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Absolute Zero 5th  作者: DoubleS
第八章
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発火

「これは、メモリだな。このご時世で一ギガもないとは、十年近く前の代物だな……」

 文香は倉庫にあった段ボール箱の中身を調べていた。勝手に漁るのはよくないかもしれないが、この放置具合から見て、持ち主は大して価値があるとは思っていないに違いなかった。なので、文香も勝手に触っても問題ないと判断した。

 緑色の基盤を放り投げると、文香は次の段ボールに目を移した。

「……この箱は妙に新しいな」

 周囲の箱とは異なり、その箱は非常に新しいものだった。今までの箱は湿気を吸い込んで柔らかくなっていたり、日に焼けて変色していたり、何よりもほこりまみれだった。それなのに、この箱にはまったくと言っていいほどほこりが積もっていなかった。最近持ち込まれたものであることは明らかだった。

 ガムテープで密閉されていたので、文香は開けてよいのか躊躇した。まだ新しいものである以上、持ち主は勝手に開けられることを望んでいない可能性が高い。

箱には宛て先も送り主も何も書かれていなかった。サイズは一人で運べるほどで、重さもそこまでではない。揺さぶってみても、中身は特に音を立てなかった。

「霜華、少しこちらに来てもらえるか?」

 呼びかけると、表にいた霜華は倉庫の中に入ってきた。

「お前は、今日の昼にここに来たのだったな」

「ええ、確かに来たけど……」

「この建物、鍵はかかっていなかったと聞いた。事実、先程も鍵を使わずに戸を開けた」

 霜華はうなずく。文香は慎重な口調で続けた。

「…この箱だが、明らかに周囲のものとは違う。最近持ち込まれたものだ。見覚えは?」

「……そこまで詳しくは覚えてないよ。初めからここにあったのかもしれないし、なかったのかもしれない。ごめんなさい。でも、多分なかったような気がする……」

 文香は少し考え込んだのち、霜華の目を見据えた。霜華も文香の視線にうなずいた。

「霜華、私が言わんとしていることはわかるな?」

「ええ、この建物には誰でも入れる。その箱に何か危険なものが入っているかも…」

 二人は声を低くして話していた。西村に聞かれまいとするためだ。これ以上彼に精神的な負担を加えたくはなかった。話すのは中身を調べてからでも遅くはない。

「この際だ。この建物や荷物についての責任などどうでもよい。安全には代えられない」

「うん、わかってるよ。それで?」

 文香は晴代と違って、霜華が余裕で話についてこられることを内心で喜んだ。

「魔力がらみの何かなら、私には判別できない。開けた途端に何が起こるかわからない以上、軽々しくは扱えない。そこで……」

「大丈夫、魔力的には普通の物体。中から魔力的な何かは感じない。仮に魔力的な何か入っていたとしても、少なくともトラップ的なものではないと思う」

「では、非魔力的な何かということになるな。爆弾、発火装置、毒ガス……」

「できれば、杞憂に終わってほしいけれど……」

 文香は額に汗を浮かべながら、ガムテープを剥がそうとした。しかし、霜華は止めた。

「ブービートラップの可能性もある。開けた瞬間に……」

「しかし、開けなければ中身がわからないままだぞ」

 文香も霜華も黙り込んでしまった。しかし、このジレンマを放置しても危険は消えない。文香はしばらく考え込んでいたが、良案を思いついた。

「霜華、この箱をとにかく冷やしてくれ。中身が物理的なものなら大丈夫だろう。爆薬だろうが毒ガスだろうが、超低温なら反応性は低くなる」

「こんな局面で私の能力が役に立つなんて思ってもいなかったけど、この際仕方ないか。文香、開けるときには手袋をしてね。凍傷になるから」

 霜華は腕をまくると箱に触れた。箱は冷やされて結露し始めたが、霜華はまだ冷却を続ける。冷やされ続けた箱はやがて結露の水滴すら凍り、霜だらけになった。

「ここまで冷やせば大丈夫だろう。開けるぞ」

 カバンから軍手とカッターを取り出すと、文香は勢いよくガムテープを切り裂いた。箱のふたを開けると、綿にくるまれた機械が入っていた。

「私、機械はあまり詳しくないけど、これってもしかして……」

「…杞憂に終わらなかったな。残念ながら」

 文香は慎重に機械を観察する。そして、冷や汗を拭うと霜華に微笑んでみせた。

「杞憂ではなかったが、最悪の事態でもない。大丈夫だ」

「どういうこと?」

「信号受信型の自動発火装置だが、爆薬はない。その代わりに少量の可燃性液体、おそらくガソリンか何かだろうが、今は凍結しているが、瓶として隣に置いてあるだけだ」

 仕組みとしては、信号を受信してごく小規模の爆発を起こして隣の瓶を割り、中の液体に引火させるものだった。おそらく、装置を包んでいた綿も可燃性液体を染みこませたものだろう。低温で揮発しないので臭いがなく、断言はできないが。

「リモコン式の火炎瓶と言えばいいだろうか。おそらく、爆風による殺傷よりも、ボヤを起こして相手をパニックに陥れるのを目的として作られたのだろう」

「だとしたら、この建物から人をおびき出すのが目的?」

「おそらくは」

「爆発して火災が起これば、当然、中の人間は外に出てくる。ということは、外に……」

「敵がいる。おそらく待ち伏せしているだろう」

 短く答えた文香に、霜華は箱を預かる旨を伝えた。

「外に放り出してくる。海にでも沈めてしまえば安全だと思う。ついでに外に怪しい人がいないかも調べてくるね」

「任せた。では、戻ってくるまで私が表を見張ろう」

 文香は表に出た。霜華は箱を冷却し続けながら、慎重に海に向かって歩き出そうとするが、そこで文香は本来いるはずの人間がその場にいないことに気付いた。

「三条はどうした?」

「一人で考えたいことがあるからって、散歩に行った。十分ほどで戻ると言ってたから、そろそろ戻ってくるはずだけど」

 霜華はそう答えると、慎重に、しかし早歩きで海の方へ向かって歩き出して、やがて文香の視界から消えた。

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