【第109話】世界を救った大罪人と、新たなる旅立ち
俺が世界を救ったあの日から、数年の月日が流れた。
魔力を完全に失った事で、世界は想像を絶する大混乱におちいった。
数年経った今も、その混乱の余波は続いている。
シャリーク国を支えていた魔力草はただの雑草となり、魔法を動力としていた様々なインフラが完全に停止した。
そして、最も人々の命に直結する大きな問題は「医療」だった。今までは治癒魔法で簡単に救えていた怪我や病気の人が、次々と救えなくなっていったのだ。
また、政治的にも世界中で大きな混乱が起きた。
これまで当たり前だった「国力イコール魔力」という絶対的な方程式が崩れ去り、各国の魔法師団は当然ながら解体された。
強大な魔法師団の武力によって強引に統一されていた国も多く、圧倒的な抑止力を失った各地で、様々な内乱が発生したのは言うまでもない。
経済的なダメージはもっと深刻だ。
シャリーク国やその周辺の国々は、経済の柱であった魔力草の輸出が突如としてなくなり、国家経済が崩壊した。代わりとなるような特産品や産業も無かったためだ。
シャリーク国ほど極端では無いにしろ、世界のほとんどの国で物流や経済が大混乱に陥った。
そして、後になって一番深刻だと分かったのは生態系の破壊だ。
魔力を糧に生きていたモンスターたちが急にいなくなった影響は思いのほか大きく、動植物の食物連鎖が崩れ果てた。この自然環境の激変は、今後数十年は続くであろう世界的な混乱の、一番の要因になりそうだった。
これが、俺が世界を救った結果だ。
第三の世界のバイゼル師が「一部を切り取られた我々の世界にも多大な被害が及び、文明は大きく後退した」と語っていたが、まさにその言葉通りの現実が突きつけられている。
果たして、俺たちは本当に世界を救ったのか、それとも壊してしまったのか……今となっては誰にも分からない。
さて、そんな俺たちの近況だが。
残念ながら、絵物語に出てくるような世界を救った英雄とはなれなかった。それどころか、俺たちは世界中から指名手配される「世紀の大犯罪者」扱いとなったのだ。
人々の暮らしを壊し、これほどの世界の混乱を生み出した直接の原因は俺たちにある、ということだろう。各国にとって、やり場のない民衆の怒りを向ける矛先として、ちょうど良かったのだ。
では、そんな大罪人の俺たちが今どこでどうしているかって?
俺たちは今、ゼレナ山脈の中腹にある「銀の城」に住んでいる。
バイゼル師が消え、機能や動力は完全に失われてしまったが、オリハルコンで造られた頑強な躯体は今も健在だ。外界からの攻撃を一切寄せ付けない、最高の城塞となっている。
そして、この巨大な城に住んでいるのは俺たちだけではない。
世界的な政治の混乱や平民たちの暴動によって、居場所を失い酷い目にあっていたかつての魔術師たちも多数、ここへ逃げ込んで暮らしているのだ。
もちろん、この城の護衛にはあのガルシアさんと、ジャック兄さんがついている。
魔法という力がなくなり、魔導武器もまともに機能しなくなった今の世界において、純粋な剣の腕だけで理外の領域に達しているガルシアさんは、もはや「人間をやめちゃっている化け物」だ。彼に真っ向から勝てる人間など、いや、たとえ正規の軍隊が押し寄せてきたとしても絶対に存在しない。
そして、冷静な判断力と統率力を持つエルウィンさんには、この城の……いや、ここに集った者たちが興した「新しい国」の国王になってもらった。
新しく建てたその国の名は「エルティア」と呼ぶ事にした。
かつて、試練の祠でヴォルク師が予言していた「エルティア国」という言葉。
それは遠い過去の国ではなく、こうして魔力なき世界で、俺たちの手によって新しい形で作られる未来の国だったのだ。
食糧問題や外部との交渉など、大変なことはまだまだ続く。
だが、幸いなことに俺たちは皆、怪我もなく元気だ。エルザもドノヴァン師も、カルバン領を離れて今はここで忙しく働いている。
時たま、下界の混乱を思ってやるせない気持ちにはなるけれど、生きていくためには前を向いて歩いていくしかない。
それに、世界で一番ビッグな男になるはずの俺が、いつまでも落ち込んでいるわけにはいかないのだ。
城の中腹にあるテラスから、眼下に広がる青々としたゼレナの森を眺め、俺はそう思い直して大きく伸びをしたのであった。
……と、吟遊詩人の英雄譚なら、まさにここで静かに幕が下りそうな大団円のタイミングだった。
ゴゴゴゴゴッ!!
突如として、テラスの前の空間が激しく軋み、そこには今まで見たこともないような不気味な「次元の裂け目」がぽっかりと現れたのだ。
俺が驚いて身構えたその時、裂け目の中から見知らぬ一人の女性が転がり出てきた。
その人は、息を切らし、ひどく焦った顔で俺を見てこう告げた。
「あなたね! 私はガンズ・テラのミラ。諸悪の根源であるアン・テラに直接介入されて、私たちの世界が今、大変なことになっているの! お願い、多世界を救うために、私とともに戦って欲しい!」
うそーん!
マジかよ、まだこの次元規模のピンチが続くんかい!
俺は盛大に心の中でツッコミを入れた。
魔力がなくなってただの人間になった俺に、一体どうやって多世界を救えって言うんだ!
……だが、そんな文句を思い浮かべながらも、俺の答えは最初から決まっている。
俺は呆れたように笑うと、ミラに向かって力強く拳を突き出した。
「あぁ、もちろんだ!」
〜完〜
本連載は、これにて完結となります。
想像以上に多くの方に目を通していただき、著者としてこれ以上の喜びはありません。
また新たな構想がまとまりましたら、別の作品でお会いできればと思います。
もしこの作品が面白いと思ってもらえましたら、シェアしていただけると嬉しいです。
最後までお付き合いいただき、誠にありがとうございました。




