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スライム食ったら世界を救うことになった【祝1万PV】  作者: エリト


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【第56話】絶望の剣戟と、次なる三つの課題

ジャック兄さんと魔槍の騎士の、遺物同士が激突する戦いが始まった。


「おおおおおっ!!」


クレムの最上級バフと自身の身体強化を限界まで高めたジャック兄さんが、地を蹴り飛ばして一気に間合いを詰める。

領主の専属兵士として取り立てられてからのジャック兄さんは、血の滲むような激しい訓練を重ねてきた。今ではガバレリア領内でも1、2位を争い、リディア国全体で見ても間違いなくトップ10の指に入るほどの、本物の凄腕剣士へと成長している。


その洗練された神速の踏み込みから放たれた『魔剣』の重い一撃。


ガキィィィィンッ!!


だが、それを受け止めた銀騎士の『魔槍』から、凄まじい衝撃波と火花が弾け飛んだ。

両者ともに遠距離系の魔法は使えない(あるいは使わない)ため、純粋な剣と槍がぶつかり合う、息を呑むような超接近戦の応酬となった。


カァン! ガキンッ! ギィィィン!!


目にも留まらぬ速さで、青い光の軌跡が宙で何度も交差する。

最初こそ、銀騎士が数百年ぶりの起動で様子見をしていたため、互角に打ち合っているように見えた。ジャック兄さんの剣術は確かに冴え渡っており、並のモンスターや騎士であればすでに数十回は斬り伏せられているほどの猛攻だった。


しかし――途中から、圧倒的な『差』が出始めた。


「……くっ!」


銀騎士の槍の振りが、一段階速く、そして重くなったのだ。

人間特有の「疲労」という概念が一切存在しないオリハルコンのパペットは、時間が経てば経つほど動きの精度を上げ、逆に限界を超えたバフで身体を酷使しているジャック兄さんは、徐々に息が上がり、防戦一方へと押し込まれていく。


国内トップクラスの剣士であるジャック兄さんが、まるで赤子の手をひねるかのようにあしらわれている。


(このままじゃ、ジリ貧だ……!)


誰もがそう思った瞬間。ジャック兄さんは、防御を完全に捨てた。


「だああぁぁぁぁっ!!」


銀騎士の魔槍が兄さんの左半身を捉えたのと同時。ジャック兄さんは回避を放棄し、ダメージ覚悟で渾身の一撃を銀騎士の胴体へと叩き込んだ。


ガリィィィッ!!


鈍い音と共に、青く光る魔剣の刃が、無敵を誇っていた銀騎士のオリハルコンの鎧を削り、ついに『浅い傷』を刻み込んだ。

だが――その代償は、あまりにも大きかった。


「ぐああぁぁぁっ!?」


すれ違いざまに放たれた魔槍の刃が、ジャック兄さんの左腕を、根本からバッサリと切り落としていたのだ。鮮血が宙を舞い、腕が地面に転がり落ちる。


「兄さん!!」

「ジャック!!」


「ま、参った……っ!」

激痛に顔を歪めながら、ジャック兄さんはその場に崩れ落ち、降伏を宣言した。


ピタリ、と銀騎士の追撃が止まる。

「……見事な一撃だ。準備をしなおして、改めてかかって来るが良い」


「ヒール! エクストラ・ヒール!!」

すぐさまクレムが駆け寄り、顔面蒼白で最上級の回復魔法を連続で叩き込む。切り落とされた腕を急いで接合し、膨大な魔力を注ぎ込んでなんとか傷を塞ぎ切った。

ジャック兄さんの腕は無事に繋がったものの、「はぁ、はぁ……」と荒い息を吐き、魔力も体力も完全に底を突いて消耗しきっていた。


「なるほど……。術者自身の身体強化と強力なバフ魔法を利用し、そしてあの『魔剣』を使えば、オリハルコンの装甲にも傷をつけることが可能だ、と。ふむふむ、実に素晴らしいデータが取れました」


腕を斬り落とされて死にかけたジャック兄さんをよそに、エルウィンさんは一人で手帳に何事かを書き込みながら満足げに頷いていた。


(いや、少しはジャック兄さんを心配してやれよ!!)

俺は心の中で激しくツッコミを入れた。さすがは血も涙もないマッドサイエンティストである。(呆れ)


「どうやら、今の我々の戦力ではここまでのようですね。これ以上の戦闘は無意味です。一旦、リンギアへ戻りましょう」

エルウィンさんがそう結論付け、俺たちはジャック兄さんの回復を待ってから、足早にゼレナ山脈を下山することになった。


◇ ◇ ◇


数日後。帰国した俺たちは、リンギア魔法大学の厳重な会議室に集まっていた。


「……はぁ」


俺は長椅子に深く腰掛け、げっそりとやつれた顔で深いため息をついた。

無理もない。帰路の馬車の中、そして王都に着いてからも、俺はエルウィンさんから文字通り『散々』なお叱りを受け続けたのだ。


「なぜ大人に相談せずに、一人で勝手にあんな魔境の山に入ったのか」

「もし、君の刺激によって巨大モンスターのスタンピードが起きていたら、どう責任を取るつもりだったのか」

「だいたい君は、自分がどれだけ貴重な実験体……コホン、特殊な魔法を持った『調律者』であるか、その自覚が足りなすぎる」等々。


途中から完全に本音が漏れていた気がするが、何時間もネチネチと詰められた俺の精神力は、山の中腹で一人孤独にパンをかじっていた時以上にゴリゴリと削られていた。


部屋には、俺たち学生とエルウィンさんの他に、グスタフ学長も同席している。


「さて、お説教はこのくらいにして。現状、我々のゼレナ山脈探索によって、あまりにも様々な新事実が分かりました。ここで一旦、情報を整理しましょう」


エルウィンさんが立ち上がり、黒板の前に立って白墨を手に取った。

そして、淀みない口調で、各事象について驚くほど分かりやすくまとめ始めたのだ。


・エルティア国は、ゼレナ山脈の中腹(山頂付近の草原)にあった。

(※ただし、どの範囲まで広がっているのか、建国タイミング等の歴史的背景は未だ不明)


