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違う、そうじゃない。〜犯人は俺なんだ〜  作者: 岩波備前


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ああ、そうだ。〜犯人は、お前だ〜

※推理もの、ミステリー作品ではありません。ミステリー風味のラブコメです。

※主人公はほんのりと変態です

「ああ、綾乃なら駅にいるはずだよ」


綾乃の両親に電話をした所、すんなり綾乃の行き先を教えてくれた。


「だって、あの子が隼人くんとの結婚に不安を感じているなんて思っている訳無いじゃないか」


司さんがそんな事を言う。

綾乃が何を吹き込んだのか非常に気になったが、それは後回しする。


「そうよ、綾乃ちゃんの旦那さんは、隼人くんしかいないんだからねぇ」


電話口で雪代さんが答える。

そこまで聞いたところで、先程の話を尋ねる。


「雪代さん‥‥‥その、綾乃の行き先を教える代わりに、と言っていた条件とはなんでしょうか‥‥‥」


どんな条件を出されるのか?

‥‥‥予想は全く出来ないが、どんなものでも受け入れる所存だ。

綾乃を連れ戻すことさえ出来れば良いんだからな。


「条件はねぇ‥‥‥‥‥‥駅まで走っていってほしいの」


「へっ‥‥‥走る‥‥‥です、か?」


身構えた俺に対し、あまりにも簡単な条件を出す雪代さん。

冗談‥‥‥ではないな。


「そうよぉ、駅まで走るの‥‥‥懐かしいわぁ‥‥‥‥‥‥じゃなくて」


‥‥‥多分、何か似たような事があったのだろう。雪代さんの言葉端から推察された。


「‥‥‥こほん‥車とか自転車は駄目よ?隼人くんの身1つで、向かって頂戴?」


仕切り直す雪代さん。

それでも、条件は変えないらしい。


「‥‥‥それは、構いませんが‥‥‥って、それで間に合うんですか?」


「隼人くんの頑張り次第よ?綾乃ちゃん、家を出たばかりだから。‥‥‥苦労したのよ?綾乃ちゃんに勘付かれないように引き止めるの‥‥‥司さんにも協力して貰ったんだからね?」


「ありがとうございます、雪代さん、司さん!では、今直ぐにでも‥‥‥」


「隼人くん、最後に1つだけ」


「なんでしょうか?」


「綾乃ちゃんを、宜しくお願いします」


電話口の雪代さんからそんな言葉を伝えられる。

そして。


「綾乃を頼みます。‥‥‥隼人くんなら、安心できるからさ」


司さんからも頼まれてしまった。

2人とも綾乃の事を俺に託してくれた。


なら、応えるしかない。


「ええ、任せて下さい。綾乃のことは絶対に幸せにします」


電話を切る。


「‥‥‥‥‥‥よし」


深呼吸をして覚悟を決めた。


綾乃を連れ戻した後のこと。

そして、ずっと後のことについても。


「そこで待っていろよ‥‥‥直ぐに行くからな」


事務所を飛び出す。


ここから駅までは歩いて1時間程度。

全力で走ったらどのくらいで着くだろうか。


(‥‥‥いや、そんなことは関係ない。今はとにかく走るだけだ)


人にぶつからないように注意しながら走る。

久々の運動で身体が悲鳴を上げ始めるが、関係ない。無視する。


近隣住民が驚いた顔で俺を見るが、気にしている余裕はない。

とにかく、綾乃が電車に乗ってしまう前に捕まえることしか考えていなかった。







予定よりも家を出るのが遅くなってしまった。

今日に限って母さん達が私にちょっかいを出してきた。

‥‥‥まあ、隼人への口止めを強要した手前、文句も言えない。


(あれだけ時間をかけて説得したんだ、簡単に口を割られても困るからな)


隼人の前から姿を消すと決めた時から、両親への対応を考えていた。

なにせ、両親も隼人を気に入っているのだ。

それを急に私の方から別れると話し、あまつさえ他の土地で生活を始めると伝えたのだから、それはもう大変だった。


(隼人とは見ている方向が違ったから、‥‥‥なんて、理由で進めるしか無かったけど)


方向性の違いで解散するグループの弁明のような理由であるが、全くの虚偽ではないので、間違ってはいない。


(隼人への感情はともかく、私の意向を汲んでくれたのだから感謝するべきか‥‥‥)


何も言わず、何も聞かずに婚約の解消を受け入れてくれた両親には感謝の気持ちはある。


(‥‥‥やはり、車で向かうべきだったか?)


