霧崎探偵事務所業務日誌 その3 [後編]
数日後。
霧崎探偵事務所。
「綾乃様、隼人くん。本当にありがとうございました。おかげで長年の夢が叶いました」
静葉からの依頼が解決した後、本人が事務所に訪れて、直接お礼に来てくれた。
相変わらず表情の変化には乏しいが、数日前とはうってかわって、その表情はどこか晴々としている。
「おめでとう、静葉。それで黒木とはどうなんだい?」
「はい、結婚を前提にお付き合いをさせて頂いております。湊は‥‥‥まだ慣れないみたいですが」
はにかむように答える。
元々美人だが、今の静葉はとても可愛い。
綾乃も同じ事を考えているのだろう。
少し驚いた表情をしていた。
「••••••本当に、良い表情だ」
「ありがとうございます」
「黒木の方はどうかな?」
「お屋敷では表面上、使用人同士の関係を続けています。ただ、前よりも積極的になってくれた感じが••••••」
頬を赤らめながら目を伏せる。
銀髪と白い肌によく映えていた。
「どんな風に?」
綾乃はにやにやしながら尋ねる。
「あの••••••その••••••私がしてほしいときに、こう、ぎゅっ、と抱きしめてくれたり、頭を撫でてくれたり••••••唇も•••••••••••」
「ふふぅん••••••いや、実に初々しいねぇ」
綾乃は静葉の様子を見ながら満足そうに呟く。
それから顔をずいっ、と近づけて小声で尋ねた。
「で、だ。静葉••••••••••••抱いてもらったのかい」
白い肌が一気に林檎になる。
「••••••••••••それは、まだ、です」
俯きながら、か細い声を絞り出す。
「でも、お互いにお屋敷での仕事に慣れてきたら••••••••••••草野家の跡継ぎも必要なので••••••」
「うん、期待しているよ。なにせ、私達の子どもも世話になる予定だからね?」
「はい、いずれは。その時も宜しくお願い致します」
深々と頭を下げる静葉。
「こちらこそ、宜しく頼む」
綾乃も丁寧に礼をする。
良い関係だ。
「•••••••••••••••ちなみに最初はどちらからだい?••••••私は襲って貰いたい派なんだが?」
「•••••••••••••••••••私も、湊からが良い、です」
女性陣が小声で何かを話し合っていた。
反応を見るに、何か良いことを話し合っていると思う。
だが••••••
(綾乃‥‥‥?)
俺はその遣り取りを見ながら、小さな違和感を感じていた。
◇
静葉が屋敷へ帰った後、綾乃は静かに仕事を再開した。
(••••••••••••やはり、おかしい)
静葉の依頼を解決した後から、違和感を感じていた。
いや、もっと前からか••••••
(はっきりしたのは、静葉と黒木の遣り取りを見てから••••••)
綾乃に、以前のような活気がない。
だが、今迄とは変わらない部分はある。
俺が愛でる。綾乃が応える。
油断すると誘惑してくるし、擦り寄ってもくる。
でも、何かが違う。
静葉との遣り取りを見ていても、取り繕っている印象が拭えなかった。
(何か‥‥‥おかしい)
今の綾乃に対して、俺の中の何かが警鐘を鳴らしているが、それが何か分からない。
(もどかしい‥‥‥)
そんな俺を心配してくれたのか、綾乃が声を掛けてくれた。
「なんだい、さっきから真面目な顔をして?」
「••••••いや、いつも真面目だがな?」
「確かに、仕事にも趣味にも全力だしな」
「まあな」
「だが、今の表情は思い詰めたような色がある。••••••心配するような事でも?」
「いや、無いさ。気にさせてしまったのなら、すまん」
綾乃は少し心配するような表情を浮かべるが、直ぐに考えこむ表情に変わる。
そして、良いことを考えた、といった表情で俺に告げた。
「なら、メイド服を着てやろう」
「なんでそうなる」
◇
綾乃の指示に従い、事務所の外で待機する。
『満を持してのメイド服だ。最高の体験をさせてあげたいから、少しだけ外で待っていたまえ』
そんな風に言っていた。
