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違う、そうじゃない。〜犯人は俺なんだ〜  作者: 岩波備前


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違う。そうじゃない。〜犯人は、俺だ〜       [後編]

「••••••隼人。今後について話しがある」


綾乃は俺の顔を真っ直ぐ見つめて俺に告げた。


「霧崎探偵事務所を、君に譲ろうと思う」


「は?••••••何でだよ?」


「••••••肝心な時に役に立たないからね、私は」


「いや、それはないだろ?」


「今回の件で良く分かった。人の人生を左右する仕事に、趣味気分で首を突っ込むものではなかったな」


はぁぁ••••••と、深い溜息をつく。


大分参っているらしく、完全に諦めたような表情をしていた。


「趣味気分って••••••この事務所を残しておきたいって理由もあったんだろ?」


綾乃は爺さんと俺との思い出のある事務所を無くしたくはないからと、この事務所を受け継ぎ、探偵業を始めた筈だ。


「そのために努力はしていたな。別にこの事務所を潰す訳じゃないよ。ただ、私がこの仕事を退こうかと考えている訳さ」


「••••••随分と無責任だな」


俺を1人残し、自分は辞める••••••ということか。


「なんとでもいいたまえ••••••私には隼人の妻と言う永久就職先があるしね」


「それはそうだがな••••••」


どっちにしろ、その結果は変わらない。

綾乃がいない事務所で働くか、そうではないかの違いだけだ。

俺達の関係は変わらないだろう。


「なあ、綾乃。俺からも言いたい事があるんだが••••••」


だからこそ、綾乃に伝えなければいけないことがある。


••••••これは譲れない。


「••••••なんだい?」


「綾乃がこの仕事を退くなら、俺もここを辞めるよ」


綾乃がいないのなら、俺がここにいる意味もない。


「へっ?」


そんな事は微塵にも思っていなかったらしい。

まあ、俺個人もこの事務所は好きだからな。

混乱に直面している綾乃へ、更に続ける。


「そして、綾乃とは別れる」


「••••••はやと••••••どうして••••••?」


一気に青ざめる。

血の気が引くってこういう事を言うんだな。


「綾乃がこの仕事を辞めると言うからさ」


綾乃がいない事務所には勤めたくはない。

それでも、辞めるというのであれば、それを阻止するためのカードはこれしかない。


綾乃はすがるような瞳で俺を見つめながら、震える声で口を開く。



「••••••沈むぞ?」



「かもな」



可能性は、あるな。



「••••••道連れにするよ?」



••••••綾乃は本気だな。



「••••••まあ、綾乃と一緒なら」



でも綾乃も一緒なら、悪くない。



「••••••••••••泣く•••••」



僅かに顔を伏せ、さめざめと泣き始めてしまった。膝の上でスカートを握りしめている。


••••••本気で泣いてる。



「それは困る••••••」



綾乃の目元を拭き取りながら、俺は答えた。

泣かれるのは、もっと困る。



「••••••どうして?」



本当にわからないのか?



「俺はな••••••この事務所で、綾乃と一緒に探偵業を続けたいからな」




綾乃がデスクにふんぞり返って、対等な立場で俺が補佐する。

それが、一番理想だからな。




「私は役に立たなかったぞ?」



まだ、気にしているのか



「まだ、これからだろ?」



一緒に働き始めて1年も経っていない。



「君を殺人犯にしたんだぞ?」



確かに無視出来ない事だが••••••



「まあ、済んだ事だ」



綾乃が黙っていれば、言いわけだし。



「••••••••••••••••••今回みたいに、迷惑をかけるかも」

 


