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違う、そうじゃない。〜犯人は俺なんだ〜  作者: 岩波備前


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霧崎探偵事務所業務日誌 その1 [前編]

※推理もの、ミステリー作品ではありません。ミステリー風味のラブコメです。

※主人公はほんのりと変態です

円城家の一件後。

とある日の霧崎探偵事務所。




「綾乃。頼みがある」


「なんだい?」


デスクでPC作業をしている綾乃に声を掛け、手元の紙袋を差し出す。


「••••••これを着てくれないか?そして今日1日、そのまま仕事をして欲しいんだ」


「分かったよ」


中身を見ずに即答する綾乃。

最近、レスポンスの良さに磨きが掛かっている。


ただし••••••


「••••••何をしたいのかは••••••分かるね?」


「••••••おう、来い」


俺はデスクから近づいてくる綾乃を受け止めるように両手を広げる。


(ばふっ)


俺の身体に抱きつく綾乃。


「••••••むふーっ•••••すぅ••••••はぁぁ••••••」


「••••••嗅ぐなよ」


••••••深呼吸してやがる。




趣味に付き合わせる度に、綾乃に抱きつかれ、匂いを嗅がれるようになった。


この間、綾乃の襟元を吸う俺を見た後に、仕返しとばかりに真似をすることがあった。


『人の匂いを嗅ぐなんて••••••とんだ変態だね、君は••••••これの何処が••••••すぅ••••••はぁ•••••••••••••ふぅ••••••すぅ•••••••••••ふぅ••••••』


暫く俺から離れなかった。


••••••癖になったらしい。




「••••••ぷはぁっ••••••うん、充電完了。じゃあ君は一旦外に出たまえ」


「おっけい」


紙袋を持って、びしっ、と事務所の扉を指し示す綾乃。素直に従う俺。







「どうかね?」


俺の目の前には白を基調とした、ぴっちりした服を着ている綾乃が立っていた。


これは、アオザイという民族衣装だ。


白の中に薄い水色が混ざり、涼しげな印象を与えている。

腰から足元に掛けてスリットが入っているためか、薄い生地が前後に垂れているように見える。


動く度に蝶のはねのようにひらひらとたなびいている。


衣装の露出は少ないが、肩から脚にかけてのボディラインがはっきりと分かる。


生地自体の薄さが要因だろう、下に身に着けているものの境目がうっすらと見えている。


これは準備した俺も気付いていなかった。

綾乃は気が付いていたようだが、文句を言わずに着てくれた。


••••••さすあや。(流石綾乃様)


「ああ、最高だ。今日1日は綾乃に足を向けて眠れないぜ」


「一緒に寝てくれるのかい?」


「昨日も抱き枕になってやっただろ?」


「毎日でもいいんだよ?」


「俺が保たん」


一緒に寝ると、腕の中にすっぽりと納まる綾乃。


••••••正直、理性が持たなくなりそうになることもある。


「我慢しなくてもいいんだが?」


「••••••やめれ」


このくらいにしてあげよう、と。にやにやしながら退いてくれた。


「で、私はこれを着たまま仕事をしていればいいのかい?」


「ああ、そして俺が眺める。その間は綾乃には触らん」


「••••••こんな事を許すのは私だけだからな?」


触らない、と言った所で僅かにむすっ、としていた。


「だからこそさ••••••後で抱っこしてやるから」


綾乃は膝の上に乗せてやると機嫌が良くなる。

更に頭を撫でると、こうかはばつぐんだ。


「なら、いいよ」


それで、いいらしい。


俺と綾乃は業務を始めた。

依頼も何件か入っていたが内容を確認し、受けるか受けないかを判断する。


「••••••」


先程までは綾乃用のデスクに座り、PC作業をしていたようだが、着替えてからは俺の反対側のソファに座り、仕事をしている。


「ここならじっくりと眺める事が出来るだろ?」


俺の為に移動してきたようだ。

••••••素晴らしい配慮だな。


「まあ、着替えをするまではずっとPCとにらめっこをしていたからね。少し息抜きでもしない•••とぉーっ••••••んーっ••••••」


綾乃はPCから顔を上げ、両手を背中に反らせるように背伸びをする。


薄い生地に、形の良いものが押し付けられる。

••••••輪郭と境目が更に強調された。


内側から押された為か、二の腕部分や脇腹、腹部の生地が引っ張られ、絞るような皺が寄っている。


「••••••ほぅ•••••」


痩せた身体に浮き出る肋骨。それに惹かれる紳士諸君も世の中には少なからずいるだろう。

しかし、程良い肉付きのある身体が織りなす、服の皺にも目を向けるべきであると感じた。


「••••••!••••••桃源郷はここにあった••••••?」


「••••••喜んでくれてなによりだ」


伸びを終えた綾乃が、にやりとしながら呟く。


••••••分かってやっているな?


