【第85話】1万5千年の歴史と、表裏の世界
「ことの起こりは、今から1万5千年前のことだ」
銀の城の中枢を乗っ取ったバイゼルは、静かで理知的なトーンのまま語り始めた。
アン・テラ(第1の世界)の文明は、その当時すでに自分たちの星系の太陽すらも支配するほどの究極のレベルに達していた。
だが、人の欲望は尽きるところを知らない。
もっと遠くの星へ移動したい。まだ見ぬ新しい世界へ行きたい。
しかし、隣の太陽系は気軽に行くにはあまりにも遠すぎた。
その頃のアン・テラの人類は、科学の発展により劇的に寿命が延びており、半永久的な命を手に入れていた。だがその代償として、新しい星には到達できず、新たな命(若手)も生まれてこないという状況に陥り、文明は完全に停滞していたのだ。
まさにそんな状況の時、彼らは『時空の歪み』を利用して星間移動をする画期的な技術を発見した。
そして、星を飛ぶ技術の実験の最中……彼らは、自分たちの宇宙とは別の『別の世界(次元)』が存在することを初めて計測した。
理論上は以前から予測されていたが、存在自体を正確に計測したのはそれが初めてだった。
その後、さらに時代が進み、次元の狭間や別世界に対してデータやスクリプトを直接送り込める技術が発見された。
詳しい技術的な内容は省略するが、ついにアン・テラは「他世界への干渉」を可能にしたのだ。
最初に発見し、干渉を試みた世界に、彼らは『ドゥ・テラ(第2の世界)』と名付けた。
ドゥ・テラとなんとかやり取りができないかと、彼らは試行錯誤を繰り返した。しかし残念ながら、ドゥ・テラからの返信はついぞ無かった。
アン・テラは当然、他にも世界があるはずだと考えた。
次から次へと世界は見つかった。やはり、世界は無限に存在しているようだった。
そこで彼らは、無限の世界の中から「高度な文明を築くことに成功している世界」で、かつ「自分たちと近い『人類』と呼べる文明がある世界」に条件を絞り、コミュニケーションを取ることにした。(人類がいる世界からは、独特なシグナルが出ているらしい)
見つかった世界の中で、発展していそうな順に並び替える。
アン・テラの次に発展していそうだった世界……それこそが、我々『トロワ・テラ(第3の世界)』だった。
アン・テラから我々の世界へ、あらゆる手段でコミュニケーションが試みられた。
ある日、我々の世界の科学者が「どうも別世界から意図的なメッセージが来ている」と、そのシグナルを掴んだ。
我々からもメッセージを送り返した。特殊な力の波長を変えることで、返答を試みたのだ。
こうして、アン・テラとトロワ・テラは次元を超えたコミュニケーションをとり始めた。
これが、今からおよそ8千年ほど前の話だ。
だが、ある日。
『キャトル・テラ(第4の世界)と呼ばれる世界と、君たちの世界が衝突する』という恐ろしいメッセージが、アン・テラから届いた。
この頃には、我々の世界でも他世界の観測が可能になっていた。
調べてみると、たしかにキャトル・テラが我々の世界へと異常な速度で近づいて来ている。
当然、世界中は大パニックに陥った。
それはなぜか?
我々は、表裏の世界の衝突は、すなわち『2つの世界の完全なる崩壊』を産むという宇宙の真理を知っていたからだ。
多世界には「ペアの法則」がある。表の世界と、裏の世界だ。
表の世界のすぐ近くには、裏の世界が必ず存在した。世界というものは、常に2つ同時に産み出されるものらしいのだ。
そして、ごく稀にだが、その対となる2つの世界は引力に引かれるように衝突し、2つとも跡形もなく崩壊するという事実があった。
これを知っていた我々は恐怖したよ。まさに、世界の終わりだとね。
バイゼルはそこで一度言葉を切り、静かに息を吐いた。
「さて、ここまでが前置きだ」
(……な、長い……!!)
俺は床に座りながら、内心で激しくツッコミを入れた。
太陽を支配するだの、データやスクリプトを送り込むだの、表裏の世界だの……正直、剣と魔法の世界で生きてきた俺には何を言っているのかさっぱり分からない。
分からないが、どうやらこの途方もないスケールの話は、まだ続くらしい……。




