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スライム食ったら世界を救うことになった【完結済】  作者: エリト


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【第71話】光るスライムの再会と、二年目の覚醒

ヴォルク師との重要な対話が一段落したところで、エルウィンさんが鋭い目つきで切り出した。


「最後に一つ、確認させてください。近隣諸国は今、ゼレナ山脈から溢れ出す大型モンスターの『スタンピード』を何よりも恐れています。今回の銀の城の浮上と関連はありますか? また、それを対処する方法はありますか?」


さすがはガバレリア魔法兵団の副団長だ。すでに意識を「世界の危機」から「当面の国際情勢の調整」へと切り替えている。


「ふむ。この城から漏洩する魔力が長年にわたって山を浸食し、広大なモンスターの住処を作り上げてしまったのは事実だ」

ヴォルク師は淡々と説明を続けた。

「数百年に一度、その魔力の溜まり場が飽和し、モンスターが溢れ出してしまうことがあった。今回は、カールの落ちた洞穴が崩壊した際の残滓に刺激され、一部の過敏な個体が外部へ向かおうとしたのが原因だろうな」


ヴォルク師はそこで一度言葉を切り、安心させるように微笑んだ。


「だが、もう大丈夫だ。銀の城が完全に起動した今、散らばっていた魔力はこの城へと集約されている。自然とモンスターたちも城の周辺へと引き寄せられるはずだ。人間側から下手に刺激を与えない限りはな」


その言葉を聞いて、エルウィンさんは満足げに頷いた。これで各国への「安全保障上の説明」が立つというわけだ。


こうして、俺たちの長い長い会議は終わった。

そして……俺だけは、この銀の城に残ることになった。

これから10年。家族とも仲間とも離れ、孤独な修行の日々が始まるのかと思うと、胸の奥が少しだけチクリと痛んだ。


ヴォルク師が、俺を担いでくれていたクレムたちと別れ際に何やら話している。


「なに、そう悲壮な顔をするな。修行の合間なら、いつでも会いに来て良いぞ。扉は開けておこう」


「じゃあカール! 一人になるけど頑張ってね!」

クレムがぶんぶんと手を振る。

「生活品を持って、定期的におばさん(カリンさん)と一緒に来るからさ!」


「おぉー……マジかー! 助かる、死ぬほど嬉しい!!」

俺は思わず嬉し涙を流した。孤独な監禁生活を覚悟していただけに、定期的にみんなに会えるというのは最高のご褒美だ。


◇ ◇ ◇


さて、一晩寝て、俺の修行初日だ。

レベル36から90。どれだけ地獄のような荒事が待っているのか……俺は奥歯を噛み締めて覚悟を決めていた。


「ふふ。緊張しとるかね、カール君」

ヴォルク師がいたずらっぽく笑う。


「大丈夫です。俺、マッドサイエンティスト(エルウィンさん)に鍛えられ慣れてますから。……い、余裕っすよ」

何とか立ち上がっていた俺の足がガタガタ震えているのは内緒だ。


「ふぉっふぉっふぉ、身体は正直だのぉ。だが安心せい。最初の5年は……ほとんど『寝て過ごす』ことになる」


「……え?」


「以前、テルト村の洞穴で『光るスライム』を食べておったろう? あれのさらに数千倍、高純度の魔力体……いわば『強化スライム』を食べてもらう」


「え、えぇーーーー!! またあのスライム地獄かよーーー!!」


俺の絶叫を無視して、ヴォルク師の手の平にポヨンと現れたのは、かつて俺が洞穴で見たのとは比較にならないほど、直視できないほど強く輝く『スライム』だった。


「普通の人間はこれを食すのに相当な勇気がいるのだが、君は食べ慣れておるだろ? ふぉっふぉっふぉ」


「まぁ、そりゃそうですけど……」

俺は、嬉しいやら悲しいやら、懐かしいやら……言葉にできない複雑な感情を抱きつつ、その高純度光り輝くスライムを一口で飲み込んだ。


……そこからの記憶は、酷く曖昧だ。

あまりにも濃密な魔力を身体が吸収するため、俺の意識はほとんど深い眠りの中にあった。


そして、あっという間に2年が過ぎた。

(俺の体感では3ヶ月くらい寝ていただけなのだが……)


