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スライム食ったら世界を救うことになった【完結済】  作者: エリト


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【第86話】身代わりの世界と、暴かれた「調律」の真実

「世界の衝突の予測は、数百年後などという悠長なものではなく、わずか数十年後に迫っていた。当然、我々の世界は未曾有のパニックに陥ったよ」


バイゼルの静かな声が、銀の城の広間に響く。


「当時の我々には、他世界に直接影響を与える技術などない。だから、すでに高度な技術を持っていたアン・テラ(第1の世界)に縋り、助けを求めた。……すると彼らはあろうことか、我々の世界の一部を次元ごと切り取り、迫り来るキャトル・テラ(第4の世界)に直接ぶつけるという強硬手段に出たのだ」


その結果、キャトル・テラはほぼ完全に崩壊。

一部を切り取られた我々の世界トロワ・テラにも多大な被害が及び、文明は後退し、アン・テラとのコミュニケーション手段も完全に失われてしまったという。


(ん?)

俺は話を聞きながら、首を傾げた。

それって、さっきヴォルク師が話していた内容とほとんど一緒じゃないか。自分たちから助けを求めた結果なのだし、世界が全滅するよりはマシな、致し方ない犠牲だったようにも聞こえるが……。


「君たちの顔に浮かぶ疑問は理解しているよ。被害が大きかったとはいえ、世界を救ってくれた相手を逆恨みするなんておかしい、とね」

バイゼルは、俺たちの内心を見透かしたように言った。

「当然だ。我々も、コミュニケーションが途絶えた後、長きにわたりアン・テラを『見返りを求めずに我々を救ってくれた救世主』として讃えていたさ」


そこで、バイゼルはわずかに間を置いた。


「――ある『絶望的な事実』を、知るまではね」


バイゼルの声が一段と冷たくなる。


「アン・テラは、我々と接触する以前から、キャトル・テラにも干渉を行っていた。新たに見つかった世界とのコミュニケーション……それ自体は、知的好奇心として当然の行為と言える。だが、その過剰な干渉の結果として、彼らはキャトル・テラを『自分たちの世界へ引き寄せてしまった』のだよ」


「引き寄せた……?」

エルウィンさんが眉をひそめる。


「そうだ。アン・テラは『表』の世界であり、キャトル・テラは『裏』の世界だ。対極のペアである世界同士が干渉し合ったことで、強烈に引きつけ合ってしまったのだ。

……ここまで聞けば、賢明な君たちなら想像がつくかもしれないが。彼らは、自分たちの世界が衝突で消滅するのを避けるため、次元を少し歪め……キャトル・テラが『我々トロワ・テラの方へ激突するように』意図的に軌道を誘導したのだ」


「なっ……!?」

俺は思わず息を呑んだ。


自分たちが招いた危機を、全く関係のない第3の世界になすりつけ、身代わりに衝突させた。挙句の果てに、第3の世界の一部を切り取ってぶつけ、第4の世界を消滅させた。

(なるほど……それは、永遠に恨むわけだ)


なぜトロワ・テラがその真実を知るに至ったかと言うと、世界の混乱が収まり、数百年後に改めて科学的発展を遂げたからだという。

次元の狭間を観測していた科学者から、「過去のキャトル・テラの軌道計算がおかしい。明らかに人為的に捻じ曲げられている」という報告が上がり、かつてのアン・テラの非道が発覚したのだ。


「我々は激しく怒りこそしたが、真実を知ったのはすでに1500年も後の話だ。いまさらアン・テラを責めようにも、当時の人間は誰も生きていない。そして何より、相手の方が次元干渉の文明は遥かに上だ。責めるに責められなかった……」


そこで、彼らは一度は復讐を諦めたそうだ。

歴史によくある、国同士の理不尽ないさかいの1つとして、過去の悲劇として飲み込もうとした。


「だが、そんなある日。我々は次元の観測で、極めて不穏な事象を目撃した」


バイゼルの声に、隠しきれない戦慄が混じる。


「アン・テラが以前話していた『サンク・テラ(第5の世界)』と『シス・テラ(第6の世界)』のペアが……両方とも、衝突によって完全に崩壊していたのだ。さらに別の世界を観測すると、『セット・テラ(第7の世界)』が残り、対となる『ユイット・テラ(第8の世界)』が崩壊していた」


ただの自然現象の確率としては、あり得ない頻度だ。

これは何か裏がある。そう踏んだトロワ・テラは、さらに観測を重ねた。


結果、恐るべき事実が判明した。

表裏世界が次々と衝突する状況下にあったのだ。


「その後、『第9と第10』の世界、『第11と第12』の世界でも同様の事象が起こった。どちらも、裏の世界である10と12が意図的に崩壊させられていたのだ。

……このままでは、『第13と第14』の世界でも、彼らは全く同じ虐殺を繰り返すだろう。そう確信した我々は、総力を挙げて彼らの次元干渉への介入を試みたが……力及ばず、失敗に終わってしまった」


バイゼルは重々しく語る。


「その介入の際、我々の情報網が捉えたことがある。アン・テラの連中は、裏世界を消滅させるこの一連の作業を、いけしゃあしゃあとこう呼んでいた」


俺の心臓が、嫌な音を立てて早鐘を打った。


「――『調律テンパメント』、とな。狂った世界を、正しい世界に合わせて直し、世界の寿命を延ばすという意味らしい」


そして、今に至る、と。


ヴォルク師が「世界を救う大事業」だと誇らしげに語っていた調律。その正体は、自分たちの都合の良い世界だけを残し、対となる世界を意図的に衝突させて消し去る、宇宙規模の連続大量虐殺だったのだ。


(アン・テラが……ヴォルク師のいた第1の世界こそが、すべての元凶だったのか……!)


あまりの事実に、俺は床に座り込んだまま、ガタガタと震えが止まらなかった。


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