【第62話】最強の助っ人登場と、匠の一振り
「……んっ……」
俺はハッと目を覚ました。
後頭部に柔らかい感触がある。おおっ、これはもしやヒロインイベントの膝枕!?
俺は見開いた目で上を見上げた。
「あ、カール! 気がついた!?」
そこにあったのは、涙ぐみながら俺を覗き込む、男友達の顔だった。
(そこはエルザだろ!! なんでむさい男の膝枕なんだよ!!)
俺は心の中で全力のツッコミを入れたが、今はそれどころではない。ちょっと待て、どうなったんだ?
痛む首を無理やり動かして周りを見ると、俺の超必殺技『カール・スマッシュ』を喰らって上半身が消し飛んだはずの『魔斧の銀騎士』が、なぜか傷一つないピカピカの状態で、草原のど真ん中に平然と立っているではないか。
「え? さっきの、夢だったのか……?」
俺は絶望感に襲われ、思わずつぶやいてしまった。
すると、俺の言葉に反応したのか、銀騎士の目がカチャリと光った。
「……見事な一撃だった。貴殿の勝利だ。我は敗北を認めよう」
それだけを重々しく告げると、銀騎士の目の光がフッと消え、完全に静止してしまった。まるで役目を終えた石像のように。
どうやら、自己修復機能でもついているのか、それともシステム的な「試練クリア判定」が出たことで初期状態に戻ったのか。とにかく、倒したという事実は間違いなく残っているようだ。
「カール、よくやりました。あなたの勝利ですよ」
いつになく優しい声で、エルウィンさんが俺を見下ろして微笑んでいた。
やったーーーー!! 勝ったぜ!!
ついに、あの理不尽で無敵だった銀騎士に、この俺が単独で勝ったのだ!!
俺は喜びのあまり飛び起きてガッツポーズを決めようと……して、そのまま地面に「ぐふっ」と倒れ込んだ。
体が、鉛のように重くて全然動かない。
クレムの最上級ヒールのおかげで、ズタズタに裂けた筋肉や折れた骨の傷自体は完全に塞がっているのだが、『カール・スマッシュ』による凄まじい反動と魔力枯渇の影響が思った以上に大きく、極度の筋肉痛のような倦怠感で指一本動かすのもしんどい状態だった。
「さて、次はどうしましょうかね……」
エルウィンさんが、顎に手を当てて視線を横に向けた。
そこには、俺と魔斧の騎士の戦いをずっと静観していた『魔槍の銀騎士』が、真っ直ぐにこちらを見ている。
言葉こそ発しないものの、その佇まいは明らかに「で、いつ始めるのか?」と、次の挑戦者を待ちわびている顔だ。(いや、兜だから表情は無いんだけどね)
「魔槍の銀騎士には、今のカールの戦いを一部始終見られています。当然、フラクトフラッシュやカール・スマッシュへの警戒を最大限に高めているでしょうから、次はそう簡単には倒せないでしょうね」
(いやいや、魔斧の銀騎士も全然簡単じゃなかったし! さらに警戒度MAXになった魔槍の銀騎士を相手に戦えって……む、無理でしょ!!)
俺は冷や汗を流しながら、引きつった半笑い顔でエルウィンさんに聞いてみた。
「あのぉ……。やっぱり次も、俺が戦うんですかねぇ?」
すると、我が引率者は、美しい顔に底意地の悪い笑みを浮かべて即答した。
「当たり前でしょう。今の我々の戦力で、あなた以外に誰がいるというのですか?」
(でたー! 鬼教官エルウィン!! スパルタすぎるだろ!! 聞いちゃった自分が馬鹿でした!!)
