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スライム食ったら世界を救うことになった【完結済】  作者: エリト


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【おまけ 第5話】特異点の青年と、帰路なき次元跳躍

次元の亀裂から飛び出した私は、銀色に輝く奇妙な城のテラスで、呆然としている青年の姿を捉えた。

裏アン・テラが最後に残してくれた座標と特徴から、目の前にいる彼こそが『カール』だということを、私は確信していた。


「あなたね! 私はガンズ・テラのミラ。諸悪の根源であるアン・テラに直接介入されて、私たちの世界が今、大変なことになっているの! お願い、多世界を救うために、私とともに戦って欲しい!」


必死の思いで叫ぶと、目の前の青年は大きく目を見開き、ひどく驚いた顔をした。

無理もない。突然虚空から見知らぬ女が現れて、世界を救えと言い出したのだ。普通なら狂人扱いされてもおかしくない。


でも、彼はすぐに口元に笑みを浮かべ、迷いのない、強固な決意を固めた顔になった。


「あぁ、もちろんだ!」


良かった。ここで「何を言っているんだ」と断られたらどうしようかと、心の底から怯えていたのだ。

彼がこれまでの戦いで培ってきたという、英雄としての器の大きさを感じた。


本当ならゆっくりと挨拶をして、きちんとお辞儀でもしたいところではあるが、今の私にはそんなゆとりは1秒たりともない。


「ありがとう! でも、次元の切れ目はすぐ閉じてしまうわ! 今すぐ私と一緒に来て!」


私が急かして手を伸ばすと、カールは一瞬だけ「えっ、今すぐ!?」と焦った顔をした。

「今すぐ別世界に来い」と言われて驚かない人はいないだろう。だが彼は、下界に広がる森を一度だけ振り返ると、迷わず私の手を取り、暗く渦巻く次元の切れ目へと一緒に飛び込んでくれた。


直後、背後で亀裂が消滅する音が響いた。


私たちは、ガンズ・テラの辺境にある荒涼とした岩山の陰へと転がり出た。

遠くには、空を突くような不気味な『金の城』がそびえ立っている。


「いてて……。いきなりすごい移動だったな。それで、ミラって言ったか? 一体何が起きているんだ?」

カールが服の土を払いながら立ち上がり、真剣な眼差しで私を見てきた。


私は深く息を吐き、自己紹介もそこそこに、今までの経緯を彼に説明した。

アン・テラのゼノンという管理官に拉致され、無理やり奇跡の力を溜め込まされたこと。

セーズ・テラの魔界にガンズ・テラの一部をぶつけるための『テンパメント』の道具として扱われていること。

そして、裏アン・テラという存在が介入してきて戦争になり、その隙を突いて助けを呼びに来たこと。


すべてを聞き終えたカールは、腕を組んで首を傾げた。


「なるほど……。アン・テラのやつら、まだそんな身勝手なことをやってるのか。でもさ、ミラ。君がその『金の城』からずっと遠くへ逃げちゃえばいいんじゃないか? 君がいなければ、やつらもテンパメントとやらを発動できないだろ?」


至極真っ当なカールの提案に、私は力なく首を横に振った。


「無理よ。私の魂の波長は、すでに金の城のシステムに完全に探知され、紐付けられているの。地の果てまで逃げてもすぐに見つかるわ。今は、裏アン・テラとの戦いで城が損傷し、自己修復のためにシステムが一時停止しているから、こうして隠れていられるだけなの」


「システムが復旧したらどうなるんだ?」


「私の居場所が特定されて、精神を完全にゼノンに乗っ取られるわ。そして私の意思とは関係なく、無理やり次元操作を実施させられるはずよ」


カールは信じられないといった顔で眉をひそめた。


「そんなのむちゃくちゃだ……。じゃあ、最悪の手段だけど、もし君が死んだらどうなるの? 術者が死ねば、魔法やシステムは止まるものじゃないのか?」


「それも考えたわ。でも、事故防止のために、私の魂そのものが城のシステムに登録されているらしいの。だから、もし私がここで自ら命を絶ったとしても、魂だけが金の城に囚われて、死んでもなお力を抽出するだけの道具として利用され続ける……。死んでも、私はあいつらから逃げられないのよ」


