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スライム食ったら世界を救うことになった【完結済】  作者: エリト


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【第65話】2400年の計画と、調律の真実

「正確には、今から『286年後』に世界の危機がくる」


半透明の老人・ヴォルクは、静まり返る広間の中で、とんでもないスケールの話を切り出した。


「我々はその危機を防ぐため、崩壊の日の2400年前……つまり、現時点からおよそ2114年前に、この世界へと到着した。ちなみに、歴史で『銀の時代』と呼ばれている期間は、わずか64年間だけ存在していたよ」


その64年間の間に一通りの調査やシステム構築の準備が済んだため、彼らは危機の直前(本来のエルティアの時代)まで、この城ごと深いスリープ状態に入っているつもりだったらしい。


「なぜ、危機の2400年も前に来たかと言うとだな……単に、そのタイミングでしかこちらへ世界移動ジャンプできなかったからだ。時空を超えた世界の移動には、極めて複雑な制限があってね。ちなみにこの『銀の城』は、世界を渡る船そのものだ。別の世界からやって来たと思ってくれ。……まぁ、正確には世界を繋いだ『データのコピー』でこの空間に物理再現したものなのだがね」


データだのコピーだの、ヴォルク師の口から飛び出す単語は、この世界の常識からかけ離れすぎていた。だが、エルウィンさんだけは目を爛々と輝かせて話に聞き入っている。


「移動してきた当時のこの世界は、国や集落という概念こそあったが、ろくな文明はなかった。文字の原型はあったが紙はなく、魔法は存在していても体系立ったものはほとんど無かった。そんな原始的な時代だったよ」


だからこそ、ヴォルクたちは2400年という途方もない時間を使い、この世界の文明を裏から操作して『緩やかに高度化』する予定だったらしい。


「あと300年もスリープしていれば、ちょうど予定の時代となり、私が今話しているような高度な概念が伝わるレベルの文化水準に到達していただろうからね。……まさか、予定より300年も前に、別世界の介入によってシステムが強制起動してしまうとはな」


ヴォルク師はふかいため息をついた。


「さて、気になっているだろう『2つの世界』についても話しておこう。我々の世界が観測した中で、もう一つの接触対象である世界『ガンズ・テラ』は、15番目に見つけた世界だ。そして、ここ……君たちのいる世界『セーズ・テラ』は、16番目に見つけた世界と呼んでいる。ちなみに、我々の故郷である一番最初の世界を『1番目』と数えているよ」


別の時空にある世界が交わることは通常はない。

しかし、世界を構成する力(この世界では魔力、別の世界ではまた別の力)は常にゆらいでおり、そのゆらぎ同士が偶然近くに発生すると、世界が局地的に『重なり合う』事があるのだという。


「法則が全く異なる二つの世界が接触すると、互いの矛盾から『崩壊』が始まる。接触は一瞬かつ、一点のみで起こる。それを、こちらの世界とあちらの世界の両側から『調律』することで、崩壊を回避する事ができる……というわけだ。まぁ、詳しい話はまだ理解できないだろうがね」


(なるほど……。ってことは、向こうの『ガンズ・テラ』って世界にも、俺と同じような『調律者』がいるわけか……)


俺が一人で納得していると、エルウィンさんが鋭い視線で質問を投げかけた。


「ヴォルク殿。なぜ、あなた方はわざわざ別の世界を救いに来たのですか?」


「3000年以上前には、すでにこの2つの世界同士が重なり合うことは予測できていた。我々のいた1番目の世界の技術は、大雑把ではあるが別世界の観測が可能だからね。……別次元の他世界の崩壊が、巡り巡って我々の世界にどの程度の悪影響を及ぼすか、未知数で不明だった。だから、未然に防ぎ、救うことになったのだよ」

ヴォルク師は淡々と答える。

「それに、これが初めての事態ではない。我々が他世界の調律に関わるのは、すでに『5回目』の出来事だったのだよ」


(数千年に1度の危機がこれで5回目って……俺たちを救いに来た1番目の世界の人達、一体どれだけ途方もない未来を生きてるんだ??)