(確かに‥‥‥だが俺はメイド服にはそれなりにこだわりがあるぞ?‥‥‥まあ、一般常識の範囲で、だが)
メイド服には様々な種類がある。
今のメディアではメイド服を見る機会が増えている••••••いや、当たり前すぎて飽和している位だ。
白と黒を基調としたふりふりのドレススカート。生足魅惑のマーメイド、とでも言いたくなる程、瑞々しい足。
スカートのシルエットを保つ為のパニエ。
ふんわりとしたレース生地に、大きく露出した胸元。
清楚な印象を与えるヘッドドレスと、仕事上の利便性を考えたカフス。
これが一般的なイメージ。
••••••ちなみに、これよりも過激なものをフレンチメイドと言うらしい。
だが、最近は英国式‥‥‥所謂、クラシックスタイルも脚光を浴びている。
首元から足元まで、肌の露出を隠しきる程、きっちりとした黒の長袖ロングワンピース。
膝下まで届く白のエプロン。
古式ゆかしいヘッドキャップ完備。
実用一辺倒。
これが、ヴィクトリアンスタイル。
他にも、ゴシック•アンド•ロリータ式のもあるがそれはそれで良い。
みんな違って、みんな良い。
そんな、文化とも言える服装はどこから始まったのか。
諸説あるが、元は屋敷に務めていた小間使いの女性の仕事着が発祥らしい。
主人やその家族への世話。
炊事、洗濯、掃除。買い物や子どもの世話など。それらの仕事を遂行する為に服装を整えなければならなかった。
そのため、白と黒にこだわらず、赤や青、緑や茶色など、その時に用意出来た衣服を、仕事がしやすいように着こなしたり、手直ししたものを使っていた。
今の時代の様に『メイド服とは』といった、ある程度決まったイメージは無かったのだろう。
ただ、仕事をする上で支障や粗相が無いように、最低限のもので出来うる限りのパフォーマンスを発揮していた筈。
そんな時期を経た後、メイドとしての体裁を整える為に、19世紀末頃から今のメイド服の形に決められたそうだ。
何が言いたいのか。
‥‥‥奉仕する気持ちが大切。
まあ、それは当然だが、それはあくまでメイドの場合。
メイド服を論ずるのであれば、メイド服としてのデザインと機能性から著しい乖離がなければ服装は気にせずとも良い。
‥‥‥と、言うのも正解であろう。
俺が直面している場面の解を出す。
綾乃は屋敷の主人に当たる人物であるため、メイドではない。
で、あれば。メイド服について論ずるべきであろう。
この場合、綾乃がふりふりのメイド姿であっても構わない。
古式ゆかしい、メイド服でも構わない。
ゴスロリファッションのメイド服でも構わない。
私服のブラウスとスカートに、白いエプロンを着けてメイド服だ、と言っても構わない。
••••••いや、少し残念だ。
まだ、メイド服に対しての理解が乏しい自分が情けない。
機会があれば、先達の紳士諸君からご教授願いたい。
結論。
服装はメイド服と分かればそれで良い。
そして綾乃がそれを着て、俺に奉仕する気持ちを表してくれたら大満足。
‥‥‥早い話、綾乃のメイド服姿が楽しみ。
証明終了(QED)
(まあ、一般教養程度にしか修めていない俺にはこれが限界か••••••)
歯がゆさがある。まだまだ精進せねば。
「隼人、入って来てもいいぞ」
事務所から綾乃が呼ぶ。
「待っていたぜ、この瞬間をよぉっ」
意気揚々と事務所に入った俺の目の前には奥ゆかしい、ヴィクトリアンスタイルのメイド服を着た綾乃が立っていた。
「••••••••••••••••••」
「••••••感想は?」
「••••••••••••••••••」
「何か言いたまえ」
「‥‥‥綾乃様、ほんっ、とうに、ありがとう••••••ぐすっ•••••」
「泣き崩れる程かい••••••」
綾乃の足元で膝から崩れ落ちてしまった。
涙で視界が歪む。見たいのに見えない。でも、感情と涙は止まらない。
そんな俺に目線を合わせるようにしゃがみ込み、一言呟く。
「本番は••••••これからだよ?」
何をされるのかは分からないが、嬉しさと期待で胸が張り裂けそうだった。
