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Absolute Zero 5th  作者: DoubleS
第七章
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諦観

 廊下を歩いていると、霧矢の携帯にメールが入った。送信者は晴代とある。どうせ下らない内容だろうとため息をつきながら確認すると、内容は予想外のものだった。

 ――セイスが、霧矢と会って話がしたいって。九時に渋谷のハチ公前で。

(……セイスが、僕と話がしたいだって?)

 理由として思い当たることはいくらでもある。しかし、直接話さなければならないほどの重要な用事となると、話の内容は限られてくる。

「……まさか……本気で……」

 昨日の霜華の話が本当だとして、西村がセイスに何らかの命令をしたと考えるのが妥当だろう。そして、その命令の内容も考えてみれば、大方の予想はつく。

「……場合によっては、乗り込む気だな……」

 霧矢は足を止めると、腕時計に視線を走らせた。すぐに準備を終わらせて、家を出なければ、約束の時間には間に合わない時間だった。

 霧矢は駆け足で部屋に戻ると、貴重品をポケットに入れ、コートを羽織った。そのまま屋敷を出ようと、部屋のドアを開けると、美香がドアの向かいの壁に寄りかかっていた。

「またか……」

「そんな顔しないで。傷つくわ……」

 またしても、わざとらしく美香は悲しそうな表情を浮かべた。

「いい加減にしてくれないか。急用ができたんだ。今日は、自由に行動させてもらう」

「だったら、レイに送らせるわ」

 美香は待ってましたとばかりに、得意げな表情になった。

「自力で行く。それに、車で行っても、渋滞に巻き込まれる可能性がある」

「じゃあ、私がついていくわ」

「お前、僕が朝食の席で話していたことをもう忘れたのか! 裏社会の事情に、お嬢様が首を突っ込むべきじゃないってことを!」

 霧矢は憤りで顔を赤くすると、美香に食ってかかった。しかし、美香はやっぱりという納得の表情を浮かべた。

「やっぱり、そういう裏社会がらみの事件ね。で、誰から呼び出されたの? 塩沢さん?」

 霧矢は無視しようとしたが、無視したところで、美香は食い下がるに決まっている。だとしたら、素直に答えてさっさと終わらせるに限る。

「セイス・ヒューストンから。僕に会って話がしたいらしい」

「何を?」

「さあ? 内容については何も言っていない。だから、会って話すまではわからないな」

 霧矢はそれだけ言うと、そのまま玄関ホールに向かって歩き出した。しかし、美香も後ろからついてくる。霧矢はため息をついた。

「大切な用事なんだ。ついてこないでくれ」

「内容について何も説明されてないのに、どうして大切な用事だとわかるのかしら? ましてや、裏社会がらみの事件だなんて」

「セイスは西村の契約魔族だ。そして、昨日の出来事と今日の西村の予定。そこから、推測することができないほど、僕も愚かじゃない」

「でも、あなたは危険なことなら手伝わないと言ったわ。だったら、私がついて行っても問題ないでしょう。だって、危険なことじゃないんだから」

 どうやら美香は詭弁を弄してまで、霧矢についてきたいらしいようだ。霧矢は足を止めると、うんざりした表情を美香に向けた。

「もしも、職業を自由に選べるのなら、きっと新聞や雑誌の記者が向いてるな。お前は」

「……残念ながら、それは叶いそうにないわ。片平家が、株式会社京浜製薬の経営権を握り続けている限りはね」

 美香はため息をつくと、廊下の壁にかかっている内線電話を取り上げた。

「レイ? 車を用意してちょうだい。霧矢が出かけると言っているわ」

「必要ないと言ってるだろ。お嬢様はゆっくり留守番していてくれ」

 霧矢の言葉を無視して、美香は淡々と車の手配を済ませた。受話器を戻すと、美香は満面の笑みで、玄関前のロータリーに車が止まっている旨を伝えた。

「さあ、準備はできたわ。行きましょうか」

「ついてくるな。個人のプライバシーに関わるんだから」

 そうは言ったものの、霧矢はもうすでに諦めていた。

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