••••••••••••こいつは、いつまでもぐちぐちと。

はっきり言わないと駄目だな。



「いいかげん、ごちゃごちゃうるさいぞ。俺がそれで良いって言ってるんだ!」


「全部引っくるめて、綾乃を手放したくないんだよ」



「•••••••••••••••••••」



びっくりした様子で言葉を失う綾乃。

まあ、こんなに強く当たることも無かったからな。



「最初に言ったな?好きにしても構わないって。なら、好きにさせてくれ」


「綾乃がこの事務所の代表として働いて、俺が対等な立場で補佐する。そして、綾乃を精一杯可愛がる。••••••それが一番理想だからな」


綾乃と対等な立場で働くこと、綾乃を全力で愛でる••••••どっちもやらなくっちゃあいけないのが俺の辛いところだな。


••••••いや、辛くはないか。ばっちこい。


俺の宣言に対し、綾乃は目をぱちくりさせていた

が、次第落ち着きを取り戻したようだ。


「ふ、くふっ、ふふっ•••••そうかい••••••なら今の話しは撤回しよう。今後も、対等な立場で助けてくれ。そして••••••」


綾乃は俺の言葉を理解した直後、小さく笑う。

そして、俺に抱きついたかと思ったら、晴れやかな表情で言葉を紡ぐ。



「これからも、私をずっと可愛がってくれたまえよ?」







啖呵たんかを切った俺が言うのもなんだけどなあ」


「どうした?」


足元から綾乃の声がする。


「何で足元で俺にひっついているんだよ」


決して綺麗とは言えない床にぺたん、と座りながら綾乃は俺の足に擦り寄っていた。

すりすりと猫みたいに。


ガリバルディ、元気かなあ••••••


「••••••好きだろ?こういうの」


「好きだけどさあっ!」


••••••だって、性癖に合っているんだもん。


床に座る綾乃の服装は、過激なものではない。

白のブラウスに、黒いスカート。黒いソックスに、女性用の革靴。至って普通。


••••••室内にも関わらず、ベージュ色のトレンチコートに茶色のキャスケットをかぶってはいるが。


もちろん、全て霧崎家お抱えの職人の特注品らしい。

生地や縫製、細かなデザインの部分にその片鱗が見え隠れしている。


探偵のテンプレのような格好だ。


何故か?


綾乃と暫く抱き合っていた後、綾乃が『少し待ちたまえ』と俺を事務所から出るように促した。

その後、綾乃から声を掛けられ、事務所内に戻った俺の目の前に、着替えた綾乃がいた。


そして、こうなった。


「私の仕事着ではあるが、これを着るたびに君が反応していたのは分かっていたんだ。だからこそ、ここぞと言う時にしか着ないようにしていたんだよ」


「だから、着なくなったのか••••••」



堅苦しい服装に包まれている女性に惹かれてしまうものはしょうがない。


探偵業をしている綾乃が探偵の格好をするのは良いだろう。


だが、今は現代だ。薬とパイプを愛する英国探偵とは違う。


しかも、若くて美人な綾乃が時代錯誤とも言える格好をしている。


今と昔、男と女。ダンディズムを身に纏う綾乃。

そのアンバランスさに俺は感動を覚える。


綾乃には背伸びをしている感じはない。むしろ着こなせるだけの風格を持ち合わせている。


一方で、コートの中身は年相応の女性らしさを隠そうとはしていない。烏の濡れ羽色とでも言うのだろうか、余分なものが一切ない、艷やかな絹糸のような長髪を惜しげもなく、コートの背中に流している。


恥ずかしさもない、ただ、ありのままを表現している。


そんな凛々しく、渋く、タフさを併せ持つ綾乃が、俺の足元で可愛らしく、媚びるように擦り寄ってくる。


••••••最高じゃないか。


「今日は特別な日だ。隼人のおかげで無事にここへ戻る事が出来たし、私をずっと支えてくれると宣言もしてくれたからな」


「それは前から言ってるだろ?」


「何回言われても気分は良いものだよ」


「それに、あの時の礼もしなければならないしね」


「••••••礼?」


「円城さんの遺体の前で呆然としていた私を、疑いもなく信じると言ってくれただろう?あれで私は救われたんだよ」


「だって綾乃じゃないって言ってたじゃないか」


「信じると言ってもね、人間は僅かに疑いを持つ生きものなんだよ」


「でも、あの時の君は全く疑いを持っていなかった。私を心底信じていてくれた」


「そんな人がずっと傍にいてくれるんだ、本当に幸せな事だよ」


穏やかな笑みを浮かべる。

本心からそう思っている事がはっきりと分かるため、少しだけ照れくさくなってしまう。


「そこまで、言われると悪い気はしないな」


「だから、少しでもお礼がしたくてね」


綾乃の瞳が妖しく輝く。


「••••••手は出さんぞ?」


「分かっている。大学を卒業するまではしないんだろ?」


綾乃からはっきりと言われて安心する••••••


「でも、寸前までは••••••構わないだろう?」


「はっ?」


安心出来ない。


「私も覚悟を決めたんだ。前々から言っていたように、私を好きにしてもいいよ」


綾乃は、『いや、言い方が分かりにくいか?』と一瞬考え込むが、直ぐに適切な言葉が浮かんだようだ。


「今度は君の望むことなら、無条件で叶えてあげる」


「無条件って••••••」


綾乃と付き合う前に同じような事を言われた覚えがある。いや、それがあったからこそ、俺は綾乃を愛でる事が出来たのだが。


••••••これ以上、望めるものがあるのか?


