く場所と決まっています」
「警察の権力で、屋敷の捜索はできないのか?」
「それはさすがに拒否されるでしょう。確たる証拠がない今の状況では、強制捜査の令状は出せません」
グラディウスが腕を組み、顎をさすりながら呟いた。
「……あの執事なら、裏帳簿のありかを知っているかもしれないな」
「執事……?」
「最初に領主に会いに行った時に、代わりに出てきた奴だ。名前は確か、コウボウと言ったな」
「しかし、そんな重要人物が簡単に口を割るとは思えませんが」
警部が懐疑的な視線を向けると、フワリングが「いや、可能性はあるんじゃない〜?」と口を挟んだ。
「脅せば一発で口を割るんじゃない?向こうはゴライアス君に相当ビビってるでしょ」
フワリングは意地の悪い視線を向けた。
「……そんなことがあったかな。記憶にないな」
「帳簿のありかが分かればいいんだな?」
グラディウスが意味深な視線をモース警部に向けた。
「……まさか、盗みに入るつもりですか?」
「そんなことは言っていない」
不穏な空気の中、しばらくの沈黙が流れた後、モース警部がゆっくりと口を開いた。
「……コウボウ氏に会う時にはぜひ同行させてください。私も長年、犯罪者と対峙していますから、本当にダルマ氏が重大な犯罪に関わっているのか、そのにおいくらいは嗅ぎ分けることが出来るはずです」
「だけどさ、あの執事って屋敷から出てこないんじゃないかな〜? 僕たちがこの村に残って色々調べてることは向こうも知ってるだろうし、警戒して閉じこもってるでしょ」
フワリングが懸念を口にすると、それまで静観していた冒険者のホーチミンが低く首を振った。
「いや、流石にそれはないでしょう。私は仕事柄、王都のマフィアの連中をよく知っていますが……抗争中であっても、ボスや幹部は手下を引き連れてあちこち外へ出かけるもです。怯えている姿を周りに見せたくないプライドもあるのでしょうが、何より屋敷でじっとしているのは息が詰まりますから」
「ということは、あの執事もいずれ屋敷から出てくるってことだね。……でも、いつどこに現れるのか分からないと待ち伏せもできないよ?」
「それなら、知っていそうな奴に吐かせればいい」
「知っていそうな奴……って、もしかして」
「ああ。俺たちが泊まっている、あの宿屋の主人だ」
グラディウスの言葉を受け、ゴライアスは悪党も青ざめるような、お世辞にも善人とは言えないニヤリとした笑みを浮かべていた。
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