浮気探偵〜思い出の大捜査線〜 [後編]
霧崎家、綾乃の部屋。
「まあ、なんとなく予想はついていたがすんなり認めてもらえたな」
「それは分かり切っていたことだから心配はなかったんだが‥‥‥」
俺達は依頼を終えた後、綾乃の実家に戻っていた。
とりあえず、砂原さんはお友達からということで事なきを得た。
俺と綾乃の関係を説明したが
『それでも構いません。私は2番目で良いですから‥‥‥』
と引き下がらなかった。
良いのか‥‥‥?
そんな事を考えていたら綾乃が言葉を続ける。
「大学を卒業するまでは手を出さない、と両親に宣言するのはどうかと思う」
「俺の信念だからな」
「あの場で押し通すなよ‥‥‥」
綾乃が溜息を付きながら項垂れている。
押し通すからこその、信念なんだろうが。
俺は先程の話し合いを思い出す。
‥‥‥‥‥‥‥
‥‥‥
‥‥
‥
綾乃の実家に戻ってきた俺達は、遅い時間ではあるものの、綾乃と雪代さん達の希望もあり、依頼の報告がてら綾乃との関係について話すことになった。
依頼の内容自体は既に電話で報告しているので、本題に入る前の前置きのようなものだ。
「司さん、雪代さん。実は‥‥‥綾乃とは結婚を前提に付き合っているんです」
「そうかい?いつ頃、籍を入れるのかな?」
「綾乃ちゃん、式を挙げる前には私に相談してね。色々と準備しなくちゃいけないから」
「ああ、承知した」
「話しが早すぎませんか?!」
司さんと雪代さんの前で思わず叫んでしまう俺。
「隼人、煩いぞ。夜なんだから静かにしたまえ」
「いや、それは悪かった。‥‥‥でも良いんですか?突然こんな事を言われて‥‥‥」
「だってねえ‥‥‥綾乃ちゃんの夫になる人と言ったら、隼人くんしか考えられないし‥‥‥」
「綾乃からは親父が生きていたときから聞いていたから。‥‥‥正直、今更なの?って感じだね」
司さんと雪代さんが顔を合わせながら頷いている。
「根回ししていたと前に話していただろ?」
綾乃もそんな事を言う。
「俺としては非情に有り難い話なんですが、もしも、俺が綾乃とそういう関係にならなかったら‥‥‥」
「ありえない話だねぇ。いずれにしても綾乃が逃さないんじゃないかい」
「もしそんな事になったら‥‥‥どうしようかしら」
2人はうーん、と考え込む。
「綾乃ちゃんがが本気で悲しむようなら‥‥‥‥‥‥沈んでたかもねえ」
「雪代さんまで恐ろしいことを言わないで下さいよ‥‥‥」
‥‥‥雪代さん、本気だ。
「皐月さんと俊哉さんにも許可は貰っているから大丈夫よ?」
「‥‥‥‥‥‥」
あの2人、息子を売りやがったな‥‥‥
ちなみに俊哉とは俺の父親の名前だ。
「だってそうなったら綾乃は駄目になるだろうしね」
「ああ、駄目になっていただろうな」
ふんす、と自信満々に答える綾乃。
胸の張りどころが違うんじゃないか?
「私が言うのもなんだけど、綾乃ちゃん、すっごく良い子だし、美人よ?お金持ちよ?‥‥‥お買い得じゃない」
「‥‥‥そうですね」
母親が言うのか?と脱力しながら何とか返事をする。
「とりあえず、私達は祝福はするからね。‥‥‥ところで君たちはこれからどうするんだい?」
「これから‥‥‥ですか」
俺は今後について話を振られた為、口を開こうとしたが‥‥‥
「隼人くんは綾乃ちゃんと、‥‥‥そういうことはしたの?」
「そういうこととは‥‥‥?」
「決まっているじゃない、赤ちゃんができるようなことなんだけど」
「まだしていませんよ!?」
雪代さんがとんでもないことを言い始めた。
「母さん‥‥‥残念ながら‥‥‥まだ手を出されていないんだよ」
綾乃は、くっ‥‥‥と悔しそうに俯く。
この野郎、楽しんでやがるな‥‥‥
「‥‥‥隼人くん、子どもは計画的にな」
「司さん!?」
司さんまでとんでもないことを言う。
「まだなの?‥‥‥なんだ、綾乃ちゃんから色々と聞いていたのになあ‥‥‥」
「何を‥‥‥聞いたんですか‥‥‥?」
俺は恐る恐る雪代さんに尋ねる。
「隼人くんの趣味に付き合って辱められているとか何とか」
「綾乃ォっ!?」
「事実だろう?」
事実だけれどもっ!なんで言っちゃうかなあ‥‥‥
「‥‥‥まあ‥‥‥はい‥‥‥趣味に付き合わせている自覚はあります」
なんで綾乃の両親の前でこんな羞恥プレイを受けなければならないのか?
