07-2. 董昭容の宮
「ムズがられてお昼をあまり召し上がれなくて。何か食べやすいものをってお願いに行く話になって、それで羽和が尚食局に行ったの。……それでほかの公子様や公司様方も同じだったらしくて、杏仁羹が作られていたって直ぐに帰ってきたの」
尚食局が気を効かせたのか、複数の妃からの要望があって作り終わったところに、死んだ宮女が到着したのだろう。
「公子様が大喜びで、手で食べようとしたのを風清さんが止められて、匙で掬って差し上げました。そしたら急に叫び声を上げて……。今まで聞いたことがないほど凄い声で、びっくりしてどうしたら良いか……。私はおろおろするだけで。突然、声が止まったと思ったら亡くなってました」
風清というのは、先ほどの年配の侍女のようだ。
目の前の宮女は悲しみよりも、何故という困惑の方が強かった。喪服の二人はきっと、妃の実家から付いてきた侍女で、目の前の彼女は年季奉公中の宮女だからなのかも。付き合いが浅い分、感情も浅いのかもしれない。
「死んだ宮女は、どうしていましたか」
「風清さんはどうしたら良いかわからないままでも大声で人を呼んだり、公子様の名を叫ばれたり、一生懸命できることをしてたけど……。羽和は口元を押さえながら、その場に突っ立ったまま呆然としてました。気付いたら倒れていて、気絶したんだと思います」
――良心の呵責に耐えかねたとか、自責の念に駆られた可能性もあるけど、単に目の前で公子様が亡くなって動揺しただけって可能性もあるよな。
結局のところ、何もわからない。でも……。
「普段の羽和はどうだった? 公子様を殺すような、残酷なところはあった?」
「いいえ……」
「仕事ができる子だった?」
「そこそこに」
話が繋がらない。言葉がブツブツ切れるだけ。
――警戒されてるのかな?
だったとしても、聞き出さないことには仕事が終わらない。
「何が好きだった? 好きな食べ物でも、髪型でもわかんないかな?」
「宮女が好きなものは大抵好きでした。甘い果実とか、可愛い釵が欲しいって言ってたかも。あと年季が終わったら結婚したいって……」
「……! もしかして許嫁とか、結婚を約束してる人がいるとか?」
「相手はいないみたいだったけど、でも好きな人を見つけて結婚したいって。後宮を出たらすぐにみつけるんだって言ってた」
――結婚を盾に殺すように言うような相手はいなかった。ってことで良いんだな。
それだけでは全くわからないのも同然なんだけど。
「仲が良かった子とかは? 今の状況で仲が良かったっていうのは、疑われるかもって思うかもしれない。でも羽和が殺そうと思って、杏仁羹を持ってきたとは限らない」
「そんな訳ないじゃないですか。だって風清さん以外は羽和しか触ってないんだから」
「尚食局から戻って来るときに、誰かと一緒におしゃべりしながらだった、なんてこともあるからね」
「本当に思ってるんですか? 羽和が殺したんじゃないって?」
疑り深い。うっかりすると自分も関係してるんじゃないかって警戒してるのかもしれない。
「わからない。だって生きてる羽和を知らないから。ぼんやりした子なら毒を入れられても気付かないだろう? 逆に抜け目のない子なら、ほかの人からわからないように毒を入れられる。知らないからどちらとも言えないんだ」
だから教えてほしい。
そう言うとポツリポツリと話し始めた。
可愛い髪型が好きで、結い上げるのが上手かった。
でも針仕事は下手で、器用なのか不器用なのかわからない。
嫌な子じゃなかった。
性格は良かった。
友達はいたけど、多くも少なくもなくて普通だと思う。
要するに何処にでもいるような普通の女の子だ。
――うん、わからない。
普通過ぎて何もわからなかった。
「帰る時は案内してくれた侍女様に声をかけた方が良いかな?」
掌衛がどこにいるかわからないし。
「あと庭を見たいんだけど、大丈夫かな?」
「一人で歩き回るのは駄目だと思います。公子様のことがあるから……」
確かに余所者が一人で歩き回るのは良くないかな。
「だったら案内してくれるかな? どんな花が咲いているか見てみたいんだ」
そう言うと花なんか見て暢気だなって顔をされた。愛でたい訳じゃないのに。
イラっとした感じだけど、案内はしてくれた。妃の住まいだけあって季節ごとに花が咲いて見事だった。
「百合は咲いてる?」
「まだ咲いてません。ここのは少し遅く咲くんです」
「ありがとう、助かった」
できるだけにこやかな笑みを浮かべたつもりだったけど、最後まで警戒心は解けなかった。
――嫌だなあ、本当に。
好きで調べてるんじゃないのに、疑われたり不審がられたり。
ちょっとばかり理不尽さを感じながら、僕をこんな目に合わせた元凶を探した。
「楽しそうだったじゃないか」
元凶が憮然とした顔で睥睨する。一体、誰のために動いていると思ってるんだか。
「遊んでたんじゃないですよ。気になったことを確認しただけです」
溜息を押し殺しながら説明する。
「服の汚れが何処で付いたか探していただけです」