「当然だろう?君の好みに合わせられるように日々努力しているのだからな?」


「心を読むな」


「読みやすい方が悪い」


そんな遣り取りをしながらPC作業に戻ろうとした所、綾乃のスマートフォンに電話が入ったようだ。


「珍しいな••••••」


今どき電話とは。まあ、綾乃がそういったアプリをあまり使わないからだろうか。


「どういう意味だい?••••••まあ、いいだろう。とにかく誰から••••••あ」


「誰からだ?」


「••••••」


無言でスマートフォンを俺に見せる。画面には『砂原 怜』の名前が。


「砂原さん?何故だ••••••?」


「••••••••••••どうしよう」


綾乃は珍しくおろおろしている。

無理も無い。綾乃にとって数少ない友人•••?の1人である以前に、そもそも接し方が分からないのであろう。


「出たらいいんじゃないか?」


「私が出るのかい!?」


「当たり前だろ?綾乃に連絡が来ているんだから」


「えっ!?••••••えぇ••••••」


「••••••」


俺と鳴り続けるスマートフォンを交互に見る綾乃。


暫く画面を見つめていたが、意を決して通話ボタンをスワイプする。


「••••••••••••はい、霧崎探て••••••霧崎です••••••砂原さん?•••••••••••」


(初々《ういうい》しいなあ••••••まあ、見ているとこれはこれで••••••)


慣れない遣り取りに戸惑いながら、必死に対応している綾乃を見るのも、また一興。


「はい••••••依頼••••••ですか?ええ、構いませんけれど••••••はい••••••はい?••••••い、今!?ここに?••••••えっ、それは••••••」


電話の内容を推測するに砂原さんは仕事の依頼があるらしい。仕事とはいえ、友人となったばかりの2人。仲を深めるのは良いことだ。


だから、俺はえて横槍を入れる事にした。


「友達なんだろ?いいんじゃないか?」


「ちょっと••••••って、隼人!?横槍を••••••」


綾乃が慌てた様子で俺に返答する。

聞かれちゃあいけなかったか?


「何を慌てて••••••ん?」


そこまで口にした時、外の階段から足音が聞こえる。


「あっ••••••あぁー••••••」


「綾乃。まさか••••••」


綾乃が諦めた様子で顔に手を当てる。

••••••その様子を見て察する。


「霧崎さん!いらっしゃいますか!」


喜びを隠しきれない様子で事務所に入ってくる女性。既に事務所の近くまで来ていたらしい。


••••••砂原さんだ。

丁寧に扉を閉めてこちらを向く。


「砂原••••••さん?」


「新堂さんもこんに••••••ち•••は•••••••••あのぅ、霧崎さん••••••?」


「••••••••••••」


「あー••••••」


綾乃の姿を見て、衝撃のあまり言葉を詰まらせている。


(どう言い訳をしようか••••••)


俺が穏便に済ませる算段をつけている間に、砂原さんが口を開いた。


「••••••••••••かわいい」


「••••••へっ?」


「えっ?」


無言で綾乃の元へ近づく砂原さん。

綾乃の手を取り、まじまじと見つめ始める。


••••••目がきらきらしている。

もしかして、この子••••••?


「••••••あのぉ••••••えっと••••••そのぅ•••••••••••••ご用件は?」


綾乃はしどろもどろになりながらも、何とか応対していた。


「••••••••••••はっ!ごめんなさい、霧崎さん!!」


我に返った砂原さんは、そのまま勢い良く後退し、腰を90度に曲げて頭を下げる。


「えっ!?••••••いや、砂原さん?落ち着いて?••••••ねっ?」


あわあわしながら、砂原さんをなだめようとする綾乃。


お互いに落ち着くまで、カップラーメンが出来る程度の時間がかかった。







「ストーカーに狙われていると?」


「はい、そうなんです」


砂原さんからの依頼はストーカーの調査であった。


砂原さんは大学周辺のマンションに住んでおり、そこから大学に通っているとのこと。

治安は良いため被害はないものの、マンションから大学までの間に何度か付いてくる人の気配があったらしい。


何でも、最近になってから感じるようになったそうだ。


「特にマンションから大学に通う間の道のりで視線を感じるんです••••••この間、帰るのが遅くなった日があったんですけど、その時は後ろから足音が聞こえてきまして••••••怖くなってマンションに急いで帰ったんです。敷地内に入ってから振り返りましたが、そこには仕事帰りの会社員の人しかいなくて‥‥‥一体何だったんでしょう?」


「••••••家族や警察、大学に相談は?」


「いえ••••••出来る限り家族には伝えたくないんです••••••被害もありませんし、マンションのセキュリティもしっかりしているので。家族を心配させたくなくて••••••大学や警察も同じ理由なんです。ただ、ストーカーの証拠を押さえてもらえれば、いざというときに警察の方に相談できるので」