「なんでも。死ねと言うなら死ぬし、身体を損なう事も受けいれるよ。••••••他の女性に手を出しても••••••良いし、私と別れたいなら••••••••••••別れる」


他の女性、別れる、といった単語の時だけ苦渋の表情を浮かべていた。


••••••無理すんなよ


「本当に、なんでも。••••••どんな結果になってもいいように根回しもしておくよ」


限定解除かぁ••••••


今の綾乃は本気でやるだろう、といった雰囲気がある。


「••••••ますます病んでないか?」


「••••••手遅れになっちゃった」


「そっかあ••••••」


可愛いらしく片目をぱちり、とする綾乃。

可愛いけど、••••••こわい。


早く何とかしないと••••••


「どうする?手始めに調教でもしてみるかい?」


「ぐいぐいくるこの子••••••」


ポケットから首輪を出し、俺に差し出してきた。

もちろんリード付き••••••首輪を良く見ると(あやの)と書いてある。


••••••尊厳をかなぐり捨てていないか?


「何もしたくなければ••••••それでもいいよ。••••••ただ、私の精神はがりがり削れていくけどね?」


「えぇ••••••」


「君に触れ合う事が出来なくて憔悴しょうすいしていく私を観察するのも愉しくないかい?」


「なにそれこわい」


びっくり新感覚。


「それと今、君の許可があれば、もっと触れ合いたいのだけれど?」


「••••••まあ、どうぞ」


「じゃあ遠慮なく」


綾乃はぱんぱん、と衣服に付いた埃を払う。

そして俺の顔を両手で包み、唇を重ねる。


「!••••••んぅーっ!?」


「ぁ•••••••んっ••••••」


重ねた唇の感触を愉しむ前に、ぬるっ、としたものが俺の口腔内に滑り込む。


「むぅーっ!?」


「ふぅっ••••••んぅ••••••」


綾乃の舌が俺の舌を撫でる。


つたない感じはあるが、それどころではない。


理解が出来ない。


「••••••ぷはっ」


唇が離れる。


綾乃は、唇に付いた何かを舐めとるように舌を動かす。

一瞬の事だが、小さくピンク色のそれが動く姿に扇情的なものを感じる。


「あ、あや、綾乃っ!?」


「ご馳走さまでした、ではないね?••••••これからだよ」


困惑する俺に向けて、頬を赤らめながらも精一杯の虚勢を張って格好をつけようとしている。


「一線を超えるそのぎりぎりを攻めてみようかと思ってね?••••••いつまで我慢できるかな?」


綾乃が俺の膝の上に座る。


「存分に愉しむといい」


綾乃は俺の左手を誘導する。

今度は柔らかな胸元へ。


右手は、コートのポケットへ••••••

器用だな、と思う前に綾乃の手がポケットの穴へ誘導する。


穴を抜けた先には、綾乃の腹か?