◇
「これから君には、私の言う通りにしてもらいたいんだ」
「ああ、分かった。何をしたら良いんだ?」
メイド服を着た綾乃に抱きしめてもらい、何とか落ち着いた俺は、綾乃の言葉に従う用意をした。
今の綾乃は、最高のパフォーマンスを叩き出すだろう。
「その前に、隼人には確認してもらいたいものがあるんだ」
「何を••••••」
疑問符を浮かべる俺に対し、綾乃は悪戯っぽく笑う。
「••••••これを、ね?」
俺の前で、ロングスカートを両手で掴み••••••ゆっくりと左右に広げながら上に捲り上げる。
綾乃の足首から太腿。それらが少しずつ顕になる。
そこまで見えたところで、着用しているストッキングに細い紐が付いていることに気が付いた。
••••••まさか。
「まさか、ガーター••••••」
「せいかい」
ふふっ、と妖艶に笑う。
俺の前にはストッキングから繋がるガーターベルトが見えていた。
あくまで下着や腰の部分は見えない。
だが、ガーターベルトがある、と分かった時点で想像が出来てしまった。
腰を回るガーターベルト。
そこからストッキングを固定する吊り紐。
それらに挟まれている白い下着。
「••••••破廉恥だ」
「別の言い方があるだろうに•••••」
古式ゆかしいメイド服を前に、思わず時代遅れの言葉が出てしまった。
「で、前から君にやって貰いたい事があってね?」
「任せろ」
綾乃のおかげでやる気は十分。ばっちこい。
「じゃ、こっちに」
綾乃に促されるまま、デスクの近くに向かう。
だが目的地はデスクではなく、窓際の壁。
「ここで、私を壁に押し付けてくれないかい?」
「はっ?」
「つまり、壁ドン。と言うやつさ」
壁ドン。
対象を壁に追い詰め、逃さないように手で制する行為。
綾乃はこれを期待しているのであろう。
「それは••••••」
一度はやってみたかったが、中々ハードルが高い行為だ。
「まあ、一度やってみてくれたまえ」
綾乃は壁を背にするように立ち、俺の手を引く。
丁度綾乃を壁に追い詰める形になる。
「••••••では、いきます」
何故か敬語になる。
そして、綾乃の顔の横から壁に手を付き、顔を近づける。
「••••••••••••恥ずかしいな、これ」
「いや、中々にそそるものがあるね」
俺も綾乃も、お互いに顔が赤くなる。
俺は羞恥心で。綾乃は期待と興奮で。
「今度は一言言いながらやってみてくれないか?」
「••••••どんどんハードルが高くなるな」
「頑張ってくれたら、隼人が喜ぶ事をしてあげるから」
「•••••••••••••分かったよ」
壁から手を離し、仕切り直す。
「じゃあ、どうぞ」
綾乃は自分の両手を胸元で抱き、待ちの姿勢をとる。
見た目からおどおどしている雰囲気があり、中々良い。
「では•••••••」
先程と同じ様に、壁に手を付く。
「••••••もう、逃さないぞ?」
「••••••••••••••••••んっ••••••」
綾乃がぶるり、と身を震わせる。
顔を更に上気させながら、満足そうな表情を浮かべている。
及第点は貰えたようだ。
「もう、いいか?」
「••••••••••••ああ。でも、もう少し捻りが欲しいな」
ちょっと失礼。と俺の手を取る。
「隼人、今度は私の手を掴んで壁に押し付けてくれないかい?」
「••••••••••••そういうのが好みだったな」
「無理矢理、というシチュエーションは‥‥‥好みだねぇ••••••」
にやにやしながら期待の眼差しを向けている。
「痛くしないように気を付けるが•••••••加減が出来なかったら、すまん」
「構わないよ。多少の痛みも大歓迎さ」
「••••••ドMか?」
「そうだとも」
ふふん、と自慢気に呟く。
すっかり変になっちゃって••••••
「では、参ります」
「ふふっ••••••どうぞ」
期待に胸を膨らませる綾乃。
(••••••俺も興が乗ってきた)
その顔を驚愕の表情に変えてやりたいと思った。
(••••••••••••今だ!)