「••••••」


砂原さんは緊急性はないと判断しているようだが、安易に考えすぎではないかと思う。

最低限、家族に相談すべきではないかと思う。


「家族に心配を掛けさせたくないことも要因だろうが、恐らく、今の生活を崩したくないのだろう。窮屈な寮生活からやっと解放されたみたいだから••••••」


「ああ、なるほど••••••」


そんな風に考えていると、綾乃が耳打ちをしてくる。

綾乃は自宅から通学していたが、同じ学校に通っていたのなら気持ちは分かるのであろう。


「••••••霧崎さんと新堂さんの考えていらっしゃる事も、理由の1つです」


砂原さんも勘付いたようで、あっさりと心の内を吐露する。


「••••••砂原さんの気持ちも、多少なりとも理解はできます••••••分かりました。お受け致しましょう」


「ありがとうございます。霧崎さん」


「依頼の内容としてはストーカーの調査、及び危険が考えられる場合の保護や通報で、宜しいでしょうか?」


「••••••そこまで、して頂けるのですか?」


「本来は業務の範囲外ですが••••••砂原さんは友人••••••ですので」


ぎこちないが、砂原さんを友人と言えた。

••••••なんだか俺も嬉しい。


「••••••霧崎さん」


小さく、しかし、本当に嬉しそうにしている砂原さん。

ただ、直ぐにはっ、とした表情になる。


「でもそうなると万が一の場合、霧崎さん達が••••••」


「私達の事は心配なさらないで下さい。私も自衛の為の手段はありますし、はや•••••いえ、新堂もそれなりに動く事が出来ますから••••••彼は凄く頼りになるんですよ?」


「えっ?新堂さんが?」


「ええ、まあ••••••それなりに心得がありますから」


ガキの頃から大学に入るまで続けていた、空手と柔道くらいだが。


「砂原さんと私を守る位なら、十分な実力はありますよ」


••••••何だ?やたらと持ち上げるじゃないか。


「ですから安心して下さい。可能な限りの調査と報告はお約束します」


「本当に、ありがとうございます••••••」


砂原さんが喜んでくれて良かった。


依頼を受ける事になったので、色々と話し合いをした。


流石お嬢様。お金については何も心配はいらないみたいだ。自由に使えるお金には大分余裕があるらしい。

一応期限としては一週間。必要に応じて延長も考えているようだ。調査にかかる費用も負担してくれるとの事。困窮している訳ではないが、こちらとしては非常に有り難い申し出だ。


話が纏まった所で砂原さんが綾乃に質問をした。

どうやら気になっていた事らしい。


「••••••ところで霧崎さん?先程から気になっていたのですが、そのお洋服は••••••」


「••••••気にしないでくれませんか?」


無理矢理話を逸らそうとする綾乃。

だが、これは自信を持って言わなければ。


「いや、俺が頼んだんです」


「ちょっ!•••••隼人ぉっ!!?」


裏切られたような勢いで抗議の声をあげる。

••••••いや、事実だろ?


「新堂さんが?••••••••••••」


びっくりさせてしまったかと思ったが、予想以上に落ち着いている砂原さんは俺の元に近づき、手をがしっ、と握る。


「ありがとうございます••••••」


「••••••良さが、分かるんですか?」


「はい、霧崎さんの髪、顔、スタイルにぴったりです!その所作も••••••!」


••••••この子、俺と同類か?


