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Absolute Zero 5th  作者: DoubleS
第七章
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集合

「人が多すぎるぜ…さすがは渋谷……」

 都会の喧騒の中で、ハチ公前に杖を持って立ち尽くしている青年は一人つぶやいた。その隣で、ふわふわの金髪を蓄えた少女が不機嫌な表情で同じく立ち尽くしている。

 時計を見ると、針は九時の十分前を指している。待ち合わせとしては、ちょうど良い時刻だった。とはいっても、待ち合わせの相手の顔は知らない。相手には自分が杖を携帯していることと、金髪の少女を連れていることを伝えてあるので、こちらを判別することはできる。しかし、こちらからはどうしようもない。

「龍太、お腹空いた。何でもいいから、何か食べたいな」

「おい、ついさっき、朝飯を食ったばかりだろう。ホテルの朝食バイキングを食い尽くしかけたくせに、まだ食い足りないのか。お前は!」

 西村は呆れ顔で自身の契約魔族を見つめた。しかし、これも毎度のことで、いつもと変わらないやり取りに、西村は自身の心が落ち着くのも感じ取った。

 自分は、これから日常とはかけ離れた行動を起こす。その緊張感をセイスは少し解きほぐしてくれた気がした。それだけでも、彼女に感謝すべきかもしれない。

 少し穏やかな顔で隣の少女を見つめていると、やがて駅前の交差点に荒っぽい動きで車が入ってきた。そして、二人の近くで車が止まり、よろよろと一組の男女が降りてきた。女性の方は平気そうだが、男性の顔は今にも吐きそうなほど蒼白になっている。

「おええ……だから、僕は地下鉄を使うって言ったんだ……」

「渋滞回避テクなら、レイの腕前はピカイチよ。地下鉄よりも早く着いたわ」

「……地下鉄よりも早くと言ったって、たった数分だろう。その数分のために、無茶な運転につき合わされる僕の身にもなってくれ。おかげで体力が半分削られたぞ……」

 ふらふらとした足取りで、彼らは西村の方へ歩いてきた。ハチ公の近くまで来ると、男の方は倒れるように座り込んでしまった。

「よう…西村。今日もいい天気だな……元気そうで何よりだ……」

「三条…お前って、そんなに乗り物に弱かったっけ?」

「……車に弱いんじゃなくて、急ブレーキ、急ハンドル、急発進のオンパレードだっただけだ。渋滞に巻き込まれまいと運転手がかなり荒い運転をしたからな」

 霧矢が言い終わるとともに、霧矢についてきた女性が前に出た。西村も昨日に姿を見て少しだけだが、言葉も交わしている相手だ。

「おはようございます。昨日は池袋駅でお会いしましたね。覚えておいでですか? 片平美香です。西村龍太さんとセイス・ヒューストンさん」

「…お、おはようございます」

 西村は目の前の令嬢にどう答えてよいのかわからず、挨拶を返すことしかできなかった。その一方で、セイスは美香に対してはまったく興味を示さず、何の反応もしなかった。彼女の視線は顔面蒼白な霧矢の方へ向けられていた。

「霧矢……大丈夫? 大分体調が悪そうだけど……」

「……十分ほど休めば、回復するはずだ。話はそれからにしてくれ……」

「わかった」

 弱々しい口調で答えた霧矢に、セイスはため息をつくと、初めて美香を直視した。

「……あなたは、何故ここに? 何か私たちに用事でも?」

 セイスの口調は、美香に対して幾分かの不信感や敵意といったものが含まれていた。しかし、美香は気にすることもなく明るい口調で答えた。

「お時間があるのなら、一緒にお食事でもと思いまして」

 その瞬間、霧矢の表情が苦いものになるのを西村は見た。その一方で、いつもなら目の色を変えて反応するであろうセイスが、まったく動じないのも見えた。

「その答えは保留にさせてもらうわ。時間があるかどうかもわからないし」

 淡々とした口調でセイスは返した。美香は笑顔のまま、霧矢に顔を向けた。

「……一応、予約を入れておきましょうか?」

「結構だ。それに、そんな金持ちが行くレストランは僕の趣味じゃない」

 霧矢が冷たく突き放すと、美香は残念そうな表情を浮かべた。そんなぎこちない場の空気に、西村はややしかめ面でその場に構えていた。

 全員が無言のまま、渋谷の雑踏の中に立ち尽くしていた。やがて、どこからともなく、後ろ髪を束ね、黒のスーツを着た男が、四人の下に近づいてきた。

「初めまして。僕が、クリスこと、クリストファー・クロカワだ」

 声は爽やかだったが、彼の顔は疲れ果てているようにも見えた。クリスは四人をそれぞれ一瞥すると、ふむ、という声を発した。

「魔力を発していないのが二人、桁外れの水の魔力の持ち主が一人、一般人が一人…か。と、いうことは、そこの二人が、セイス君と龍太君。桁外れの水の魔力の持ち主が霧矢君。その隣が、片平美香嬢…ということでよろしいかな?」

「ええ、その通りよ」

 西村に代わって、セイスが答えた。セイスの目には警戒の色が浮かんでいる。

「君たち二人はともかく、後ろの二人が来るとは聞いていなかったが……」

「……霧矢は私が呼んだわ。でも、お嬢様までもが来たのは私にも予想外」

 クリスは腕組みすると、四人の顔を順々に眺めて、しかめ面を浮かべ、困惑の唸り声をあげた。そして、仕方ないといった表情を浮かべて、口を開いた。

「事務所はあんまり広くないけれど……我慢してもらいたい」

 それだけ言うと、クリスはついてくるようにと言い、そのまま渋谷の裏路地に向かって歩き出した。その後ろに、セイスと美香。さらにその後ろに、傷と乗り物酔いで動きが鈍くなっている西村と霧矢が続いた。

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