俺は綾乃の両手首を片手で掴み、そのまま、綾乃の頭上の壁に押し付ける。
「••••••あっ」
まさか片手で両手を押さえられるとは思わなかったのだろう。
そして、空いた片手で綾乃の首筋から顎にかけて撫でながら、今の綾乃を表す言葉を告げた。
「この、変態が••••••」
割と素直に言葉が出た。
多分、本心だろう。
「あっ•••••ぁぁっ••••••」
先程よりも真っ赤になる。
唇を震わせながら、助けを求めるように目を泳がせていた。
だが、逃さないように顔に近づけた手に力を込める。顔を俺に向けさせた。
「たっぷりと虐めてやるから••••••覚悟しろ」
「••••••っ、はぁぁっ•••••••••••」
涙目になりながらも、恍惚の表情を浮かべていた。
「••••••••••••っはあ!駄目だっ!耐えられん!」
綾乃から離れる。
慣れない行為と言葉責めに羞恥心が限界を迎えた。
「••••••••••••あっ」
綾乃は名残惜しそうに俺を見つめる。
「もう、良いか?頑張ったぞ?俺。」
「••••••••••••あ、ああ••••••ありがとう。おかげで新しい扉を開けたよ」
正気に戻ったのか分からない返事が帰ってきた。
「なら、今度は俺の番だな?期待しているぜ?」
「••••••ふふっ、ああ。満足させてあげるよ」
綾乃は興奮したまま、俺の期待に応えると約束してくれた。
◇
「先に言っておくが、少し過激な事をしてもらう」
「今迄のが健全だとでも言いたいのか?」
俺の趣味については別。
「まあ、そうかもしれないし、そうじゃないかもしれないね」
「••••••何度も言うが」
「分かっているさ•••••••••••まあ、隼人が我慢出来れば、だが」
「何をさせる気だ••••••?」
「••••••今からする事は、私でもかなり勇気がいる事でね」
「何をする気だっ!?」
綾乃がこんな事を言うのは珍しい。
「では、隼人。私を後ろから押さえてくれないか」
綾乃はその場で背を向け、両手を壁に付けた。
足を自然に広げつつ、俺の方に腰を軽く突き出す。
スレンダーな背中と腰、豊かな臀部が俺の眼前に広がる。
「••••••••••••はっ?」
綾乃の言葉に頭が真っ白になる。
「ほら、早く」
「いやいやいや!何をしているんだよ!?」
「何って?••••••背面立位だが?」
その姿勢のまま、顔だけ俺の方へ振り向く。
見たら分かるだろ?とでも言いたそうな横顔だ。
「••••••まさか」
「後背位の一種だよ、つまり立ちバ•••••」
「言うな言うな?!止めろ、洒落にならんからっ!」
言い方を変えるだけで生々しい感じがする。
「まあまあ、いいじゃないか。その真似事なんだから••••••それとも」
挑発するかのような笑みを浮かべ、こちらをじっと見つめる。
「勇気がないのかい?‥‥‥臆病者」
「••••••」
綾乃がわざと挑発をしていることは分かっていた。
ならば、受けてやるのもやぶさかではない。
決して『生意気なことを言いやがって』とは思っていない。
「生意気なことを言いやがって‥‥‥」
‥‥‥あ、言っちゃった。
そのまま綾乃後ろから覆いかぶさるように壁につけていた両手を抑え込む。
「あっ‥‥‥」
俺の目の前で小さく喘ぐ。
