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Absolute Zero 5th  作者: DoubleS
第六章
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62/86

承諾

 荒々しい運転が終わり、片平家の玄関前のロータリーに車が止まった。霧矢はふらふらとした動きで車から降りると、大きく伸びをして屋敷に足を踏み入れた。

「やれやれ、長い一日だったな………」

 やたら広い片平家の中を歩きながら、霧矢はあくびをした。部屋に至る廊下の曲がり角を曲がろうとした途端、霧矢は突如殺気を感じた。

「…っ!」

 曲がり角の死角となっていた場所から飛びのくと、そこに美香がいた。

「……不意打ちも効かなくなってきたのは、残念ね……」

「それは残念だったな。何をするつもりだったのかは知らないが」

「……麻酔薬を染みこませたハンカチとか?」

「貴重な薬をそんなことに使うな。仮にも製薬会社のお嬢様なんだから。それ以前に、そんな劇物を、こんなお屋敷に保管しているとは思えない」

「まあ、そうよね。ボイラー室とか、薬品保管庫には、私は立ち入らせてもらえないわ」

 美香は腕組みすると、霧矢の目を凝視した。彼女の目には恨みがましい色があった。

「……僕に何か言いたいことがある。そんな目だな」

「あなたのせいで、私は大変に苦痛な時間を過ごす羽目になりました。その責任を取ってもらいましょうか」

「いったい何があったのかはわからないが、明らかに僕の責任ではないと思うぞ」

「あなたを送った後、戻ってきたレイに三十分近くも説教されたわ。わざわざ説教するためだけに戻ってきて、説教が終わったら、またあなたを迎えに出て行ったけれど」

「池袋まで往復するのは、レイさんも大変だっただろうが、妥当な判断だと思う。電話で説教しても、切られてしまっては意味がないだろうし」

 霧矢がしみじみとした口調でつぶやくと、美香は憤慨したように拳を振り上げた。霧矢は反射的にバックステップで後ろへ下がった。すると、美香は少し悲しそうな顔をした。

「…あなたは、私がまるで敵であるかのような反応をするのね」

「僕の身に危害を加える可能性のある存在であることは確かだろうな」

「また、そんなことを言う……ひどいわ……」

 美香はややうなだれると、霧矢に背を向けた。

「下らない演技をするな。とにかく、僕は疲れた。さっさと部屋に戻らせてくれ」

 ため息をつくと、霧矢はそのまま廊下を歩き出した。部屋のドアを開けると、完璧に掃除された状態になっており、ベッドのシーツはしわ一つない状態で整えられていた。

 あまりの綺麗さに感心していると、携帯電話が振動した。画面を見ると、発信元は木村文香とある。やや不審に思いながらも、霧矢は通話ボタンを押した。

「はい、もしもし。三条だが」

「……ちょっとした頼まれごとを受けてもらいたいのだが、構わないだろうか?」

「内容にもよるな。それが面倒事ならばお断りだ」

「……塩沢と連絡を取ってもらいたいのだ。今すぐに」

 その瞬間、鏡に映っていた自分の顔が歪むのが見えた。できるだけ声の調子を平常時に保ちながら、霧矢は通話を続ける。

「何のためにだ。僕はあいつとはできるだけ関わりたくないんだが……」

「クリストファー・クロカワの連絡先を聞きたい。私は連絡先を聞きそびれてしまったのだ。彼と塩沢は知り合いらしいから、連絡先を聞き出してもらいたい」

「……それはわかったが、何で今すぐになんだ。別に明日でもいいだろう」

「今すぐ、会いに行く必要があるからだそうだ」

「…だそうだ? ということは、会いに行くのは……」

 霧矢は最後まで言わなかった。しかし、文香も霧矢が何を考えているのかは、すでにお見通しだったようだ。

「ご想像の通り西村だ。どうしても、やり遂げなければならないことがあるから。とのことだ。無茶なことではあるが、私としては、協力することもやぶさかではない」

 霧矢は黙っていた。文香は霧矢が断ると思ったのか、ある事実を告げた。

「……セイスは承諾した。三条も承諾してくれることを望む」

「冗談はよせ。セイスがそんなことを認めるわけがないだろう」

「本当だ。セイスは承諾した。後は、貴方だけだ」

 霧矢は違和感を覚えた。文香の口調がいつものそれとは変わっていたからだ。

「……五分後、また電話する」

 霧矢は電話を切った。携帯を操作し、ディスプレイには塩沢雅史と表示された。

 ここで通話ボタンを押すべきかどうか、霧矢はしばらくの間、逡巡していた。

(…あの、セイスが、認めた?)

 にわかには信じられない話を耳にして、霧矢は混乱していた。今の西村の状態を考えれば、セイスは反対するに違いないと考えていた。しかし、彼女がそれを認めたということは、それ以上の何かがあったに違いない。

 しばらく考え込んでいると、少し前に話していた霜華の言葉が脳裏をよぎった。

「……命令、したのか」

 答えに到達した霧矢は、再び携帯電話を取り上げ、通話ボタンを押した。発信中の画面が表示される中、深呼吸しながら、親友の覚悟に思いを馳せた。

 その覚悟には、行動で応えることにしようと。


「……もしもし。塩沢だ。何か用でもあるのか、霧矢君」

「聞きたいことがあるんだ。大急ぎで」

 作者多忙につき、Absolute Zero 5th は、休載させていただきます。再開は、5月5日となる予定です。

 読者の皆様にはご迷惑をおかけしますが、なにとぞご了承ください。

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