第一話 騶強龍弱の学舎(5)
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「由々しき事態!」
セリーニの小さな手がバチンと大きな音を立てて机を叩く。手のひらに大ダメージを受けたような音だったが、それをからかう者など部屋の中には存在しなかった。その事情は扉に記された部屋の用途を読めば明らかだろう。『生徒自治会執務室』。校内で最大の権力を持つ、小さな独裁者のための部屋なのである。食堂では可憐なドレスを纏っていた少女も、ここではスーツスタイルの制服を着用していた。上下白色は総代服とも呼ばれ、各学年の成績優秀者のみが着用を許される特別な制服なのだ。
「どこの馬の小骨かもわからない聴講生ごときに! 新進気鋭の一年生が全滅するなんて! あってはならないこと! そうは思わない!?」
「!」のたびに机を叩くも、やはり痛々しい音しか響かない。魔王の愛娘といえど、机を打楽器として奏でる能力は乏しいようだ。痛みをおくびにも出さず、顔色ひとつ変えない様はさすがといったところか。だが、幼さゆえに怒りや苛立ちを抑えることは難しいのだろう。騶牙さながらに力強い輝きの瞳には金色の焔を宿し、感情を露わにしていた。
「バルフェルム!」
「はっ!」
セリーニから名指しされて長身の青年が姿勢を正す。長く伸びた黒髪が顔の右側を覆い隠し、どこか不気味な印象の男だ。彼もまた総代服を纏っていた。
「二年生総代のあなたのことだから、もう一年総代ラルパルディアから聞き取りは済ませてあるわよね?」
「もちろんです!」
細い目をさらに細めて奇怪な笑顔を作る。
「勝算はある?」
その問いにバルフェルムは口元を歪めニヤリと笑う。
「おまかせください。このバルフェルム、総代として二年生を鼓舞し、必ずや聴講生を叩きのめしてご覧にいれます」
長すぎる手足を器用に折りたたみ、セリーニに跪く。
「⋯⋯期待してるわ」
どこか蜘蛛を思わせるバルフェルムの容姿を嫌ってか、セリーニは直視することなく言葉を述べた。




