表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
違う、そうじゃない。〜犯人は俺なんだ〜  作者: 岩波備前


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/20

霧崎探偵事務所業務日誌 その4 [後編]

俺と綾乃は無事に大学を卒業した。


年度が変わり、依頼が落ち着いた時点で調整を開始。過去の依頼人にはメールで探偵事務所の休止を伝えた。


残った依頼を片付けた後、大学へ復学手続きした。思っていた以上にすんなりと復学できた事に驚いた。


『君には迷惑は掛けないよ』


そんな事を綾乃が言っていたので、恐らく何かをしたのであろう。

‥‥‥まあ、不正はしていないと思うが。


そんな綾乃との関係は少しずつ変わっていた。


きっかけは、静葉の依頼辺りからか。

あの後から綾乃は俺をあまり求めなくなっていた。


別に嫌われたとか、嫌いになったとかではない。

俺から求めれば、文句も言わずに言うことを聞いてくれる。

大学に復学するまでは、事務所で愉しませて貰った。


だが、それ以上のことは無かった。

前のように無理矢理迫ってくる様子はない。


それに、大学に復学した後も違和感を感じていた。


『大学を卒業するまではお互いに以前の関係を装うことにしよう』


綾乃から提案してきた。

何故かというと、お互いの関係を詮索されないように。そして残りの大学生活を無事に乗り越える為。


‥‥‥確かに正論だ。


大学を卒業することは大前提だし、俺と綾乃の関係が周りに知られると、それはそれで厄介だ。


理由は簡単。

綾乃と付き合っていることがバレると周りから妬まれる。


当然の如く綾乃は男性人気が高い。

入学時から有名なお嬢様学校の進学先を蹴ってまでこの大学に来た、なんて触れ込みがあり、まさに鳴り物入りで入学することになった。


俺はともかく、綾乃を初めて見た男共は、狂気乱舞しただろう。

‥‥‥いや、していた。

俺の周りにいた男どもが全員浮足だっていたからな。


綾乃の方もかなり大変だったらしい。

入学初日から男達から言い寄られ、サークルの勧誘も相当なものであったそうだ。

まあ、その全てを軽くいなしていたが。


探偵事務所で働いていた時とは違い、この頃は俺も綾乃もお互いに干渉を避けていた。


綾乃からは毎日、電話で愚痴や不満を聞かされていたが、それくらいであった。

お互いに近況は確認していたが、それ以上は踏み込まない。


それが大学1年目の話。


復学してからは、そんな関係に戻っていた、







大学を卒業してから綾乃とは会っていない。


綾乃の家の事もあるし、事務所の再開の準備もあるとのことで、綾乃は忙しいようであった。


(まあ、明日は事務所にいるだろうな)


事務所を再開したと、先程連絡があった。

なので、俺も明日事務所に行くことを伝えた。

それ以外には連絡はしていない。


(‥‥‥綾乃は、どう考えているんだろうか)


以前の約束では卒業した後に籍を入れる、と話していた。

綾乃もそれは了承していたが、そのことについて全く話しが出なかった。


(何か思うことがあるのだろうか?)


俺と違って、綾乃には立場がある。

だから急ぐことでもないと思っていた。


「明日辺りにでも、話し合うか‥‥‥」


まあ、明日なら綾乃も落ち着いているだろうし、今後についても話し合う時間はあるだろう。


(綾乃のことを考えることも大事だが、その前に俺もやることはやらないとな‥‥‥)


俺は大学を卒業してからも、同じアパートに住んでいた。

何事も無ければこのアパートを、卒業と同時に引払う予定であったが、もう少しだけ延長することにした。

これから他の探偵事務所で修行に入るためだ。


綾乃にも手伝って貰い、ここからでも通うことの出来る探偵事務所を探した。


奇妙な縁もあったようで、砂原さんのストーカー調査の依頼で出会った探偵の事務所で修行することになった。

連絡をした所、2つ返事でOKを貰った。

丁度人手も欲しかった様だ。


3ヶ月の期間だけだが、他の事務所の雰囲気を感じるには十分だと思う。

必要があれば延長するなり、他の事務所に移るなりで対応が出来る。

その際は綾乃も手伝ってくれるそうだが、そこまでしなくても良いと思っていた。


(まあ、綾乃の事務所でもキャリアは積めるからなあ)


就職先が決まっているので割と気楽だ。

今回の修行は一応のけじめの意味もある。

一度は自分だけでやれることを証明しないことには納得出来ないからな。


(まあ、そのことも明日、話し合えばいいか)