「‥‥‥綾乃ちゃんが嫌がらなければ、別に構わないけど‥‥‥程々にね?」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
「なんでそこは答えないんだよ‥‥‥」
綾乃はげんなりしながら俺に話しかける。
こればっかりは、譲れん‥‥‥
「母さん、綾乃も本気で嫌がっているわけじゃあ無いんだから、そこのところは2人に任せようじゃないか」
「そうね、そうしましょうか。綾乃ちゃん、いっぱい可愛がってもらいなさい」
理解を示す司さんと、すんなり意見を変える雪代さん。
「‥‥‥後ろから撃たれた」
畳の上でぐでーんとする綾乃。
親公認で綾乃を可愛がっても良いと分かり、俺は心の中でガッツポーズを決めた。
「‥‥‥話を戻しますが、実はその事に関してお話があるんです」
「?」
俺は前々から決めていたことを話す。
「‥‥‥大学を卒業するまでは綾乃とはそういった関係にはなりません」
「なんで!?」
雪代さんがびっくりする。
「いや、興味が無いとかではないんです。ただ、俺の信念なんです」
「えぇ‥‥‥ここで言うのかい?」
ぐでーんとしながら静かに俺に講義する綾乃。
「それに大学を卒業したら本格的に探偵になろうかと思うんです」
探偵業については明確な資格はない。普通免許や仕事に必要な資格ぐらいか。
それでも俺は他の事務所なり何なりで修行はしようかと思っていた。
「‥‥‥隼人くんがそう考えているのは良いんだけど、綾乃と結婚したらうちの家業にも関わってもらいたいんだけどね」
「はい、俺で良ければそうさせてい頂きたいんですが。司さんが現役の間は2足の草鞋で関わらせてもらいたいんです」
‥‥‥かなり無茶なことを言っている自覚はある。だが、綾乃と一緒に対等な立場で働きたいということも譲りたくはない。
「ああ、そう?なら良いよ」
司さんはすんなりと認めてくれた。
「‥‥‥良いんですか?」
「うん、継いでくれる気があるだけでも良いんだよ。綾乃もいるし、隼人くんも同じように考えてくれているのなら助かるよ」
「家業についても事前に話しはしてあるんだよ?言ってなかったかい?‥‥‥言ってなかったな」
畳から身を起こした綾乃がそう語る。
聞いてねえよ‥‥‥
「家業といっても受け継いでいる会社やら土地の利権とか、そういったものだしね。それに親父の事務所を続けてくれるのは有り難いよ」
「ありがとうございます‥‥…」
俺は司さんと綾乃さんに頭を下げる。
優しい人たちで本当に良かったと思う。
「いいよいいよ。それと結婚の挨拶も、もういらないからね?まあ、うちの親戚だったり、隼人くんのご両親には後々話し合いの場は持ちたいんだけど。それで良いかい?」
「はい、時期になったら俺の方からも話しておきます」
「じゃ、話し合いはこれで終わり。隼人くん、君も今日は泊まっていきなさい。部屋はいくらでもあるし」
雪代さんが宿泊を勧めてくれる。自宅は近くにあるが、このままお世話になろうか。
そんな事を考えていたら隣にいた綾乃が声を上げる。
「なら、私の部屋に来い。今後について話しがある」
「いや、俺は他の部屋で‥‥‥」
「話しが、あるんだ」
「お、おう‥‥‥」
「そうなの?なら綾乃ちゃんの部屋でも構わないからね?」
綾乃の圧に押されて頷く俺を、司さんと雪代さんは温かな目で見ていた気がした。
◇
「それで、今後の話ってなんだよ?」
そうだ。綾乃は俺に今後の話をしたいと言い、自分の部屋に連れてきた。
