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スライム食ったら世界を救うことになった【祝1万PV】  作者: エリト


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【第57話】剣聖探索編と、勘違いの継承者

――カールとエルザが王都で打開策を練っている頃。

『銀騎士を倒せる超絶的な剣士』を探すという任務を帯びたクレムとジャック兄さんは、情報収集に奔走していた。


「さて、どうしましょうか」


「まずは、話に出ていた『30年前の目撃情報』を徹底的に調べてみよう」


二人は、王都や近隣の街に住む年配の冒険者や、歴史に詳しい元騎士たちを訪ね歩き、地道な聞き込み調査を行った。


「どうやら、剣聖は一つの国には留まらず、修行のために様々な国を渡り歩いていたようだね。ただ、目撃情報に偏りがあって……ゼレナ山脈近辺の国に滞在していることが多かったみたいだ」


集まった情報を地図にまとめながら、ジャック兄さんが顎に手を当てた。


「ゼレナ山脈……。もしかして、あの山脈から降りてくる強大なモンスターを相手に修行していたのでしょうか?」

クレムが推測を述べる。

「それに、30年くらい前からピタリと目撃情報が無くなっているのも気になります。ひょっとすると……今もゼレナ山脈の奥深くに籠って生活しているのかも」


「可能性は高いな。行ってみよう」


二人は、エルウィンさんから借り受けた『青く光る魔剣』を携え、再びゼレナ山脈へと足を踏み入れることにした。魔剣の魔除け効果があれば、あの危険な森も安全に探索できるからだ。彼らが選んだのは、剣聖が最後に目撃されたというウェルシア国側の麓だった。


しかし、いざ森に入ってみたものの、ゼレナ山脈はあまりにも広大すぎた。

宛てのない探索が続き、5日目。

(さすがにもう、これ以上の捜索は諦めようか……)と二人の心が折れかけていた、その時だった。


「……ん?」


森の奥深く、澄んだ川のほとりで、魚を焼いている一人の男性を見かけた。

粗末な身なりだが、背筋が真っ直ぐに伸びた男だ。しかし、年齢は思ったよりもずっと若い。まだ40歳手前くらいに見える。もし伝説の剣聖が生きていれば、70歳には近いはずだ。


二人が立ち止まっていると、向こうから声がかかった。


「こんな危険な森の奥に人が来るとは珍しい。よく生きてここまでこられたものだ」


男は焚き火の番をしながら、静かにこちらを見つめていた。

ジャック兄さんが一歩前に出て、敬意を込めて尋ねた。


「一つ、お尋ねしたいことがあります。あなたはもしや……剣聖様でしょうか?」


「……なるほど。剣聖を訪ねて来たのか」

男は少しだけ目を伏せ、首を横に振った。

「残念ながら、剣聖ギャレス様は10年近く前に亡くなられた。私は、ギャレス様の弟子だった『ガルシア』という者だ」


「亡くなられた……」

期待が外れ、ジャック兄さんとクレムは顔を見合わせた。


「ふむ。ここでは何だからな。少し歩いた向こうに私の家がある。そこで話そう」


ガルシアさんに案内され、二人は森の中にひっそりと建てられた質素な丸太小屋へと向かった。


小屋の中で温かいお茶を出してもらい、二人は自分たちがなぜ剣聖を探していたのか、その切実な理由を語った。ゼレナ山脈の中腹にある草原の出来事や、無敵の銀騎士の存在についても包み隠さず説明した。


「なるほど。以前、山の上の方から凄まじい地響きが聞こえたので、てっきり噴火でもするのかと警戒していたが……そういうことだったのか」

ガルシアさんは一人納得するように頷いた。


一通り事情を話し終えた後、クレムは真剣な眼差しでお願いをした。


「剣聖様がいらっしゃらないのは残念ですが……代わりに、弟子のガルシア様に戦っていただくことは出来ませんか?」


「……無理だ」

ガルシアさんは自嘲気味に笑い、寂しそうな顔で首を振った。

「残念ながら、私にはギャレス様のような圧倒的な強さはない。君たちの目的を果たすなら、この近辺の国で現在の『最強の騎士』と謳われる者を探したほうが良いだろう。私は……ギャレス様に『おまえは剣聖に至れぬ』と、最後まで失望させた愚かな弟子だからね」


「失望させた? 一体、何があったんですか?」

ジャック兄さんが、その言葉の裏にある事情を尋ねた。


ガルシアさんは、まるで長年の罪を懺悔するかのように、ぽつりぽつりと過去を語り出した。


「剣聖ギャレス様は、ご自身の名が世界中に広まった頃、すでに肉体のピークが過ぎていくのを感じていらっしゃった。そこで今から30年前、ご自身の技を絶やさぬため、次世代の剣聖を育てるべく弟子を取り始めたのだ」


