通報
「もしもし、こちら内野ですが。何かあったんですか?」
「内野君、今、君はどこにいるのかね」
「代々木にいますが。戻ってこいと言うのなら、今すぐ戻ります」
内野は時計を眺める。時計はすでに午後一時を回っており、油を売っていたとみなされても仕方がないのかもしれない。しかし、青葉の様子から何かあったことは確からしいので、叱責されるのを覚悟しながらも、わざとふてぶてしい声で答えてみた。
「…代々木にいるのなら、池袋に行ってくれんかね。また不審火だ」
「新宿の次は池袋ですか。どうせ、また原因は不明なのでしょう?」
「大方は原因不明だが、一つだけ、液体爆薬を使用した痕跡が見られるそうだ。アスファルトがえぐれていた。ここが今までとは少し異なるのだ」
「わかりました。他に何か情報は入っていますか?」
ポケットから手帳を取り出すと、ボールペンをノックしながら内野は尋ねる。いつもならば、何もないとの答えが返ってくるのだが、今日は違った。
「…どうやら、初めて犯人を直接見た者が出たらしい。それも二人だ。一人は被害者で病院に運ばれたが、それを救急に通報した目撃者が一人いるようなのだよ。詳しい情報は不明だが、十代ほどの女の子らしい」
「なるほど。では彼女に会ってくればいいんですね?」
「…所轄の担当が事情聴取をしているそうだが、我々が割り込めばいい顔はせんだろう。特にこの放火事件は性質が性質だ。彼女が彼らの満足のいく供述をしているとは考えにくい。そこに君が飛び込めば……」
「はいはい。できるだけ刺激しないように配慮しますよ」
「そこが心配だから、釘を刺しておるのだよ。関東の警察関係者で、君に協力的な人間など十人もおるまい」
「……そうですね。そして、十人に満たない僕に協力的な人間のうち、その半分以上は、僕らの課の人間なのでしょう」
内野は皮肉を言った。電話の相手の青葉も苦笑いを漏らした。
「では、頼んだぞ。詳細はメールを送る」
電話が切れると、内野はうんざりした顔で欠伸をした。池袋界隈の警察関係者とはあまり仲が良くない。最悪の関係というわけではないが、内野英輔という名前は、あまりよくない意味で覚えられている。
(まあ……汚れ役は今に始まったことじゃないしなあ……)
苦笑いを浮かべると、内野は車に乗り込む。青葉から届いたメールを開き、情報を適当に眺めると、そのまま、車のエンジンをかけ、北に向かって走り出した。