「ああ、その前に風呂でも入ろうか。その後に話し合おうじゃないか」
綾乃は使用人を呼び、俺に合う着替えを準備していた。
「一緒には入らんぞ‥‥‥」
「流石に実家ではしないよ‥‥‥」
そんな事を言いながら俺達は風呂場へと向かった。
◇
「やっぱり金持ちの家だけはあるなあ‥‥‥」
風呂から上がった俺は綾乃の書斎にいた。
ここにはソファもある。綾乃と隣合わせで座っていた。
ちなみに、風呂場は旅館にも引けを取らないほどの広さと内装だった。
「一応客人を招く事もあるからね。あそこまでのものはいらないと思うのだが‥‥‥」
別に普通の浴槽で構わないのだが‥‥‥とぼやいている。
さっきまで俺達が入っていた風呂は客人向けの風呂らしい。
他にもあるのかよ‥‥‥
ガキの頃からお邪魔しているとはいえ、綾乃の実家はあまりにも広いので俺でも把握しきれていない。
「それにしても綾乃、なんだか格好が変じゃないか?」
風呂上がりであるはずの綾乃を見る。綾乃は浴衣に身を包んでいる。
だが、そのサイズがやや大きいように感じられる。
「ゆったりと休みたいときもあるのさ」
「ふーん‥‥‥そんなものか?」
訝しがる俺を気にせず、使用人から受け取った飲み物を書斎のテーブルに置く。
「さて、飲み物でも飲みながら今後について話し合おうじゃないか」
「ああ、分かった」
俺は綾乃から差し出されたグラスの中身を飲む。
グラスの他にも陶器やクリスタル製のデキャンタもある。
中にはそれぞれ飲み物が入っている様だ。
「滅茶苦茶美味いなこれ!一体なん‥‥‥うん?」
温まった身体にすっと染み込むような感覚を覚える。
ちょっと待て‥‥‥この後味、何処かで?
「ああ、うちの関連会社が醸造しているワインだな」
綾乃がグラスをぐいっと傾ける。
いい飲みっぷりだな‥‥‥って!
「ワイン?!‥‥‥いや!俺はいいんだが‥‥‥綾乃、お前‥‥‥?」
焦る俺に対し、綾乃は比較的冷静だ‥‥‥
‥‥‥いや、綾乃の顔が赤くなっていないか?
「‥‥‥ふふふふ、私もね、君の酒に付き合う事は諦めてはいない。以前に失敗してから少しずつ慣らしてはいたんだよ。お酒の弱さは克服できないが、何とか記憶を飛ばさない程度の飲み方は覚えたのさ‥‥‥」
綾乃はそう言いながら、俺をソファに押し倒す。
「おいおいおい!?何をするつもりだ‥‥‥!」
「君を誘惑しようかと思っているのだが?」
「話しが飛んでる!俺は手を出さないと言っただろう。しかも今日は司さんと雪代さんの前でしっかりと!」
「••••••私達は若い。過ちもあるさ」
「手を出される方が言うなよ!」
綾乃はぴたっ、と止まる。
「ふむ‥‥‥確かにそうだな。私から襲うのは筋違いか?」
「そうだよ。‥‥‥分かってくれたか?」
弛緩した空気に安堵する俺。
‥‥‥やったか?
だが、綾乃は違うことを考えていたらしい。
「じゃあ、隼人が手を出したくなる状況を作ればいいんだな?」
「へ?」
綾乃は俺の上から離れ、そのまま俺の手を引きながら寝室迄連れて行く。
目の前には寝心地の良さそうなベッドが。
「うおっ!」
(ばふん)
器用に俺を引っ張り、綾乃を押し倒す形で2人でベッドへ倒れ込む。
「この間の続きをしてもらおうか?」
「この間って‥‥‥」
「旅館でマッサージをしてくれただろ?それの続きだが‥‥‥後ろと‥‥‥前もな?」
「なんで?」
「今日は1日働きっぱなしだったから。私を労いたまえ」
「えぇ‥‥‥」
綾乃がそんな事を言う。
俺も疲れているんだが?