触れてはいけないところを触れている感覚に陥るな••••••


「••••••」


つまり、今の俺は綾乃を背後から抱きしめるように、左手で胸を、右手で下腹部を触っている変質者になってしまったと言うことか。


「隼人は、変態だねぇ••••••」


「ちくしょう••••••」


振り払うべきかと考えるが、これは無理だ。

だってコートの隙間から突っ込むように誘導していた。


「隼人は••••••こういうのが、好きだろう?」


綾乃がコートの前を閉じる。


他人から見たら、俺が綾乃の背後から手を回し、いかがわしい行為を働いている様にしか見えないだろう。


「いつの間に、こんな高等テクニックを••••••」


「君の好みに合わせて、日々アップデートしているからね」


ぎりっ、と歯を食いしばる。

くっそう••••••このままじゃ負ける。


別に戦っている訳ではないが、やられっぱなしも性に合わない。


••••••とりあえず、手を動かしてみる。


「ぅん••••••っ••••••」


綾乃が反応する。

ブラウスと下着越しではあるが、左手に確かな弾力を感じた。


右手にも温かで、すべすべとした感触がある。

こちらの方が反応が良いのかもしれない••••••


••••••これは、抗えない感触だ。


「••••••何だかいけないことをしている気分だな」


「まあ、年頃の•••••んっ•••••男女だから•••ぁ•••••しょうがないね」


手を動かす度に反応するから、少し面白い。


「••••••あと、綾乃。何だか俺の背中に寄ってきていないか?」


不思議な事に股の間に大きなものが当たっている。


「私の••••••っ•••••お尻•••だが?」


「何で?」


「発情っ•••••しているからね」


「そっかあ••••••」


「ぁっ••••••このまま後ろからでも良いけど。場所も事務所だし••••••よいしょ、っと」


綾乃が俺の手を優しく身体から離す。


手に一抹いちまつの寂しさを感じている間に、ソファ前のテーブルに上半身を預けた。

丁度俺の下半身にお尻を向ける姿勢になり、肩越しに俺を挑発的な瞳で見つめる。


長い黒髪が華奢きゃしゃな肩と背中に流れている。

腰のくびれから、安産型とからかったことのある臀部まで、コート越しに全てが眼下に見える。


(何とは言わんが、掴みやすそうな身体だな••••••)