第三者から見た今の俺は、綾乃を背中から襲い、そのままま逃げられないように両手を押さえながら壁に押し付けている輩にしか見えないだろう。
「‥‥‥」
息が掛かるほどの距離に綾乃の艷やかな髪が見える。
勢いが付きすぎた為、綾乃の背中に密着してしまった。
背中や臀部の感触が身体の前面に伝わる。
「はぁ‥‥はぁ‥‥っ」
綾乃の息が荒い。
(息が荒い?‥‥‥あっ)
臀部にも密着している。
こころなしか、その豊かなものが動いている。動きに合わせて心地よい刺激を感じる。
「‥‥‥これは」
綾乃は真似事といっていたがこれはもはや‥‥‥
「はぁっ‥‥‥隼人、少し下がるぞ?」
「うおっ‥‥‥」
ぐいっと、腰が押される。
同時に押さえている両手が下の方へずらされた。
綾乃は壁に向かって腰を曲げる形で前傾姿勢になる。そのため、俺も軽い前傾姿勢を強いられた。
視線が少し下がる。
(以前、事務所で見た体勢を思い出すな‥‥‥)
コート姿で臀部を突き出す綾乃の姿が想起される。
掴みやすそうな身体だと思っていたが、場面が変わるだけで印象が変わる。
「••••••最後は、この姿勢が良いんだよねぇ」
意味深な事を呟く。
そんな中でも綾乃の動きは止まらない。寧ろ悪化している。
「はっ‥‥‥ぁ‥‥‥ぁっ‥‥ん」
「‥‥‥妙な気分になりそうだ」
「‥‥ふふっ‥‥はぁっ‥‥はぁ‥‥そうかい‥‥」
俺の言葉を聞いてから、綾乃は動きを緩める。
焦らしか‥‥?と思ったがそうでは無かった。
「隼人、一回手を離してくれないか?」
「次は何だよ‥‥?」
「まあ、いいから」
綾乃の言う通りにする。
一時的に解放された綾乃は、何を思ったのかそのままの姿勢で、スカートの後ろ側を大きく捲り上げる。
一瞬、ガーターベルトと白い下着が見えた。
「んっ‥‥しょっ‥‥ほら隼人、また押さえて」
「‥‥‥クレイジーな奴だな」
すっぽりと俺の下半身がスカートで隠れる。
見えなくなった代わりに、綾乃の体温を更に感じるようになった。
それもそうだろう。
今は薄い布1枚と普通の布2枚分しか、俺達を隔てていないのだから。
「‥‥‥下手したら、洗濯物が増えるかもしれないね‥‥‥」
その状態で先程よりも大きな動き見せる綾乃。
数分前に感じた刺激が、更にリアルさを帯びる。
「いちいち、いやらしい言い方しか出来んのか‥‥‥」
「確かっ‥‥に‥‥いやら‥ぁ‥‥っしいことは、しているっ‥‥と、思うけど‥ぉ‥ね」
動きに合わせて声が上ずる。
「おかげで一部分が元気になってきたんだが‥‥‥」
「健康っ‥‥で、良いじゃ、ないかぁ‥‥」
そんな問題ではない。
「なら‥‥っ‥‥‥そのままぁっ‥‥私の‥‥腰っ‥‥を掴んでも‥‥いいよぉ」
「ここまできたらヤケだ‥‥!」
綾乃の提案に従い、両手で綾乃の細い腰掴む。
(細っ‥‥普段とは違う姿勢でこんなにも変わるとは‥‥)
普段からスキンシップを欠かしてはいないが、こうもシチュエーションが変わるだけで感覚も変わるとは思わなった。
驚いているうちに綾乃が更に上半身を曲げる。
更に押される腰。
綾乃の頭から腰に至るまで、一望できる姿勢になっていた。
片手で窓際に掴まり、何とか姿勢を維持している。
(つらそうだな‥‥‥なら)
俺は片手で綾乃の肩を掴み、上半身を起こす。
