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スライム食ったら世界を救うことになった【完結済】  作者: エリト


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【第83話】正義の所在と、第四の世界の真実

俺たちは、用意してきた大量の大きめの袋に、限界ギリギリまで魔硝石を詰め込んだ。それらを何往復もして馬車の荷台へと積み込むと、カルバン領を後にして帰路についた。


馬車に揺られながらの帰宅途中。

根っからの騎士であり、強すぎる正義感を持つジャック兄さんが、思い詰めたような顔で空気を読まずにエルウィンさんに進言した。


「エルウィン団長。……やはり、カルバン領は国への反逆として罪に問われるべきではないでしょうか?」

それを聞いたエルウィンさんは、馬車の揺れに身を任せながら深くため息をついた。


「やれやれ。君も、そこの二人カールとクレムと頭の構造は変わらんのかね」

呆れ果てたような冷たい声だ。


「何の罪に問えと言うのだ? 17年後に謀反を起こす計画があったとして、それはまだ実行されていないし、具体的な陣立ても決まっていないだろう。仮に計画書が残っていたとしても、燃やしてしまえば『知らぬ存ぜぬ』で終わりだ。

黄泉の門の生贄についてだが、最後に民が捧げられたのは55年前(前回の開門時)の話だ。リディア国の法に照らし合わせても、とっくに時効を迎えている。さらに、野盗を裏で支援していた件も、直接手を下した証拠はなく『領内の野盗を見て見ぬふりをしていただけだ』と言い張られればそれまでだぞ」


法と証拠という現実的な観点から、完璧に論破されてしまった。

それでも、ジャック兄さんは消え入りそうな声で最後の反論を試みる。


「で、でも……! 実際に魔硝石を大量に確保して、武力の増強計画を進めていたのは事実です。それは危険な兵力増強として……」


「ほぉ」

エルウィンさんが、ピタリと視線を動かし、鋭い目でジロリとジャック兄さんを一瞥した。


「それはつまり、洞穴で『光るスライム』を独占し、秘密裏に魔術師増強計画を進めていたこの私自身も、危険分子として罰せられるべきだと言いたいのかね?」


「……えぇっと、大変出過ぎた真似をいたしました。余計な進言でした」

ジャック兄さんは即座に居住まいを正し、冷や汗を流して完全に白旗を揚げた。


(30歳にもなって、上司にボコボコに詰められてるジャック兄さん、かわいそう……)

そして、「そこの二人」として完全に同レベルの子供扱いをされている俺も同様にディスられているわけだが、もう長年の付き合いで聞き慣れているのでノーダメージだ。


「ついでに言っておくが、ドノヴァン師が語った『1年半後の大会議で王を洗脳する』という件も、実際にやるかどうかも分からんし、紙にも残っていないただの妄言にすぎん。我々は何も聞いていない。……いいな?」


「「「はい」」」


俺は心の中で思った。

(もしかして……謀反人であるカルバン領より、魔族より、何よりこのエルウィンさんこそが、この国で一番の『悪党』なんじゃないか……?)

涙を禁じ得ない俺であった。


◇ ◇ ◇


俺たちは馬車でゼレナ山脈の麓まで戻ると、大量の重い袋をそれぞれ肩に担ぎ上げ、中腹の闘技場跡地――銀の城へと到着した。

14歳の時に初めて来た時は、死に物狂いで数日がかりで登った過酷な道も、レベル90の俺や、これだけの超人メンバーが揃っていれば、重い荷物を担いでいても裏庭を散歩するようなものだ。


「さて、持ち帰った魔硝石を台座に置いてみましょう」

エルウィンさんの指示で、大量の袋から取り出した魔硝石の山を、広間の台座の周りに配置する。

すると、城のどこか深くから「ゴウン……」という重厚な起動音が鳴り響き、淡い光と共に、消えかけていたヴォルク師の魔力体がはっきりと姿を現した。


「ふぅ……なんとかやり遂げてくれたか」

ヴォルク師は、自分の両手を握り込んで魔力の定着を確かめると、安堵の息を吐いた。

「魔硝石のエネルギー変換は完璧だ。これなら、お前を250年以上は安定してスリープさせられそうだな」


そして、ヴォルク師はこちらを振り向き、集まった全員の顔を見渡した。


「さて、大勢で来たようだが。私に何か用かね?」


「わかってらっしゃるでしょう?」

エルウィンさんが一歩前に出て、鋭い視線を向けた。

「あの魔族が最後に言い残した、『キャトル・テラ(第4の世界)』の件についての弁明を伺いたい」


「……」

ヴォルク師は少しの間沈黙し、「トロワ・テラのやつらめ、くだらん妄言を残しおって」と忌々しそうに愚痴をこぼしてから、ゆっくりと説明を始めた。


◇ ◇ ◇


ヴォルク師の語った過去の真実は、以下の通りだった。


『トロワ・テラ(第3)』と『キャトル・テラ(第4)』は、最初に衝突しそうになった2つの世界だった。

その当時、ヴォルク師のいた第1の世界は、まだ「世界の調律テンパメント」というバグの解決手段を発見していなかった。

そこで彼らは、無理やり「時空を歪めて、2つの世界を物理的に引き離す」という強硬手段に出た。

結果として、世界の衝突自体は回避できた。

しかし、その時空の歪みの余波に耐えきれず、キャトル・テラは、ほぼ滅んでしまったらしい。

さらに、もう一方のトロワ・テラにも甚大な影響が及び、そちらも取り返しのつかない大被害を受けてしまった。


「様々な世界に連鎖的な悪影響を及ぼすであろう『衝突による全滅』を避けた結果なのだがな。……被害を受けたヤツらからすれば、自分たちの世界をメチャクチャにした『我々(第1の世界)がやったこと』と、逆恨みで犯人扱いされてしまったのだ」


ヴォルク師は淡々と語る。


「その後、トロワ・テラではある過激な思想が蔓延した。『世界の重なりや崩壊も、自然の摂理であり大いなる意思である。別世界からの不介入を貫くべきだ』という破滅的な原理主義がな。それが、ヤツらが我々の調律を邪魔しに来る理由だ」


「……」

エルウィンさんは顎に手を当て、少しだけ首を傾げた。


「やや納得がいきませんね」

「何がだ?」


「トロワ・テラの者たちが、『世界の重なりが放置すれば2つの世界の崩壊に繋がる』と知っている今ならば、我々に対して『貴様らに滅ぼされた』という表現で批判するでしょうか?」

エルウィンさんの目が、獲物を狙う鷹のように鋭く光る。

「私ならば、自然の摂理を重んじるのであれば『自然に任せて崩壊させるべきだ』という言葉を残すはずです。しかし、あの魔族の言葉からは……」


エルウィンさんは、ヴォルク師を正面から見据えた。


「『あなたの介入による世界の崩壊を止めたい』という、明確な意志を感じるのです。まるで、我々の世界も、あなたの介入によって滅ぼされようとしているかのように」


「ふむ」

ヴォルク師は平然と鼻を鳴らした。

「そんな言葉の端々の、表現の違いなど知ったことか。私は、観測された事実を伝えているのみだ」


うーん……。

横で聞いていた俺は、内心で頭を抱えた。エルウィンさんの疑念ももっともだが、ヴォルク師の言うことも筋は通っている。

いくら疑わしくても、我々にはこれ以上の情報がないため、これ以上追及しようがない。完全に平行線だ。


と、俺たちがそう諦めかけた時。


「……違う」


突然。

どこからともなく、透き通るような『謎の声』が響き渡ったのであった。


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