「••••••良い友達を持ったな••••••綾乃」


「素直に喜べないよ••••••」


「•••••••霧崎さんが恥ずかしいのであれば••••••私も着ましょうか?」


恥ずかしいですけど••••••霧崎さんと一緒なら••••••ともじもじし始める砂原さん。


「良いんで『駄目です!』すか••••••」


••••••駄目らしい。


まあ、砂原さんの場合、綾乃より2回り程度大きな一部分が大変な事になりそうだ。


アオザイの上が、ぱっつんぱっつんに。


「駄目なのか••••••」


「駄目なんですか••••••?」


「駄目、です。特に隼人は••••••」


綾乃の強い否定に、残念そうにする俺。

••••••何故か砂原さんも。


「えー••••••」


「••••••••••••泣くぞ?」


「はい••••••」


仕方がない。

好きに出来るのは綾乃限定だからな。それに綾乃に駄目、と言われた砂原さんに無理強いは出来ん。


「••••••後で良い事をしてあげるから、我慢しろ」


隣でぼそっ、と呟かれる。

砂原さんには聞こえていないみたいだ。


••••••まあ、期待しておこうか。


話し合いを終えた後、砂原さんは俺達に深々と挨拶をして、マンションへ帰っていった。


帰りはタクシーを使うらしい。それなら安全だ。







「さて、依頼が決まった訳だが••••••何か質問は?」


「砂原さんは綾乃の友人になってくれた人だからな。無碍むげには出来んよ。ただ、危険な可能性もあるのに良く受けたな?」


「だからこそさ。砂原さんに怖い思いをさせたくないのは私も同じだからね。••••••それに、隼人なら私に何かあったら守ってくれるだろ?」


「そりゃあな。何があっても守るつもりだが••••••」


「だろう?私も信頼している。それに••••••」


「それに?何だ?」


「••••••自分の彼氏を、友人に自慢したいじゃないか••••••」


「••••••」


「••••••それだけ大切なんだよ?」


何だか気恥ずかしくなった俺は綾乃の頭を撫でてやった。


「••••••ふふん」


嬉しそうに、口元を緩めている。

••••••一々かわいいなあ。


「••••••ああ、そうだ。君に良い事をしてあげると約束していたな」


先程の話を思い出したようだ。


「そうだった。何をしてくれるんだ?」


「••••••ソファに仰向けで寝たまえ」


「••••••こうか?」


綾乃に言われるまま靴を脱ぎ、ソファに寝そべる。


「そうそう。そして、少し乗るぞ」


綾乃も同じように靴を脱ぎ、俺にまたがる。


「••••••何処に乗ってやがる?」


「••••••腰だが?」


腰の上に乗りやがった。


「••••••分かっているよな?」


「当然だ。だから脱いではいないだろう?」


お互いに服をしっかりと着ている。

実に健全だ。


それに、手は出さないと再三伝えている。

綾乃も、それは分かっていると、言い切るが••••••


「••••••だからって何で動いているんだ?」


••••••何で上下、前後に動いているんですか?


「気分は••••••っ••••••味わえるだろ?」


「直接触れなければ良いってもんじゃねぇよ?」


••••••何故だろう?

下半身がやたらと気持ちが良い。


見上げる先の綾乃は、顔を赤らめながらも動きは止めない。


••••••いや、あれだ。過去に何度か見たことのある表情を浮かべている。獲物を狩りとるような••••••


揺れる髪と胸元。アオザイの前の部分が俺の腹に掛かっている。

ボディラインがはっきり見える服装のため、身体の動きに艶めかしさが加わる。


(健全な服なんだがなあ••••••妙にいやらしい感じが••••••)


得もしれない感覚とともに、俺の腰に血液の集まりを感じる。


「••••••••••••正直反応するんだが」


「そう、みたいだねぇ••••••」


綾乃も俺の生理現象を分かっているようだ。


だけど、動きは止まらない。


「••••••止めようか?」


「止まらないねぇ••••••んっ」


止める気がないな、こいつ。


「と、ま、れっ!」


「んっ••••••こら、急に抱きつくな。痛いだろう••••••」


あんまりにも言う事を聞かないので、綾乃の腕を引き、俺の身体に密着させるように抱きしめる。

柔らかいものが胸元で押し潰されている事が分かる。••••••だが、今は気にしている余裕はない。


綾乃は文句を言うが、これで動けまい。


「綾乃が止まらんからだ!」


「だって••••••本能っ、だし••••••」


上半身の動きは止めたが、まだ止まらない部分があるらしい。


「う、ご、か、す、なっ!!」


「••••••でも、良いだろ••••••っ」


耳元で呟く。


「だからだよ!ちくしょうっ!!」


••••••認めたくないが、滅茶苦茶良い。


「それにっ••••••しても、これはぁ••••••癖になるぅっ、なあ••••••!」


上半身を押さえても綾乃は止まらない。


息も荒い。

寧ろ加速していないか?


••••••これ以上は不味い。


(止めろと言っても止まらない••••••••••••なら!)


