違う。そうじゃない。〜犯人は、俺だ〜 [前編]
※推理もの、ミステリー作品ではありません。ミステリー風味のラブコメです。
※主人公はほんのりと変態です。
拍子抜けするほど軽い扉を開ける。
暗がりの中、人の気配がした。
‥‥‥鉄の匂い。
「‥‥‥誰かいるのか?」
声を掛ける。
瞬間、目の前が明るくなった。
見ることは無いだろうと思っていた。
ありえないだろうと思っていた。
••••••何よりも、目の前の光景を信じたくはない。
部屋の中央にぺたん、と座り込んでいる長い黒髪の女性。
見覚えしかない、その顔は、今までにないほど青ざめている。
「はや‥‥と‥?‥‥‥わたしじゃ‥‥ないの」
女性が呟く。
助けを求めているのは明白だ。
なら、助けるのが彼氏としての使命だろう。
俺の綾乃が。
血まみれで倒れる男の前で、血に濡れたナイフを持って居たとしても。
◇
「ようこそいらっしゃいました、霧崎さん」
「お招き頂きありがとうございます。円城さん」
「それに、使用人の静葉さんですね。これから1週間、宜しくお願いしますね」
「はい、お世話になります」
「新堂さんも、気兼ねなくくつろいでいってください」
「はい、ありがとうございます」
俺達は今、円城家の屋敷にいた。
円城家は、霧崎家の使用人である草野さんの親戚筋に当たる。
草野さんは使用人として働いてはいるが、元を辿ると結構な名家の出身だったりする。
何代か前に草野家が没落し、途方にくれていた一族を霧崎家が手厚く援助したそうだ。
その時の恩を忘れないために、霧崎家の使用人として働く事が草野家が受け継いできた使命らしい。
草野家の血筋はとても義理堅いのだろう。
100年近く前の恩を、現在に至るまで律儀に返し続けている。
霧崎家もそんな草野家に報いるために、霧崎の中でもかなり高い地位を与えているとのことだ。
つまり、霧崎家の使用人に草野さんは実は凄く偉い人である。
そして、その孫娘の静葉も、ゆくゆくはその地位に付くこととなる。
ただ、単に仕事をしていればいいということでもない。
時々、親戚筋の家で期間限定で奉公をする必要がある。
なんでも家によって違う働き方や考えを学ぶためだとか。
霧崎家の専属とはいえ、そこのところの学びも必要だと考えているとのこと。
そして今回。静葉がこの円城家で1週間修行をすることとなったわけだが‥‥‥
話は1週間前に遡る
••••••••••••
••••••
••••
••
『綾乃。悪いが依頼をしても良いかな?』
『ああ、構わないが、誰が依頼を?』
『私達では無いんだよ。使用人の草野さんからでね。なんでも孫娘の静葉ちゃんが円城の家に研修に行くらしくてね。心配だからついていってほしいそうだよ』
きちんと報酬も出すって。と司さんは言っていたそうだ。
綾乃は、昔から世話になっている草野さんの頼みなら断らないよ、と返し、そのまま依頼を受けたそうだ。
で。
俺は、その話を事務所で聞いていたのだ。
膝の上に座る綾乃から。
「‥‥‥というわけだ。君も草野さんの依頼なら断る理由もないだろう?」
「ああ、ガキの頃は世話になっていたからな。やる気を出して依頼に望む所存だが‥‥‥」
「••••••だが、何だい?」
「なんで膝の上に乗っているんだ?」
「••••••乗りたいからだが?」
「なんで?」
「隼人を身近に感じていたいからだが?」
「隣に座るだけでよくないか?」
「駄目だ。それでは効率的に隼人成分を摂取できない」
「そっかあ‥‥‥」
と、こんな感じである。
発端はこの間、綾乃の彼氏としてけじめを付けたときからだ。
その時から、何かと理由を付けてひっついてくるようになってしまった。
隼人成分とやらが欠乏すると、俺を道連れにしたくなってしまうらしい。