実家を出る前に両親から徒歩で駅に向かうように勧められた。

暫くこの街に帰って来ないのであれば、その前にゆっくりと目に焼き付けて置いても良いんじゃないかと提案された。


確かに、数年単位でこの街には戻っては来ないつもりだ。

隼人と一緒に暮らした場所であるため、思いで深い場所もある。

自宅から駅に向かうまでの間に思い出の場所がいくつかあるので、そこは見ておこうとは思っている。


しかし、時間については問題ないが、万が一隼人に見つかってしまったら‥‥‥


(‥‥‥‥‥‥寧ろ‥‥‥いや‥‥‥)


そんな事を心配しなくても良い様に手配も出来た。


‥‥‥でも、それをしなかった。


(‥‥‥隼人に、見つけて欲しい)


もしかしたら私を追いかけて来てくれるかもしれないと期待している事に気が付いていた。


(本当に、ひねくれているなぁ‥‥‥)


そんな自分に嫌悪感を感じつつ、懐かしい場所や町並みを見ながら、ゆっくりと歩みを続けていた。







綾乃が家を出た時間と駅までの距離を考えると、現在どこにいるのかは予測が付いた。


酸素の足りない頭で何度も考えてみたが、時間的に全く余裕がないと答えがでていた。


ただ、他にもやりようはあった筈。

わざわざ電車を使うなんて回りくどいことをしなくても、姿をくらますことは出来た筈だ。

‥‥‥なら、理由は1つ。


(俺が追いかけて来るのを期待してやがるな、あいつは!!)


故意であっても、なくても。

その考えが気に入らない。


(覚悟が出来ていないんだったらそんな事をするんじゃねぇよ!)


薄々気が付いていたが、綾乃はめんどくさい女だ。


手紙を見た時点で確信した。


積極的かと思えば、そうでもない。

済んだ事をいつまでも引きずる。

直ぐに病むし、感情も重い。

嫉妬深い癖に、俺に選択を委ねようとする。

何度も綾乃が大切だと伝えているのにそれを理解してくれない。


(まあ、俺が愉しいとか嬉しいとか、そんなことばっかり言ってたからか?)


婉曲えんきょくな表現だったかもしれないが、俺なりに綾乃が大切であることは伝えていたつもりだ。


綾乃に伝わっていなかった?

そこが落ち度だったか?とも思う。


しかし、それを抜きにしても断定出来ることがある。


(何でもかんでも1人で背負いこもうとする‥‥‥それが一番面倒くせぇ!!)


俺のためにそうしてくれているのは疑いようはない。

だが、何故俺をその勘定に加えないのか。


(‥‥‥もう、綾乃1人の人生じゃないんだよ!!)


それをはっきりと教えてやらないことには腹の虫が治まらない。


事務所を出てから結構な距離を走った。心臓も肺も筋肉も、全て絶叫をあげていた。


見覚えのある建物が視線の先に見ある。


目的地だ。

後もう少しで綾乃に追いつく。


(絶対に、連れて帰るっ!!)


それだけを考えながら、心臓と足に残りの力を込めた。







駅に付いた。手続きも済んだ。

後はホームに入るだけ。


(呆気ないな‥‥‥)


電車に乗って、空港に向かう。

それだけで完全に姿を消すことが出来る。


‥‥‥もう、隼人には会うことはない。


(決意が揺らぐ前に‥‥‥行くか)


止めていた歩みを再開する。


(‥‥‥さようなら、隼人)


思っていたよりも重い足を、無理矢理動かす。


(幸せになってね‥‥‥)


