11話 ~秘密~
盗賊討伐にどこか消極的な村の態度――その裏に隠された秘密を探るため、一行は宿の主人であるヘムラのもとへと押し寄せていた。
単に事情を聞き出すだけであれば、代表して一人だけが向かえば事足りるはずだ。それにもかかわらず全員で詰めかけた理由は、ただ一つ。「精神的な圧力」を叩きつけるためである。
年齢だけで見れば、彼らはまだ青くさい若造に過ぎない。しかし、王都が誇る最高峰の学び舎『王立サンピエトロ学院』の生徒という看板、そして幾千の修羅場をくぐり抜けてきたベテラン冒険者が放つ特有の威圧感は、一宿屋の主人を締め上げるには十分すぎるほどの威力を発揮した。
その絶大な効果は、すぐに目に見える形となって表れる。
彼らを迎えた宿の主人の顔から、貼り付けたような商売用の笑顔がみるみる引きつり、やがて生気を失ったかのように蒼白へと変わっていったのだった。
「私は何も知りません……! ですが、今ちょうど村に来ている行商人のハモンなら、何か知っているかもしれません。気になるのでしたら、あいつに聞いてみてはいかがです?」
宿の主人ヘムラは、早口で捲し立てると、逃げるようにそそくさと去って行った。
「……自分では口を割りたくないから、他の人に聞いてくれってことですね〜」
フワリングの呆れ混じりの言葉に全員が深く頷いた。何はともあれ、手掛かりが消失したわけではないのだ。一行はヘムラが名指ししたハモンという行商人を探して薄暗い村の中を歩き始めた。
するとすぐに見つかった。村の広場脇で荷馬車の荷物を整えていた男――丸顔で、蓄えた顎髭ともみあげが繋がった中年の男だ。
「何か知っていることがあれば教えてもらえますか?もちろん秘密は守ります」
フワリングが懐からすっと銀貨を取り出して見せると、ハモンの目が卑しく光った。
「……あまり大きな声では言えませんけどね。ここの領主様には、根深い『黒い噂』がありますよ」
フワリングからせしめた銀貨を手のひらで転がし、下品な笑顔を浮かべながらハモンが声を潜める。
「その噂とは何だ?」
「近くの山にアジトを構える盗賊団『龍の髭』のことはご存じですか?」
「もちろんだ。我々はそれを討伐しにやって来た」
グラディウスが鋭い眼光で答えると、ハモンは周囲を軽く警戒するように見回してから、吐き捨てるように言った。
「『龍の髭』とここの領主は裏で繋がっている……そう言われています」
「な、何だと……!?」
衝撃の事実に行列が息をのむ中、フワリングだけは怪しむように首をひねり、軽い調子で尋ねた。
「でもさ〜、ここの領主様は重い病気で寝込んでいるって聞いたよ?」
「あー、ハハッ! それは100%嘘ですね。私は昨日、あの屋敷に最高級の葉巻を納品したばかりですから。あの屋敷でそんな高級品を紫煙に変えるのは、領主様ただ一人ですよ」
「くそっ……! やはりあの病気というのも、俺たちを追い返すための嘘だったか!」
グラディウスが苦々しく拳を握りしめ、低く毒づいた。
「事件解決のためには警察の協力が必要だ」
冒険者であるホーチミンは、混乱する場を宥めるように落ち着いた口調で言った。だが、フワリングは浮かない顔で眉をひそめる。
「だけどホーチミンさん、警察は話を聞いてくれないと思うよ〜。きっと裏で領主と繋がってる」
「それは想定内だ」
「ってことは、何か秘策があるんだね?」
フワリングの問いかけに、ホーチミンは静かに頷いた。
「警察は警察でも、俺たちが通報するのは王都にある『ロドンガ警視庁』だ。そこなら田舎領主の影響力なんて及びようがないからな。まともな捜査が期待できる。……お前たちもそれでいいか?」
ホーチミンの筋の通った提案に、三人は顔を見合わせて頷いた。
「というわけで、電報は頼んだぞ」
「え? 僕〜?」
フワリングが目を丸くすると、ホーチミンは至極当然といった風に肩をすくめた。
「もちろんだ。平民である俺が打つよりも、貴族の子息である君が打ったほうが、警視庁の動きが何倍も早くなることは間違いない」
「貴族の子息だったらもう一人………いや、ここは僕がやった方が良さそうだね。ちょっと行ってくるよ〜」
一度ゴライアスに目をやってから、電報を打つべく村の郵便局へと向かっていった。
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