【第63話】腹黒令嬢の秘策と、狂乱の操り人形
その後、ガルシアさんは残る『魔鎚』と『魔鎌』の銀騎士2体も、文字通りあっさりと一刀両断してしまった。
なんだか、円状に並んだ4体の顔が「こんなバケモノ聞いてない」とドン引きしているように見える。(いや、兜だから表情は無いんだけどね)
「さて、最後の1体ですが……どうしましょうか」
あの傲岸不遜なエルウィンさんが、ガルシアさんに教えを乞うように質問をしている。まぁ、今の状況ではこの次元の違う凄腕剣士に頼るしかないからね。
ガルシアさんは顎を撫でながら答えた。
「そうですね。先の3体を斬った感触で分かりますが……私の手元にあるこの普通の鋼の剣では、あのオリハルコンの鎧は到底斬れないでしょう」
これは困った。
最後の1体を起動させるには、今ガルシアさんが持っている最後の遺物『魔剣』を銀騎士に渡さなければならない。
でも、それを渡してしまえば、こちらの陣営には銀騎士の無敵装甲を貫ける武器が無くなってしまう。(俺の玉砕技『カール・スマッシュ』を除けば……だが)
一度リンギアへ戻って、国宝級の最高峰ミスリル剣でも探して持ってくるか……。
そんな後ろ向きな話をしている中、これまで扇子で口元を隠して静観していたエルザが、ついに前に出た。
「……ふふっ。ついに私の出番が来たようね」
え? この詰み状況を打開する案が本当にあるの?
でもそれって、カルバン領で覚えてきた「出来れば使いたくない」って言ってたヤバい闇魔法だよね? 本当にやるの? 大丈夫なの俺たち!?
……と思っても、後で何をされるか分からないから、俺は絶対に口には出さない。
「今までの戦いで分かったことがあるわ」
こちらの心配など気づきもせずに、エルザは自信満々に語りだした。
「銀騎士には自動修復機能がついているけれど、回復には『一定の数分間』のタイムラグがあるわ」
たしかにそうだ。俺が魔斧の騎士を倒した直後も、再起動するまでに少し時間があったようだし。
「まずはガルシアさんに、最後の魔剣の銀騎士と戦ってもらうの。もちろん、ガルシアさんの普通の剣でね」
「ふむ、どういうことだ?」とガルシアさんが首を傾げる。
「ガルシアさんご自身も言った通り、普通の剣で鎧を"斬る"ことは出来ないでしょう。でも……尋常じゃない筋力で殴りつけて、ダメージを与えることは出来るはずだわ」
これも納得だ。今までガルシアさんが斬った所はあまりの神速と切れ味にすっぱりと切断されているが、もし斬れなかったら、そのすさまじい衝撃で鎧はひしゃげていただろう。
「そこで、ガルシアさんには銀騎士の足と腕の関節を徹底的に叩いてひしゃげてもらうわ。そこで、動けなくなった相手にすぐ『降参』してもらうの」
ん? どういうことだ? それだと意味ないと思うが??
いまいち話が見えない。
「で、すぐにカール! あなたが挑戦するの!」
は??
俺がすぐに挑戦?
つまり、動けなくなって自己修復中の無防備な銀騎士に、俺のカール・スマッシュをぶち込めってこと?
……さ、さすが悪役令嬢、いや腹黒女である。あまりにえげつない戦法に、大人たちを含めてみんな微妙な顔をしている。
「いや、ちょっと待ってよ!」俺は慌てて抗議した。「俺はもう魔力も尽きてるし、身体もクタクタで動けないんだよ!」
そんなボロボロの状態で、果たして銀騎士の装甲を砕くほどのスマッシュが撃てるだろうか。いや撃てない(反語)。
「だ・か・ら、私の出番じゃない!」
エルザが、ニチャァ……という効果音が似合いそうな、最高に邪悪な笑みを浮かべた。
ん? どゆこと? なんだか猛烈に嫌な予感がする。
「私がカルバン領で新たに学んできた闇魔法『バーサーク・パペット(狂乱操り人形)』で、あなたの疲れた身体を強制的に操作して、痛覚を遮断し限界突破させてあげるから安心して!」
はぁぁぁ!? この人何言ってるの!?
「えっと、ちょっとそれは……倫理的にも人権的にも……」
俺が全力で後ずさりしようとした、その時だった。
「おぉ! それは合理的で素晴らしい作戦ですね。さっそくやりましょう!」
エルウィンさんがポンと手を打って満面の笑みで即座に賛同した。
その後、小声で(この山、何度も往復するのも面倒ですしね……)という身も蓋もない本音が聞こえてきた。
お、鬼や。この人たち、人の心を持たない鬼や。俺は心の中で血の涙を流した。
◇ ◇ ◇
結論を言おう。作戦は完璧に成功した。
ガルシアさんの神業めいた打撃剣術によって腕と足の関節をボコボコにひしゃげられ、まともに防御する態勢もとれないまま膝をついた最後の銀騎士。
そこに――闇魔法で瞳孔を開き、痛覚を遮断され、理性をすっ飛ばして超絶強化されたバーサーカー『カール』のスマッシュが直撃し、最後の銀騎士は木端微塵に弾け飛んだのであった。
俺がその後、白目を剥いたまま、しばらく地面から起き上がれなかったのは言うまでもない。