「ふぇっ!何事ぉっ?」
思わぬ感覚に素っ頓狂な声を上げる綾乃。かなり珍しい。
「綾乃、そのまま横にずれろ。で、窓の方へ手を乗せるんだ」
「こ、こうかい?」
困惑しながらも窓際の僅かなスペースに両手を乗せる。
両手で体重を乗せることができ、多少は楽になるだろう。
「ここまできたらとことん、だな」
「何を‥‥‥ちょっ、隼人?!」
俺はそのまま窓に掛かっていたブラインドを調節する。
日光が室内へ入りすぎないように角度を付けていたが、その角度を平行にした。
「うぉっ、まぶし」
一気に日光が入る。眩しい。
それもその筈、今日も快晴。
おかげで事務所の下の通りには外出している人が多い。
「ばっ、馬鹿っ!流石にこれはっ‥‥
んんっ‥‥!」
想定外の事に焦る綾乃。
その綾乃の言葉を遮るように俺も動いてみた。
丁度良いタイミングだったのだろう。
思った以上に効果あった。
「これは、ゾクゾクするな‥‥‥」
半ばヤケになっていたので興奮が押さえられない。
「見られちゃうからっ!‥‥早く窓を‥‥っぅん‥‥?!‥‥腰っ‥‥止めっ‥あんっ!」
更に2回動かす。
きゅうしょにあたったようだ。
綾乃の膝が小さく震えていた。
「‥‥‥膝を痛めると悪いからな」
「ひゃぁっ!?」
臀部を両手で押さえる。これなら身体を支えることが出来るから、万が一、脱力しても怪我をしないようにすることが出来るしな。
「やっぱり、安産型だよな。綾乃は」
両手に適度な弾力と柔らかさを感じる。
いつまでも触っていたいと思うほどに。
「今、その話をするのかいっ‥‥それど、ひぅん!?」
「まあまあ‥‥良いじゃないか」
もう一度動く。
実に良い反応だ。
「完全に、楽しんで‥‥」
「喜ぶ事をしてくれると言ったのは綾乃だろう?‥‥‥でもまあ、そろそろ‥‥」
「そろそろって‥‥‥んんっ!」
俺もそろそろ限界だ。
これ以上は本気で洒落にならなくなる。
なので、最後に10回程度動いて終わることにした。
‥‥‥この時の俺は冷静では無かった。
「はやっ‥‥‥とぉっ‥‥‥あっ‥‥‥これっ‥‥いじょうはっ‥‥だめぇっ‥‥あっ‥あっ!‥あぁっ!‥んぅっっ!!?」
きっちり10回。
あまりの興奮に、綾乃の喘ぎ声の変化に気がつくことが出来なかった。
動き終わった瞬間、綾乃の全身が大きく震えた。
「‥‥‥っはっ!?やりすぎたっ!」
綾乃の膝がガクガクと震える。
我に返った俺は直ぐに綾乃の腰を支え、ゆっくりと床につかせる。
「っはぁぁっ‥‥はあっ‥‥はぁっ」
「すまん、俺もどうかしていた!大丈夫かっ!?」
ぺたんと座り込んだまま、荒い息を吐く綾乃の様子を見る。
「ちょっ‥‥まっ‥‥てぇ‥‥いまは、だめぇっ‥‥」
綾乃は片手で顔を隠す。恥ずかしい事は分かる。
だが、もう片手は何かを隠すかの様にメイド服のスカートを床に押し付けていた。
「本当に大丈夫か!?」
様子がおかしい。心配になった俺は綾乃を抱きかかえてソファに寝せようとするが‥‥‥
「いまは、駄目ぇっ!!‥‥‥」
「‥‥‥うおぉっ!?••••••だ、大丈夫、なのか‥‥?」
強く拒否されてしまった。
「大丈夫だからっ、隼人はっ‥‥少し、外で待ってて‥‥••お願い、だからっ••••••」
