16. 夕餉
少し短めです
銀錠を預けた後も動き回ったけど、成果はなかった。
――できれば毒に関する物を何でも良いから見つけたかったんだけど。
言い逃れできないような何か。後宮内をもっと探索して。
でもその前に夕餉だ。
腹が減っては戦ができぬ。って戦う訳じゃないけど。
食事を誘いに友人たちのいる尚書局に向かう。
途中、上役とか同僚たちに「大変だったな」と同情の目で見られたり、声をかけられたり。「使いっ走りとしても良さそうに思われたみたいです」と言ったら、更に不憫そうに見られた。まあそうだろうなって思う。威圧感があって怖そうな人に無理矢理連れ去られてこき使われるなんて、同僚が同じ目にあったら僕でも同情する。
頭を使うし、精神も疲れるし、でも給料が上がるなんてこともなさそうだし。
せいぜいが食事時に良い肉をたらふく食べられることくらいで………………それだけは悪くない。
「安安、もう終わったんだ?」
「全然! 明日もきっと連れ回されると思う」
僕が見つけるより早く、友人たちの方から見つけてくれた。
仕方がないとは思いたくないけど、諦めざるを得ないって心境で返す。
「大変だね……」
「うん、すごく大変……」
同情の言葉に溜め息しか出てこない。
尚食局の宮女たちは優しかったけど、董昭容の宮は重く悲しみに満ちていて、その中を土足で入る真似をした。自分なりに死を悼んでから聞き取りしたけど、どこまで心を籠められたかわからない。
次に行った栢修容の宮は値踏みされ凄まれて心を削られたし。
その後も遺体検分に付き合ったり、盗賊の真似事をしたり、あまり気持ちの良いものではない。
「早く尚書局に戻りたい……」
「頑張って、早く戻れるように祈ってあげる」
「ありがとう。同情するなら、その香の物がほしい」
青菜っぽいお浸しを見る。とても美味しかった。
「それは話が違う」
きっぱり断られた。同情と一緒に食事も欲しいだけなのに。
夕餉を終えた後も、外は明るい。
初夏を迎えた今、割と遅い時間まで陽が落ちないのだ。
昼間、話を聞いた尚食局の宮女たちに追加で話を聞いたが、大して時間は過ぎなかった。
そんな訳で物置近くの杏子の木に向かった。承成から止めておけと言われたあの木だ。
梯子は持ち出さなかった。がっつり手入れした後だから、持ち出したらバレそうで。袖の大きな袍はかなり邪魔だけど、登れないほどじゃない。
下の方の枝で完熟したっぽい実をもいだ。軽く手のひらで擦って汚れを落とす。
「食べるな!」
下から大声で制止された。今日はこういうのが多い気がする。
「美味しそうですよ?」
「この実は不味いから止めなさい。うっとするくらい酸っぱくてエグみがあるけど、気にしないなら食べればいい」
見下ろすと、中年に達した宮女だった。竹籠を背負っている。
「でも実を採りに来たんですよね?」
「食べるためじゃない。薬を作るの!」
「医女でしたか……」
なるほど。仁を取り出すのか。制止したのは単に善意からだろう。
「木に登っているなら丁度いい。実を投げてくれない?」
「籠を受け取りますよ。渡してくれますか?」
そこそこ大きな籠とはいえ大した労力じゃない。「無理をしなくていい」と言われたけど全然無理じゃない。今朝も木に登って実を採っている。
「大丈夫ですよ。慣れてますから」
そう言いながら手を伸ばす。特に躊躇う気配もなく受け取って背負う。完熟した実を選んでポイポイ籠の中に放り込んでいったら、あっという間に満杯になった。
登ったときと同じようにスルスルと下りていく。小声で「子猿みたい」と呟かれたけど、聞こえなかったことにした。
「ついでだから持っていきましょうか?」
実際には同性とはいえ、今の僕は宦官に扮している。力仕事は率先した方が良いのだ。医女の方も心得たもので「頼むわ」と気軽に頼んでくる。下手に固辞するよりも、好意に甘える方が手っ取り早いという理由もあるのだろう。
「結構、距離がありますね」
直ぐ先に仕事場があるかと思っていたら、予想外に歩いた。
「庭の中の苦杏仁の木を見回る意味もあるの。あなたみたいに間違って食べる人もいるけど、もし大量になくなったら警戒しないといけないから……」
ずっと監視したりはないものの、どうやら大雑把に数の管理をしているらしい。
「当然でしょう? 薬は過ぎれば毒になるもの。材料となるものを確認しておくのも仕事だわ」
毒があるから、と核心を突く言い方をしない辺り慎重だ。実際にはかなり慎重に処方する部類の薬というか、強力な毒にもなる。正しく作れば小さな匙一杯で人を殺せるほどの猛毒なのだ。