「私に対する辱めについて、君のご両親には話はしていないのだが‥‥‥このままでは口が軽くなりそうだね?」
スマートフォンに手を伸ばす綾乃。
ちなみに綾乃は俺の母親とは連絡が取り合える仲だ。
「くっそう‥‥‥」
‥‥‥それは止めてくれ。新堂家にいられなくなってしまう。
俺は仕方なく、綾乃へマッサージせざるを得なかった。
◇
「‥‥‥ふぅ」
「痛くないか?」
「ああ、やっぱり腕が良いじゃないか」
「探偵じゃなくて整体かマッサージ店にでも勤めればよかったか?」
「それは困る‥‥‥んっ」
腰や背中を指圧するたびに艶めかしい声を上げる綾乃。
「風呂上がりだし、アルコールも入って‥‥‥ぁ‥‥いるからぁ‥‥‥身体が熱くなってきたかも‥‥ぉ‥‥しれないね」
「‥‥‥」
‥‥‥変な気分になりそうだ。
意味深に身体をよじる綾乃を気にしないようにマッサージを続ける。
(前から分かってはいたが、こいつの尻はとんでもないな••••••)
背中側のマッサージをする以上、太腿から臀部にかけて圧を掛ける事もある。
旅館で初めてマッサージしたときよりも、素肌に近いためか、その部分の感触がより鮮明に感じられる。
(何処までも沈み込む感じもあれば、しっかりとした弾力も••••••形も良いんだよな••••••)
太腿の外側から臀部の筋肉を揉みながら、そんな事を考える。
(年を取ると、尻の魅力に気が付くと聞くが••••••何だか複雑だな)
まだ20代なんだがなあと、とりとめのない事を考える。
「合法的に•••っ•••触れるのだから、んぅ••••••役得だろ?••••••ぁ」
指圧の度に息を詰まらせている綾乃が、眼下で呟く。
指圧の度に反応する綾乃も、良いな••••••
「‥‥‥そろそろ、前の方だね」
マッサージも中盤。以前はここで止めていたが、綾乃はその事を覚えていたらしい。
「‥‥‥言っておくが、変なことはしないぞ?」
「ふふっ、良いよ?‥‥‥だけどその前に‥‥‥」
綾乃が身体を起こす。
「なんだ?」
ベッドに乗りながら施術をしていた俺を尻目に、着ていた浴衣を脱ぎ始める。
「何を?!」
浴衣の下が露わになる。
綾乃は下着の上にベールが付いたような服を着ていた。
「ベビードールって知らないかい?」
ベビードールと言うらしい。
薄紫色の上下に、黒いベールのような物が垂れている。
所々がレース生地になっており、小さなリボンが胸元を飾る。
肌が透けているため、下着よりも扇情的な印象がある。
形の良い胸の下、なだらかな腹部が黒い霧に包まれているかのように見える。
平安時代の貴人と面会する時の御簾。‥‥‥そんなイメージだ。
「‥‥‥」
思わず、息を飲む。
そんな俺の様子を横目に、再びベッドに身体を預ける。
仰向けになり、ベッドの足元側で座る俺を見上げる形になる。
「‥‥‥じゃあ、続きをお願いしようかな?」
片手で自身の髪の毛を弄びながら、マッサージの続きを要求する。
アルコールで紅潮した頬と、とろんとした瞳がとてつもない色気を発している。
‥‥‥理性との戦いだな。
覚悟を決めた俺は綾乃の手から指圧を再開した。
◇
「ぁ‥‥‥」
「‥‥‥」
手から腕にかけてマッサージを行う。
基本は後ろ側と同じだが、外側に比べて内側の方が刺激を感じやすい為、より繊細な指圧が必要となる。
手が終わったら足元へ。ふくらはぎ、太腿と場所を変えながら指圧を進めた。
「ぁん‥‥‥ん‥‥‥‥はぅ‥‥‥‥‥‥ぅん」
背中や腰側に比べて明らかに反応が違う。
「はぁ‥‥‥はぁ‥‥‥はぁぁっ‥‥‥」
息も荒いようだ。
俺もその雰囲気に押され掛かってしまっているのか、綾乃の動きに気がつくのが遅れてしまった。
「お腹の方も‥‥‥」
綾乃が自分の腹部を撫でながら俺にマッサージを要求する。
‥‥‥心なしか、内腿当たりがもじもじとしている様だ。
自然とそちらに視線が写ってしまう‥‥‥
‥‥‥不味い。
「‥‥‥っ!」
「‥‥‥はぁぁぁぁぁ」
危ない、危ない。
理性を飛ばすところであった。
それは俺の信念に反することだ。
「手を出すんじゃない‥‥‥俺っ‥‥‥!」
綾乃しか考えていないから余計な煩悩が生まれるんだ。
思い出せ、マッサージを学んだ時の事を。
あの時は純粋な気持ちで学んでいたはずだ‥‥‥
俺はマッサージの練習に付き合ってくれていた橋本(20♂)とその仲間たちの筋骨隆々な肢体を思い出す。
硬い筋肉に、筋トレ後の汗ばむ肌。プロテインをかっこむ後輩たちの姿。『最高っス!新堂先輩!』と褒めてくれる角刈りの橋本。‥‥‥‥‥‥野球サークルだったよな?