それが本心だ、と自分に言い聞かせて進む‥‥‥


瞬間。

右手が掴まれる。


「っ!?」


痛い。それに熱い。


突然の強い刺激に、驚愕と不快感を示す前に、その手の持ち主を認める。


「‥‥‥はや、と」


「っはあっ‥はあっ‥はあっ‥‥すぅっ‥‥はああぁぁぁっ‥‥はぁっ‥‥‥」


死ぬんじゃないか?と勘違いしそうなくらい荒い呼吸。身体は汗でびしょびしょになっているし、よく見ると膝も笑っている。


「はあっ‥‥‥ひゅうっ‥‥はあ‥‥‥はぁ」


「なんで‥‥‥ここに?」


分かっている。

それでも聞かない訳にはいかない。


「はぁっ‥‥はぁっ‥‥綾乃っ‥‥お前を‥‥連れ戻しに‥‥きた」


「手紙にも書いただろう?‥‥‥だから‥‥‥っ!?」


無理矢理手を引っ張られる。

普段の隼人からは想像も出来ないほど乱暴な行動。思わず、呼吸が乱れてしまう。


引っ張られる瞬間に見えた隼人の顔。


(‥‥‥‥‥‥本気で怒ってる)


血の気が引く。

隼人から本気の怒気を感じたのは初めてのことであった。


(‥‥‥でも、仕方ないか)


私の歩くペースを完全に無視したまま、歩いてきた道を逆走する。


(多分、私の考えもお見通しなんだろうなぁ‥‥‥)


隼人の事だ。

私が期待していた事を理解しているだろう。


‥‥‥なら、丁度良い。


(隼人から、拒絶してもらえたら‥‥‥諦めが付く)


隼人の思いを踏みにじった、独りよがりの行動。

流石の隼人でも愛想が尽きた筈。


比喩でもなく死ぬほど辛いことだが、隼人から叩かれるなり、罵倒されるなりして拒絶される。

それが今の私にとって一番の罰になる。


(辛ければ辛いと思えるほど、気が楽になるな)


もはや情緒がおかしくなっている自覚もある。

だから、これから起きる事に対し、覚悟を決めることが出来た。







「はぁっ••••••はあっ••••••はぁ」


駅構内。

綾乃が乗る電車の番線に向けて足を動かす。

人混みをかきわける様に前に進む。

俺の異常な様子を見て、道を開ける人間もいた。


(綾乃っ!!)


改札口の近くで足を止めている綾乃がいた。

何かを決心したかのように歩みを進める。


ここで綾乃の手を取らなければ、二度と会えなくなる。


そんな予感がした俺は、人目を気にせず綾乃へ駆け寄る。


(届けっ••••••!)


手を伸ばす。

そして、綾乃の手を掴んだ。


「っ!?」


綾乃が振り返る。


俺の顔を見た瞬間、怒られる直前の子どものような表情をしていた。


「なんで、ここに?」


震える声で聞いてきた。


分かっている筈だ、と心の中で前置きを呟き、息が少し整った隙を見て、綾乃へ返答する。


「はぁっ‥‥はぁっ‥‥綾乃っ‥‥お前を‥‥連れ戻しに‥‥きた」


「手紙にも書いただろう?‥‥‥だから‥‥‥っ?!」


今にも泣き出しそうな、そんな顔。

今迄に綾乃の泣き顔は見てきたが、ここまで悲痛な顔は見た事がない。


そんな顔にさせてしまった自分に怒りを感じる。


「••••••••••••」


もう二度とそんな顔はさせない。

その一心で綾乃の手を引き、俺達の事務所へ歩を進めた。







タクシーを捕まえようとしたが、今の俺達の様子を見たら、運転手に何か誤解されそうだ。

なので、綾乃を引き連れ、徒歩で事務所を目指していた。


綾乃は先程から何も喋らない。

ただ、素直に俺に従っている。


(••••••••••••)


