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スライム食ったら世界を救うことになった【完結済】  作者: エリト


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【第100話】決戦の狼煙と、死霊の円舞曲

ついに黄泉の門が繋がる当日。

カルバン領の地下、修復された日没の門の前に、我々は集結していた。

150人を超える歴戦の老魔術師たちが、ただ一つの巨大な門を見据え、張り詰めた緊張感を漂わせている。静まり返った地下空間には、異様で重々しい空気が満ちていた。


「!?」

不意に、空間の魔力が異常な高まりを見せた。

魔界の側から、こちらへと門を繋ごうとしているのだ。

軋むような低い音を立てて、ついに日没の門が開かれた。

シャリーク国で見た日の出の門と同様、そこには夜空のような深い闇の空間が、ゆらゆらと陽炎のように歪んで存在していた。


「さぁ、お父様。入りましょう」

エルザとドノヴァン師が、魔族との約束通り、先陣を切って魔界の闇へと足を踏み入れた。


しばらくすると、門の向こうからエルザだけが顔を出し、こちらへ向かって手招きをした。

「さぁ皆さんも続いてください」


その合図で、汚らしいローブをすっぽりと被った老魔術師たちが、次々と門をくぐっていく。

黄泉の門が巨大だとは言え、さすがに150人もの集団が移動するのにはやや時間がかかった。


そして、ついに俺たちの番だ。

最後尾に陣取っていた俺とエルウィンさん、ジャック兄さん、そしてクレムが前へ出る。

クレムは杖を握り締め、最上級の支援魔法である「ホーリー・エンハンス」の魔力を練り上げながら、我々と共に門をくぐった。


◇ ◇ ◇


視界が開けると、そこは薄暗く荒涼とした魔界の大地だった。

待ち受けていたのは10人の魔族。

一気に殲滅するにはキツい数字だが、事前の作戦会議で話し合っていた想定の範囲内だ。


俺はクレムと視線を交わし、力強く頷きあう。

「オール・ホーリー・エンハンス!」

クレムの澄んだ声が響き、広範囲のバフ魔法が我々全員を包み込んだ。身体の底から活力が湧き上がり、魔力が跳ね上がる。


これが戦いの開始の合図だった。

老魔術師たちは一斉にボロいローブを脱ぎ捨て、歴戦の凄みが滲む杖を構え、強大な魔力を解放した。


だが、迎え撃つ魔族の一人、イグリスは慌てるどころか、呆れたように長いため息をついた。


「やはり、下等種族の人間は嘘をつく。弱肉強食の環境の中で世代交代が進むと、生存のために『偽る』という小賢しい能力を獲得するらしいな」


イグリスがそう言ってパチッと指を鳴らすと、空間が歪んだ。

近距離転移の魔法陣が光り、周囲の岩陰や空から、隠れていた魔族が新たに20人も現れたのだ。

これで合計30人。


「150名といったところか。一人一人の魔術量もそこそこのものを感じる。予定していた贄500人には届かないが、これなら3人くらいは新たな同胞を転生させられそうだ」


イグリスが残酷な笑みを浮かべる。

これはまずい。


俺やドノヴァン師を魔族と仮定した模擬戦で分かったのは、この歴戦のメンバーであれば、魔術師10人で1人の魔族を魔法陣で押さえ込むことができるだろうと計算していた。なので、魔族が15人未満であれば何とか戦線を維持できる。