••••••こわい。
「君だって、天下御免で私の身体を好き勝手に触ることができるんだぞ?いいじゃないか」
ほらほら、と俺の手を自分の腰や腹に巻きつけようとする。
••••••うん、やわこい。
「••••••2人きりの時は構わんが、依頼人が来たときには止めてくれよ?」
「そこのところはわきまえているさ」
「••••••じゃあ離れて?」
「••••••充電率が60%くらいだからまだ無理だな」
「目の前に静葉がいるんだけどな!?」
「••••••いるねぇ」
「‥‥‥隼人くん、綾乃様がそのままが良いと言っているのならそのままで構わないよ」
目の前のソファに座る静葉が言葉を紡ぐ。
「すまん‥‥‥」
「いいよ、綾乃様も嬉しそうだしね」
目の前の静葉に頭を下げる。
静葉は子どもの頃と変わらずに大人しい。
肩くらいまで髪が伸びているが、珍しいのはその色。••••••銀色なのだ。白髪では無い証拠に近くでみると反射できらきらと光る。染めているわけじゃなく、地毛だ。
静葉曰く、草野家の人の中で時々現れる髪の色らしい。
髪の毛だけではなく、その顔もとんでもないほど美しい。
全体的に色素が薄く、瞳の色は僅かに赤みがかっている。アルビノに近い様相だが、違うらしい。至って健康であるため、不思議な体質としかいいようがない。
体格は綾乃より少し背が高いくらいでスレンダーな体型。
今着ている、所謂メイド服も似合うが、着物を着ると恐ろしいほど似合う。
綾乃が美人だと言っていた理由も分かる。
子どものころはそこまで気にしてはいなかったが。
「‥‥‥あんまりそっちを見るなよ」
膝の上の綾乃が拗ねる。
とりあえず頭を撫でれば機嫌は良くなるはずだ。
よしよーし
「そんな事で機嫌が直ると思うなくまー‥‥‥」
語尾が変だが、機嫌は直りつつあるらしい。
「綾乃様の扱いに大分慣れているんだね」
「まあ、長い付き合いだし。一応俺の彼女だからな」
「‥‥‥ふぅん。そうだったね」
静葉は先程と変わらず、無表情に近い表情をしている。
全く表情の変化がない訳ではなく、笑う時は笑うし、怒る時は怒る。
まあ、デフォルトが無表情なのだ。それが他の人と違い、やや変化しにくいだけで。
‥‥‥なんだかじとっとした視線を感じる。
「それで、静葉は来週から円城の家に研修に行くと?」
綾乃が膝の上から降り、静葉に尋ねる。
仕事モードに入ってくれて良かった。
「はい、丁度1週間後です。その期間の間、同行して頂きたいのです」
「依頼の内容は分かった。探偵としての業務から離れる内容だが、こちらとしてはその依頼を受けさせてもらおう」
「ありがとうございます、綾乃様。本来であれば従者の身である私には過ぎた依頼ではあるのですが」
「内容が内容だしね。それと今回の依頼には隼人も同行させていいかい?そちらの方が何かと都合がいいだろう?」
「はい、私としては有り難い申し出です。その件に付きましては、お祖父様に相談してみます」
「わかったよ」
こんな感じで依頼がまとまったのだが、そもそも何故こんな話になっているのか。
それは、円城家の主人に深い関わりがある。
••••••端的に言うと女癖が悪いと噂があるのだ。
本人自体は人当たりもよく、家業も順風満帆そのものだ。それに、個人的にボランティアのような事もしているとか。
一方で、円城家で働く家政婦に対し、手が早いと噂されていた。
もしそれが事実であったとしても、円城家の主人は上手く対処していたのであろう。
今現在もはっきりとした事実としては浮かんではいない。
しかし、はっきりした事実がないとはいえ、噂が流れる程度なのだから可能性は0ではない。
草野さんとしても、大事な孫娘のために予防策は
張っておきたいらしい。
