【第58話】打開策調査編と、禁忌の合わせ技
――剣聖探しに出たジャック兄さんたちと別れ、俺とエルザは王都のリンギア魔法大学に残って『打開策調査編』に入っていた。
「打開策の候補なら、すでにいくつか目星がついているわ。魔法に関しては、究極魔法関連の文献を散々調査してきたからね」
エルザが自信満々に扇子を広げた。さすがは有能な腹黒令嬢だ。すでに下調べが済んでいるとは頼もしい。
「それに、今回の調査は私にとっても非常に好都合なのよ。アトミックブレイクの再現には『光』と『闇』の上級魔術師に会って話を聞く必要があったのだけれど……今回、銀騎士に対抗できそうな魔法の候補も、ちょうど『光』と『闇』なの」
「へえ。どんな魔法を考えてるんだ?」
「光魔法の方は、『フラクトフラッシュ』という技よ」
エルザが説明を始める。
「通常は決して超えられないような強固な壁を突き抜けて、向こう側に魔力を『透す』ことができる魔法よ。ただし、ほんの小さな魔力しか通せないので、実戦で使われるケースは極めて限られているわ。だから、ほとんどの人が存在すら知らないマニアックな魔法よ」
確かに、俺も初めて聞いた名前だ。
「つまり、そのフラクトフラッシュを使えば、あの傷一つ付かないオリハルコンの鎧を無視して、鎧の中にあるであろう駆動部に直接魔力をぶつけられる可能性があるってことか」
「その通りよ。それに、こんなマニアックな光魔法を知っているような古参の魔術師なら、アトミックブレイクの手がかりを知っている可能性も高いわ」
なるほど、一石二鳥というわけだ。
「じゃあ、闇魔法の方はどうなんだ?」と俺が聞くと。
「闇は……私の実家、カルバン領に戻って確認してくる予定よ。とある魔法を使えば、銀騎士に対抗できるかもしれないわ。……まぁ、サニティー・ブレイク同様、あまり使いたくない悪趣味な魔法なのだけれどね」
エルザの表情が、わずかに曇った。
(な、なにそれ、こわい……)
あの巨大トカゲを狂乱させて同士討ちさせた『精神破壊』と同じくらい使いたくない闇魔法って、どんなエグい効果なんだよ。願わくば、俺たちにそれを使わずに済みますように……と、俺は密かに恐れおののいた。
◇ ◇ ◇
その後、大学の資料を調査してわかったが、フラクトフラッシュの使い手は現在、リディア国内にはいないようだ。
エルウィンさんに聞いてみたところ、「ああ、その魔法の存在は知っていますよ。ただ、私は光と闇の属性はそこまで得意ではないので、使えませんね(意訳:新しく覚えるのが面倒くさい)」とのことだった。全属性使いのくせに使えないってどういうことだ、このポンコツマッドサイエンティスト…と思っても口が裂けても言えない。
仕方なくグスタフ学長に相談したところ、はるか東にある『シャリーク国』という国に光魔術師が多く集まっていると教えてもらった。
ただ、リディア国とは国交がなく、学生が気軽に行くには相当遠くて困難とのこと。
「フラクトフラッシュの術理を教えて欲しいだけなら、わざわざ東の果てまで行かずとも、私の伝手で近隣諸国の魔法師団に手紙で聞いてみよう」
学長はそう言って、早速手配してくれた。さすがは大師匠、頼りになる。使い手が見つかるといいな。
そして、手紙の返事を待つしかやることがなくなったため、エルザは闇魔法を調べるために実家のカルバン領へ向かうことになった。
「俺も一緒に行くよ」と俺が同行を申し出ると。
「ダメよ。あなたが来ても、何もいい事ないわ」
エルザは一切の迷いなく、きっぱりと俺を断ったのだった。
(なんでやねん! 少しは相棒として頼ってくれてもいいだろ!)
※後になって知ることになるが、ヤバい秘密を抱えるカルバン領に俺を巻き込まないための、彼女なりの気遣いだったのだろう
◇ ◇ ◇
というわけで、エルザも行ってしまい、俺は王都で完全に一人になってしまった。
また勝手に一人で遠出をしてトラブルを起こしたら、今度こそエルウィンさんに地下牢獄に繋がれそうなので、大人しく近場でやれそうな事だけをやろう。(これは決してフラグではないよ、汗)
実は、銀騎士戦の直後から、俺の中でどうしても「ひとつだけ試してみたいこと」があったのだ。
俺がやりたいのは、俺の得意な『無属性』と『光属性』の合わせ技である。
現在、この二つくらいしかまともに使えない俺は、攻撃のバリエーションに限界を感じていた。だったら、その二つを融合させてみてはどうか、と思ったわけだ。
実は先日、「何か銀騎士攻略の足掛かりがないか?」と一人で禁書庫を調べていた時に、ある魔法の記述を見つけていた。
『魔法失敗集大全:禁』
いかにもヤバそうなタイトルの古書の中に、その記述はあった。
技の理論自体は割と単純だった。
極限まで無属性で肉体を強化し、そこに光魔法『ア・レイ』の推進力を自分自身にかけて超高速で移動し、相手を殴るだけ。
過去に、出力を弱めにしてこれを試した魔術師がいたらしいが、その結果、標的の岩にぶつかった瞬間、凄まじい反発が起きて『巨大な岩もろとも、術者自身が爆散した』と記されていた。(怖すぎるだろ)
どうやら、魔力を外に放つ「光」と、自身の内側に留めて強化する「無」の特性は反発しやすく、無理に合わせると自分にダメージが返ってくる事故が多いそうだ。そのため、現代魔法学では「無と光は合わせるな」というのが絶対の通説となっている。
さすがにこのまま同じことを真似して自爆するわけにはいかない。
……とは言え!
ここで「危ないからやらない」を選択するような弱腰男子ではない! 俺は将来ビッグになる男だ!
そこで、俺が考えた改良案はこうだ。
『身体強化(無属性)で素早く移動し、標的を殴る瞬間にだけ、拳の一点にア・レイ(光魔法)を乗せて爆発させる』というのはどうか? と。
もし失敗して反発が起きても、最悪『腕が吹き飛ぶだけ』で済むだろう。腕がちぎれるくらいなら、クレムの最上級ヒールで治せる!
(この時の俺は、完全にクレムの回復力をアテにした脳筋思考に陥っていた……汗)
リスクは死ぬほど高いが、もう思いついちゃったからにはやらない訳にはいかない。
まぁ、なんとかなるだろ。俺の中の例の野生の直感が、「イケる」と強く囁いているのだから。
◇ ◇ ◇
さっそく俺は、王都の近場にある人気のない山に移動し、手頃な岩を見つけた。
高さ5mはある、巨大で硬い大岩だ。
普段の無属性パンチ(身体強化のみ)でも、これをバラバラに砕くことはできるが、粉のような「粉々」にするのは少し難しい。標的としては最適だ。
まあ、試してみるか。どうせこんな異端の合わせ技、一発で上手く行くわけもないしな。
俺は全身の力を抜き、気軽にシュッと拳を突き出してみた。
無属性の魔力で強化した拳の先端に、ほんの少しだけ光属性の魔力を収束させるイメージ。
ドゴォォォォォォォォォッ……!!
「……え?」
とんでもなく重く、そして甲高い爆音が山に響き渡った。
俺の拳が触れた瞬間、目の前にあった高さ5mの巨大な岩は、まるで最初からそこに存在しなかったかのように、細かな『砂』となって跡形もなく吹き飛んでいたのだった。