ある日、クレムとエルザがまた遊びに来てくれた。

俺からすれば「1ヶ月に1回会ってる」くらいの感覚なのだが、彼らからすれば1年近いスパンが空いている。


また王都の面白い出来事でも教えてもらおうと思ったら、彼らは俺を素通りして、まっすぐヴォルク師へと話しかけた。


「ヴォルク様。もうすぐ、魔法大学の卒業式があります」

クレムが真剣な顔で頭を下げる。

「カールにも、学生としてのけじめ……卒業式に参加させたいんです。どうでしょうか?」


おぉー! 俺は修行(睡眠)に没頭するあまり、すっかり忘れていた。

なんて友達思いの良い奴らなんだ!


「ふむ。今のカールの魔力定着ペースなら、2ヶ月程度山を離れても問題ないだろう。許可しよう」


ヴォルク師から、あっさりと下山の許可が出た。

久々の下界! 久々の王都! 俺は子供のようにウキウキしていた。


◇ ◇ ◇


いつも通り、山道での送り迎えにはガルシアさんが付き添ってくれた。

久しぶりに俺の姿を間近で見たガルシアさんは、驚いたように目を見開き、真剣な声でこう言った。


「……カール君。ずいぶんと強くなったね」


「え、そうですか?」

確かに俺はこの2年間、ヴォルク師に言われるがままに死ぬほど高濃度スライムを食らい、寝続けた。その分、魔力総量が増えている自覚はある。

……が、寝てばかりだったので、戦いにおける実感がまるで湧かないのだ。


「帰り道、少し試してみると良い」


ガルシアさんに促され、俺たちは山を下る。

途中、なぜか中型モンスターは現れなかったが、運悪く一匹の『大型モンスター』と鉢合わせしてしまった。


(うわ、デカい……。これじゃ力試しどころか、逃げるだけで精一杯だよ……)

俺が冷や汗をかいていると。


「ちょうど良い相手がいたね」

ガルシアさんが俺の背中をポンと叩き、「さぁ、行ってきなさい」と戦うことを勧めてきた。


「いやいやいや! 以前、俺とクレムとエルザが3人がかりで死にかけたレベルの大型モンスターですよ!? 勝てるわけが――」


俺の抗議など知ったことかと、大型モンスターは咆哮を上げ、問答無用で襲いかかってきた。

後ろを見ると、ガルシアさんもクレムもエルザも、誰も助けようとする素振りがない。


「ひ、ひえぇぇーーー!!」

俺はやむを得ず、自衛のために敵に向かって飛び出した。


俺には、あの銀騎士戦で見せた奥の手『カール・スマッシュ』がある。

あの頃よりも魔力が増えている今なら、大型モンスター相手でも当たりどころさえ良ければ……!


だが、動き出した瞬間、俺は形容しがたい違和感に襲われた。


(……体が、軽い? いや……空気が『重い』のか?)


俺がほんの少し地面を蹴っただけで、景色が後ろに飛んでいく。

目にも止まらぬ速さで大型モンスターの懐へと入り込んだ俺は、無我夢中で、思いっきりその腹部へ向けて拳を振るった。


「カール……スマッシューーー!!」


ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!


山全体を揺らすほどの凄まじい轟音が響き渡り――。


次の瞬間、目の前にいたはずの巨大な大型モンスターは、悲鳴を上げることすら許されず、跡形もなく、ただの塵となって吹き飛んで消え去っていた。


「………………………………え?」


俺の拳の先には、もう何もない。

自分のあまりの変貌ぶりに、俺自身が一番呆然と立ち尽くしていたのだった。


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