俺の想像力はとっくにキャパオーバーを起こしていた。


「では、巨大スライム……システムが言っていた『介入してきた3つ目の世界』とは何なのですか?」

エルウィンさんがさらに踏み込む。俺が最も聞きたかった「バグの原因」だ。


ヴォルク師は、スッと少しだけ苦い顔をして語った。


「……『世界の重なりや崩壊も自然の摂理であり、大いなる意思である。別世界からの不介入を貫くべきだ』。崩壊を回避させようとする我々とは別の主張をする、厄介な別世界の集団もいてね。どうやら、そこの過激派が介入してきたようなのだ」


その結果、システムの根幹にバグが生じさせ、今回の崩壊を回避するためのプロセスが極めて難しくなってしまったらしい。


「まったく、困ったやつらだ……」と、ヴォルク師はひどく人間臭い愚痴を吐いた。


(当たり前だけど、別世界にも色々な派閥や厄介な連中がいるんだな……)


「では……」

エルウィンさんが、いよいよ核心に迫る。

「カールの持つ特殊魔法『テンパメント(調律魔法)』とは、そして『世界の調律』とは、具体的に何をするものなのですか?」


ヴォルク師は、真面目な顔つきに戻り、重々しく口を開いた。


「調律魔法『テンパメント』は、簡単に言えば『反発と融合の魔法』だ」


接触自体は避けられない。重要なのは、接触が起きた後、どう対処するか。

接触したその瞬間、特異点において極限まで『時間は引き延ばされる』という。

その引き延ばされた時間の中で、各種で起きる世界同士の物理的・魔力的な重なりを、テンパメントを使って『反発して弾く』か、それとも『融合して受け入れる』かを瞬時に判断し、操作する。それを行うのが調律なのだ。


「それも、こちら(セーズ・テラ)とあちら(ガンズ・テラ)の世界で、同時に2名の調律者が完璧に息を合わせて行う必要がある。……正直、こればかりは私も詳しくは知らん。過去4回、実際にテンパメントを発動した調律者たちにしか分からない感覚らしい」


ヴォルク師は遠い目をした。


「過去の記録によれば、『まるで、二人で極上の美しいハーモニーを奏でるような感覚だった』と……そんな表現をした者も居たそうだ」


(美しいハーモニー……)

俺は自分の無骨な拳を見つめた。脳筋の俺にそんな繊細な真似ができるだろうか。


エルウィンさんが、覚悟を決めたように一歩前に出た。


「……では、最大の核心となる質問をします」


広間の空気が、ピンと張り詰める。


「286年後に起きる世界の接触を避けるには、そのテンパメントによる調律が必要なのは完全に理解しました。ですが……ここにいるカールは、寿命を考えても『286年後には生きていない』でしょう」


その通りだ。いくら俺が魔術師になって長生きになったといっても、長寿で有名なエルフやドワーフじゃあるまいし、ただの人間だ。


「予定より300年早く調律者に選ばれてしまった彼は、どうやってそれを実施するのですか? それとも、その魔法や権限は、未来の誰かに引き継げるものなんですか?」


俺の運命を左右する、重すぎる問い。

全員が固唾を呑んで見守る中、ヴォルク師は……深く、ひどく苦悩に満ちた顔で答えた。


「……それは、現状……『まだわからん』。もちろん、予定より早く目覚めたこんなケースは、我々にとっても初めてのことだからな……」


「……」


「……これから、あらゆるデータベースをひっくり返して対策を考えねばならん。もし、カールの命を繋ぐか、権限を移譲する『解決の手』が見つからなければ……残念ながら286年後、君たちの世界とガンズ・テラは接触し、完全に崩壊することになる」


絶望的な宣告が、淡い光に包まれた銀の城に、重く、冷たく響き渡ったのだった。


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