のんきにそんな事を考えていた。


遅かれ早かれ、綾乃と一緒になる。

そのことについて、疑いようは無かったから。







翌日。

以前のように、事務所へ向かった。

合鍵は持たされていたため、特に苦労することなく事務所に入ることが出来た。


事務所は以前と変わらない。

電気や水回り等のインフラもきちんと稼働する。

掃除もされている。綾乃がやったのだろうか。


しかし、それは些末なこと。

それよりも気になるものがあったからだ。


綾乃のデスクの上に、手紙が置いてあった。


白い封筒から、中身を取り出す。

綺麗な字で、俺宛の内容が書かれていた。







『隼人へ。


この手紙を見ている君に最初に伝えたい事がある。

今迄、私の我儘に付き合ってくれてありがとう。本当に楽しい日々を送ることが出来た。隼人の彼女として、とても幸せだった。

これ以上の幸せは、今後の人生では得ることは出来ないと確信しているよ。

名残惜しいが、感謝だけで手紙が終わってしまいそうだから本題に入る。

この霧崎探偵事務所を、君に譲る。

以前にも話をしたことがあったが、やはり私には荷が重いようだ。

君なら十分に事務所を運営出来ると思う。

だから、この事務所は出来る限り残して貰いたい。

万が一難しいようなら、霧崎家の使用人、草野さんに連絡してくれないか。

霧崎探偵事務所としては終わるが、この事務所自体は残すことは可能だから。

それと、もう一つ大切な事を伝えたい。これが一番大事なことだ。

私達は今日で別れることにしよう。結婚の話も白紙に戻す。

理由は聞かないで欲しい。ただ、君を嫌いになったわけではないから安心してくれ。

それと、両親には既にその旨を説明してある。

とても残念がっていたが、それが私の選択なら、私の気持ちを汲んで納得してくれたよ。

君のことは変わらず息子みたいに思ってくれていたよ。だから、今迄と変わらず接してあげてくれ。

それと、私がいなくても安心して欲しい。

私の友人に良い女性がいる。砂原怜さんだ。

彼女は君の事を好いてくれているよ。むしろ唯一の男性だと考えているらしい。

腹を割って話してみたら恥ずかしそうに話していた。あんなに器量の良い女性は、そうそういないだろうね。

だから、彼女に困ったら怜さんにアプローチするべきだ。2つ返事で受け入れてくれるはずだ。

あと、同じ女性として書くべきではないかもしれないが、怜さんも私と同じ性癖の持ち主だ。君の趣味にも付き合ってくれるよ。

最後に、私は君の前から消えることにした。

お互いに顔を合わせないほうが幸せだと思う。

でも、私は君との思い出は決して忘れない。この思い出は、墓まで持っていく。それは約束しよう。


隼人、今迄ありがとう。

君の彼女になることが出来て、本当に幸せだった   


                綾乃より 』







「‥‥‥‥‥‥」


手紙を読み終える。

思うことは2つ。


人の気持ちを考えず、言いたいことだけ残して勝手に消えた綾乃への腹立たしさ。


そして、こんな状況になるまで綾乃を放っておいた自分への怒り。


2つのうち、1つは直ぐに発散出来そうだったので、そうした。


「‥‥‥ぐぅっ!!!」


右頬に激しい痛み。


ハンマーで殴られたような衝撃とともに、目の前が灰色になり、視界にバチバチしたものが散った。耳元で変な音もしたが気にならない。


しかし、頭とは裏腹に身体は言うことを聞かないようだ。思わずその場にしゃがみこんでしまった。


「畜生っ!!痛ってぇなぁぁぁぁっ!!!あぁぁぁっ!!」


近所迷惑を考えず、吠える。

こんなに大きな声を出したのは初めてだと自分でも思う。

とにかく、こうしないと落ち着かない。


「あぁぁぁぁぁっ!糞っ!!あの女、絶対に分からせてやるっ!!」


前にしっかりと言った筈なのにまだ分からないのか。


‥‥‥何度でも、綾乃に分からせてやる。


「絶対に捕まえてやる」


泣いても喚いても、首根っこ掴んででも。

絶対にここへ連れ戻す。


「もう、逃さん」


勝手に逃げるな。

もう手放してやるものか。


「‥‥‥綾乃は俺のものなんだよっ!」


綾乃がいない人生なんて考えられない。


それをはっきりと教えてやる。


読んでいた手紙はシュレッダーにかけてやった。

もう。これは必要ない。

綾乃を連れ戻すからな。


俺はスマートフォンで手がかりを持っていそうな人物に片っ端から電話を掛けた。


直ぐに手ががりを掴んだ。

俺は事務所を飛び出した。


「待っていろよ‥‥‥綾乃っ!!」


通りの人々が驚いた表情で俺を見ているが、全く気にならない。


その時の俺は、綾乃の事しか考えていなかった。




おわり?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