そもそも、円城家に研修に行かなければ良いのではとも考えるが、それもそうはいかない。
「下世話な話になるが、ある程度大きな家になるとそういった話しが出てくるものだからね。最低限、身を守るための経験は積ませる必要があるのさ」
可愛い子には旅をさせろ、というやつらしい。
難儀な世界だ‥‥‥
「それでは来週から、宜しくお願いします」
静葉がソファから立ち上がり、丁寧に頭を下げる。
「ああ、こちらこそ。来週から宜しく」
綾乃も立ち上がり、応対する。
静葉が屋敷へ帰り、事務所の扉が閉まる。
「••••••よし。••••••よいしょ•••••」
静葉が事務所から出ていったあと、綾乃は俺の膝の上に戻ってきた。
今度は、対面か••••••
「‥‥‥感想は?」
「感想?」
「静葉のことだが?」
ああ、そっちか。膝の上の感触についてだと思ったぜ。
「‥‥‥ああ、とんでもない美人になったな」
「‥‥‥そうだね」
綾乃にしては珍しく、ややしおらしい印象がある。
「••••••?‥‥‥何だ?」
「‥‥‥‥‥‥隼人には私がいるんだからな?」
綾乃は俺の首に腕を回し、そっと抱きしめてくる。
柔らかいものが色々な場所に当たる。
「ああ、何だ。俺が静葉になびかないか不安なのか?」
「‥‥‥‥‥‥分かっていてもそういうことは言わないほうがいいぞ」
ここ最近のスキンシップの多さは不安の裏返しなのか‥‥‥別に不安がることもないんだがなあ‥‥‥
安心させるように、綾乃の背中ぽんぽんと軽く叩く。
「私は赤ちゃんじゃないんだが‥‥‥」
「そんな意図でやっている訳じゃ••••••••••••••待て?‥‥‥‥‥綾乃を‥‥赤ちゃんに?‥‥‥何かインスピレーションが‥‥‥」
「やめたまえ、それ以上考えるんじゃない」
「ぐえっ?!わ、わがっだがらやめろー!?」
綾乃が俺の首を締めてくる。
本当に嫌なんだろうな‥‥‥
「このくらいで許してやる」
「ありがとうございます‥‥‥」
そう言いながら、俺の膝から降りる綾乃。
やっと開放された‥‥‥
「とにかく、先程の話で決めたとおりだ。来週、円城家に向かうぞ」
準備しておけよ、といつもの定位置に戻る。
俺は先程の依頼内容を振り返りつつ、本日分の業務を再開し始めた。
••
••••
••••••
••••••••••••
現在。
円城家の家政婦さんについて行った静葉を見送りつつ、俺達は客間に通されていた。
「まさか、霧崎家のご令嬢が当家に来られるとは驚きです•••••いえ、当家としては非常に名誉なことなのですが」
「こちらこそ手厚いお迎えに感謝致します。ですが、お気遣いなく。事前にお伝えしていた通り、私達は静葉さんの依頼でこちらに滞在させて頂いているだけですので」
「存じております。‥‥‥‥大方、私の風評が要因でしょうな」
「‥‥‥‥‥‥事実、なのですか?」
「‥‥‥‥私にも若い頃がありましたから‥‥‥」
円城家の当主、円城将暉が自重気味に笑う。40代半ばと聞いていたが見た目は若々しく、ぱっと見は好青年に見えてしまう。
雰囲気に落ち着きや気品があるため、女性には受けが良いのだろう。
「‥‥‥静葉さんにはそういったことは全く考えておりませんのでご安心を。草野家は元を辿れば円城家にとっては本家のようなもの。私自身、草野さんにはお世話になっていましたから」
恩を仇では返せませんよ、と続ける。
俺は円城さんのことを、何処か影のある人だが悪い人ではなさそうだと感じた。
「では、これから1週間、宜しくお願いします」
円城さんが立ちがる際に、僅かにふらつく様子があった。が、何も言わない。
「?••••••いえ、こちらこそお世話になりますわ」
(円城さん、立ち上がった時にふらついていたが••••••大丈夫か?)
