【第76話】二度目の介入と、赤き転移ゲート
銀の城が省電力モードに入ってから、早くも9ヶ月が経った。
今日は、約束通り2〜3ヶ月のペースで行われている「3回目の修行」の日だ。
俺はあの過酷なスライム生活と修練を経て、既にレベル90という伝説の領域に達していた。現在の主な修行内容は、その規格外に膨れ上がった高い魔力量を暴走させずに使いこなすためのコントロールだ。
一方のエルザも、ついに目標であったレベル50の壁を越えた。今回から、彼女はヴォルク師から『スリープシステム』の本格的なレクチャーを受けることになっている。
俺たちは、3ヶ月前に出されていた課題の成果を確認され、また新たな課題をどっさりと提示された。
(やれやれ……。自由な身にはなったとはいえ、これじゃあまるで、ずっと学生を続けているようなものじゃないか)
俺は内心でこっそり愚痴りつつも、いつものように真面目に課題をこなす。
――デカい事を成し遂げる裏には、地道な努力アリだ!
そんな風に己を鼓舞しながら、しばらく城の広間でそれぞれの修行を続けていた、その時だった。
「!?」
台座の上のヴォルク師が、急に弾かれたように顔を上げ、激しく反応した。
「ま、まさか!? トロワ・テラ(第3の世界)のやつらめ、これ以上の介入を本気でするつもりか!?」
ヴォルク師はかつてないほどの勢いで怒りをあらわにしている。
「な、なにがあったんです?」
俺とエルザは修行の手を止め、慌てて駆け寄った。
「……」
ヴォルク師はひどく険しい顔でしばらく考え込んでから、重々しく口を開いた。
「例の介入してきた第3の世界が、強引にまた介入してきたんじゃ。……しかも、かなり危険な介入の仕方だ。まさか、こちらの世界と自らを危険に晒してまでここまでやるとは……」
「で、どうするんですか?」
「……わしは、システムと同期しているためここを動けん。予定外の事態だが、君たち二人に直接行ってもらう必要がある」
ヴォルク師は俺たちを真っ直ぐに見据えた。
「日時は三日後。場所は――『黄泉の門』だ」
「「……え?」」
俺とエルザは、想定外すぎる単語に驚きと共に絶句した。
本来なら、黄泉の門が開くのは「17年後」のはずだ。なぜ今、急にそんな話になるんだ?
ヴォルク師の観測によると、トロワ・テラは『魔界』を経由して干渉用のパスを繋いできたらしい。
本来17年後に開くはずのその門を、今この瞬間に『強引に起動(前倒し)』させようとしているとのことだった。
「魔界というのは、この世界の終端であり、次元の狭間に極めて近い場所だ。そこは膨大で混沌とした大量のエネルギーを保有しておる。ヤツらはその魔界のエネルギーに直接干渉することで、トロワ・テラからこちらの世界へ『船』を送り込むことに成功したらしい」
だが、それほどの次元干渉を行うとなれば、干渉元のトロワ・テラにも相応の重い代償が払わされるはずだという。
さらに恐ろしいことに、その干渉力があまりにも強すぎると、それがキッカケでセーズ・テラ(俺たちの世界)そのものが次元の狭間に飲み込まれ、完全に消滅してしまう可能性すらあるそうだ。
「なんと無茶なことを……野蛮な集団め!」
ヴォルク師は忌々しそうに吐き捨てた。
(なるほど。次元だの干渉だの、何を言ってるのか全く理解できないが……とにかくヤバい奴らが自爆覚悟でヤバいことをしに来たのだけは分かる!)
俺は頭を切り替え、ヴォルク師から即席で『アトミックブレイク』の放ち方を教わることになった。
「心配はいらん。術式構築の複雑な部分はエルザ嬢が担う。お前はただ、己の莫大な光の魔力を彼女の闇に合わせ、限界まで練り上げれば大丈夫だ」
とのことだった。
なんとも大雑把なレクチャーだが、今の俺たちなら何とかなるのだろう。
急ごしらえではあるが、最低限の準備はした。不安は多いが、世界の存亡がかかっている以上、わがままは言ってられない。
「この城の力は、来るべき調律の日のために極力残しておきたいが……こうなっては仕方ないな」
ヴォルク師が台座で印を結ぶと、広間の中央に、今まで見た事もないような『赤く光るゲート』が口を開いた。
「これは、カルバン領の中心都市『アルテン』へ一気に繋がる転移ゲートだ。ヤツらが門を完全にこじ開けるまで、猶予は三日。頼んだぞ」
開かれた赤い光の渦を前にして、俺とエルザは顔を見合わせた。
「よし……行くぞ、エルザ!」
「……ええ。ここで、全ての因縁を終わらせるわ」
決意に満ちた声でそう応じると、俺たちは二人並んで、赤く輝く転移ゲートへと勢いよく飛び込んだのだった。