暫く無言で歩いていたら、目の前に見慣れたビルが見えた。


階段を上がる。

事務所の鍵は開けたままだったので、そのまま扉を開け、事務所へ入る。


綾乃を放り投げるように、ソファへ座らせる。

怪我をさせないように注意したつもりだが、大丈夫だろうか••••••


事務所の鍵を閉める。

そして、上着を一気に脱ぐ。


綾乃が小さな悲鳴を上げるが、気にしない。

タオルで簡単に身体を拭き、予備のシャツを着る。


隅から非常用に置いていたペットボトルの水を2人分取り出し、綾乃の前に置く。

俺は直ぐに飲んだが、綾乃は手を付けなかった。


「••••••はあぁぁぁっ••••••」


綾乃の対面に座り、大きく息を吐いた。

やっと••••••落ち着いた。


「••••••••••••」


無言を貫く綾乃に、声を掛けた。


「あの手紙はなんだ?」


「••••••••••••書いた通りだが」


やっと口を開いた。

俯いているため、表情が見えない。


「‥‥‥本気か?」


「••••••ああ、だから君の前から姿を消そうとしたんだよ」


「••••••そうか」


「綾乃、はっきりさせておきたい••••••俺が嫌いか?」


これから行う話の前提として尋ねた。


「そんなことはない!」


俯いたまま、はっきりと断言する。


「••••••なら、何故こんな真似を?」


「••••••••••••隼人の、重荷にはなりたくなかったんだ」


組んだ手に力が入る。


まだだ••••••まだ、綾乃の本心が聞けていない。


「‥‥‥重荷、とは?」


「••••••••••••私がいると、隼人が不幸になるんじゃないかと、思った」


「••••••••••••それで?」


「••••••私は面倒な女だ。隼人を振り回したり、迷惑を掛ける事しか出来ないよ」


「••••••••••••」


「君は知らないと思うが、私は君を都合の良いように誘導していたんだよ••••••家の力も使ってね」


「••••••••••••続けろ」


「そうして、君の彼女として隣にいる事が出来た••••••」


「••••••そうか」


「••••••••••••私は、隼人の人生を••••••他の道もあった筈なのに••••••その可能性を、奪ってしまった」


「••••••••••••」


「だから私も人生を賭けて、君と共に生きようとしたんだ」


「隼人はどう思っているか分からないけど、私は幸せだった••••••本当にね‥‥‥でも、私には耐えられなかった••••••その幸せが、隼人の未来を踏みにじった結果だと‥‥‥忘れる事が出来なかった」


「静葉を見て思ったよ••••••私達と似ていたけれど、決定的に違う所があった。静葉は純粋に思い続けたけれど、私はそうじゃない••••••何がなんでも隼人を手に入れたいと手段を選ばなかった••••••隼人の意思を無視してでも」