・5体の銀騎士は『銀のヴォルク』に仕えている。

(※巨大スライムの言葉と合わせると、このヴォルクなる人物が、パペットを操る強大な闇魔術の使い手である可能性が高い)


・5体の銀騎士を全て倒して認められれば、『試練の祠』に挑戦できる。

(※祠がどこにあるのかは不明。現時点ではすでに消失している可能性もある)


・残り2つの遺物(青く光る武器)が存在する。

(※これは、他国に現れた残り2つの洞穴跡地の近くに落ちていると思われる)


・5体を倒して認められないと、先に進めない。

(※会話が通じない仕様のため、力で証明しなければ銀のヴォルクの手掛かりも得られない)


・銀騎士は1体1体がとてつもなく強く、戦闘は『1対1』しか許されない。

(※ただし、外部からの支援魔法はOK。そして『青く光る武器』を使えば装甲を傷つけられる)


(……さすが、ガバレリアのトップを張っている出来る上司や……。マッドなところ以外は、こういう理路整然としたところだけはマジで見習いたいわ)

俺は黒板の美しい箇条書きを見ながら、素直に感心していた。


「ここまで整理すると、おのずと我々が出すべき答えが見えてきます。やることは大きく分けて3つです」


エルウィンさんが、チョークを持った手で3本の指を立てる。


1.残り2つの遺物(武器)を集めること。

2.銀の騎士を1対1で倒せるほどの『超絶的な剣士』を探すこと。

3.剣術以外で、何とかして銀の騎士を倒す方法を編み出すこと。


「『1』に関しては、他国の領土での捜索になりますから、我々学生ではどうしようもありません。エルウィンさんやグスタフ学長といった、大人たちにお任せするしかありませんね」


俺がそう言うと、グスタフ学長が重々しく頷いた。


「うむ。各国の魔法師団に掛け合い、残り2つの洞穴跡地周辺を徹底的に洗わせよう。……ただ、オズワルドから借り受けていた『魔槍』を、向こうの銀騎士に渡したまま置いてきてしまったことについては……彼になんと言って謝罪すべきか、頭が痛いな」


「アッハッハ! それは学長の長年の友情パワーでなんとかごまかしてください!」

俺が笑ってごまかすと、学長は「君たちの無茶の尻拭いで私の胃に穴が開きそうだ」と苦笑しながら困った顔をしていた。


「次に、『2』の剣士を探す件ですが」


俺が横を見ると、ジャック兄さんが「次は絶対に負けない……! もっと、もっと強くならなければ……!」と、本当に目から火が出るのではないかと思うくらい、凄まじい闘志を燃やして素振りのイメージトレーニングをしていた。

そして、なぜかその隣でクレムまで「僕も、もっと筋肉をいじめるよ!」と謎のやる気を出し始めている。


(まぁ、やる気になること自体はいいことだ。二人とも完全に脳筋の方向にベクトルが向いてるけど……呆れ)


「現実的なアプローチとしては、『剣聖』と呼ばれる伝説の人物を探します」

エルウィンさんが補足した。


「剣聖、ですか?」

「ええ。かつて、魔法を一切使わずに剣の腕一つで超級の魔物すら一刀両断にしたという達人がいたそうです。……まぁ、もう30年くらい目撃情報がないらしいですが」


(おいおい、30年前って。さすがにもう生きていないか、生きていたとしても完全なお爺ちゃんで引退してるだろうよ……)

俺は内心でツッコミを入れたが、他にアテもない以上、探す価値はあるだろう。


「そして最後の『3』に関しては、2の剣士探しと並行して、別の打開案を考える必要があります」


エルウィンさんが俺とエルザを真っ直ぐに見据えた。

たとえば、伝説の『アトミックブレイク』のような、規格外の超魔法だ。もちろん、アトミックブレイク自体は「光と闇の合体魔法」であるため、1対1という銀騎士の条件を満たせない(術者が2人以上必要になる)

だが、歴史の闇に埋もれた、まだ俺たちが知らない超強力な単体魔法というものが存在するかもしれないのだ。

また、クレムのバフ魔法以外にも、一時的に限界を超えて力を増幅する『禁忌の薬』や『魔導具』のような手段もあるかもしれない。


「さて、やることは決まりました。あとは担当割りですね」

エルウィンさんが手を打って話をまとめる。


「国をまたぐ事案や軍を動かす必要があるため、他の人達を大っぴらに使うことは出来ません。必然的に、『1』は私とグスタフ学長が大人権限で担当します」


残りの『2』と『3』を我々若手で分担することになるのだが。


「『2』の剣士関連(剣聖探しと特訓)は、ジャックとクレムの二人が」

「『3』の魔法・魔導具関連(打開策の調査)は、カールとエルザの二人が担当しなさい」


「はいっ!」

「ええ、任せてちょうだい」

「オッケーです!」


俺たちは力強く頷き合った。

これまでの数々の理不尽なバグを乗り越えてきた俺たちだ。無敵の銀騎士だろうがなんだろうが、絶対に攻略の糸口を見つけてやる。


「さぁ、やってやるぞー!!」


俺の気合の入った声が、会議室に高らかに響き渡ったのだった。


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