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スライム食ったら世界を救うことになった【完結済】  作者: エリト


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【第106話】停滞する時間と、奇跡の帰還

銀の城での絶望的な報告を終え、俺たちはガバレリア領の魔法師団へと戻ってきていた。

エルザだけは、父親を支え、領地の立て直しを手伝うためにカルバン領へと帰っていった。


バイゼル師との話し合いの結論は、残酷なまでに『打つ手なし』というものだった。

次元の膜越しに世界を繋ぎ止めている融合魔族に対して、今の俺たちにできる物理的な干渉手段は存在しないのだ。


ガバレリア領に戻ってからのエルウィンさんは、各所への事後報告や、今後の対策会議などでずっと出ずっぱりだった。

王都や他国の要人との折衝に追われ、拠点に帰ってきても顔を合わせる時間すらほとんどない。


打つ手はないが、相手の世界からの物理的な危機が到達するのは、まだ280年以上も先の話だ。

数週間が経っても誰からも妙案が出ない中、各国の首脳陣や大人たちの間では、次第に「問題を先送りしよう」という空気が蔓延し始めていた。

自分たちが生きている間は安全なのだから、無理に動かず対策は後の世代に任せればいい。そんな逃げの感情が見え隠れしている。


俺はヴォルクから与えられた『テンパメント』という、次元を操作する切り札とも言える魔法を持っている。

だが、肝心の対象である魔界が隔離された今となっては、現状まったく役に立たない。

魔法の腕前がレベル90という伝説的な領域に達していようと、ただの物理的な破壊力で次元の壁や政治の壁を壊せるわけではないのだ。

そうなると、俺のような発言力を持たない若造が動けることは、悲しいほどに何一つなかった。


さらに追い打ちをかけるように、事態の全容を知った他国からは、だんだんと俺たちに対する批判の声が届くようになった。


「世界を揺るがすほどの重大な危機を、なぜもっと早く各国に情報を共有しなかったのか?」

「いくら力があるとはいえ、なぜ事態の解決を何も出来ない子供たちだけにまかせたのか?」

「その子供の中にはリディア国の王族の者が関わっているらしいが、一連の混乱の責任はリディア国にあるのではないか?」


……といった具合だ。

彼らは安全な場所から、後出しで自分たちの正当性と不満をぶつけてくる。


悔しい。腹の底から怒りが湧いてくる。

だが、彼らの言うことにも政治的な筋が通っているとされてしまい、俺たちには真っ向から反論することが出来ない。

そして何より、エルウィンさんからはきつく口止めをされていた。


「いいですか。今、君たちが感情に任せて反論すれば、彼らの火に油を注ぐだけです。カール、クレム。君たちは何も言うな。そして、今は絶対に何も動くな」


疲労の色が濃い顔でそう言われたら、俺は唇を噛み締めて頷くことしかできなかった。


世界を救おうと必死に戦い、仲間を失い、ボロボロになって動いてきたというのに。

今の俺たちは、まるで世界崩壊の危機を招いた主犯者のような扱いを受けている。


誰にもぶつけられないやるせない思いを抱えたまま、俺は魔法師団の一室で、ただただ無力に過ぎていく時間を眺めることしかできなかった。


◇ ◇ ◇


一方その頃、魔界では。


ガルシアは静まり返った魔王城の中を一通り散策していた。

さすがは魔王城と言うべきか、宝物庫には見事な業物が眠っていた。かつて銀の城で手にしたオリハルコンの剣を除けば、最高級の武器が手に入った。これで再び戦うことができる。