「止めないなら、綾乃にはもう何もしない」


「んっ!••••••ええっ!ここまでさせておいてそれはないだろうっ!?」


「お前が始めた事だろうがっ!」







「••••••済まない」


ソファの上に正座しながら申し訳なさそうにしている綾乃。


「••••••綾乃のいう通り、確かに良かった。凄くな••••••••••••だが••••••やり過ぎだっ!!」


「••••••申し訳ない」


「止めろ、と言っているのに止めないとは••••••」


「••••••だって隼人が•••••••それに••••••」


隼人も良い思いはしたんじゃないか?と言いたそうな雰囲気を感じる。


「••••••はぁぁ•••••ふぅぅっ••••••まあ、何だ。綾乃の責任だけではないが、少しペナルティを与えないとな?」


「へっ?••••••何を、するんだい?」


「いや、寧ろ何もしない••••••」


「なにも、しない••••••?そ、それは••••••」


「ああ、砂原さんの依頼が終わるまで。俺も綾乃も、お互いに触れ合わない事にする」


「そ、そんな••••••」


「綾乃も言ってたよな?何もしないで観察するのも愉しいだろうと」


「言った、けど••••••」


「依頼が終わるまでだ••••••俺も辛いんだぞ?」


「••••••微妙に愉しんでいるだろ」


「••••••」


否定はしない。

全力で甘えてくれる綾乃を放置したらどうなるか見てみたい気持ちはあった。


「••••••••••••分かった。我慢、する」


「よし、それなら」


「私に、ここまでさせるんだ•••••••一週間後••••••楽しみにしていてね?」


見たことのないような薄ら笑いを浮かべる。


「こええよ••••••」


「私が壊れるか、隼人が壊れるか••••••愉しみだね?」


「待って。俺、壊れるの?」


綾乃の言葉に背筋が凍りながら、ペナルティ期間に突入した。







「隼人。砂原さんを確認した。連絡の通りだ」


「••••••ああ、分かった。こちらも確認した」


俺達はマンションから出た砂原さんを二手にわかれて監視していた。


砂原さんは人の多い道を歩く。

同じ年頃の女性や男性。会社員や子どもなども入り混じっている。


砂原さん曰く、人の気配を感じる日のパターンがあり、今日から3日位が一番可能性があるとの事であった。


「隼人は大丈夫か?」


「俺は問題ないが••••••綾乃は?」


「••••••問題ない」


「分かった」


今の綾乃はアイボリーのセーターに、黒のパンツ。上着には仕事着のコートを着用している。

伊達眼鏡に薄紫色のストールも首に巻いていた。


普通の秋冬コーデにしか見えない。


「ちなみに仕事着を着ているんだが、どうかね?」


「似合っているよ」


「それは、良かった」


至極冷静に答えている。

ペナルティ期間を開始してから4日目。

以外な事に綾乃は落ち着いて過ごしているように見えた。


(寧ろ俺の方が辛いな••••••ここまで依存していたとは気が付かなかった)


驚いた事に、俺の方が落ち着かない。

事務所で仕事をしていても、綾乃はひっついてこないし、変な事も言わない。


そんな中、俺は物足りなさを感じていたが••••••


(綾乃風に言えば、これが綾乃分の欠乏症状なのか•••••••••••やばい。何かに目覚めそうだ)


綾乃に触れ合えない事で欲求不満になる一方、目の前にいるのに触れる事の出来ない感覚に興奮を覚えている自分がいる。


(俺が調教されていたみたいだな••••••いや、俺だけじゃない)


一方で綾乃の変化にも気が付いていた。


(あの格好はここぞと言う時にする、と言っていたよな?何故今のタイミングで?)


仕事着はここぞと言う時に着る、と話していた。

確かにコート姿の綾乃は俺の好みにぴったり合っている。


(俺に見せつけるためか?)


何故か?


(俺から何かしてほしいと考えている••••••?)


服装1つで自意識過剰かと思う。だが、他にも気になる点があった。


(事務所にいると、やたらと視線を感じる)


暇があれば、俺を見ている。

綾乃は俺が気付いていることに気が付いていない。


(綾乃の方が今の状況に耐えられないのか?)


瞬間、俺の頭に電流が走る。


(上手く誘導すれば、面白い事になりそうだ)


俺は綾乃の可愛さを十分に引き出すための計画を立てる。

皮肉な事に、自分でも辛いと思う状況に陥る事でインスピレーションが湧く。


(後は仕事を終えてから••••••)


綾乃への対応は決定した。

仕事終わりの楽しみにすると同時に、目の前の仕事もきちんとこなさないていけない。


(励みがあると、仕事も苦ではないな)


そんな事を考えながら、ストーカー調査に精を出す事にした。







動きがあったのはその日の夕方。


大学からでた砂原さんを尾行する男がいた。

目立たない色の服装に身を包んだ、帽子を被った男だ。


綾乃へ連絡する。


「ずっと尾行しているな」


「そうみたいだね」


砂原さんの通う大学からマンションまでは歩いて10分程度。

人通りもあり、危険は無さそうに思えるが、それまでの道のりに路地へ通じる道もある。


万が一、そこに連れ込まれたら人の目から外れる事になる。


(とりあえず、直ぐに駆けつけられるような距離に行くか)


俺は綾乃へ、男に近づく事を伝える。


「そうしてくれ、ただし今日は様子見だ。あの男がストーカーである確証が欲しい。砂原さんが無事にマンションへ入ったら、私達も事務所へ戻るぞ」


「分かった」


通話を終え、視線の先にいる男の背中を追い始めた。







「よし、砂原さんには連絡はしたよ」


「怖がっていなかったか?」


俺達はストーカーと思われる男が、砂原さんのマンション近くまで来ていた事実を確認した。

その事実と明日には証拠になる写真を撮影する事を、綾乃から砂原さんへ説明してもらっていた。


「ああ、私達が見ていてくれていたから安心出来ていたらしい。報告が待ち遠しいそうだ」


「ならいいんだが••••••明日も同じ男が、砂原さんを追うようならその姿を写真に収める、って事で良いんだな?」


「そうだ。写真があれば警察や大学にも相談しやすくなるだろうし、私達も動きやすくなる」


「なら、今日の所は解散でいいな」


今日の成果で明日の指針も決まった。

なら後は明日を待つだけだが••••••


「そう、だね••••••」


(••••••行けるか?)