「••••••••••••••••••」


‥‥‥そろそろ限界に近い。


「だから、私はそんな自分が嫌になった••••••重くて、自分勝手で、面倒くさい••••••もう、こんな私を、これ以上隼人には見せたくないんだ」


「だから••••••今迄の事を、無かった事にしたかった••••••私が、隼人の人生を狂わせてしまったから‥‥‥」


その言葉を聞いた瞬間、限界を超えた。




「ああ、そうだ。犯人は、お前だ」




「••••••っ!?」


俺の言葉に、息を呑む綾乃。


これは衝動的にではない。

綾乃が話した全ての内容に苛立ちを隠せなかった。‥‥‥ただ、それが決壊しただけ。


俺の気持ちをぶつける。

混じりっ気の無い本心だ。

それを理解しないのであれば。


徹底的に、分からせてやる。


「綾乃が俺の人生を狂わせた?」


「‥‥‥そうだな、その通りだよ。おかげで俺は綾乃の事以外考えられなくなっちまったからな」


「言いたいことは3つ」


「1つ、俺は綾乃がいない人生は考えられない。これは今の時点でも全く変わらない。今後も変えるつもりは無い」


「2つ、俺の気持ちを勝手に解釈するな。そして1人だけで抱え込むんじゃない」


「3つ、綾乃自身が認める面倒くささや、嫌いだと思う部分••••••その全てを含めた上で、俺は綾乃を愛しているんだ」


はっきりと言ってやった。


これ以上言いたいことはないが、綾乃はどうか。


「••••••それは、嬉しい••••••でも、隼人が優しいからであって••••••」


まだ分からないらしい。


‥‥‥じゃあ、手加減無しだ。


「そうか••••••なら、それを辞めるよ」


「へっ?どういう?••••••えっ!?」


困惑する綾乃を尻目に、ソファから立ち上がり、綾乃の傍へ向かう。


動揺する綾乃を逃さない。

身体ごと覆いかぶさるように抱きしめ、その唇を奪う。


「はやっ!?••••••んっ!••••••っっ••••••!••••••んんーっ!!?」


空いた手で、力任せに揉む。

馴染みのある感触が手に伝わる。


綾乃は顔を赤くしながら、抵抗する。

俺はその抵抗を真正面から受け止めた。


綾乃が力尽きるまで、その両方を続けた。


力を失った身体から顔を離す。

息も絶え絶えになっている綾乃が一言呟く。


「はやと••••••いまのは••••••」


「もう、我慢しないって事だ!」


綾乃が俺の意図を察した。

そして、表情を変える。


「まさかっ••••••ちょっと待って!••••••今日は駄目なんだ」


「俺は構わん」


月1のものでもばっちこい。


「ちがっ!••••••今日は赤ちゃんが••••••」


尋常ではない程焦っていた。

‥‥‥なるほど、その日か。


「‥‥‥なおの事好都合だ」


「なっ••••••!?」


絶句する綾乃。

そして、慌てたように言葉を続ける。


「そんな事になったら、隼人はもう、戻れないんだよ!?」


「戻るつもりもないし、無かった事にもしない」


「子どもごと、綾乃の人生を貰うからな」


「••••••••••••はやと•••••」


「言っても分からないなら、身体で覚えこませるしかないな」


「からだ!?••••••ひゃぁっ!」


綾乃を抱き抱える。

無理矢理膝の上に乗せ、綾乃の後ろから身体を抱きしめる。


「まって、はやとっ••••••んっ•••あぁっ•••••!だめっ••••••そこは••••••」


ブラウスの下から手を差し入れ、直に掴む。

肌の熱と滑らかさがはっきりと分かる。

柔らかなものと、その先端を弄ぶと綾乃は嬌声をあげる。


「だめ、だって••••••ぁっ••••••そんなぁ‥‥」


「駄目だと言っても止めない」


両手で揉みしだくたびに、声が艶を帯びる。

駄目、と言う言葉が徐々に精細を失う。


「だっ•••••めぇ•••••••ぁ••••••••っん」


「ああ、やはり綾乃は最高だな」


蕩けてしまった綾乃の顔を見ながら呟く。

ブラウスから突っ込んでいた片手を抜き、力無く半開きになっている小さな口に指を差し込む。


「んむぅっ!?••••••んあっ••••••んぅっ••••••」


指で口腔内を探る。

湿り気のある舌や、つるつるした部分に指を這わせる。

内蔵に近い部分だからか。

指の動きと手の動きに合わせて敏感に反応していた。


「そろそろ良いか••••••」


