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スライム食ったら世界を救うことになった【完結済】  作者: エリト


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【第80話】母の遺言と、カルバン領への再訪

ヴォルク師からは「急げ」と急かされたものの、凄まじい激闘の直後だ。俺もエルザも、精神的にも魔力的にもボロボロで、その場から動くことさえままならなかった。

結局、俺たちは銀の城で一晩の休息を取り、翌朝に出発することにした。


翌朝、青白い顔をしたエルザがぽつりと口を開いた。

「……カルバン領へは、私一人で行くわ」


だが、俺はその言葉を遮るように、激しく反対した。

「ダメだ。一人で行かせるわけにいかない。クレムやエルウィンさん、ジャック兄さん……みんなで行こう」


俺は珍しく頑なに譲らなかった。

今回の件は、エルザ一人の問題じゃない。世界を救うためのエネルギー確保であり、何より父親と再び対峙することになる。精神的な負荷が大きすぎる。

俺が厳しい顔で睨みつけると、エルザはしばらく沈黙した後、「……そうね」と力なく呟き、疲れた顔でしぶしぶ了承してくれた。


仲間は一人でも多い方がいい。俺たちはまず、山を降りてガルシアさんの小屋へと向かった。


◇ ◇ ◇


道中、ずっと口を閉ざしていたエルザが、独り言のように呟いた。


「……今考えれば、10歳の頃の私は、母に認められたかっただけなのかもしれないわ」


エルザが8歳の時に亡くなった実の母親。彼女はいまわのきわに、エルザの手を握ってこう言ったらしい。

『あなたの心が、正しいと思うことをしなさい』……と。


その後、父親との接触が増える中で、彼女は一族の忌まわしい秘密――黄泉の門と生贄、そして謀反の計画を知ることになった。

子供ながらに、彼女は「正しい」とは何かを必死に考えた。

大勢の生贄を捧げ、国を戦火に包むことが、母の言った「正しいこと」であるはずがない。

父親のことは好きだった。けれど、彼のやっていることは決定的に間違っている。それを正すことこそが、自分の使命なのだと。


(なるほどな……)

俺は彼女の横顔を見て、胸が締め付けられる思いだった。

エルザのあの、周囲を寄せ付けないほどの強烈な執念は、母親の言葉という「呪縛」にも似た強い想いから生み出されていたのか。

不完全な形ではあったが、彼女は昨日、自分の手でその一族のごうを断ち切った。今、彼女の中でこの10年間の長い清算が行われている最中なのだろう。


俺たちはガルシアさんに合流し、「詳しいことは移動中に話す」と伝えて、急ぎガバレリア領へと向かった。


◇ ◇ ◇


ガバレリア魔法兵団、エルウィンさんの執務室。

山から降りてきた俺たちと、緊急招集されたクレム、ジャック兄さんが顔を揃えた。


「……大変なことになりました」

俺は、黄泉の門での出来事、魔族の強襲、そしてヴォルク師が消滅寸前であることなど、今までの経緯をすべて説明した。もちろん、エルザの立場を慮りつつも、カルバン領の秘密についても包み隠さず話した。


「うーん、さてさて……。これはまた、とんでもない事態ですね」

すべてを黙って聞いていたエルウィンさんが考え込む。


俺たちが今、最も懸念しているのは、あの魔族トロワ・テラが最後に遺した言葉だ。

『貴様ら(ヴォルク)に滅ぼされた、キャトル・テラ(第4の世界)と同じにはさせない』


銀の城が起動した直後、エルウィンさんはヴォルク師に対して強い違和感と不信感を抱いていた。数年間共に過ごす中で、俺はその疑念を忘れかけていたが……。

ヴォルク師のいた世界は、本当に「救い」の側だったのか? 滅ぼされたという「第4の世界」とは何なのか?


「……考えても仕方がありませんね。今はとにかく、魔硝石を与えてヴォルク師を再起動させない限り、真実を確かめる対話すらできません」


エルウィンさんの結論は早かった。

俺たちは、カルバン領へ乗り込み、残された魔硝石を回収することに決めた。

(……あの激しい破壊の後で、魔硝石がどれだけ残っているか、かなり心配だけどな。汗)


◇ ◇ ◇


数日後、俺たちはカルバン領の主都「アルテン」へと到着した。

目的の相手は、エルザの父親であり、魔法師団のトップ――ドノヴァン・ローゼンベルク。


移動中、エルウィンさんからカルバン領の複雑な歴史を聞かされた。

カルバン領とリディア王家の関係は、決して良好とは言えない。数百年前の政変時、彼らは中立の立場を貫いたため、新体制となったリディア王家からは冷遇され、領地の一部も削られた経緯がある。


さらに決定的だったのは15年前の人事だ。

本来、国の魔法師団副団長の座に就くはずだったドノヴァン師を差し置いて、俺の今の義父であるグランゼン様が就任した。

これら重なるしがらみの果てに、彼らは王家への不信感を爆発させ、古くから密かに蓄えてきた「魔硝石の武力」をもって謀反を企てたのだろう。


もちろん、俺たちは敵として乗り込むわけではない。

表向きは、同じ「12魔術師」であるエルウィン師による、他領の視察。

そしてもう一つの理由は「弔問」だ。

先日、俺たちが地下で引き起こした大惨事について、カルバン領から国へはこう報告されていた。

『大規模な魔術実験中に事故が発生し、数十名の魔術師と兵士が殉職した……』と。


エルザは、自分の家門が犯した大罪と、それを隠蔽する報告の虚しさに、唇を噛み締めていた。


重々しい扉が開かれる。

ドノヴァン師の待つ応接室へ、俺たちは足を踏み入れた。

そこには、あの日、俺たちのアトミックブレイクを逸らし、絶望の淵に立たせた男が、静かに椅子に座って俺たちを待ち構えていた。


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