しかし、相手が30人となると、確実にこちらが押し負ける計算になる。


どうする、と俺が歯を食いしばった時だ。

エルザがすっと俺たちのそばへ近づいて来て、小さな声で呟いた。


「ここは私とお父様が残るわ! あなたたちは急いで魔王城へ行って」


その横顔には、絶望の欠片もなく、何やら絶対の自信があるようだった。


「分かりました。ここはエルザ嬢とドノヴァン師に任せて、我々は行きましょう」

エルウィンさんも彼女の意図を察したのか、即座に決断を下した。

俺たちはエルザに背中を預け、4人で魔王城へと向けて駆け出した。


◆魔王城組


正直なところ、身体強化の魔法があまり得意ではないエルザがいない方が、部隊としての移動速度は遥かに早かった。我々4人は、荒野を蹴立てて急ぎ魔王城へと向かった。


バイゼル師からの助言によれば、魔界の動物に擬態した革を深く被り、身を低くして走れば、魔族から検知される可能性は低いとのことだった。

彼らの移動手段は基本的に空を飛ぶことであり、高度から見下ろす彼らは、地表を這い回る下等な動物の気配など全く気に留めないためだ。


確かに、その助言の通りだった。

15キロの道のりを全力で駆け抜け、25分後には魔王城の巨大な城壁の影へと辿り着いた。道中、何人もの魔族が遥か上空を飛び去っていったが、我々に見向きもしなかったのだ。


さて、ここからは完全な潜入ミッションだ。

バイゼル師が依代にした魔族の記憶が確かなら、正面ではなく西門から忍び込み、すぐ脇にある地下水路へ入るのが一番安全で確実なルートらしい。


俺たちは気配を殺し、西門の死角から地下水路へと滑り込んだ。

ただ、ここから城の内部、核がある最深部までの正確なルートまでは記憶に残っていなかった。分かっているのは、この水路が厨房脇の巨大なストックルームに繋がっているということだけだ。


そこで俺は、出発前にエルザから借りておいた小動物型のパペットを取り出した。暗い地下水路にパペットを走らせ、視覚を共有して内部を探索する。

すると、すぐに上層へと続く目ぼしい昇降口を見つけることができた。


我々はパペットの案内に従い、静かに水路を進む。

驚くほどあっさりと、城内への潜入を果たすことができたのだった。


◆防衛隊組


一方その頃、黄泉の門の前では、血で血を洗う壮絶な死闘が繰り広げられていた。

炎と氷、雷鳴が飛び交い、老魔術師たちの放つ極大魔法が荒野を削り取る。だが、魔族たちの圧倒的な身体能力と魔力耐性の前に、魔法の壁は次々と突破されていった。


そんな絶望的な状況の中、一人の剣士が鬼神の如き働きを見せていた。ガルシアさんだ。

彼は一切の魔法を使わず、研ぎ澄まされた剣気のみで戦場を駆け抜け、魔法の爆発に気を取られて隙を見せた魔族の背後へと回り込むと、大剣で素早く一刀両断に切り捨ててみせた。


「なんだあの人間は!?」

さすがにガルシアさんの異常な剣技を警戒した魔族たちは、地上戦を捨てて全員が空へと飛び上がった。

ガルシアさんの手によってすでに2体の魔族が討ち取られている。


だが、空からの無慈悲な魔力爆撃の前に、こちらの被害はさらに拡大していた。

すでに20人の老魔術師たちが命を落とし、物言わぬ屍となって荒野に転がっている。戦力差は広がるばかりで、このままでは全滅も時間の問題だった。

皆が悲壮な覚悟を決めた、その時である。


防衛陣の最後尾で、エルザとドノヴァン師が、杖を高く掲げておぞましい魔力を練り上げ、禁忌の極大魔法を詠唱し終えた。


「「デッドマンズ・ワルツ!!」」


親子の声が重なり、禍々しい黒い波動が戦場全体を覆い尽くした。


すると、どうだろう。

つい先ほど命を落としたばかりの20人の老魔術師たちの遺体が、ゆらりと立ち上がったのだ。それだけではない。ガルシアさんに両断され、絶命していたはずの2体の魔族の死骸までもが、漆黒の糸に操られるように立ち上がった。


そして彼らは、生前よりも遥かに限界を超えた腕力と魔力で、狂ったように上空の魔族たちへ向かって攻撃を開始したのだ。痛覚も恐怖もない不死の軍団が、かつての同胞を容赦なく引き裂こうと飛びかかる。


「な、なんと非道な!?」

「我らの死体も動いているだと!?」


ここからが、カルバン領が隠し続けてきた真の力。死霊使い(ネクロマンサー)の本領発揮である。

あまりにも冒涜的で悪夢のような光景に、空を飛ぶ魔族たちも、そして味方であるはずの人間たちまでもが、言葉を失い戦慄の表情を浮かべるのであった。


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