非常に官能的な光景だ。


「据え膳だね?」


「綾乃が言うなよ••••••」


「あっ••••••そうだ」


「ゴムは無いぞ?着けさせる気も無いが••••••」


それ以外にも前準備がいるだろう••••••

••••••いや、そうじゃない。


「違う••••••綾乃にやって欲しいことがあるんだ」


「••••••コート1枚だけで、外を歩けばいいのかい?」


恥ずかしそうにしているが、満更でもなさそうだ。


喜ぶのを分かっているから、なのかなあ••••••


「なんでこうなっちゃったかなあ•••••違う違う」


「少し立ってくれないか」


テーブルから身を起こす綾乃。


すらっ、と膝まで流れるコートと、黒髪のコントラストが美しい。


「あ、ああ」


「買っておいて良かったぜ」


事務所の冷蔵庫から目的のものを取り出す。

仕事の合間に食べようとしたあんぱんと牛乳だ。


これをソファに置いて••••••


「ちょっと失礼」


「えっ•••••きゃっ!」


「ふむ、これでよし」


俺の膝の間に綾乃のお尻を置くように横抱きにする。両腕で綾乃の身体を保持。


コートが引っ掛かって手の位置が決めにくいが••••••いや、落ち着いたな。


「これって••••••」


「お姫様抱っこだな」


眼下には綾乃がすっぽりと収まっている。

コートがいい感じにはだけており、その下のブラウスが見えている。帽子もきちんと整えた。


••••••実にいい眺めだ。


「••••••なにをするつもりだい?」


不安2割、困惑3割、期待5割の割合で俺を見上げている。


「このまま愛でるから、綾乃は喋らないでくれ」


「喋らなければいいのか?」


「ああ、それと俺がすることを拒否せず受け入れて欲しい」


「••••••分かった。いいよ」


「じゃあ始めるぞ」


「••••••••••••」


「完璧だ••••••では」


綾乃を胸元に抱き寄せ、コートの襟元付近を吸う。


「!?」


「ふぅぅっーーっ、はぁぁーっ••••••」


猫吸いならぬ、綾乃吸い。


香水か、髪の匂いか。柑橘系の香りがした。


「••••••」


「ふぅ••••••」


綾乃の身体を元の位置に戻す。

綾乃が顔を真っ赤にしながら、口をパクパクさせている。


「喋るなよ?」


「••••••••••••」


これは喋らないことが大切なのだ。だからこそ綾乃に釘を刺す。


そこまで大事なのかい?、とでもいいたそうな表情で、口を閉じる。


「偉いぞ、綾乃」


「•••••••••••••••••••」


綾乃の頭をぽんぽんと叩く。ついでに髪と頬を撫でてみた。


帽子が邪魔だがまあいいだろう、といいたそうな表情で、俺の手に頬を擦り付けてくる。


「じゃあ、本番だ」


「!••••••!?」


俺はソファに置いた、あんぱんと牛乳を準備する。そんな俺の行動を見た綾乃が何かを察する。


まさか、それを私に食べさせる気かい!?といいたそうな表情で俺を見上げる。


「これから食べさせてやるから、黙ってくえよー」


「!!••••••っ••••••!?!?」


まるで赤ちゃんプレイじゃないか!?と抗議したそうな表情で俺を見る。凄く恥ずかしそうな様子だ。


「安心しろ、食べやすいように小さく切ってやるから」


「!••••••!?」


そんな心配はしていないが!?とでも思っていそうだな。


俺は小さく千切ったあんぱんを綾乃の口元に運ぶ。


「••••••••••」


綾乃は恥ずかしそうに、小さな口を開けてあんぱんをぱくっ、と食べる。

まあまあ美味しいのか、もぐもぐと咀嚼そしゃくし、ごくんと嚥下えんげする。


「おおっ••••••」


健全な事をしているのに、何だか背徳感があるな。••••••ゾクゾクするなぁ。


成人女性である綾乃を赤ちゃんのように扱う。


しかも、渋さとクラシックな感じを併せ持った服装に身を包んでいる事により、してはいけないことをしている感じがあり、とても興奮する。


俺はもう一口、綾乃の口元に運ぶ。


「••••••」


同じようにぱくん、と食べる。

まだ、恥ずかしさはあるようだ。俺を恨めしそうに見ている。


「実に可愛いなあ••••••」


「••••••••••••」


思わず本心が口から漏れてしまった。

綾乃にもそれが伝わったのか、そっぽを向いてしまう。


こんな状況で可愛いなんて言わないでくれ、といいたそうな感じだ。


「パンだけ食べていると、つらいからな」


俺はパック牛乳のストローを綾乃の口元に近づける。


「!••••••」


恐る恐る、ストローを咥える。

••••••ちゅうちゅうと、吸い始めた。


ストローから透けて見える白い液体と、中身が吸われているパックを感じながら、綾乃が牛乳を飲んでいる実感を得る。


「何だか赤ちゃんをあやしているようで落ち着くなあ••••••」


「••••••••••••••••••」


綾乃が泣きそうな表情で俺を見上げる。

••••••いや、涙ぐんでいる。


綾乃のプライドに何かヒビが入ってしまったのだろうか?


何でそんな事を言うのかなぁ••••••とでもいいたそうな表情だ。


「将来の予行演習になるな?」


なんとなくそんなことを伝えてみる。


「••••••••••••」


私で練習するんじゃない、へんたい••••••と思ってそうだな。


「••••••私で練習するんじゃない、へんたい」


「あ、こら、喋るなよ」


約束を破るんじゃないよ。


「••••••••••••••••••」


「よし、もう少し続けるぞ、綾乃」


トラブルはあったが、綾乃はその後も恥ずかしそうにしつつ、俺の趣味に付き合ってくれた。







「••••••変態」


「終わった途端に、第一声がそれかよ」


あんぱんと牛乳を食べさせたあと、綾乃を俺の肩に抱き寄せ、背中をぽんぽんしてから隣に座らせた。


その直後の第一声が、変態。だった。


「俺は愉しめたんだから良いだろ?」


「うーっ••••••••••••」


「そんな目で見るなよ••••••逆に何もしないぞ?」


「•••••••••••••••••」


綾乃は俯いてしまい、ぷるぷる震えだす。


「難儀な奴だなあ••••••」


綾乃の帽子を取り、頭を撫でる。


「隼人がそうしたいのなら、良いけど••••••••••••私は辛いんだよ?」


「••••••まあ、辛いのなら••••••たまにしかやらないさ」


「••••••••••••さでぃすと••••••」


「まあ、その分を補うくらいは構ってやるから心配するなよ」


「なら、我慢する••••••」


「そうしてくれよ?••••••あ、そろそろ行かないか?」


「••••••ああ、もうこんな時間。隼人に辱められていたから気が付かなかった••••••」


「綾乃が好きにしても良いといったんだろ」


「そうだけど、恥ずかしいものは恥ずかしいんだよ」 


「これからも宜しく頼むぞ?」


「••••••まあ、良いけど••••••」


「じゃ、行くか」


「••••••今日はしっかりとエスコートしてくれよ?」


「任せろ」




綾乃が休みにしてくれて良かった。


突然、話しがあると聞いたから驚いたが、その件も片付いた。


ならば、あとは気兼ねなく出掛けるとしよう。


今日1日は綾乃が主役だ。


俺を楽しませてくれると約束をしてくれたのだから、俺も綾乃を楽しませないとフェアじゃない。


これからも綾乃と一緒に、こんな風に過ごす事が出来ればいい。


俺はそんな事を考えながら綾乃の手を引き、事務所の扉を開いた。




おわり。

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