だが、最初の10年は、過酷すぎる修行に耐えきれず、めぼしい弟子は一人も育たなかったという。

そしてその翌年、一人の才覚豊かな少年が弟子入りした。それが、若き日のガルシアさんだった。


「私はギャレス様から、直々に10年かけて育てられた。師匠はいずれ、私に『剣聖』の名を継がせたかったのだと思う。……だが、失敗だった」


ガルシアさんは自分の手をじっと見つめる。

「私は、師匠が求める『剣聖』という名の期待値には、どうしても届かなかったらしい。そして10年ほど前……ギャレス様は、ゼレナ山脈の奥地で、強大なドラゴン3匹の群れと同時に戦うことになった」


「……えっ?」

クレムの顔が引きつる。


「師匠は何とか3匹すべてを討伐されたが……その戦いで、取り返しのつかない大きな傷を負ってしまったのだ。死の間際、師匠は自嘲するようにこう仰った。『全盛期であれば、この程度のモンスターに苦戦することは無かったのに。くちおしい』と」


ガルシアさんはぎゅっと拳を握りしめた。


「その傷がもとで、師匠は亡くなられた。最後に、看取る私に向かって例の言葉を残してな……。『おまえは剣聖に至れぬ』と」


しん、と静まり返る丸太小屋の中。

悲痛な空気が流れる中――クレムの頭の中では、猛烈な勢いで警報が鳴り響いていた。


(……いやいやいや! こういう心のツッコミはカールの役目だけど……これ、ツッコミどころ満載じゃないか!!)


クレムは顔を引きつらせながら、脳内で激しくツッコミを入れた。


まず、一人で『ドラゴン3匹』を同時に相手にして勝つ剣聖、ヤバすぎだろ!

アトミックブレイクの素材になるような世界最強クラスの災害モンスターだぞ!? しかも、全盛期をだいぶ過ぎたお爺ちゃんの状態でそれって、次元がおかしい!


そして何より……こんな常軌を逸したバケモノがウヨウヨいる危険な森の奥深くで、一人でひょうひょうと自給自足の生活をしているこのガルシアさんも、絶対におかしい!!


(ギャレスさんの最期の言葉だって、絶対に『お前は剣聖になれなかったダメな弟子だ』って意味じゃない! 『お前はお前自身の剣の道を歩め』とか、そういう意味に決まってる!! なのにこの人、師匠の言葉を気にして、自分は大して強くないって完全に思い込んでるよ!!)


いわゆる『勘違い系・無自覚最強キャラ』の典型的なパターンである。


……という激しいツッコミをなんとか喉の奥に押し込み、クレムは真顔を作って言った。


「ガルシアさん。それなら一度、そこにいるジャック兄さんと戦ってくれませんか? 対人の稽古をつけてほしいんです」


「ふむ……久しぶりに、いいだろう」

ガルシアさんは立ち上がり、部屋の隅にあった木剣を手に取った。

「ずっと森の獣やモンスターとしか戦っていないからな。私でよい稽古相手になるかはわからんがね」


小屋の外の開けた場所に出る。

クレムは、ジャック兄さんと無言で目配せをした。


(兄さん、全力で行って!)

(ああ、わかってる!)


クレムは杖を構え、ジャック兄さんに向けて銀騎士と戦った時と全く同じ、最上級のバフ『ホーリー・エンハンス』を盛り盛りに重ね掛けした。

当然、ジャック兄さんも自身の魔力を極限まで練り上げ、身体強化をMAXにする。全身から黄金色のオーラが噴き出し、手にした『魔剣』が青く眩い光を放つ。


国内トップ10に入る剣士の、さらに限界を超えた全力全開。

この状態で打ち合えば、ガルシアさんの本当の実力が嫌でも分かるはずだ。


それを見たガルシアさんは、ぽりぽりと頬を掻いた。


「たかが剣の稽古に、そんな大げさな魔法の準備は不要だろうに……。まぁいい、さぁはじめるか」


ガルシアさんが、だらりとした構えのまま、一歩足を踏み出した。

――次の瞬間。


稽古は、文字通り『一瞬』で終わった。


「……え?」


ジャック兄さんが反応するよりも早く。

ガルシアさんの放った木剣の軽い一振りが、ジャック兄さんの『魔剣』を根元から弾き飛ばしていた。


カラン……と、青く光る剣が遥か後方の地面に突き刺さる。

ジャック兄さんは、何が起きたのか全く理解できないまま、ただ呆然と空になった自分の両手を見つめていたのだった。


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