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スライム食ったら世界を救うことになった【完結済】  作者: エリト


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【第103話】剣聖の決断と、次空斬の輝き

黄泉の門の防衛隊は、文字通り疲弊し切っていた。


死霊魔術と狂戦士化したガルシアの決死の猛攻によって、なんとか魔族の軍勢を退けることには成功した。しかし、またいつ新たな援軍が転移してくるかも知れないため、一瞬たりとも油断はできない。


だが、生き残った老魔術師たちは既に満身創痍だった。多数の長年の仲間を失い、陣形はボロボロに崩壊している。そして何より、この戦局を支え続けた要であるガルシアは、もう1歩も動けない状態だった。大剣を杖代わりにして立ち尽くすその姿は、生きているのがやっとの極限状況だ。


もし今、新たな敵が現れたら今度こそ全滅だろう。カール達よ、頼むから早く戻ってきてくれ……。残された皆が、祈るような同じ思いを抱いていた。

そのときである。


「!?」

大地を揺るがすような、かつてないほどの力の波動が魔界全体に響き渡った。


かなり遠くの魔王城での出来事であるはずだが、すぐ脇で極大魔法を使われたような凄まじい衝撃だ。空の淀んだ雲が吹き飛び、大気がビリビリと震えている。


間違いない。カールたちが魔界の核に次元のエネルギーを注入することに成功したのだ。あとは、彼らが無事に帰ってくるまで耐え抜けば、こちらの勝ちだ。


しかし、力の波動が落ち着いてから数分後。再び、そして先ほどとは比べ物にならないほど大規模な転移魔法の波動が空間を歪ませた。


もう来たのか……。


カール達が魔王城からこの門まで戻って来るには、どれだけ急いでも早くとも30分はかかるだろう。その間、我々はこの限界を超えた体で耐えられるだろうか。いや、嘆いていても仕方ない。ここまで来たら、最後の魔力を振り絞ってやるしかない。


老魔術師たちが折れそうな心を奮い立たせ、杖を構え直したその時だった。


歪んだ空間から現れたのは、信じられない数の魔族たちだった。空を覆い尽くし、荒野を埋め尽くす。その数はざっと見ても万を超える軍団だ。


終わった。我々の必死の抵抗は、結局無駄だったのだ。


誰もが杖を取り落とし、空を埋める万を超える魔族の集団を茫然と見上げるしかできなかった。死を覚悟し、目を閉じる者もいた。


「待て……お前達と争うつもりはない」


圧倒的な静寂の中、魔族の集団の先頭に立ち、全体を束ねている長と思われる威厳ある魔族が静かに話しだした。


そして、その魔王の大きな背中の後ろから、見慣れた影が現れた。


「みんな、お待たせしました!」

カールの底抜けに明るい声が、絶望に包まれた戦場に響き渡った。


「「「!!?」」」


防衛組の面々は、あまりの事態に驚きで声が出ない。ただ……もはや全滅しか道は残されていないと思ったところからの、これ以上戦わないで済むという劇的な安堵に変わり、皆が糸が切れたように力尽きて地面に崩れ落ちるのであった。


◇ ◇ ◇


その後、カールやエルウィンから、生き残った皆へ簡単に事情が説明された。

魔王の決断により、魔族全員が我々と共に地上界へ移住するつもりだということを。


「最初から……最初から彼らと話し合いをしていれば、こんな血を流すことにはならんかったのか……」

亡くなった仲間たちを思い、誰かがポツリとつぶやいた。


この痛切なつぶやきに、エルウィンは苦悶の表情を浮かべて唇を噛んだ。彼にしてみれば、魔族のような好戦的な種族に世界滅亡の話など信じてもらえるはずがないし、ましてや自分たちの故郷である魔界を爆発させるという狂った提案を聞き入れて貰えるわけが無いと、最初から諦めていたのだ。


まさか、あの魔王がここまで話の通じる、知性的な存在だったとは……。


人間も魔族も、互いに数十名の尊い犠牲は出してしまったが、世界が滅ぶことに比べればその程度で済んで良かったと、今は無理にでも思うようにするしかなかった。


「さて、それでは急ぎましょう。皆で地上界へ帰ります」


エルウィンが苦悶の表情のまま号令をかけると、疲労困憊の魔術師の一団が、ドノヴァンとエルザの誘導のもと最初に門をくぐって帰っていった。


ジャックとカールは最後に魔界を切り離すという重大な任務があるため、列の最後尾に残っている。クレムは、限界を迎えて倒れ込んでいるガルシアさんに付き添い、必死に治癒魔法で介抱を続けている。


人間たちの避難が終わり、次に魔族たち1万5千人の大移動が始まろうとしていた。これには1時間以上はかかりそうだな、とカールが気を引き締めた時だった。


ゴゴゴゴゴッ……。


謎の不気味な地響きが足元から聞こえたかと思うと、整然と並んでいた魔族たち全員の様子が突如として一変した。


彼らの瞳から理性の光が消え失せ、一様に凶悪で虚ろな顔つきに変わったのだ。それはまるで、先ほど理性を飛ばして暴れ回ったバーサーカーそのものの姿だった。


先頭に立っていた魔王が、頭を抱え、小刻みに全身を震わせながら呻くように口を開く。


『こ、こ、の、このまま行かせ、せんぞ! せ、セーズ・テラの崩壊は、絶対に止めさせん……っ』


「!?」

その声色と執念は、魔王のものではない。アン・セラのやつらだ!


