【第53話】銀騎士の試練と、すでに持っている称号
「あ、えっと、俺は……私はカール・アークライトと申します」
急に起動して言葉を発した銀の騎士に圧倒され、俺はどう答えていいか分からず、思わずかしこまって答えてしまった。
「カールよ。我は『銀のヴォルク』に仕えし5体の聖騎士が一人なり。よくぞ我が武器を持ちて、我を起動させた。貴様は、我に挑戦する権利を得た」
兜の奥から響くような重々しい声が、静かな草原に響き渡る。
「……え? 何、挑戦て?」
「さぁ、いざ参らん!」
「いやいやいや! ちょっと待て、聞いてないし!!」
俺のツッコミを完全に無視して、唐突に戦闘が始まった。
ドゴォォォォンッ!!
銀騎士が踏み込んだ瞬間、大地が爆発したかのように抉れた。
大上段から振り下ろされた青く光る斧が、俺の鼻先数ミリを掠めて地面を叩き割る。
「うおぉぉっ!?」
冗談じゃない! 当たれば一撃でミンチにされる威力だ。
俺は慌てて距離を取り、自身の魔力を最大まで練り上げて身体強化を施した。
「はぁぁぁっ!」
俺は反撃に転じ、無属性の魔力を込めた全力の拳を銀騎士の胴体に叩き込む。
しかし――ガキィィィンッ! という硬質な音が響くだけで、オリハルコン製の分厚い装甲はわずかに凹むことすらなく、俺の拳の威力を完全に弾き返した。
(嘘だろ!? 俺の全力パンチが全く通じない!)
「ふんっ!」
銀騎士の鋭い横薙ぎの斧が迫る。俺は間一髪で身を屈めて躱し、すぐさま『ア・レイ(光線魔法)』を放つが、それすらも銀の鎧に弾かれて霧散してしまった。
速い。重い。そして、圧倒的に硬い。
俺は息を切らしながら、必死に回避と防御を繰り返すしかなかった。レベル30超えの俺が、全力の100%を出してなお、防戦一方でジリ貧になっているのだ。
そして、激しい攻防(というか俺の回避ショー)が数分続いた、その時だった。
「ふむ……」
銀騎士が不意に動きを止め、斧を肩に担ぎ直した。
「久々の目覚めゆえ身体が鈍っていたが……肩慣らしはここまでにして、そろそろ本気を出すとしよう」
ブワァァァァッ!! と、銀騎士の全身から、先ほどまでとは比べ物にならないほどの圧倒的なプレッシャーと青いオーラが噴き出した。
(…………は?)
俺は、その場で絶望に顔を引きつらせた。
嘘でしょ? こっちはもう最初からフルスロットルの全力全開なんですけど!? 今の死闘、ただのストレッチだったの!?
これ以上の戦闘は、確実に死を意味する。
俺の野生の直感が、全力で警報を鳴らした。
「待って! 参った! 負けました!!」
俺はプライドも何もかも投げ捨てて、両手を高く上げて必死に叫んだ。これ以上は絶対に無理だ!
「……ほう」
銀騎士は、俺の脳天めがけて振り下ろそうとしていた斧を、ピタリと空中で寸止めした。
「潔い降伏だな。よかろう。ふむ、準備をしなおして、改めてかかって来るが良い」
「……え? やり直しOKなんだ」
死を覚悟した俺は、あまりにもゲームチックで寛大な返答に、むしろ戸惑ってしまった。
「何度挑戦しても良い。我は逃げも隠れもせん」
銀騎士は斧を下ろし、堂々たる態度で告げた。
「まずはこの我を倒し、そして残り4体の聖騎士にも挑戦することになる」
(えーっ……! こんなバケモノが、あと4体もいるのかよ……涙)
俺が一人で心の中で泣き崩れていると、銀騎士はさらに厳かに続けた。
「見事5体の聖騎士を倒し、我らに認められし時……『試練の祠』への扉が開かれるだろう。そして、その試練の祠を越えし暁には、貴様に『勇者の称号』が与えられん」
「…………はい?」
俺は、ぽかんと口を開けた。
5体のバケモノ聖騎士を倒した先に待つのが、試練の祠。
そして、それを攻略したあかつきに貰えるのが、勇者の称号。
いやいやいや。
待て待て待て。
(それ……もう持ってるじゃん、俺!!)
あの謎の洞穴ダンジョンで、『勇者の称号』やら『調律者』やらの権限は、すでに付与されている。
本来なら、この信じられないほど過酷な試練を命がけで乗り越えて、ようやく手に入るはずだったエンドコンテンツ級の超レア称号。
俺はそれを、10歳の時に、世界のバグですでに手に入れてしまっていたのだ。
「あの……えっと……」
堂々と立ち尽くす銀騎士を前に、俺はどうやって「もうそれ持ってます」と伝えればいいのか分からず、ただただ戸惑うばかりだった。




