勝者
北原霜華はあたりをきょろきょろ見回しながら、駅構内を歩き回っていた。そして、公衆電話を見つけると、電話機に駆け寄る。ポケットから小銭入れを取り出すと、十円玉を数枚、投入口に放り込み、手慣れた手つきでダイヤルしていく。
「…はい、三条です」
聞き慣れた声が電話に出たが、何やら声の様子は落ち込んでいる。霜華は明るい声で話を切り出した。
「霧君、私だよ。今どこにいるの?」
「……どこにいると思う?」
「まだ駅の中にいてくれるとありがたいなあ……いないのなら、私は先にホテルへ荷物を預けに行くつもりだけど」
「僕はさっきの改札口にいるぞ。合流するつもりならさっさと来い。先にホテルに行くつもりなら、それでもいいが」
霧矢の声は苛立っていた。しかし、いつもの不機嫌な時に出す声ではなく、何やら焦りの色が滲んでいた。
「霧君、何かあったの?」
「……美香がいなくなった。携帯も持たずにだ。迷子になった可能性が高い」
霜華は内心で心が弾みだしたのを感じたが、声の抑揚を抑えて、続けた。
「お前、美香の行方に心当たりとかないか? まあ、喧嘩別れになったのだろうが」
霧矢の声は呆れ口調だったが、霜華は踊る心を段々と抑えきれなくなっていった。
「私が、言い負かしてやったからね。最後は半ギレになって、捨て台詞を吐いたきり、そのまま北側の駅ビルの方へ消えちゃったよ」
「……言い負かしただって?」
霧矢は暗い口調になると、そこで押し黙ってしまった。霜華は電話機に追加の硬貨を入れると、話を続ける。
「誰かと口喧嘩したのって久しぶりだなあ。久々に楽しめたよ」
「…口喧嘩ってのは、楽しむものじゃないだろうに……」
「でも、段々と相手がムキになっていくのは、眺めていて楽しくない? 霧君だって、晴代や西村君にそんな感じの話し方するし」
「……ああいう会話は、親しい相手だからするのであって、初対面や関係の浅い相手にしたら、印象を最悪にするだけだろうが! 人間関係の基本中の基本だ!」
霧矢は自分を引き合いに出されたことに憤慨して、受話器越しに声を張り上げた。霜華は苦笑いを浮かべると話を続けた。
「まあ、とりあえず、私は特に用事もないから、先にホテルに荷物を預けに行くね。まあ、彼女を見かけたら、また連絡するから」
「……連絡するだけにしてくれ。くれぐれも、刺激するなよ」
「はあい」
霜華は受話器を下ろすと、大きく伸びをした。床に置いてあるスポーツバッグを持ち上げると、晴代から渡されたホテルについてのメモを取り出し、地図に従って歩き始めた。
(…気分いいなあ!)