カールの脳裏に嫌な記憶がフラッシュバックした。テンパメントで魔界核に次元の隙間のエネルギーを押し込んだ際、何やら異物が混入したような妙な感触があったのだ。まさか、あの通信越しに見下していたアン・セラのやつらを、エネルギーと一緒に魔界核へ招きいれてしまったとは!?


「魔界核と全魔族の精神は、根源で繋がっているようですね。アン・セラの意思によって、全魔族が容易に乗っ取られたようだ!」

エルウィンが冷や汗を流しながらも、冷静に状況を分析する。


いやいや、そんな冷静なことを言ってる場合じゃない! 万の軍勢が牙を剥く前に、早く逃げなければ!


「みんな、走れ!」


カールたち6人は、一斉に黄泉の門へ向かって駆け出した。とにかく門に入ってしまい、向こうの地上界に着いてから門を破壊してしまえば、こちらの勝ちだ。


アン・セラに操られた魔族たちが、獣のような叫びを上げて襲いかかってくる。カールはありったけの魔力を両手に込め、立ちはだかる魔族の群れに向かって光の極大魔法ア・レイをぶっ放した。


閃光が荒野を薙ぎ払い、不意をつかれた魔族たちは凄まじい勢いで吹き飛んでいく。よし、強引だが道があいた!


さっそく全員で門へ飛び込もうとした時……。

「俺は、そちらには帰れない」

しんがりを務めていたジャック兄さんが、ふいに足を止めてとんでもない事を言い出した。


「何を言ってるんだジャック兄さん!? 早く次空斬を使って、一緒に飛び込んでくれよ!」

カールは血相を変えて、ジャック兄さんに向かって叫んで返答した。


「そうじゃ無いんだ、カール。次空斬という技は……黄泉の門を物理的に破壊し終わった後にしか使えないんだ。時空の繋がりを完全に断ち切るには、誰かがこの魔界に残って、内側から振るうしか無いんだよ」


最後の最後に、ジャック兄さんが隠していた絶望的な真実を告げた。


バイゼル師が銀の城で魔剣を渡すとき、だからジャック兄さんだけを奥に呼び寄せたのか。次元を切り離す代償は、術者の帰還を許さないということ。あいつめ、なんて酷な役回りを押し付けたんだ!


「ジャック。年齢的には私が一番の年長者だ。私が代わろう」

エルウィンがすかさず前に出て、ジャックから魔剣を奪おうとする。しかし、ジャックは首を横に振った。


「エルウィン団長、剣の道を舐めて貰っては困ります。次空斬は、魔力があれば誰でも撃てるような生易しい技ではありません。国で一番剣を振ってきた私の技量で、命を燃やしてギリギリ撃てるかどうかの究極の技です。エルウィン団長では不可能です」


何てこった。国内トップクラスの剣の腕前であるジャック兄さんでさえギリギリの技。選択肢が他にない。俺たちは、ただ無力感に歯噛みするしかなかった。


「俺に、騎士として華々しい最期を迎えさせてください」

そう言うと、ジャックは優しく微笑み、カールたちを強引に門の中へと押しやる。


「カール! 門を出たら、お前の得意なカール・スマッシュで、しっかりと外側から門を破壊してくれ! それを確認したら、俺がこっちからちゃんと魔界の時空を分断してやる。……兄さんに任せろ!」

そう言うと、ジャックはカールの胸をドンと押し、門の闇の中へと突き飛ばした。


「ジャック兄さ……っ!」

カールの悲痛な叫びは、次元の膜に遮られ、最後まで届かなかった。


地上界のカルバン領の地下に転がり出たカールは、すぐさま立ち上がり、泣き叫びながら急いで門を逆走しようとした。その時だった。


ジャック兄さんが、黄泉の門からこちら側へと投げ出されてきたのだ。その後ろからガルシアさんが静かに歩み出てきたのである。ガルシアさんの手には、あの次空斬の魔剣がしっかりと握られていた。


「次空斬……。ふふ、己の人生の最期に撃つに、これほど相応しい技はないな」

ガルシアは、全身血まみれでありながら、これまでの人生で一番の晴れやかな笑顔を浮かべていた。


「カール君。君のその素晴らしいカール・スマッシュと、私の次空斬で、この理不尽な世界を救おうでは無いか。私はきっと、今日この日のために生かされてきたのだ。君たちの旅に同行できて、本当に救われたよ。……ありがとう」


そう言うと、ガルシアは迷うことなく背を向け、迫り来る万の魔族が待つ魔界へと一人戻って行った。


「が、ガルシアさん」


「カール! 彼の高潔な覚悟を無駄にするな! 撃てーーっ!」

エルウィンさんの血を吐くような叫びが地下空間に響く。


カールは、大粒の涙をこぼしながら、震える右手を必死に抑え込み、拳に全身全霊の命の力を込めた。


「うぉぉぉぉぉぉぉっ! カール・スマッーーーシュ!!」


カールの拳が、音の壁を突き破り、黄泉の門へと深々と突き刺さった。


ドゴォォォォォォォォォォッ!!


凄まじい衝撃波と共に、世界を繋いでいた日没の門は完全に粉砕され、跡形もなく崩れ落ちるのであった。


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