‥‥‥‥‥‥うん。落ち着いた。
俺は悟りを開いた仏陀の気持ちで綾乃への施術を再開した。
「‥‥‥なんだか腹が立つ気がするのだはが気のせいかい?」
何かに負けた気がする、と呟く綾乃。
気にするな、俺には頼りになる仲間がいただけさ‥‥‥
骨盤付近から腹部に掛けて指圧をする。場所的に内蔵が近いため、強い力は入れられない。
そうなると押すことによる刺激よりも、皮膚への刺激がメインとなる。
「あぁっ‥‥‥ちょっと‥‥‥んっ‥‥‥くすぐったいね‥‥‥」
刺激に敏感な綾乃は指圧のたびに身体を震わせている。
俺も俺で、肌に吸い付くような滑らかさに内心動揺している。
「やめるか?」
「だめ‥‥‥続けて?」
「‥‥‥」
俺は腹部のマッサージを続けつつ、徐々に上半身側へ場所を移した。
「あんまり動くなよ‥‥‥場所が場所だからな?」
俺は肩の方を触る。
「ひやっ‥‥‥?!」
びくっとする綾乃にびっくりする俺。
「動くなって!」
「あ、ああ、済まないね‥‥‥‥‥‥続けて」
「‥‥‥」
肩や首周りを圧する。神経がしたいのでここも注意が必要だ。あまり長くはマッサージ出来ない。
「そろそろ終わるぞ?」
俺はマッサージを切り上げるため、綾乃へ伝える。
満足しただろうと思った矢先、綾乃が俺の腕を掴んだ。
「ここは‥‥‥?」
「‥‥‥?!」
綾乃が俺の手を腋の方へ持っていく。
手に柔らかいものが当たる。
「流石にそこは‥‥‥」
「ここで終わりで良いから‥‥‥ね」
綾乃が妖しい瞳でこちらを見つめる。
‥‥‥ちくしょう
そんな目で言われたら、やるしかあるまい
「直ぐ終わらせるからな‥‥‥」
俺は半分やけくそになりながら、腋下から側腹部にかけて指圧を始めた。
‥‥‥無茶苦茶柔らかい。
「ふぅっ‥‥んっ‥‥はぁ‥‥‥んんっ‥‥‥ぁっ」
‥‥‥もはや喘ぎ声になっていないか?
「‥‥‥んっ!」
綾乃が大きく身体をよじる。
予想外の動きに手元が狂った俺の手は綾乃の形の良いものを掴んでしまった。
「ひゃっ!?」
小動物みたいな鳴き声とともにびくっと反応する綾乃。
「す。すまん?!」
慌てて手を引くが、綾乃の手がそれをさせない。
俺の手は綾乃のそれを握った状態のまま固定される。
「‥‥‥折角だから、このまま」
「いやいやいやいや、これ以上は不味いっ‥‥‥」
振り払おうとするが、その動きで柔らかいものが形を変える。
薄い下着を通して、その下の感触が直に手に伝わる。
‥‥‥正直、このまま堪能したい気持ちもある。
「はあっ‥ん」
綾乃が短く喘ぐ。
先程から綾乃の足が落ち着かない。
まるで内腿を擦り合わせるような‥‥‥
視線を移す。
シルクのような黒いベールが、身体の動きによって捲れ上がり、その下の滑らかな腹部が僅かに見えている。
見てはいけないものを見ているようで、なんだかいやらしい気もする。
腹部の下に見える薄紫色の三角形。
よく見るとかなり薄い生地だ。。
内腿が切なそうに皮膚を擦るたびに、その下が見えてしまうのではないかと錯覚すら覚える。
「‥‥‥‥‥‥‥‥はっ!」
いかんいかん、また意識が‥‥‥
心の中に橋本を呼ばないと‥‥‥
俺がそんな事を考えた瞬間、綾乃が俺の背中に手を回す。
「わぶっ。‥‥‥んうーっ?!」
目の前には白色と紫色の、柔らかいものが。
前にも似たような事があった。
事務所で酒を飲んだときだ。
‥‥‥あれ?‥‥‥これ不味いのでは?