綾乃が普段よりも元気がない。

弱みにつけ込むようだが、仕方がない。

••••••こっちもそろそろ綾乃を愛でないと、身が保たないのだ。


「じゃ、また明日の朝に来るよ」


「あ、ああ」


「••••••••••••••••••あ」


事務所の扉の方へ振り向いた瞬間、綾乃が何かを言いたそうな雰囲気だった。


「••••••?何だ?」


「!!••••••いや、何でもないが?」


分かりやすい。

ブラフか?とも思ったが、この反応は本気だ。


「••••••••••••気が変わった。今日はここに泊まる」


「••••••いいけど」


「綾乃もここに泊まるのか?」


「そのつもりだが」


「ならソファを貸してくれ。綾乃はいつも通り仮眠室を使うだろ?」


「••••••••••••ああ」


別に俺が事務所に泊まることは初めてではない。

だが、綾乃は妙にそわそわしている。


「••••••••••••」


「何か、用かい?」


(勝負を仕掛けるか‥‥‥)


俺は好機と見て綾乃へ心情を吐露する。


「••••••ふと気が付いたんだが、俺は今の状況を愉しんでいるみたいだ」


「それはこの間から••••••」


「そうだが、そうじゃない。言語化が難しい、複雑な心境だが••••••一週間も持ちそうにないんだよ」


••••••これは真実だ。

綾乃もそれを感じ取ったのだろう。案の定食いついてきた。


「そう、なのか?」


「ああ、綾乃はどうだ?」


「私も••••••いや、まだ大丈夫だ。今回は一週間耐えきり隼人を見返してやるつもりだからな。君がそう言うなら真実なんだろうが、それなら私に分があるという事だな」


若干早口になる綾乃。反応が良いことに手応えを感じる。


「そうかもしれん。だから俺が一週間耐えられなければ、一度だけ、綾乃の好きにしてもいいぞ」


「ほ、ほう••••••大きく出たね。いや、それだけ追い詰められているのかい?」


ここまでくると逆に心配になってくる。

普段は冷静だが、今回は割と余裕がないとみた。


「正直、背水の陣だ。今回ばかりはな••••••」


「••••••後3日だぞ?大丈夫かい?」


「•••何とか頑張るさ。それと綾乃もだぞ?‥‥‥綾乃が先に変なことをしたら、言うことを聞いてもらうからな?」


「まあ、それは構わないよ。元々そのつもりだからね‥‥‥隼人は頑張らなくても、良いんだぞ?」


こちらを伺うように呟く。


「やるだけ、やってみるさ。綾乃こそ大丈夫か?」


「君から弱音を聞けたからね。なら、耐えきるまでさ」


「そうか••••••」


「ああ、それとな。今日から3日間、ここに泊まらせてくれないか?」


「••••••えっ?」


以外な反応だ。何か不都合でもあるのだろうか。


「偶にはいいだろ?ペナルティを決めたとはいえ、綾乃の傍にはいたいんだよ」


「嬉しい事を言ってくれるじゃないか••••••なら、私もここで泊まろうか。後でマンションから荷物を持ってくるからな」


「そうか。分かった」


綾乃がそう答えながら業務に戻る。

恐らく今日の報告書をまとめているのであろう。

本人は気が付いていないが、鼻歌まで歌っている。


(さて、どうなることやら)


俺も業務に戻る。


‥‥‥さて、明日から愉しみだ。







5日目。


アパートから荷物を持ってきた。

早朝から事務所に来ているが、既に綾乃も事務所に来ていたようだ。7時前なのになあ‥‥‥


「じゃあ今日から泊まり込みだな」


綾乃はキャリーケース1つ分の荷物だけ持ってきたようだ。

まあ、元々事務所にもそれなりのものがあるからそのくらいの荷物で十分なのだろう。


「隼人はそれだけで大丈夫なのかい?」


「ああ、着替えだけあればいいさ。足りなければ近くのコンビニで調達するからな」


「そうかい。分かった」


「洗濯とかもコインランドリーでできるからな。まあ、そのときだけアパートに帰っても良いし」


「‥‥‥そうか」


何だか少し残念そうだな。


(綾乃はこの間まで俺に良く抱きついていたな?その時匂いを‥‥‥まさかな?)


俺の脳裏に1つ可能性がよぎる。


「悪いが事務所にかごみたいなのはないか?洗濯ものを一時的に置くために使いたいんだが」


「ああ、それなら‥‥‥これを使いたまえ」


事務所の隅からかごを準備してきた。

‥‥‥妙に新しい。


「ありがとよ。できる限り早めに処理するから」


「私は気にならないからそんなに急がなくてもいいぞ」


「ああ、そうか」


「‥‥‥‥‥‥」


「泊まる準備はいいな。じゃあ早速砂原さんの動向を確認しに行こうか」


「そうだね」


俺達は今日の調査に向けて準備を始める。


「なあ、隼人は‥‥‥」


「何だ?」


何だか妙にしおらしく声を掛けてきた。


「いや、何でもない」


「そうか」


何でもなくはなさそうだ。


(そわそわしているな‥‥‥)


「綾乃こそ大丈夫か?俺の成分は足りているのか?」


茶化すように聞いてみた。自分で言っていて何だかこそばゆい感じがする。


「‥‥‥‥‥大丈夫じゃないが‥‥‥我慢する」


「そうか‥‥‥」


(限界が近いのか?)