「ぷはっ••••••っはぁ•••••はぁっ••••はやとっ!そこは•••••」


力の入らない手で遮ろうとするが、無駄な事。

唾液で濡れた手を、スカートの中に差し入れる。目的は薄い布の下。


馴染みのある感触を超え、未知の部位に手を伸ばす。


「••••••口よりも、凄いな••••••」


「••••••んっ!!?」


狭い。

そして口腔内よりも湿り気があり、熱い。


見様見真似で指を動かす。

片手も忘れない。

柔らかさと少し硬い弾力が、興奮を加速させる。


「ぁっ•••っ••••••そこはぁ•••だめ••••••んんっ••••••あっ••んっ•••••あぁぁっ!!」


一際甲高い声を上げ、身体を反らせて痙攣する。指に圧を感じた。


「綾乃••••••」


全身の力が抜けた綾乃のブラウスとスカートから手を抜き、身体の向きを変えて綾乃の口を塞ぐ。


「はぁ••••••はぁっ••••••んっ••••••むぅっ!?」


口腔内に舌をねじ込む。

以前の仕返しのつめりだが、予想以上に効果があったようだ。


綾乃の瞳が少しずつ光を失う。

代わりに、淫靡な影が浮かびあがる。


「‥‥はやとぉ••••••ほんとうに••••••するの?」


綾乃は熱に浮かされた様子で呟きながら、ブラウスのボタンをゆっくりと外す。


「ああ、する。最初はこのまま。最後は後ろからだ」


「‥‥‥それだけ?」


「いや、前に約束したからな••••••滅茶苦茶にしてやる••••••」


「••••••めちゃくちゃに?」


「ああ、期待していろよ?今日は帰さんからな」


「•••••••••••••••••」


綾乃から口を塞いできた。

俺もそれに応える。




俺と綾乃はそのまま夜まで重なりあった。

慣れない行為だったが、共に悦びを分かち合う。


間に休憩を挟んだが決して飽きる事はなく、ひたすら貪り続けた。







辺りが暗くなっている。

ソファの上に綾乃が寝ていた。

布団は仮眠室から持ってきたものを掛けてやった。


俺は身体に残る倦怠感と満足感を自覚しながらシャワーを浴び、近くのコンビニエンスストアに向かう。


「まだ、足りないからな••••••」


コンビニエンスストアで買ったパンを栄養剤を流し込む。


まだ、確実ではない。

綾乃を逃さないためにも、徹底的に分からせないといけない。


買い物を終えて事務所に戻る。

鍵を閉めてソファに向かうが、綾乃の姿は無かった。


代わりに水音がする。

なので、俺も一緒に入る事にした。


綾乃は驚いていたが、口を塞いだら静かになった。

‥‥‥ついでに、俺も綺麗にしてくれるそうなのでお願いした。


シャワールームは狭いが、2人で何とか入る事が出来た。

綾乃は後ろからの方が好みらしく、反応が良かった。


後ろから責め、前を弄ぶ。

俺にとっても、心地良い時間だ。


開放感と征服感、それに冷静な頭を持ってシャワーを浴びる。


「なんで、そんなに、うごくのがうまいんだよぉ‥‥‥」


「予習はばっちりだったからな」


綾乃は力が抜けてしまい、出るまでに時間が掛かった。







「仕事着を着てもらおうか」


「••••••良いけど、汚すなよ?」


ソファに座り、綾乃を横抱きにしていた。

お姫様抱っことやらをご所望されたからだ。


何度もお互いを求めあった結果、綾乃も軽口を叩ける程度の余裕が出来たらしい。


「汚す訳ないだろ?神聖な仕事着に対して失礼だ」


「また、そんな事を」


「それに、無駄には出来んしな」


「あっ•••••••••••ぁぅっ••••••」


言葉の意味を理解したのか、顔を赤くしながら無言で俯いてしまう。


まだ、出るの••••••?と呟いていたが、何の事だかさっぱりだ。


「最初が肝心だ。この際だから主従関係をはっきりさせとおかないとな」


膝の上に乗る綾乃の頬や髪、首筋をなでる。


「隼人に、分からされちゃう••••••」


ぶるり、と身体を震わせそんな事を呟く、

俺が、今一番欲しい言葉だった。


綾乃は案外乗りが良い奴だ。

だが、今のは半分素だな。

俺は詳しいんだ。


「••••••それに、綾乃が俺から逃げられないようにしないといけないからな」


綾乃の腹を軽く押す。


「••••••‥‥‥本当に、後悔してない?」


不安そうな表情で俺を見つめる。


「しない。綾乃と子どもの人生くらい請け負ってやる」