嫌な予感を感じると同時に、俺の耳元に綾乃の吐息と囁きが。
「•••••••••はやとぉ•••••••••」
「‥‥‥いいよ‥‥‥?」
「‥‥‥」
あっ‥‥‥
これ以上は‥‥‥
俺は理性を手放す瞬間、奇跡的に1つの事を思い出す。
(駄目だ、手は、出せない‥‥‥)
急激に興奮の熱が醒める。
(綾乃の雰囲気に押されて忘れていたな‥‥‥)
俺は綾乃を抱き掛かえるように身体を起こし、そのまま書斎に向かう。
「は、隼人?まさか‥‥‥書斎で?」
ピンク色の頭で別のことを考える綾乃を無視して俺はずんずんと書斎に入る。
目的は‥‥‥あれだ。
「へっ?いや、ちょっと?」
綾乃をソファに放り投げる。
怪我をしないように細心の注意を払って‥‥‥
「隼人はこっちが•••••良いの?‥‥‥多少、乱暴なのも良いね‥‥‥ってあれ?」
綾乃を放り投げた俺は目的のものを掴み取る。
前回は綾乃が先に寝入ってしまった。
‥‥‥ならば、今度は俺の番だ。
「綾乃、悪いな。続きはまた今度だ」
俺は綾乃に、できる限りの微笑みを掛ける。
そして、ワインの入ったデキャンタを手に持ち、一気に飲んだ。
上質な葡萄の甘さと渋みが口腔内を包み込む。
かなり良いワインなのだろうと、俺でも分かるくらい美味い。
本来はこんな飲み方をするものじゃないんだよなあ‥‥‥
「あーっ、やっぱり美味いなあ」
「ちょっと?!隼人っ?」
気にせず、クリスタル製のものに持ち替え、これも一気に飲む。
「はぁぁっ、こっちは白ワインか?甘みが強いが美味いぜ」
口の中に残る葡萄の余韻を感じながら、感想を述べる。
身体を起こす綾乃が見えるが、その視界は徐々に白みがかる。
予想していたとはいえ、これはやばい。
俺は意識が途切れる前に何とか、綾乃の隣に座る。
力が入らない。
「俺は先に寝る。おやすみ」
そんな事を言ったような気がする。
俺に近寄る綾乃の姿を目に収めながら
そのまま意識を手放した。
◇
朝日が眩しい。
「んあっ?‥‥‥朝か?」
どうやらあの後、眠ってしまったらしい。
ぼんやりするが、何とか昨日の事は覚えている。
「ここは書斎か‥‥‥」
身体を起こす。
「ん?」
俺の腹に誰かがいるようだ。そこには‥‥‥
「なんで、綾乃が!?」
昨日と同じ服装で綾乃がそこにいた。
「‥‥‥やっと起きたか」
ぶすーっ、とした表情で俺を睨む綾乃。
目元には薄い隈がある。それに‥‥‥目元が少し赤い。
「綾乃、お前泣いて‥‥‥」
「‥‥‥心配したんだからな?」
「悪い‥‥‥」
昨日のことを思い出す。
我ながら結構な無茶をしたと思う。
「‥‥‥まあ、あのワインはアルコール分をかなり押さえたものだったし、飲んだ後の君の寝息も正常だったからな。一応は大丈夫かと思っていたが‥‥‥それでも心配したんだぞ?」
救急車を呼ぼうかぎりぎり迄悩んでいたんだ、とのこと。
「あー‥‥‥本当にすまん」
謝ることしか出来ない。
「‥‥‥本当は私のことが嫌なのかい?」
綾乃がぽつりと呟く。
「いや、それはない」
俺は断言する。
「じゃあ、なんで手を出さないんだよ」
綾乃が不満そうに尋ねてくる。
「だから、前にも言ったように、今の綾乃を愉しみたいんだよ」
「‥‥‥別に私を抱いてからでも‥‥‥十分愉しめるじゃないか」