デスクに座りながらこちらをちらちら見ている。


「俺は結構きてる。早く1週間になれば良いな」


「‥‥‥分かってやっていないかい?」


「何の話だ?」


「‥‥‥別に。まあ、そんなことはいい。早く準備をするぞ」


綾乃は話を切り上げ、準備を始める。


(俺も準備をするか‥‥‥)


仕事を受けた以上はおろそかには出来ない。

俺も調査に向けて準備を始めることにした。







「そっちはどうだ?」


「ああ、今日は早い段階で動いているみたいだ」


少し離れた場所にいる綾乃を確認する。

上手く隠れているようだ。


その日の午後、休みのためか砂原さんは何処かへ出掛けるみたいだ。


しばらく様子を見ていたが、その後ろから付いてきている男の姿があった。


「昨日の男だな‥‥‥」


昨日も感じたことだが、男は砂原さんに集中しすぎているような気がする。

••••••それだけご執心なのだろう。


「砂原さんはこの間、父さんと一緒にいたカフェに向かうみたいだ。あそこはお気に入りみたいでね。休みの日はあそこで課題を進めるそうだよ」


「元々行きつけの店だったのか‥‥‥」


司さんの浮気疑惑の時に使用した店に向かうようだ。


(そういえば懐中時計の持ち主を探し始めた時から人の視線を感じると話していたな‥‥‥)


砂原さんは最近、と言っていたが、細かな話を聞いているとどうやらその時期かららしい。


(まさか‥‥‥な)