「なんでそこまで言い切れるの?」


素朴な疑問。

隼人からしっかりと愛情を受け取ったあとでも、気になるものは気になる。


「ガキの頃から、綾乃から離れるつもりは無かったからな」


「••••••子どもの頃‥‥‥?」


「ああ、約束しただろ?一緒に探偵になろうって?だから綾乃から誘われた時に断らなかっただろ」


今座っている場所で指切りをした。

2人で探偵になろうと。


‥‥‥忘れることのない、大事な思い出。


「‥‥‥覚えて、いたの?」


「ああ、綾乃と初めて指切りしたし‥‥‥俺にとって大事な思い出だぞ?」


綾乃の綺麗な顔が歪む。

涙が溢れる。


「‥‥‥はやとの‥‥‥ばかぁ‥‥‥」


綾乃は感極まって思わず隼人を抱きしめてしまった。


「‥‥‥俺は何故、罵倒されながら抱きつかれているんだ?」


困惑しながらも、頭を撫でる。

子どもの頃から変わらない綺麗な黒髪。

さらさらと指を流れる感触が心地よい。


「‥‥‥だから、綾乃が誘ってくれた時は嬉しかったんだ。まあ、順序は逆だったけどな」


俺が綾乃の付添人になるように手配してから、探偵事務所で働かないか?と言われた。

‥‥‥依頼の後に、それすらも綾乃の差し金だったと分かるのだが。


「だから、綾乃。指切りだ」


膝の上の綾乃に小指を差し出す。


「約束通り探偵になって、綾乃と子どもを絶対に幸せにする。‥‥‥これなら忘れないだろ?」


「‥‥‥‥‥‥ああ、絶対に忘れない」


小指を絡める。

2人でリズムを合わせ約束をした。


指を切ったあと、どちらともなく小さく笑う。

この約束は、何があっても忘れないだろうと確信していた。


大切な人と同じ場所で、子どもの頃のように純粋に、未来を約束した。











「‥‥‥で、隼人。今度は壁に押し付けて後ろからお願い出来ないかな?出来れば無理矢理な感じが良いな。この間みたいに‥‥‥コートを着てあげるから」


「‥‥‥‥‥‥癖になったの?」


「うん‥‥‥なっちゃった」


子どものように、こくん、とうなずく綾乃。

その姿があまりにも可愛かったので、そのまま朝まで、愛やら何やらを注ぎこんだ。







「あやのー、帰ったぞー」


3ヶ月ぶりの霧崎探偵事務所。

研修先の探偵事務所が予想以上に忙しい職場であったため、ここに来る余裕は無かった。

その間、綾乃には連絡は入れていたが。どうやら、その綾乃から話しがあるとのこと。


‥‥‥今迄、事務所で話しがあると言われて禄な事が無かった。

なので内心、落ち着かない心境であった。


(ああ、落ち着かないなあ‥‥‥だが、逃げる訳にはいかん)


研修が始まってから直ぐに、準備したものがあった。

最近知り合いが1人増えたので、非常に助かった。そいつの口添えもあって何とか作成してもらえることに決まった。

更に幸運な事に、研修先でもバイト代みたいなものが入ると聞いた。

‥‥‥多分、あの探偵が気を回してくれたのだろう。

これは、自分の力だけで稼いだ金で手に入れたかったから、渡りに船だった。


つくづく俺は、人に恵まれていると思う。

これも全て綾乃のおかげだ。


おかげでお目当てのものは俺の鞄の中にある。

それを渡すまでは、ここから帰ることは出来ない。


「ああ、こっちだ」


そんな事を考えていたら、奥のデスクにいた綾乃が返事をする。


俺達の関係は幼馴染から夫婦に変わったが、相変わらず気安い仲であることには変わりない。


3ヶ月ぶりの遣り取り。

少し離れていただけで、懐かしい気がする。


「元気だったか?」


綾乃が椅子に座ったままこちらの様子を伺う。


烏の濡れ羽色をした、前髪ぱっつんの長い黒髪。

魂のこもった日本人形を彷彿とさせる整った顔立ちに、意思の強そうな黒い瞳。

僅かに赤みがかった健康的な肌色に、桜の花びらのような色の、瑞々しい唇。

‥‥‥いつ見ても美人さんだ。


「おう、元気だ。綾乃は?」


「‥‥‥身体は絶好調さ。心配ないよ」


「‥‥‥?」


妙な言い回しに違和感を感じる。

見た感じは元気そうなので、大丈夫だと思うが。


「で、話ってなんだ?」


早速本題に入る。

俺にはやらねばならぬことがあるのだ。


「‥‥‥話‥‥‥そう、だったな‥‥‥」


言い淀む綾乃。

恥ずかしいとも嬉しいとも、言えそうな表情だが‥‥‥目が泳いでいる。


(悪い話では無いな、なら‥‥‥)


