【第55話】全属性の猛攻と、遺物同士の激突
「あなたたちは、少し下がっていなさい」
エルウィンさんが、極上の被検体を見つけたような狂気的な笑みを浮かべて前に出た。
起動したばかりの『魔槍の騎士』が、ゆっくりと青く光る槍を構える。
「さぁ……いざ、尋常に勝負!」
銀騎士の低い声が響いた瞬間、エルウィンさんと魔槍の騎士との、次元の違う戦いが始まった。
「まずは小手調べと行きましょうか。『フレイム・バースト』! 『アイシクル・ピアス』!」
エルウィンさんが指を弾くと、灼熱の大火球と、絶対零度の無数の氷柱が同時に虚空から現れ、銀騎士へと殺到した。相反する属性の魔法を無営唱で、しかも同時に放つという異常な神業だ。
ドゴォォォォンッ!!
凄まじい爆発と水蒸気が吹き荒れる。しかし、魔槍の騎士は魔術を一切使うことなく、その圧倒的な身体能力だけで爆炎を突き抜け、一直線に突進してきた。
「ほう。ならば『アース・バインド』、『ウインド・カッター』!」
エルウィンさんの足元から巨大な岩の茨が飛び出して銀騎士の足に絡みつき、同時に不可視の真空の刃が四方八方から鎧を切り刻む。
だが、銀騎士は絡みついた岩を強引に引き剥がし、真空の刃はオリハルコンの鎧に弾かれて虚しく霧散した。
さらにエルウィンさんは、闇属性の重力魔法で相手の動きを鈍らせようとするが、騎士はわずかに歩を緩めただけだった。光属性の極太のレーザー(ア・レイの最上級)による追撃も、鎧の表面で弾かれる。
火、水、風、土、光、闇、そして無属性。
7つ全ての属性をまるで手足のように完璧に使いこなす、圧倒的な魔法の乱れ撃ち。俺は開いた口が塞がらなかった。
(……普段、エルウィンさんがガバレリアでの特訓や、森でのモンスター討伐で、いかに手を抜いて遊んでいたかがよく分かる……!)
これが、レベル41。一国を代表する天才魔術師の、本気の戦闘力。
だが――。
ズガァァァァンッ!!
あらゆる属性の魔法を受けながらも、そこには、ただの一歩も退くことなく、文字通り『傷一つ付かない』ピカピカの銀騎士が立っていた。
魔法による防御ではない。純粋な鎧の硬度と、騎士自身の膂力だけで、エルウィンさんの全力の魔法をすべて無効化していたのだ。
「……ッ!」
銀騎士が、無造作に魔槍を突き出す。
魔術による強化など一切ない、ただの物理的な突き。しかし、その一撃は大気が悲鳴を上げるほどの速度と破壊力を秘め、エルウィンさんの立っていた地面をクレーターのように深く抉り取った。間一髪で転移魔法を使って躱したエルウィンさんだったが、その頬には一筋の冷や汗が流れていた。
どれだけ強力な魔法を撃ち込んでも無傷。対して、相手の攻撃が一度でも掠れば、いくらエルウィンさんであっても一撃で致命傷になるだろう。
「ふぅ……」
エルウィンさんは小さく息を吐くと、スッと両手を上げて見せた。
「やぁ、これは参りましたね。私の魔法が全く通じないとは。私も降参します」
あっさりとした、爽やかな降伏宣言だった。
(いやいやいや! エルウィンさんでもダメだったのかよ!!)
俺は絶望で頭を抱えた。
レベル41のトップ魔術師のフルバーストで傷一つ付かないって、こんなのどうやって攻略すんねん!(怒)
「しかし、実に興味深いオリハルコンの装甲です。魔法耐性も尋常ではありません」
エルウィンさんはまったく懲りた様子もなく、むしろ目を輝かせている。顔が完全にマッドサイエンティストのそれだ。この人、完全にノリノリになってきている。
「それでは皆さん、次は『複数人』で同時に戦ってみましょう。異なる属性や物理攻撃の同時飽和なら、装甲の許容量を越えられるかもしれません」
何言ってんだこの人!
「ならぬ」
だが、俺たちの引率者の無茶な提案を、銀騎士が冷たく切り捨てた。
「一人で力を見せねば、我を攻略したことにはならない」
(き、きびしぃー!!)
いきなら「複数人でやろう」と言い出したエルウィンさんもおかしいが、一人じゃなきゃダメって…。
エルウィンさんでもダメだったんだよ?
なに? やっぱり伝説の魔術師バルタザール(レベル100)でも連れて来いってこと!?(怒)
「ふむ」
エルウィンさんは顎に手を当てて考え込んだ。そして、後ろに控えていた俺たちを振り返る。
「クレム、ジャックに可能な限りのバフ(強化魔法)をかけなさい」
「ジャック、君も自身の身体強化をMAXにしなさい」
言われるがまま、ジャック兄さんが「おおぉぉっ!」と気合を入れ、自身の魔力を限界まで練り上げた。
クレムの最上級の光魔法バフと、ジャック兄さん自身の強化が重なり、兄さんの身体から凄まじいオーラが立ち上る。
すると――。
「……おおっ!?」
ジャック兄さんの力が増すのに合わせるかのように、彼が手に握っていた『魔剣』が、激しく、強く青い光を放ち始めたのだ!
「やはり」
エルウィンさんが満足げに頷き、魔槍を持つ銀騎士に向かって尋ねた。
「起動したのは私ですが、この者が代わりに戦うというのは良いかな?」
「構わぬ」
銀騎士は魔槍を構え直し、眩い光を放つ魔剣を手にしたジャック兄さんを真っ直ぐに見据えた。
「我を一人で倒せば、相手が誰であろうと認められる」
なるほど。起動させた本人が戦う必要はないのか。そして、持ち主の魔力と青く光る武器が完全に共鳴している今なら、あの無敵の装甲にも傷を付けられるかもしれない!
「行きます……!」
ジャック兄さんが魔剣を正眼に構え、腰を落とした。
「さぁ、いざ参らん!」
銀騎士の号令とともに、ジャック兄さんと魔槍の騎士の、遺物同士が激突する予測不能な戦いが始まったのだった。




