【第68話】王国の公式発表と、それぞれの三ヶ月
結局、リディア国から近隣諸国へは、宰相クラウス様たちの手によって以下のように公式な通達が出されることになった。
・青く光る遺物を持っていれば、モンスターに襲われずにゼレナ山脈へ入山可能だった。
・しかし、現在はその遺物が全て銀の城の内部に収められており、山への容易な侵入は不可能である。(※剣聖の弟子ガルシアさんの存在には一切触れていない)
・遺物には不思議な力が宿っており、それを手にした人間は、城が隠されていた山の中腹へと強く誘われた。
・5つの遺物(武器)が揃ったことがキッカケとなり、中腹から『銀の城』が現れた。
・銀の城は歴史上の「銀の時代」のものである。(※詳細な歴史や286年後の崩壊については伏せている)
・城内には『ヴォルク師』と名乗る魔力体が存在し、対話が可能である。
・城には、モンスターのスタンピード以上に危険な古代の防衛兵器があるようで、決して刺激してはならない。
・山腹へ誘われ、ヴォルク師と対話して先方との連絡役に任命されたのは、『リディア国の王族の一員(俺)』である。
・銀の城が現れた真の目的は不明である。
・モンスターのスタンピードとの関係性も、現時点では不明。
……結論として、「引き続きスタンピードには警戒しつつ、あの城には絶対に無用な刺激を与えないことを強く推奨する」という内容だ。
まぁ、こんな都合のいい(肝心なところを隠した)連絡をもらったところで、他国が素直に納得できるわけがないだろう。
案の定、各国から「もっと詳細を教えろ」「合同調査隊を入れさせろ」と様々な問い合わせや圧力がきたようだが、これ以上の追及には、リディア国政府も「我々もこれ以上は知らぬ存ぜぬ」で強引に通したらしい。
王宮の大人達は死ぬほど忙しそうに眉間に皺を寄せて駆け回っていたが、俺たちは蚊帳の外である。大人の皆さん(特にエルウィンさん)お疲れ様です!ニヒヒ
◇ ◇ ◇
さて、ヴォルク師と改めて対話する予定の『3ヶ月後』まで。
この途方もない世界の危機に関して、ただの学生である俺たちに直接出来ることは何もない。
精々、ヴォルク師の隠している真の目的を考察してみる程度だが、いくら考えたところで手掛かりが少なすぎて答えは出ないのだ。
そして、下手に大きく動いて国際問題になっても困る。
そのため、我々5人は王都に留まり、それぞれが『今やれる事を、やれる範囲でこなす』有意義な期間を過ごすことになった。
■ジャック兄さんの場合
兄さんは、手放してしまった遺物『魔剣』に代わる強力な武器を求めて、王都中の高級武器屋巡りをしていた。
そしてついに、目玉が飛び出るほどの超高額だったが、最高純度の『ミスリル(白銀)の剣』を2本見つけ出したのだ。
「今後の世界の危機を考えれば、背に腹は代えられまい」
なんと、俺の新しい養父となったグランゼン様(超お金持ちの王族)が、ポンと自腹で購入してくださったのだ! さすがパパ!
1本はジャック兄さんが装備し、もう1本は山麓にいるガルシアさんへ渡す予定だ。良質な武器を手に入れた兄さんは、今まで以上に訓練に熱を入れ、恐ろしいほどの剣気を放つようになっていた。
■クレムの場合
クレムは、ガバレリアでの特訓以来こだわっていた「強力な攻撃魔法の習得」や「体術・剣術の強化」を、ここに来てすっぱりと諦めたようだ。
その代わりに、超優秀な光のヒーラーである彼にしか出来ないような、より高度で強力な『バフ魔法(強化魔法)』の探求に完全にシフトしたのだ。
うん、俺も絶対にそれが良いと思う。自分のやりたいこと(物理で殴る)よりも、チームの勝利のために自分の最適な役割を全うして行動する。クレムも立派に大人になったものだ。(しみじみ)
■エルザの場合
エルザは、リディア国内にいる光と闇の魔術師に片っ端から会いに行き、文献をあさっていた。
伝説の究極魔法『アトミックブレイク』は、世界最高の威力を誇る攻撃魔法だ。もしこれを現代で再現できれば、今回の問題でも大いに役に立つ可能性がある。(例えば、あの銀の城が完全に『人類の敵』だと判明した時に、城ごと消し飛ばすことも出来るかもしれない、等)
あの腹黒お嬢様なら本気でやりかねない。当初の目的通り、再現のための手順探しを虎視眈々と進めているようだ。
■そして、俺の場合
問題は俺だ。
俺は、突然の『王族デビュー』に完全に翻弄されていた。
他国からの干渉を防ぐための形だけの王族(グランゼン様の養子)とは言え、いざという時にボロが出ないよう、貴族の礼儀作法や歴史、政治学など、学ぶべきことが山のようにあるらしいのだ。
王宮から派遣された家庭教師たちによって、朝から晩までひたすらお勉強をさせられるハメになった。
(き、聞いてないよー!! 涙)
だが、そんな地獄の勉学漬けの中でも、俺は何とか隙間時間を見つけては裏山へ抜け出し、例の超必殺技『カール・スマッシュ』のコントロール練習をこなしていた。
自爆のリスクを減らすため、魔力発動タイミングと反動の逃がし方を身体に叩き込む。その甲斐あって、わりと自然に、かつ腕を吹き飛ばさずに使いこなせるようになってきた気がする。
ふふふ。もはや接近戦において、俺様は無敵ではないだろうか!(※ただし、人間をやめてるガルシアさんだけは除く)
◇ ◇ ◇
なんだかんだで忙しくも充実した日々を過ごし、約束の3ヶ月はあっという間に経ってしまった。
「……それでは、向かいましょうか」
リンギア魔法大学の中庭。
エルウィンさんの静かな号令のもと、俺たちは万全の準備と覚悟を胸に秘め、世界の運命が待つゼレナ山脈の『銀の城』へと、再び足を踏み出すのだった。