「なんて酷いことをするんだ……!」

カールはギリッと歯を食いしばり、金の城を睨みつけた。


「それで、君を助けてくれたその『裏アン・テラ』のやつらはどうしたんだ? 一緒に戦ってくれるのか?」


その問いに、私は唇を噛み締めてうつむいた。


「裏アン・テラの次元船は、もう完全に破壊されてしまったわ。アン・テラの圧倒的な力の前に、彼らは手も足も出なかった……。最後に残ったわずかなエネルギーを振り絞って、あのセーズ・テラへと繋がる次元の亀裂を作ってくれたの。それが彼らの最後の力だったわ」


静寂が落ちた。

カールはしばらく瞬きをしてから、顔を引きつらせて口を開いた。


「……えっと。それってつまり、俺を元の世界に帰してくれるはずの裏アン・テラがいなくなったってことだよな?」


「ええ、そうなるわね」


「あれ? ってことは、俺、もう元の世界に帰れないってこと……?」


カールは頭を抱え、ズビシッとその場に固まってしまった。

あまりにも後先を考えずに飛び込んできた彼に申し訳なく思い、私は深く頭を下げた。


「本当にごめんなさい! でも、裏アン・テラが言っていたの。あなたには、常識では計り知れない異常な運と直感がある。あなたという『次元の特異点』を連れてくれば、必ずこの戦争に勝てるって……」


「いや、俺は別にいいんだ。またどうにかして帰るさ。それよりも問題は、俺の今の状態なんだよ」


カールは苦笑いしながら、私に向かって両手を広げた。


「俺たちの世界から、もう魔力は消え去ってしまった。俺の中にあった膨大な魔力も空っぽだ。だから今の俺は、ちょっと頑丈で喧嘩に慣れているだけの、普通の無力な青年なんだよ」


「えっ……」


私は絶望で膝から崩れ落ちそうになった。

魔法すら使えないただの人間が、次元を操るアン・テラの力にどう立ち向かうというのか。


しかし、カールは続けて、彼がこれまで経験してきた途方もない死線の数々を語ってくれた。

誰も知らない暗闇の洞穴で、ただ生き延びるために光る魔物を喰らい続けたこと。

強大な力を持つ魔族の軍勢に、仲間たちと知恵と度胸で立ち向かったこと。

そして、世界が滅びるかもしれないという極限の状況下で、常識外れの選択をして次元の狭間をどうにかしてきたこと。


その武勇伝を聞いているうちに、私は「裏アン・テラが彼を選んだ理由はこれだ」と確信し始めていた。

たしかに彼は、圧倒的な力で敵をねじ伏せる神様ではないかもしれない。

しかし、彼が持つ異常なまでの直感、どんな絶望でも諦めない泥臭さ、そして何より、周囲の運命を強引に引き寄せて味方にしてしまうような、その前向きなエネルギーは、間違いなく規格外だった。


さて、問題はどうやってこの状況を打開すべきかだ。


「あと数時間もすれば、金の城のシステムは修復を終えて再起動するわ。そうなったら、私は強制的に転送され、テンパメントの予定が実行されてしまう」


「つまり、君は奇跡の力を出すだけのただのバッテリーにされて、すべてをゼノンというやつがコントロールするってわけか」


「そうなるわ。私が抗おうとしても、精神を縛られている以上、指一本動かせない」


カールは岩壁に寄りかかり、金の城の黄金の輝きを静かに見つめた。


「俺は魔法も使えないし、その奇跡とやらも使えない。だが、必ず付け入る隙はあるはずだ。俺に何ができるのか、どうすればゼノンの野望をぶっ壊せるか、作戦を練ろうぜ」


彼のその力強い瞳を見て、私は自分の選択が間違っていなかったと確信した。

私たちには力がない。逃げ帰る場所もない。

それでも、この特異点の青年となら、多世界の理不尽な運命を打ち砕ける気がしたのだ。


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