ただ、魔王城の中の惨状は「忽然と人が消えた」という表現がぴったりだった。

物は散らかり、つい先ほどまで作業途中だったのだろう痕跡が各所に残されている。争った形跡もない。


やはり、あの空にしがみつく光る巨人は、魔族たちが一つに集まって誕生したのだろう。しかも突然、何者かの手によって強引に。


そして、魔王城の隠し部屋にあるはずの魔界核がどこにもない。

あれだけ強い魔力の波動を放つものなら、どこに隠されていてもガルシアの研ぎ澄まされた感覚ならすぐに見つけられるはずだ。


……ということは、次元の狭間のエネルギーを取り込んだ魔界核に、全魔族が取り込まれて、あの『光る巨大な魔族になった』と見るのが正しいだろう。


その規格外の存在のせいで、魔界の切り離しが出来ずにいる。これはもう間違いない。


「これを解決できるのは私しかいない……」


カールたちになんとかして道を開くため、ガルシアはフル回転で思考をめぐらせるのであった。


◇ ◇ ◇


ガルシアは一旦、お世話になっている老人のボルマンのもとへ戻った。


「おぉ、よく無事に戻れたな!」

ボルマンはガルシアの無事な姿を見て、心底驚いたように声をあげた。


ガルシアは早速、道中で考えていた質問をぶつける。

「ボルマンさん。地上界へ戻ろうと考え、その方法を調べたことはありませんか?」


唐突な質問に、ボルマンは目を丸くした。

「ど、どういうことじゃ? 地上界へ戻るじゃと?」


ガルシアはボルマンへ、地上界の現状や魔界を切り離さなければならない理由など、全ての事情を説明した。


「なるほど……」

話を聞き終えたボルマンは、腕を組んでしばらく考え込んでいた。


「魔族が1人もいないのであれば……1つ試したいことがある。ついて来なさい」

そう言うと、ボルマンはガルシアを連れて近くにある洞窟へと移動した。


「この洞窟にはな、かつての仲間と少しずつかき集めた魔硝石が隠してあるんじゃ。そして、長い年月をかけて魔王城からこっそりと盗み出しておった、古い次元核もある」


ボルマンは洞窟の奥にある大きな岩を力いっぱいのけて、秘密の部屋へとガルシアを案内した。

そこには、怪しい光を放つ魔法陣と、いびつな形をした石の門のようなものがあった。


「我々だけで、どうにかして黄泉の門を再現できないかと思い、材料を集めたんじゃ。かつての仲間の一人に、ひどく優秀な魔術師がいてな。まぁ地上界ではとんでもない大罪を犯したらしく、生贄としてここに放り込まれたらしいのだがな」

ボルマンはそう言って豪快に笑った。


「そいつ曰く、ここにある魔硝石に加えて、さらに大量の魔硝石を使うことになるが『小さい黄泉の門が出来た』…と言っておった」

そこでボルマンの顔が険しくなる。

「ただし、物質は通れず、声しか通せないらしいんじゃ」


声しか通せない。

普通なら落胆するところだが、ガルシアの口元には笑みが浮かんだ。


「十分です。声が届くのなら、向こう側にいる彼らがどうにかしてくれますよ」


◇ ◇ ◇


エルウィンさんからは「勝手に動くな」と厳しく言われていたが、居ても立ってもいられない俺は、クレムと二人で銀の城へ向かう事にした。


結局、俺に出来る特別なことは「テンパメント」だけだ。

であれば、政治のしがらみに囚われたガバレリア領にいるより、銀の城に居て、万が一必要になった時にすぐ動けるようにしておくのが一番良いと思ったからだ。


エルウィンさんへは短い置手紙を残して出てきた。


銀の城へ到着したものの、バイゼル師は何も言ってこない。

前回、ここを出る直前に「何かあった時のために、システムの無駄なエネルギーは使わない」と言っていたのを思い出す。

それにしても、せめて「今日はどうした?」くらい言って欲しいものだが。


そんなくだらないことを思いつつ、銀の城ですごすための準備を始める。

ここの城ですごすのも、すっかり慣れたものだ。


さて、近くでモンスターでも狩って食事の確保でもしてくるか……とクレムと会話しようとした、その時だった。


『カール、すぐに台座に来るんだ!!』


突如として、広間からバイゼル師の切羽詰まった声が響き渡った。

普段の冷静な彼からは想像もつかないほどの大きな声だ。


俺は猛ダッシュで台座へと走った。


『今すぐテンパメントを発動しろ!! 次元空間の僅かな亀裂から、君を呼ぶ声がシステムに届いている!』


そういわれて俺は、先日教わった要領で、台座に手をかざしてテンパメントを全力で唱えた。


すると、以前、別世界への赤いゲートが出現したあの場所に、『まるで夜空のような揺らめくゲート』がぽっかりと出現したのだった。

黄泉の門と同じ、魔界へと繋がる闇の空間だ。


俺とクレムが息を呑んでその揺らめきをじっと見つめていると、不意にそこから二人の人間が飛び出してきた。


「やあ、カール君。待たせたね」


見慣れない身なりの老人と、立派な剣を背負ったガルシアさんだったのだ。


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