もしかしたら、と思う。

そうだとしたら‥‥‥


「綾乃、もしかして」


「‥‥‥その可能性もあるかもしれない」


綾乃も思う所があったらしい。


「じゃあ今日は、敢えて接触してみるか?」


「‥‥‥もう少し様子を見てからだが、そうしてもいいかもしれないね」


綾乃と意見が一致した。

砂原さんに安心してもらうためには、早い方が良い。


「決まりだな。タイミングは綾乃が決めてくれ。そうしたら俺が行く」


「頼んだ。‥‥‥それと隼人」


「何だ?」


「••••••今日の私はどうだい?」


視線の先で少しだけ身体を出していた。


「いつもどおり最高だな」


綾乃は少し珍しい格好をしている。

キャップに黒のパーカー。膝上のグレーのスカート。有名ブランドのスニーカー。


ややボーイッシュな服装に身を包んでいる。

髪はひとまとめにしているため、上半身だけを見たら少年にも見えなくもない。


「こういうのも好きだろ?」


「ストライクゾーンだな」


「なら良かった」


電話越しに満足そうな様子が分かる。

俺も後で愛でてやりたい気持ちもあるが、今は我慢だ。


俺達はそのまま砂原さんと男の動向を確認し続けた。







昼。


砂原さんは課題を終え、カフェから出た様だ。

男もカフェに入り、コーヒーを飲みながら本を呼んでいたが、その後を追うようにカフェから出る。


「次は何処に行くのかわかるか?」


「図書館に行くみたいだね。そこで残りの課題をするそうだよ」


「真面目だな‥…‥」


「私達に比べたらね。休学してまで仕事をしているくらいだから。学生の本分の問われたら言い訳の使用がないよ」


「仕事が一段落したらまた復学するんだろ?」


前々から決めていたことだ。来年を目処に俺と綾乃は復学を考えていた。


「ああ、来年辺りかな。このままでもいいんだが、卒業しないことには君と一緒にはなれないしね」


「そしたら俺も修行に出る予定なんだが」


「うちから通えばいいさ。どうせ婿入りするんだろ?」


「そうだがな」


「大学を卒業したら逃さないから。それだけは覚えておいてくれよ?」


大学を卒業したら籍を入れる。

そのことも綾乃から強く言われていた。


「まあ、そうだな」


「卒業した日に、でも良いんだぞ?」


早いな‥‥‥まあ、俺も構わないが。


「まあ、それでも良いんだが。まずは目の前の依頼が優先だ」


綾乃の話を切り上げる。このまま話を続けていても埒があかない。

また、別の日に話し合おう。


砂原さんと男が図書館に入った所を見届けて、俺達も後を追うことにした。







夜。


閉館時間ギリギリまで滞在していたらしい。

砂原さんと、その後から男が出てくる。


「動くとしたら、今の時間帯か」


「ああ、そろそろ良いかもしれない」


「頼んだ。俺は男の後ろから尾行する」


「砂原さんがマンションに入ったら‥‥‥男を押さえる」


「承知した」


綾乃から接触の許可が出た。

後はその時を待つだけだ。







幸いにも男は気がついていない。


徐々にマンションに近づく。


「砂原さんがマンションに入った。男も外で待機している。‥‥‥今だ!」


綾乃の合図とともに、マンション前で佇む男近づいた。


「すみません、お話を‥‥‥」


「!」


男は俺に気が付いた様だ。驚いた様子でその場を立ち去る。


「待てっ!」


男も必死で逃げるが、そこまで早くはない。


少し走った所で男の肩を掴み、静止する。


「な、なんだ君は?!」


「マンションの住人に雇われている探偵だ。あんた、不審な動きをしていたな?」


「探偵?‥‥‥‥どういうことだ?そんなことは聞いていないぞ!」


「ああ、やっぱりか‥‥‥」


俺と綾乃の考えが当たっていたようだ。

目の前の男の様子から恐らく‥‥‥


「貴方も雇われた探偵なんじゃないですか?」


「君は‥‥‥?」


俺の後から綾乃がやってきた。走ってきたのであろう、少し息を切らしている。


「私達はこういうものです」


綾乃が名刺を男に手渡す。


「霧崎探偵事務所‥‥‥まさか」


「そのまさかです。貴方が追っていた方に雇われたんです。ストーカーの調査を、と」


「ストーカー‥‥‥‥‥ああ」


男も理解したらしい。

抵抗する様子はないようだ。


「同業者か‥‥‥紛らわしく見えただろうな。すまない」


突然表れた俺達に業務を妨害された筈なのに、男は冷静だった。


「こちらこそ、仕事を邪魔するような真似をして」


「いや、良いんだ。いや、良くは無いが••••••お互いに誤解を晴らそう。この場合はその方が良さそうだ」


男は俺達の誤解を晴らすために話を始めた。


男は近くで探偵業を行っているらしい。

今回は砂原さんの父親から依頼を受けたとのこと

その理由はここ最近、砂原さんが年配の男性と逢引をしている事が分かったためであったそうだ。

心配した父親が砂原さんに気が付かれないように探偵に調査を依頼。

そのため、砂原さんのマンション付近で調査をしていたそうだ。


砂原さんはその気配をストーカーだと勘違いしてしまった様だ。


その後、男が納得出来るように、砂原さんと一緒にいた男性の事や、会っていた理由について説明した。


「つまり、砂原さんの父親が依頼した探偵をストーカーだと勘違いし、砂原さんが俺達に調査を依頼したんですね」


「そうみたいだ。まあ、君たちの話だと、こっちの依頼については解決したみたいだな」


「ええ、信じられないようでしたら砂原さんお父様から本人に確認してもらえれば解決すると思います。後は、私の父からも同じ証言が得られるとおもいます」


「いや、それには及ばない。君がそう言うならそうなのだろうな」


やたらと聞き分けがいい。

だからこそ、尋ねてみた。


「俺達にしてみれば楽でいいんですが、何故そこまで話しが早いんですか」


「ああ、言ってなかったな。実は霧崎さんの先代には世話になったこともあるのさ••••••俺が新人の頃にね。その人の縁者なら信用できる」


「こんなこともあるんだな」


「おかげで楽が出来たんだから良いじゃないか」


俺達3人の間に弛緩しかんした空気が流れる。


「申し訳ありませんが、写真を撮影しているようなら見せて頂けませんか。依頼人にも報告をしなければいけないので」


「写真か‥‥‥まあ、君たちなら良いだろう。ただし、原本や複製したものは渡せないが」


「構いません。確認した上で問題がなければ本人に報告するだけにとどめますので」


「分かった••••••と言っても依頼人から聞いた人相の男はいないみたいだから殆ど写真は撮影していないがね」


男はそう言いながら数枚の写真を見せてくれた。


「確かに砂原さんの写真だけだね。それも数枚か」


「ああ、そうだな。俺から見ても特に問題は‥‥‥ん?」


手元の写真に違和感を感じる。


「何かあったのかい?」


「‥‥‥‥‥‥この写真は何処で撮影しました?」


「ああ、マンションから大学までの道のりで撮影したものさ。撮影日時は違うものだが。本人には気づかれないように撮影はしたよ」


「そうですか‥‥‥綾乃。砂原さんに後で連絡が必要かもしれん」


俺の様子に何かを感じ取ったのか、綾乃が真剣な表情でこちらを見る。


「何か、あったんだな?」


「ああ、この写真の全てに、同じ男が写っている」


偶然か必然かは分からないが、同じ男が写り込んでいる。


「3日目の朝に俺はこの男を見た。‥‥‥会社員の男だ。この男が全ての写真に写っている」



[後編へ]







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