エピローグ
白桃の実る季節だった。蜂蜜を得て半月ほど経っている。
「どうかな?」
美味しいとは思う。
少し前、僕――張祥安はとある事件の解決に助力した報酬として蜂蜜を貰った。
それ以前に泉婕妤の輿入れ荷物の中にもある。せっかく新しく手に入ったので、古い物と入れ替えるべく使ったのが、目の前にある甘味だ。鍋いっぱいの桃と共に煮て、一晩寝かしたからよく沁み込んでいる。
一つ味見をしてみると甘く、そして柔らかく、まずまずだった。
――悪くない。というか上出来?
僕としては十分美味しい仕上がり。
それに蜂蜜をたっぷり使った甘い白桃。下級宮女や宦官では口にする機会はほとんどない。
喜ばないはずがないと思う。……思うけど相手の反応は気にはなる。
「すっごく美味しいんだけど!!」
すごく食い気味に桃香が感想を告げる。ほかの共同生活を送る宮女たちも同様だ。
「良かった。気に入ってくれるかわからなかったから……。ほら、僕の味付けはどうしても西方に偏るからさ」
「蜂蜜しか使ってないから……ってなんか薔薇の香りがする?」
「うん、煮込んだところに乾燥させた花びらを入れたんだ。上手く香りが付いて良かった」
果肉を皮と一緒に煮たからほんのり薔薇色。
香りまで薔薇であれば、かなりお洒落になったと思う。
故郷と同じように薔薇水を飲みたくて用意してたものだけど、単に蜂蜜で煮るだけでは芸がないと思って入れてみた。
「蜂蜜がこんなにたっぷり……」
「お妃様方はこういうものを毎日食べてるのかな?」
「それ以上かも。だって薔薇の香り付きだよ!?」
ほぅと溜息が聞こえる。幸せを噛み締めているような音だ。
「こんなに喜んでくれるなら、また作って持ってくるよ。桃の時期はまだ続くし、蜂蜜もたっぷりあるから」
怖くて偉そうな人だったけど、吝嗇ではなかったのは僥倖だった。
「もしかして漬け込むだけだったら、もう少し歯ごたえあるのかな……? 柔らかいとすぐに食べ尽くしちゃう」
「気に入ったならまた持ってくるよ。何だったら蜂蜜をわけるから自分たちで作ってみる?」
「怖くて持てないよ!」
確かに蔦華国では蜂蜜が高価とはいえ、今の季節なら花が多いから、ちょっと贅沢な甘味くらいの価値しかないはず。
そこまで恐れおののくほどではない……と思う。普通のものでありさえすれば。
――理衡の寄越した蜂蜜は別格だけど。
どうやったら一介の宦官、しかも下っ端が、皇帝への献上品を下賜されるように手配するかな。
厳重に密封された壺は開けていない。
とはいえ壺は青磁の一級品。包む袱も絹練りが上品な素晴らしいものだった。妃の侍女の私物の袱も大概良いものだったけど、比べ物にならない。
王女である自分でさえ、そう手に入らないほどの極上品の包みごと渡すなんて何事だと言いたい。
きっと癖が少なくて透き通った琥珀色なのだろうけど、当分見る機会はない。
楽しみにしながら、郷里から持ち込んだ蜂蜜を少しずつ消化する予定だった。