覚悟を決める。


「綾乃、お前に渡したいものがある」


デスクの前に立ち、小さな箱を手渡す。


「これは‥‥‥」


「開けてみてくれ」


見覚えがあるのだろう。

当然だ。


綾乃が箱を開け、中身を見る。

金色に輝く指輪が入っていた。


宝石の類は付いていないシンプルなもの。

緩やかな曲線を描きつつ、互いに折り重なる糸のようなデザイン。

どの角度から見ても自然な輝きを放つ。角は全くなく、裏面や重なる部分の処理も完璧に行われていた。

職人の手によって作成されたものだと一目で分かる。


綾乃の黒い髪に合う金色。

名前にちなんで『糸』をモチーフにしてもらった。


今の関係に落ち着くまで色々とあったが、最後はきちんと収まった。

これからは、もう離れることはない。


そんな意味を込めて作成してもらった。


「婚約‥‥‥も、何もないからな。せめて結婚指輪でもと思ってな」


「‥‥‥」


綾乃が指輪を見たまま固まっている。


「‥‥‥綾乃?‥‥‥あやのさん?」


「‥‥‥すまない。あまりにも嬉しくて思考が停止してしまったよ‥‥‥早速付けてもいいかい?」


「ああ、でも、最初は俺に付けさせてくれ」


「‥‥‥‥‥‥気が効くじゃないか」


デスクに近づき、綾乃の目の前に立つ。

差し出された綾乃の左手を支え、薬指にはめる。


「ぴったりだな‥‥‥」


「ああ、綾乃が出ている間に測ったからな」


「‥‥‥なるほどね」


慈しむような目で薬指の指輪を眺めている。

少しした後、俺に向かって話す。


「それと‥‥‥隼人。君の分もあるんだろ?私がはめてやろう」


「‥‥‥ばれたか。なら、頼む」


鞄から自分用の指輪を取り出す。

同じデザインの指輪。

綾乃から左手薬指にはめてもらった。


「正式な結婚式はこれからだが、先に指輪だけでも渡したかったんだ」


「本当に、綺麗だね‥‥‥ありがとう、隼人」


俺に向けて丁寧に頭を下げる。


‥‥‥急にかしこまられて困惑する。


「‥‥‥そんなにかしこまらないでくれ。なんだか恥ずかしい‥‥‥」


照れる俺に対し、更ににっこりと笑う綾乃。


「‥‥‥‥‥‥そうかい」


椅子から立ち上がり、更に俺に近づく。

手の届く範囲に、綾乃が立つ。


「‥‥‥実はね、研修を終えて、1人の探偵として独り立ちした隼人に贈り物があるんだ」


「‥‥‥贈り物?」


「ああ、霧崎探偵事務所の代表として、隼人の妻として‥‥‥君に、贈りたい」


綾乃が俺の手を優しく包む。

そして自身のお腹に誘導した。


「まさか‥‥‥」


「心当たりはあるだろ?‥‥‥実行犯だしな」


‥‥‥意趣返しに言われてしまった。


でも、そんなことは気にならない。

ただただ、嬉しい。


「‥‥‥隼人と、私の子どもだよ」


「これからもよろしくね‥‥‥お父さん?」




見惚れてしまう程、穏やかで美しい笑顔。


これが、人生で一番幸せな記憶。

腕の中にいる大切な人達を、生涯を掛けて守ろうと誓った瞬間だ。







そう遠くない未来。


この事務所には数名の人々がいる。

探偵を生業とする夫婦。

とある屋敷に勤める使用人夫婦。


そして、その夫婦達の子ども。

男の子と女の子。


その子どもたちが、生涯の友人になるか、恋仲になるかは、まだまだ先の話だ。




おわり。


本作品を閲覧していただき、誠にありがとうございます。


別の大手サイトでも同じP.Nで作品を投稿しています。


作品についてはそのサイトのみの投稿であり、他サイトには投稿しておりません。


拙作ですが、ご笑覧いただければ幸いです。


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