「……とは言ったものの」
俺が半泣きになっていると、エルウィンさんはふぅとため息をついた。
「現実的に考えて、疲労困憊のあなたがあと4体の銀騎士を相手にするのは不可能でしょうね。今回はここまでにして、大人しくリンギアへ戻り、魔槍への対策をしっかりと練ってからまた来ることにしますか」
(おぉ……! エルウィンさんがまともな判断をしてくれている! 助かった……涙)
俺が心底安堵して息を吐いた、その時だった。
「――凄まじい戦いだったね」
不意に、草原の入り口の方から、落ち着いた声が響いた。
全員が驚いて振り返ると、そこには質素な服を着た一人の男性が立っていた。
「来てくれたんですか!?」
ジャック兄さんが、パァッと顔を輝かせた。そこにいたのは、あの剣聖の弟子、ガルシアさんだったのだ。
「ああ。例の地響きと、そして山を揺るがすような凄まじい戦闘音が聞こえていたからね。気になって、つい来てしまったよ」
……ん? あれ?
俺の脳内で、強烈な違和感が警鐘を鳴らした。
(ガルシアさんの家がある麓の森から、この中腹の草原まで、どんなに急いで険しい獣道を登っても『半日』はかかるぞ??)
もしかして、俺たちのことが心配で、こっそり後をつけてきてたのかな? ガルシアさんってば、意外と恥ずかしがり屋だなぁ(笑)。
……なんて、俺がのんきなことを考えていたら。
「いやはや、私の家の近場にこんな開けた場所があったとはね。本気で走ったが、30分もかからない場所にあるとは思わなかった」
はい? 30分?
あのバケモノがウヨウヨいる険しい魔境の山道を? 青く光る魔除けの武器も無しに??
どういうこと???
俺の頭の中に、疑問符の大群が押し寄せてくる。
(いやおかしいだろ! どんな脚力してんだよ! 途中で巨大モンスターに絶対遭遇するだろ!? それらを全部スルーするか、あるいは『一瞬で斬り捨てて』ノンストップで登ってきたってことか!?)
俺がツッコミに追いつけず混乱していると、ガルシアさんは俺の方を見て、晴れ渡ったような清々しい顔でつぶやいた。
「君の、あの玉砕覚悟の戦いには……心から感動したよ」
ガルシアさんは、自分の胸にそっと手を当てた。
「ひさしぶりに、命を懸けた真剣な戦いの熱に触れて……今、私の心が激しく震えている」
おおぉ……! この熱い流れはまさか!
「何度も君たちの誘いを断っておいて、今更で本当に恥ずかしいのだが……私にも、その戦いを手伝わせてほしい」
やったぜ!! ついにきた!!
俺たちの中の最強の剣士(※ただし本人は自分をそこまで強くないと勘違いしている)、ガルシアさんがついに参戦だ!!!
俺たちは一気に色めき立った。ジャック兄さんやクレムも嬉しそうに頷いている。
「私のような半端者が、どこまで君たちの役に立てるか分からないが……戦ってみよう」
ガルシアさんは謙遜しながらそう言うと、ジャック兄さんに向き直った。
「ジャック君。すまないが、君のその剣(魔剣)を貸してもらえるかな?」
「はいっ! お願いします!」
ジャック兄さんから青く光る『魔剣』を受け取ったガルシアさんは、それを軽く数度振って重心を確かめると、静かに歩みを進めた。
「さぁ、私の相手は……そこの槍の騎士かな」
ガルシアさんが、魔槍の銀騎士に声をかけた。
「さっそく準備ができたのか? さぁ、いざ尋常に勝負!」
銀騎士がいつもの起動音声を放ち、凄まじい闘気と共に魔槍を構え、一直線にガルシアさんへと突進していく。
さっそく、二回戦目の戦いが始まった。
――なんということでしょう!
あんなに頑強で、天才魔術師の全属性魔法すら傷一つ付けられず、俺が命と右腕を引き換えにした自爆魔法でようやく倒した、あの理不尽な装甲の銀騎士との死闘が。
百戦錬磨の匠の、神速の一振りによって、あっという間に決着してしまったのです。
……と言う、どこかのリフォーム番組で聞いたことあるようなナレーションが俺の脳内で流れる間もなく。
シュインッ。
魔槍の銀騎士は、ガルシアさんがすれ違いざまに放った無造作な剣閃によって、文字通り『真っ二つ』に両断されていたのだった。
「……………………うそーん!!!」
俺の、そしてエルウィンさんの開いた口が塞がらない絶叫が、ゼレナ山脈の中腹にこだましたのだった。




