↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王立軍士官学校の聴講生  作者: ナナダイク


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/13

第二話 勇者を倒せ!(2)

 2



「⋯⋯ちょっと! 始業の鐘が鳴るまでに整列してろって武術教官に叱られたばっかりでしょ! 身勝手なマネしないで! あんたのせいで二学年全員の評価が下がるんだから!!」


 週番なのか先頭に立つショートヘアの少女が遅れてきた男子生徒に強い口調で注意を促す。次の瞬間、少女は顔から血を吹き出して弾け飛んだ。強烈な力で頬を殴打されたのだ。地面に叩きつけられ、転がった少女の体はまるで糸の切れた操り人形のように手足の向きをばらばらにして止まった。鼻と口からの出血で顔の半分が朱に染まっている。その血溜まりに折られた歯が貼り付いているため、下顎が失われているのではないかと錯覚させた。


「口の利き方に気をつけろ。俺は今機嫌が悪い」

 仏頂面を保ったまま、少女を殴った男が呟く。男は他の男子生徒に比べて身長が倍近くある大男だった。浅黒い肌に筋肉の鎧を全身に纏い、腕も足も大木のごとき太さである。顔は面長で彫りの深い目鼻立ち。牙の如く尖った上下の犬歯が口から飛び出しているため、口元は常に半開きだった。よだれが糸を引いて垂れ落ちていることも多く、おおよそ知性は感じられない。それもそのはず、どうやって入試を突破したのかが魔王立軍士官学校の七不思議のひとつに数えられているほど、彼の学力は低かった。代わりに体力と腕力は、学年どころか全生徒の中でもトップクラス。もはや人語を解す凶悪なモンスターという扱いだ。その立ち振る舞いから、ついたあだ名はオーク。今や彼を本名で呼ぶ者などいなかった。


 整列していた二年生はすぐさま列を崩し、殴られた少女の救護に向かう。意識を失ってはいるものの命に別状はなさそうだ。ホッと安堵するのも束の間、生徒たちは自分の置かれている立場に気づき蒼白となる。


 これからオークを交えた第二学年で魔術実技の授業なのだ。授業では過去にオークと対峙した生徒がパニックに陥ってしまい、呪文が頭からすっぽり消え失せてオークのタックルをモロに喰らうという事件があった。全身打撲と複数カ所の骨折という診断は軽視できない内容である。武術と魔術の授業で毎回数人の怪我人が出ているという異常事態は、校内でも第二学年だけ。可能であるなら授業を回避したいところだが、病気や怪我による休学という理由以外での留年は認められていない。それでも授業を受けずに留年した場合、放校という厳しい処分が待ち受けているのだ。内心穏やかでいられるはずもなかった。


「おやぁ?」

 オークは列の末席に立つ小柄な少年の存在に気がついた。チップである。チップの身長はオークの半分以下。子供と巨人の体格差だ。

「おい、村の子供が紛れ込んでるぞ」

 救護措置にかこつけて授業の延期を目論む集団にオークが声を放つ。

「そいつは村の子供じゃない」

 集団の中から返事をしたのはひょろりとした体型の男だった。手足が異様に長く、尋常ならざる者の雰囲気を纏っている。それはもしかしたら、他の生徒とは異なり、白を基調とした運動服を着ているせいかもしれない。二年総代のバルフェルムだ。

「おまえも噂くらいは聞いたことがあるだろう? 一学年を瞬く間に全滅させたっていう聴講生の話をさ」

「ああ⋯⋯なんか聞いた覚えがあるような?」

 記憶を探ろうともがいているのか、オークがさかんに首をひねる。

「おまえの目の前にいる子供がその聴講生だ」

「む?」

「この授業でそいつに勝てたら三学年への進級保証を学校に掛け合ってやってもいい。どうせ座学と魔術の単位が足りないんだろう?」

 恩着せがましいバルフェルムの言葉に、さすがのオークも内心ムッとしたらしい。

「進級に関しちゃ心配してないんだが⋯⋯まぁいい」

 苛立ちを発散するためか、言葉にして吐き捨てる。


「どうやら、おまえを倒せば俺も総代服に袖を通すことが叶うらしい。腕が鳴るぜ」

 オークの双眼が残忍に輝いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。