びっくりした。
こんなことは初めてだ。
同時に綾乃がそうした理由が分かった。
綾乃の足元が僅かに光っていた。
日光で、何かが反射している。
「‥‥‥‥‥‥‥本気ですまん。悪かった」
理解した瞬間、咄嗟に目を逸らす。
「‥‥‥‥‥‥‥」
「外で待っているから‥‥‥終わったら呼んでくれ‥‥‥」
「‥‥‥‥‥‥‥」
顔を伏せていたからよくわからないが、髪の隙間から見える耳が真っ赤になっていたので相当恥ずかしい思いをしているのであろう。
俺の言葉に返事はないが、こくん、と小さく頷いているのは分かった。
◇
先程まで事務所の外で待機していたが、やはり結構な時間が掛かった。
だが、おかげで熱に浮かされていた頭を冷やすには十分であった。
「‥‥‥入って来て」
事務所の扉が開けられ、小さく呼び声が掛かる。
扉の隙間から、ちらりと見えた綾乃の顔は、まだ赤いままだった。
ちなみに綾乃は元の私服に着替えていた。
先程まで着ていたメイド服は、影も形も見当たらない。
どこにいったのかは詮索しない方が良いだろう。
「‥‥‥あんまり探さないでくれよ」
批難するような目で見てきたため、素直に従うことにした。‥‥‥床は綺麗になってた。
お互いに対面でソファに座る。
「‥‥‥」
「‥‥‥」
沈黙が続く。
気まずい。
「まあ、なんだ‥‥‥愉しかったし、嬉しかったぞ?」
「‥‥‥‥‥それはなによりだ‥‥」
俺の言葉を聞いて、息を吐く。
少し落ち着いた様だ。
「‥‥‥••••••私は、何をやっているんだろうな」
「何を‥‥‥?」
綾乃の表情が暗くなる。
嫌な予感がした。
「隼人をけしかけておいて、余裕が無くなるとあのざまだ‥‥‥こればかりは変わらないんだな‥‥‥」
(さっきのあれか?別に俺は‥‥‥)
先程の綾乃からの拒絶。
まあ、恥ずかしい時はしょうがないと思うが。
「‥‥‥別に俺は気にしていないが‥‥」
本心だ。それ以上でも以下でもない。
「ありがとう‥‥‥そう言ってくれるだけで、助かるよ‥‥」
ほっ、とした雰囲気は感じる、
だが、どこか陰が‥‥。
「‥‥‥綾乃、変なことは考えるなよ?」
なんとなく釘を刺しておく。
「‥‥‥何を心配しているのか分からないが、まあ、大丈夫だよ」
「‥‥‥‥‥‥なら、良いんだ」
「‥‥‥ああ、大丈夫さ‥‥‥••••••••••••もう、隼人の重荷には‥‥‥」
「‥‥‥‥‥‥綾乃?いま‥‥‥」
「話は終わりだ。隼人。今日は休みにしよう••••••私も思ったよりも体力を使った様だ。明日から通常営業にするから、そろそろ帰ろうか」
最後の言葉を聞き取れなかった。
聞き返そうとしたが、綾乃の言葉にかき消されてしまう。
この時。無理矢理にでも、真意を確認するべきであった。
「‥‥‥‥あ、ああ。分かった」
話は終わり、と表情を明るくする綾乃。
綾乃は話を終わらせたがっている。
俺もその意図を汲んで仕事を止め、帰り支度をした。
「じゃあ、また明日」
「ああ、気をつけてな‥‥‥」
事務所の鍵を閉め、互いの家に帰る。
いつもの仕事終わりの風景。
いつものように別れの挨拶をする。
(また、明日、か‥‥‥)
その言葉を真に受けた俺が馬鹿だったと気がついたのは、かなり後になってのことであった。
おわり?




