【第59話】三ヶ月の成果と、俺だけのチート技
王都でそれぞれが別れて調査を開始してから、あっという間に3ヶ月の月日が流れた。
約束の期日を迎え、俺たち3つのチームは再びリンギア魔法大学の厳重な会議室に集まり、互いの成果を報告し合うことになった。
まずは、大人権限をフル活用したグスタフ学長とエルウィンさんのペアからだ。
「結論から言うと、無事に残り2つの遺物を回収してきたよ」
学長が疲れた顔で机の上にドン、ドン、と重々しい布包みを置いた。布を解くと、中から淡く青い光を放つ『魔鎚』と『魔鎌』が現れた。
「おおおっ!」
俺たちが歓声を上げると、学長はげっそりとした顔でため息をついた。
「いやはや、発見と他国からの持ち出しには、政治的にも物理的にも相当苦労したよ……。それに、アストリアのオズワルドからは『貸した魔槍を返しもせずに、今度は別の場所を嗅ぎ回るのか!』と、通信魔法越しにネチネチネチネチと嫌味を言われ続けてね……」
(大師匠、本当にお疲れ様でした……)
俺は学長のすり減った胃を思って、心の中で深く合掌した。ともあれ、これで『5つの遺物』がすべて揃ったことになる。
次に、剣士を探しに行ったクレムとジャック兄さんペアの報告だ。
だが、二人はひどく浮かない顔をしていた。
「……伝説の剣聖ギャレスは、10年近く前にすでに亡くなっていました」
ジャック兄さんが重い口を開く。
「その代わり、山麓の森で彼の唯一の弟子である『ガルシア』という人物を見つけたんです。あの銀騎士に対抗できるかもしれないほどの、とてつもない凄腕でした。ですが……」
「どうにも、説得に応じてもらえなかったんだよね」
クレムが肩を落として補足した。なぜか、戦いの場に出ることを固辞されたという。
「なら、山脈の中腹に向かう途中で、もう一度みんなで寄って改めて勧誘してみようぜ!」
俺は落ち込む二人の肩をバンバンと叩いた。
「いやいや、そもそもあの理不尽な銀騎士に太刀打ちできそうな超絶剣士を、この広い世界から見つけ出せただけでも大成果だろ!」
俺の言葉に、ジャック兄さんとクレムも少しだけ表情を明るくした。
そして最後は、俺たち魔法探索チームの報告である。
まずエルザからの報告だったが、例の『フラクトフラッシュ(装甲を透す光魔法)』の使い手は、残念ながら近隣諸国では一人も見つからなかった。
だが、各国の魔法師団から「理論上は、こうやれば再現できるのでは?」という膨大な考察アイデアの束をもらった。
俺は、そのアイデアの束を元に、王都の裏山で色々と試行錯誤を繰り返した。
で……なぜか、出来てしまったのだ。
「ふふっ。マニアックな極秘魔法を一人で再現しちまうなんて、俺の才能が怖いぜ」
俺がドヤ顔で前髪をかき上げると、横にいたエルザに「たまたま魔力量でゴリ押しできただけでしょ」と冷たく無視されたのは言うまでもない。(涙)
ちなみにエルザ自身は、実家のカルバン領で例の『ヤバい闇魔法』をしっかり覚えて帰ってきていた。
「どんな魔法なんだ?」と恐る恐る聞いてみたが、エルザは扇子で口元を隠し、冷たい目で笑うだけだった。
「……最後の最後、どうしても必要になった時だけ使うわ」
(な、なにそれ。ますます怖いんですけど!)
俺は絶対に敵に回したくないと心から思った。
さて、報告会の締めくくりとして、俺は裏山で岩を粉砕した『無と光の合わせ技』をみんなの前で披露することにした。
俺は得意顔だ。(どうよ? 俺の新必殺技!)
「……ど、どういうことだ!?」
だが、俺の説明を聞いたグスタフ学長とエルウィンさんは、称賛するどころか、信じられないものを見るような目で驚愕していた。
「無と光の融合など、術者自身が吹き飛ぶ自爆技の筆頭だぞ……! クレム、試しに君もやってみてくれ。……極力、魔力の出力を絞ってやるように」
「はい、わかりました」
エルウィンさんに指示され、俺から簡単なコツ(拳の先端に光を乗せるイメージ)を聞いたクレムが、会議室に用意された頑丈な訓練用の岩に向かって拳を突き出した。
ドゴォッ!!
鈍い爆発音と共に、岩の表面が少しだけ弾け――それと同時に、クレムの右手が手首から先ごと無残に弾け飛んだ!
「ぎゃああああっ!? うぅ……え、エクストラ・ヒール!!」
「え!?」
なぜだ!? 俺は完全に固まってしまった。俺がやった時は、まったくノーダメージだったのに!
「大丈夫か、クレム!」
「は、はい……出力を最大限絞っていたので、腕一本で助かりました……」
クレムは涙目で自分の右手を再生させながら、ぜぇぜぇと肩で息をしている。
「ふむ……。私も、指先だけで試してみよう……」
エルウィンさんが真剣な顔で指先に魔力を込め、岩を突いた。
パーンッ! という破裂音と共に、エルウィンさんの指が数本、綺麗に弾け飛んで消滅した。
「……ッ!! ヒール」
すぐさま回復魔法で指を再生させたが、さすがに痛かったのか、クレムもエルウィンさんも脂汗を流してクタクタになっていた。
「……カール」
エルウィンさんが、再生したばかりの指で、俺の額をギリギリと力強く小突いた。
「よくこんな腕が吹き飛ぶ無茶な自爆魔法を、勝手に1人で試しましたね……?」
(ひぃぃっ! これ、絶対あとで長めのお説教されるの確定やん! なんでやー!!涙)
大人たちの検証の結果、俺の編み出した合わせ技は『俺の異常に頑丈な肉体と、規格外の無属性魔力コーティング』があって初めて成立する、完全な俺専用のチート魔法だということが判明した。
とりあえず、絶対に混ぜるな危険な魔法を、なぜか俺だけがノーリスクで使いこなせるというチートキャラになってしまったのだ。
俺自身、ここ数年は体術や魔力操作など、それなりに血の滲むような努力はしているつもりだったが……こんな理不尽なスペシャル技が、あっさりと手に入ってしまい、なんだかひどく複雑な気持ちだった。
「まぁよい。これで、あの無敵の装甲を破る手立ては増えたということだ」
学長が咳払いをして、場をまとめる。
剣士の目星もつき、俺のチート技も完成し、5つの遺物もすべて揃った。
とりあえず、一通りの準備とやれることは全てやり尽くした。
「よし。それじゃあ、改めて行こうか」
俺たちは決意を新たに立ち上がり、全ての謎と試練が眠る地――ゼレナ山脈へ向けて、三度目の出発をするのだった。