「はぁ‥‥‥まあ、正直昨日は大分危なかった。あのままなら‥‥‥確実に手を出していたな」
「‥‥‥‥‥‥別によかったのに‥‥‥」
「いや、俺はお前に手を出す前にやらなきゃいけないことがある」
心配させてしまったか、と思った俺は、綾乃の身体を引き寄せ‥‥‥
「なに‥‥‥んっ?!」
不満そうな綾乃の口を塞ぐ。
ぷるっぷるだなあ••••••
直ぐ目の前には綾乃の綺麗な顔と瞳と髪が。
‥‥‥やっぱり、顔が良いな。こいつ。
「••••••ぷはっ」
俺は唇を離す。
目の前には事態を理解しておらず、ぽやん、としている綾乃がいる。
「••••••••••••なっ••••••••••みゃっ!?」
いや、何をされたのか理解したようだ。
顔は真っ赤になり。口元をわなわなと震わせている。言葉にならない鳴き声も出ている。
面白いなあ‥‥‥
「••••••まあ、これを忘れていたんだよ」
大事な事を忘れたまま、致すのはよろしくはない。
‥‥‥‥‥‥俺のけじめだからな。
「あと、酒の勢いではしたくはないしな。それに‥‥‥最初は、事務所なんだろ?」
然るべきタイミングになったら、こっちからいくからな?と感情を込めて伝える。
‥‥‥伝わったか?
「ひゃ‥‥はやとっ‥‥‥いまの‥‥‥へっ‥‥‥いきなりっ?!」
あ、伝わってないな。
涙目になりながら両手で口元を押さえ、ぷるぷる震えている。
「唇に••••••はやとが?••••••ひゃぁー••••••」
嫌だったか?と少し不安になる俺だったが、反応を見るにそうではないらしい。
••••••流石に嫌がられたら立ち直れんぞ。
「••••••これって••••••もう••••••性•••為じゃないの?••••」
できちゃう••••••と、小声で呟く綾乃。
できねぇよ••••••
どうしようかなあ、と考えていた所、書斎の扉が開かれる。
「おはようございます。ノックに対しての反応が無いようなので。‥‥‥失礼かと思いましたが、直接お声を‥‥‥へ?」
「あっ」
書斎の扉を開けたのはかっちりとした服とエプロンを付けた若い女性。丁度俺達と同じくらいの年頃の‥‥‥
「隼人、くん‥‥‥?」
「しず、は?」
久し振りの再会を喜ぶ前に、今の状況を鑑みる。
見覚えのある男が、主人の娘(半裸)を抱きしめている。
しかも娘は顔を真っ赤にして狼狽している。
‥‥‥完全に事案です。本当にありがとうございます。
俺と静葉よりも先に正気に戻り、事態を理解した綾乃が‥‥‥
「‥‥‥ふぇ?‥‥‥ふわぁっ‥‥‥!!」
聞こえないはずの導火線の音が一瞬途切れる。
(あっ、爆発する)
‥‥‥感情という火薬に、引火した。
‥‥‥沈んだな。俺。
これから起こることを完全に理解した時、俺の心は晴れ渡った空のようであった。
その直後、2人分の叫び声が屋敷内に鳴り響いた。
◇
その後の事は、ここでは多くは語らない。
3つだけ結末を残す。
1つ、俺は沈まなかった。
2つ、雪代さんから『おばあちゃんと呼ばれる日も近いのかしら?』と言われた。
そして
「隼人くん‥‥‥流石に綾乃様のご実家で‥‥‥そういう事を‥‥‥するのはちょっと‥‥‥」
3つ、久し振りに再開した静葉に盛大に誤解されてしまった。
おわり?




