【第84話】第三の世界のバイゼルと、暴かれた詐欺師
「……違う」
いきなり、広間のどこからともなく、透き通るような謎の声が響き渡った。
「ようやくお前の嘘をあばける時が来たのだ。……そう。ようやく繋がったのだよ。アン・テラ(第1の世界)のヴォルク」
「なっ!?」
台座の上に浮かんでいたヴォルク師の魔力体が、かつてないほど激しくノイズを走らせて動揺した。
「私は今、この銀の城の中枢部にいるよ。君が魔族との戦いで『グランド・パラディン』などという大技を使い、城のエネルギーを空っぽにしてくれたおかげでね。手薄になったシステムを、容易に乗っ取ることができた」
「馬鹿な……っ!?」
ヴォルク師が絶句する。
「私としても、次元転移のエネルギー量に耐えかねて、依り代にした魔界の魔族が暴走した時にはどうなるかと思ったが……結果オーライだったな」
その言葉を聞いて、俺の脳裏に電流が走った。
(間違いない……!)
先日、この銀の城の広間で、ヴォルク師が巨大な光の剣で魔族を真っ二つにして倒したあの時。塵の中から、黒い虫のようなカケラがササッと逃げていくのを、俺は確かに見たのだ。
あの一瞬の見間違いだと思っていたカケラこそが、第3の世界のヤツの端末で……俺たちがカルバン領へ向かっている間、密かにこの城のシステムへ侵入していたんだ!
「くっ……シ、システムにアクセスが出来ない……! まさかこんなことが……!」
台座の上で、ヴォルク師が必死に空中で印を結ぶが、城は全く反応しない。
「調律ショーを間近で観たいと欲をかいたな、ヴォルク。システムと深く同期しすぎだ。まぁ私にとっては好都合だったがね。システムさえ乗っ取ってしまえば、それと深く一体化しているお前を簡単に消滅させられるからな」
謎の声は、ひどく楽しげに語った。
だが、次の瞬間、その声のトーンは絶対零度の真剣なものへと変わった。
「最後に何か言い残す事はないか? 世紀の詐欺師よ」
「このままでは終わらせんぞーーッ」
ヴォルク師が怨嗟の叫びを上げた、その直後だった。
プツンッ。
不気味なほど乾いた音が響き、ヴォルク師の半透明な身体は、ノイズと共に突然完全に消滅してしまったのだった。
「「「…………」」」
俺たちは、目の前で何が起きたのかも分からず、ただ茫然と二人のやりとりを見ていた。
そして、ヴォルク師が消滅した。
「驚かせてすまない。私はヴォルクが言うところのトロワ・テラから来た『バイゼル』だ。実際の名は違うが、君たちの世界に翻訳するならこのような名前になる」
広間のスピーカーのような場所から、バイゼルと名乗ったその声は、ひどく理知的で落ち着いたトーンで語りかけてきた。
「最初にハッキリと言っておくが、私は君たちの『仲間』ではない。……だが、アン・テラ(第1の世界)の住人のような、吐き気を催すほどの悪党でも詐欺師でもない」
仲間(味方)ではないが、悪党(敵)でもない、と。
「私の目的はただ一つ。世界を、元の『互いに影響し合わない状態』に切り離し、戻すために来た。……結果的に、それは君たちの世界を救うことにも直結する。だから、協力して欲しい」
そして、協力しろ、と。
目まぐるしすぎる展開に、俺の頭は完全にキャパオーバーを起こしそうだった。
「さて、先ほどのエルウィン殿とヴォルクのやりとりを聞くに……君たちはヴォルクと表向きは上手くやっていたようだが、完全にヤツの言葉を盲信し、騙されていたわけではなさそうだね。君たちとなら、まともな会話ができそうだ」
バイゼルの声に、エルウィンさんが頷いた。
「こちらの説明をする前に、ヴォルクからどんな話を聞かされたのか、どんなやりとりがあったかを聞かせて欲しい」
「……分かった。俺から説明する」
俺は一歩前に出て、これまでの怒涛の8年間を、バイゼルに向けて簡潔に語って聞かせた。
10歳の時に、トロワ・テラの介入によって空間が細切れに分断された試練の祠(洞穴)に落ちてしまい、光る巨大スライムを食って生き延びたこと。
俺のレベルが異常に上がってしまったことや、そこから銀の城を見つけ、ヴォルク師と出会ったこと。
ヴォルク師から、重なりかけた世界を救うための『テンパメント(調律)』の計画を聞かされ、そのために280年後の未来へコールドスリープするよう命じられたこと。
そして、そのスリープの時期を遅らせる条件と引き換えに、エルザと共にアトミックブレイクで黄泉の門を破壊しようとして、今に至ること……。
俺の説明を黙って聞いていたバイゼルは、やがて深く息を吐くような音を立てた。
「なるほど。あらかた理解できた。今度はこちらの番だな。長い話になる。聞きたいことも沢山あるだろう。楽にしてくれ」
そう言うと、第3の世界からの来訪者バイゼルは、俺たちの常識を根底から覆す『真実』を語りだしたのだった。




