第29話 闇の胎動
暗い地下の石畳を歩く女性のような華奢な足、その足を包むヒールの靴からカンカンという足音が地下をこだまする。
その女性は黒い三角頭巾をかぶった者が話しかけている。
「ここ寒いわねぇぇ」
三角頭巾をかぶっている者それは暗黒教団、教祖シスディアス
シスディアスに話しかけた女性は、長く黒い髪に右の下唇の下に小さな黒いほくろがあり、胸元がはだけた真っ黒いドレスを纏っている。
「実は……アンデッドになってしまいまして……脳みそが腐らないように気温を下げております」
「ギャハハハハ!! あなたアンデッドになったの?せっかく生者の呪いを掛けてあげたのに」
「ある男にやられました……」
「ふーん。あなた人間の中じゃ強かったから選んでやったのにねぇ」
「……すいません……」
シスディアスが謝るとその女はパンと手を叩く。
「私がここに来た理由は分かってるでしょ?」
「……は、はい……」
シスディアスは返事をすると祭壇の奥に進み小袋を取り出す。
そしてその女の元に行き小袋を手渡す。受け取った女は眉をしかめる。
「たったこれだけ? 毎月金貨20枚っていったでしょ?」
「す、すいません……アリステル家が裏切った所為で……儂もこんな体になってしまった故……」
「まあいいわ……もうすぐあれが手に入るし、あなたも用無しになるから」
「え?」
するとシスディアスの首は鋭利な刃物のような物に斬られコトリと落ちる。
落ちた首が女に向けて話しかける。
「そ、そんな……」
「そっかあなたアンデッドだったわね」
「そうです……」
「あなたを倒してアンデッドに変えた人間、覚えてるかしら?」
「憎たらしいあの顔、忘れる訳がない!」
「ふーん。そ」
女はそういうとシスディアスの頭を持ち上げ、眉間の辺りに指を突っ込む。
「いたぁい!」
と声上げるシスディアス。
「ふーんかわいい顔してるじゃなぁい。確かに人間にしては強いわねぇ」
シスディアスの頭部を地面に捨てるとその女はヒールで頭を踏み抜いた。
◇◆◇
馬車の扉が開くとディアゴさんの姿が見え、どうぞという仕草をしている。
俺の方が扉に近い方に座っていた為、そのまま降りて体を伸ばそうとすると……
「うううん」
というディアゴさんの咳払いの音が聞こえる。
あーそっか、馬車を降りた時から見てるって言ってたな……
ということは、奥に居るアリシアをエスコートしなきゃダメだな。
如何にもそれが当然のかのような立ち振る舞いで、手を差し出してアリシアをエスコートする。アリシアも当たり前の様に俺の手を掴んで馬車から降りる。
ふふふ。完璧だ。もしこれが分身だったら気が付かずにそのまま向こうに行っていただろう。あいつはバカだからな!!
アリシアの手を引きながらお屋敷の中に入って行く
「それじゃ私は着替えてくるから」
アリシアと別れディアゴさんに付いていくと応接室に通される。
この前、来た時はアリシアの部屋にしか行ってないから初めての場所だ。綺羅びやかなツボや絵などの装飾品が置かれている。
応接室で一人座って待つ。左を見ても右を見ても上を見ても下を見ても全て高そう……
高そうな装飾品に囲まれて使うのは審美眼(中)この中で一番値打ちがあるものがこれで分かる。決して泥棒をするというわけではない。決して……
もしアリシアのお父さんにお土産になにかどうぞと言われた時、迷わずにこれと答える為に調べておくのだ。
俺は本物が分かる男だからな。
ということで審美眼(中)を使って部屋の中の装飾品の数々を凝視する。
壺や絵などどれも高そうだが……俺の目が選んだものは意外にも応接室の部屋の隅にある古ぼけた小さな木箱だった。
なんだあれ?全然金ピカじゃないし高くなさそうなんだけど……近寄って持ち上げてみるが古ぼけた小さな木箱。手の上に乗せてみたりしたけどなんの価値もなさそう。
それよりも隣の壺や大きな絵画の方が遥かに高く見える。
まあ(中)だしな間違うこともあるんだろう……その箱を元の場所に戻した時にコンコンとノックをされた。
「どうぞー」と返事をすると扉が開いて扉の向こうには薄いピンクのドレスを着たアリシアが立っている。
元々美少女だとは思っていたが薄い化粧とその衣装の所為か、幼さが影をひそめ女性としての美しさが際立っている。
その姿を見て俺は頬が熱くなる感覚を覚えて目を逸らす。
「どう? お母様のドレスを借りたのだけれど」
「う、うん……よく似合ってます……」
「そう! それは良かった。それじゃ行きましょう。お父様とお母様がお待ちですわ」
アリシアと晩餐会の行われる部屋に向かった。