綾乃も気が付いたようだが、円城さんに合わせたみたいだな••••••なら、いいか。
お互いに挨拶が終わったところで宿泊先の部屋に案内される。
ちなみに寝泊まりする部屋は別々だが、今は綾乃にあてがわれた部屋にいる。
「ああ‥‥‥これから1週間は箱詰めか‥‥‥」
「そうだね」
「円城さんもそうだが、なんだってみんな島に館なんかを持ちたくなるのか」
「単純に喧騒から離れたいからではないかな。うちだって幾つか島と別荘は持っているぞ?」
「スケールが違うなあ‥‥‥」
俺が綾乃に雇われてから初めて受けた依頼と同様に、今回も本土から離れた孤島の館に滞在していた。
最初の依頼と酷似していることもあり、なんだか不安が拭えない。
「‥‥‥あの時は色々とあったからなあ」
霧崎事務所では雇われたり、依頼を受けた先で故意ではないにしろ殺人を犯してしまったり、綾乃と付き合うようになったり。
人生は何があるかわからん‥‥‥
幸か不幸か、俺はあまり深くは考えない性質だ。
だからこそメンタルが崩れにくく、それだけは自慢できる。
「‥‥‥嫌な予感がするんだよなあ」
メンタル自慢の俺が呟いた言葉は、奇しくも綾乃には届いてはいないようであった。
◇
円城家で滞在してから3日が経った。
静葉も順調に研修を受けているようだ。時々俺達の世話にもやってくる。
その際にこの屋敷で務めている家政婦さんの紹介を受けた。
泉さんという家政婦さんは、今回静葉の教育係に当たる人だ。
屋敷内の家政婦さんや執事さんの中でも若手だが、仕事はかなりできる人とのこと。なんでも屋敷の管理の一端も担っているとか。教え方も上手で優しい人だと静葉が話していた。
他にも執事の黒澤さんという人がいる。円城さんとは長い付き合いがあるそうだ。他の執事さんや家政婦さんを取りまとめている人らしい。とても気さくな人で屋敷内を散歩していた俺にも気軽に声を掛けてくれる。雰囲気的にも話しやすい人であった。
もう1人は泉さんと同じ家政婦の池森さんだ。
池森さんは黒澤さんよりも少しあとにこの屋敷で働き始めたらしく、勤務年数が近い黒澤さんとはなんでも言い合うことのできる仲の人だ。さっぱりした性格の人で、悪くいえば雑‥…‥といった印象を受ける。たまに黒澤さんとの会話の中で笑いながら彼の肩をばんばん叩いている姿も見られている。••••••いいのか?
ただ、仕事はできる人だそうだ。まあ、泉さんの先輩に当たる人だからそうなのだろう。
他にも何人か使用人がいるらしいが、今回の研修期間中は不在だそうだ。
住み込みで働く人は黒澤さん、池森さん、泉さんを合わせて3人とのこと。
金持ちは凄いなあ‥‥‥
俺たちの方も特に変わりはなかった。
綾乃はもとより、その部下にあたる俺にも良くしてくれているようであった。
(今回の依頼は何事もなく終わりそうだな‥‥‥)
それがフラグとなってしまったのか。
初日に抱いていた不安が現実のものとなってしまった。
◇
「隼人、私は少し出てくる。君はここにいてくれ」
夕食前、俺は綾乃の部屋を訪れた。
部屋に来て早々、綾乃が俺にそんな事を言いながら入れ代わりになる形で部屋をあとにしようとする。
「んあ?‥‥‥どうしたんだ?」
いつもなら俺を無理矢理連れて行く筈の綾乃が1人で行動すると言い始めた。
‥‥‥何か変だな?
「いや、円城さんに呼ばれていてね。初日に挨拶を受けた客間があるだろ。そこで静葉のことについて話しがあるみたいだ。大丈夫、黒澤さんや泉さんも同席するらしから心配はいらないよ」
「‥‥‥ならいいんだが」
「そこまで時間はかからないみたいだから直ぐに戻ってくるさ。それまで報告書でも纏めておいてくれ」
「分かった」
俺はそのまま、綾乃の背中を見送る。
(‥‥‥なんだか表情が硬くなかったか?)
