確認
「それにしても、かかってきませんね…電話」
「…おかしいですね。ひょっとして、まだ自分が携帯を持っていないことに気付いていないのでしょうか?」
「でも、もう放置されてから二時間近くも経ってますよ。いい加減気付いても……」
午後二時に近づいたところで、霧矢はレイとともに池袋駅の中を歩き回っていた。美香からの電話はかかってこず、また自宅からの連絡も届いていない。
「…僕らも探してみますか?」
「この人ごみの中をですか? 効果は薄いと思いますよ」
レイはにべもなく返してきたが、霧矢もそれは認めざるを得なかった。何千何万という人ごみの中から、美香を見つけ出すことなどほぼ不可能に近い。
「…じゃあ、もう帰りませんか? 僕は人に酔ってきました……」
「そうですね。でも、帰ってしまうのもアレなので、ドライブでもしますか」
レイはやや明るい笑みを浮かべると、駐車場の方へ向かって歩き出した。霧矢も後に続くが、レイが何を考えているのかはよくわからないままだった。
「……あの、ドライブって、どういうつもりですか?」
「板橋や練馬の方を回ってみましょう。お嬢様を探すのを兼ねて。見込みは薄いですが」
駐車場で車に乗り込むと、レイは荒っぽい運転で道路に出た。助手席に座っている霧矢は目が回るのを我慢しながら、あたりを見回したが、そこには人ごみしかない。
「レイさん、もう少し、丁寧に運転してもらえませんか……」
「失礼しました。できるだけ、ゆっくり運転するように心がけます」
何事もそつなくこなすイメージのあるレイだが、どうやら車の運転だけは苦手らしい。それでも、それはあくまで快適性にのみ着目した結果であって、走行性や安全性については及第点に達していると霧矢は思った。事実、運転は荒っぽいものの、それは同乗者が気持ち悪くなるだけであって、他の車や障害物に接触しそうになったり、後続車からクラクションを鳴らされたりはしていなかった。
都会の人間はペーパードライバーも多いと聞く。田舎では車がなければ何もできないが、都会では保有しているとかえって邪魔になるとも聞いたことがある。それを考えると、きちんと事故を起こさずに運転できるだけでも、スキルとして認められるのかもしれない。
(それにしても、何か、様子が妙だな……)
普段の池袋がどのような様子の街なのか霧矢はそこまで詳しくないが、それでも今日の街の様子はどこかおかしかった。道行く人の多くが不安そうな表情を浮かべており、制服を着た警官も多く、彼らはかなり緊張した表情で市街地をうろついていた。
埼京線に沿って走っていると、霧矢の携帯電話が鳴った。画面を開いてみると、文香からメールが届いていた。珍しいこともあるものだと思ってメールを開くと、霧矢としては初耳の情報がそこにあった。
――池袋で爆発事故があったとニュースで聞いた。おそらく心配のし過ぎだとは思うが、念のため安否を確認したい。このメールに返信してほしい。
(爆発事故だって?)
とりあえず自分は無事であるという内容のメールを送ると、霧矢はその内容について、レイに話してみたが、レイも初耳であり、しばらく悩んだのち、車を路肩に止めた。
「本日の午後零時四十分頃に起きたようですね。男性一人が骨折や火傷等の重傷、女性一人が擦過傷等の軽傷だそうです。男性は病院に搬送され、軽傷だった女性は警察で事情聴取されているそうですが……」
スマートフォンを操作しながら、レイは答えた。霧矢はその瞬間、嫌なものを感じた。
「…女性一人が軽傷って…まさか、美香じゃないよな……」
「だとしたら、私どものところに連絡が入っているはずです。大丈夫ですよ」
レイの言葉で胸騒ぎを押さえつけながら、霧矢はとりあえず無言で携帯電話を操作し、電話をかけた。しばらくして、能天気な声で相手は電話に出た。
「もしもし、霧矢。何の用?」
「……木村からメールは届いたか?」
「え? あの爆発で無事かどうかってやつ?」
「ああ。一応、無事かどうか気になってな。電話させてもらった」
「心配しすぎだよ。でも、結構大きな音だったな」
霧矢は適当に話を打ち切ると、電話を切った。とりあえず、晴代は無事であることは確かめられた。問題は霜華だが、こちらから連絡の取りようがない以上、どうしようもない。しかし、どうしようもないせいで、不安感はよけいに強まっていった。確率としては、数千分の一だろうが、一抹の不安を拭うことが霧矢にはできなかった。
(今度から、プリペイドでもいいから、携帯を持たせておくべきか?)
霧矢が腕組みしていると、レイは再びアクセルを踏み込み、車を発進させた。できるだけ丁寧に運転するように心がけているのか、先程よりは快適な進み方で、車は東京都を北上していった。