扉に向かう直前の綾乃の顔が気になった。
しかし、綾乃が1人で行くと言っている以上、俺が付いていかないほうがいい話なのだろう。
••••••綾乃だって必要があれば俺を呼ぶだろうしな。
(まあ、気のせいか••••••それにしても、外。暗いな••••••)
俺はそんな事を考えつつも、自分の仕事に取り掛かることにした。
◇
仕事を始めてから5分後。事件が起きた。
突然、館内の明かりが消えた。
「何だ!?」
スマートフォンのライトで鞄を照らし、調査の為に持ち歩いていた懐中電灯を手に取る。コンパクトだが明かりは強く、頑丈で防水機能付きだ。備品として綾乃から預けられていた。
「綾乃‥‥‥」
とにかく綾乃が心配だ。
俺は行き先を聞いていたため、記憶を頼りに綾乃のいるであろう部屋へと向かった。
幸運にも綾乃の部屋から客間は比較的近く、そこまで複雑な道ではなかった。部屋を出て5分くらいの場所だろうか?
俺は長い廊下を進みながら目的地に近づいた。
(何だ、あの光?)
視線の先、足元側にぼんやりと光るものがあった。気になった俺はその光を手に取る。
(蓄光テープか?)
手の中に光るそれは、100円均一の店において有りそうな小さな蓄光テープであった。
(何でこんな物が?いや、それよりも綾乃を‥‥
)
蓄光テープをポケットに突っ込み、部屋の扉を開ける。
(鍵が?‥‥‥いや、扉自体が空いている)
部屋に入るために握ったドアノブから全く抵抗を感じなかった。
暗がりの中、人の気配がした。
‥‥‥鉄の匂い。
綾乃じゃ、ないよな?
嫌な想像をしてしまう。
まさか‥‥‥
「‥‥‥誰かいるのか?」
声を掛ける。
綾乃がいる筈だが信じたくなかった。
懐中電灯の明かりが綾乃の足を捉える。
光に驚いたのか、びくっと身体を震わせている。
(無事か‥‥‥)
綾乃の存在を確かめた安堵した瞬間、目の前が明るくなった。
「?!‥‥‥綾‥‥乃?」
部屋の中央にぺたん、と座り込んでいる長い黒髪の女性。
見覚えしかない、その顔は、今までにないほど青ざめている。
「はや‥‥と‥?‥‥‥わたしじゃ‥‥ないの」
綾乃は血まみれで床に倒れ込む円城さんの前で、血に濡れたナイフを握っていた。
(‥‥‥‥っ)
俺は綾乃のもとに駆け寄り、震える身体を抱きしめる。
「ちがうの‥‥‥わたしじゃないの‥‥‥これは‥‥‥」
「綾乃じゃないんだな?」
俺は真っ直ぐ綾乃の瞳を見つめる。
恐怖と戸惑いに揺れているが、嘘を付いているようには思えなかった。
「うん‥‥‥」
「分かった。それで十分だ」
綾乃はやっていない。
俺はそう、確信した。
「俺は綾乃を信じる」
「‥‥‥」
綾乃はナイフを床に落とし、俺を抱き返す。
「ありがとう‥‥‥隼人」
少し経った後、部屋の異変に気が付いた黒澤さんが駆け込んできた。
さらにその後から、池森さん、静葉、泉さんの順に室内へ。
(••••••?)
泉さんが何かをしている?
他の人達の影に隠れてよく見えない。
「円城様‥‥‥」
黒澤さんは現場を見て直ぐに察したのであろう。
「申し訳ありませんが、綾乃様はこちらへ‥‥‥」
少し遅れてきた池森さんと泉さん、静葉が綾乃の身柄を預かる。
一目見ても実行犯は綾乃であると疑いようはないが、それでも黒澤さんや他の家政婦さんの対応はとても丁寧であった。
主人を殺害されたとはいえ、茫然自失の状態の綾乃に鞭打つことは出来なかったのだろう。
一時的に綾乃の部屋で待機することとなった。
「綾乃様から話を聞くこととしまして、隼人さんもお話をお願いします」
「はい」
俺は黒澤さんと話し、現場はそのままで別室へと移動した。
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